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25.今日はいよいよ武者修行に行く日なのです!

お久しぶりです。

読みに来てくれてありがとうございます。

また週2ペースで頑張ります。

 その日、まだ日も昇らぬうちにわたくしが目覚めると、ベッドに身を起こすか起こさないかのうちに、いつものようにスサンナが部屋に入ってきました。

 毎回思うのですが、なぜ彼女はわたくしが目が覚めたことがわかるのでしょう。ベルを鳴らさずに来てくれるのは、彼女だけです。


「よくお眠りになれましたか、アレクサンドラ様」

「ええ、とても」


 わたくしが顔を洗っている間に、スサンナはてきばきと部屋の中を整えていきます。

 わたくしがショートスリーパーであるせいで、侍女たちにも充分な睡眠が取れてないのではと気づいたのはごく最近のことです。

 前世の記憶もありますし、朝の身支度はひとりでできます。夜の勉強も飲み物だけ用意されていれば放置で充分なので、わたしが起きている間中、待機してなくていいのだと伝えたら、笑われてしまいました。


 どうやら、わたくしが短時間で起きてしまう子供であることは当然ながら両親にはわかっていて、もともと侍女たちは三交代制でわたくしに付いていたそうなのです。

 普通はそのように頻繁な交代ではなく、何日かおきであったりするものであることを、わたくしはその時に知りました。


 十五年生きていても、この世界の常識を今さら知るとは面白いものです。

 ……わたくしが、それだけこの世界の常識から外れた人間だということかもしれませんか。

 いえ、気にしません。だからこそ、できることだってあるでしょう。

 勇者になるためには、常識に囚われてはいけないのです、きっと。


 まあ、我が公爵家がホワイトな職場であったことには安心いたしました。うちは週に一度のお休みを与えていますが、普通のところで月に一回、ひどいところだと年に二回なんてこともあるそうなので。


「湯浴みはどうなさいますか?」

「今日はやめておくわ」


 庶民や下級貴族は、朝から石鹸の匂いなどはさせていないそうなので。

 わたくしはスサンナが持ってきた服をわくわくして見つめます。

 庶民が着るような装飾のないシャツにズボン。生地はお父様とお兄様の懇願で、ごわごわした庶民のものではなく、もう少し肌触りの良いものになっています。


 そう、今日はいよいよ武者修行に行く日なのです!

 長かったですわね~。首尾よく案内人のイオアンを見つけられた後も、いろいろな手続きや許可などで結局一週間かかってしまいました。

 その間に残っていた経国コースの単位をすべて取り終えて、生徒会の仕事なども片付けてしまえたので、悪いことばかりではありません。


 今日からいよいよ武者修行三昧です!

 三週間後に控えた卒業パーティーの準備などもございますから、毎日というわけにも参りませんが、学院は週に三日ほど行けば問題ない状態になりましたので、二日に一度は修行にいける計算です。


 スサンナの手伝いを断って、わたくしはシャツとズボンを身につけました。ふふふ、こういうところは前世の記憶が役に立ちます。

 もっとも、前世にあったファスナーがなく、すべてボタンで留めているので少し面倒ですが……。

 とはいえ、シンプルな形ですのでそれほど時間はかかりません。

 最後に胸にブローチを付ければ完成です。


「あら、お嬢さま。それは……?」


 スサンナも多少魔術が使えますので、すぐ気づいたようです。そう、これは最上級の守護の魔術がこめられた護符です。敵からの直接攻撃を三回無効にしてくれるそうです。


「ミラベル様からいただいたの」


 一緒には行けないから、せめてこれをとミラベル様が贈ってくださったのです。

 護符に触れると、ほのかにミラベル様の魔力を感じられます。わたくしが武者修行に行くと決めてから、魔術の先生のところに通って、必死に作ってくれたようなのです。


 本来は皆伝レベルの技術が必要となる護符です。いくら勇者のポテンシャルを秘めたミラベル様でも大変でしたでしょうに……。

 ミラベル様の優しさがくすぐったくて、わたくしの唇に笑みが浮かびます。


 剣帯につけるのはクリストフ様からいただいた短剣(これも護符付き)、カバンの中にはエアハルト様からの薬、ヴィルヘルム様からの魔石なども入っています。

 おかげで、日帰りの武者修行にしては少し多めの荷物になってしまいました。


 膨らんだリュックサックと短剣をスサンナに預けて、わたくしは食堂へと向かいます。

 朝早いので、夜のうちに何か適当なものを用意していただこうと思ったのですが、わたくしの初修行の朝に冷たい食べ物なんか出せないと言い張る料理人と、お父様やお兄様がわたくしの見送りをしたいときかなかったこともあり、皆で食堂で食べることになってしまいました。

 安息日である今日は本来、もっと遅い時間の朝食なのです。平日と比べても二時間半も早いので申し訳ないですわ……。


 朝食の席では、お父様とお兄様から武者修行の注意事項をくどくど……いえ、繰り返して教えていただきました。

 前世で言うところの耳にたこですが、お二人からの愛情だと思ってにこやかに拝聴しておきます。

 おふたりのありがたいご注意は、わたくしが玄関ホールに向かうまで続きました。


「それでは、行って参ります。お父様、お兄様。皆も見送ってくれてありがとう」


 帯剣し、マントと帽子を身につけて、わたくしは居並ぶ家族と家人に笑いかけました。緊張はしていますが、たぶん自然な笑顔になったと思います。


「くれぐれも気をつけて」

「サンドラ、アンナの言うことをよく聞くんだよ。アンナ、頼んだよ」

「かしこまりました」


 まだ何か言いたげなおふたりを振り切るようにして、お忍び用の馬車に乗り込みます。

 今日の護衛は我が公爵家の騎士団に所属するアンナ。貴族令嬢でありながら武官の道を選んだ数少ない女性騎士のひとりです。武者修行に出たこともあるとのことなので、いろいろ教えていただきましょう。


 お父様はもっと護衛を増やしたがっておりましたが、武者修行では普通、護衛など付けないのです。高位貴族の特例のようなものなのですし、人数が増えれば余計に侮られてしまいます。

 もっとも隠れて護衛が付いてるのだとは思いますが……。

 仕方ありません。それも家族の愛です。余計な手助けをしなければそれでいいのです。


 イオアンとは、大聖堂前の大広場で待ち合わせをしております。

 家の馬車はそこで返して、その先は乗合馬車を使う予定です。

 今日の武者修行場所は南の森。徒歩だと王都の門からでも二時間ほどかかってしまいます。歩くのも体力作りにはいいと思いますが、今は時間が惜しいですので馬車を使います。


 本当は馬で移動した方がずっと速いのですが、そうすると貴族だと宣伝しているようなものです。

 護衛が付いているのですぐわかってしまうことではありますが、それでも目立つことは極力避けた方がいいだろうといろんな方からアドバイスを受けましたし、わたくし自身もそう判断したのです。

 うちの馬車をそのまま使わないのも同じ理由です。


 なにしろお兄様のプロパガンダがうまくいきすぎて、わたくしが……いえ『公爵令嬢が武者修行に出る』との噂は、社交界どころか庶民の間にも大層広まっているそうなのです。

 成功するかどうか賭などしている不心得者もいるとかで、わたくしは誘拐の心配以外に修行の邪魔にも気をつけなければならなくなりました。


 学院でも、届け出はしておりますが、ミラベル様や生徒会のメンバー以外には今日、わたくしが武者修行に行くことは伝えておりません。

 誘拐や邪魔もまた修行のうちではありますが、やはり慣れるまでは余計な負担は抱え込みたくありませんもの。


 馬車はイオアンとの待ち合わせ時間より三十分ほど早く広場に到着しました。


「お嬢さま、お気を付けて」

「ありがとう。夜になったら迎えに来てね」


 心配そうな御者に手を振って、わたくしは大聖堂の中へと足を踏み入れました。こちらでお参りをするために、待ち合わせ時間より少し早めに広場に来たのです。

 奉加金を払って中に入り、身廊を進んで主祭壇へと向かいます。

 早朝なので、ほとんど人はいません。時折、修道士とすれ違うぐらいです。


 主祭壇のある礼拝堂には、見事な女神像が建っています。

 四つの大きなアーチに支えられた円形のドームの下、美しいステンドグラスを背景にそびえる真っ白で大きな女神像はそれはそれは美しく、王都の観光名所の一つでもあります。

 高窓から差し込む陽光が周囲を柔らかく照らし、その光の中で女神様は慈愛深い微笑みを浮かべていらっしゃいます。


 この方がこの国の至上神、アウマソール様。太陽神にして生命の神。


 神代の終わりに眠りにつかれた創世神アヌマール様に代わり、わたくしたちを見守ってくださっている御方です。

 わたくしはカバンの中から結界石と治療符を取り出すと両手で捧げ持ち、祭壇前にひざまづいて修行の成功を祈りました。


 女神像からきらきらと光が零れ、結界石と治療符へと降りそそぎます。

 前世では神は信仰の対象ではありましたが、実在するものではありませんでした。ですが、この世界では神々は現実に力ある存在としてあがめられております。


 特にアウマソール神は生命を司る神ですので、医神ルルナール様とともに医術の御業をこの世界にもたらしてくださるのです。

 わたくしは女神様のお力が宿り、効果が高められた結界石と治療符を再びカバンへとしまいました。


 一緒に付いてきてくれていたアンナも、護符に女神様のお力をいただいたようです。

 ちなみに、お力をいただく道具類に制限はありませんが、あまり欲張りすぎると効果がなくなると言われております。


 わたくしは女神様にもう一度頭を下げて、祭壇を後にしました。

 外に出ると、乗合馬車の停留所近くに佇むイオアンの姿が見えました。あちらもすぐに気づいたようで、わたくしに向かって手を振っています。


「お待たせいたしましたか」

「いやいや、まだ時間前ですよ」


 茶色の帽子を被った彼は、短めの上着にクロスするようにベルトを締め、背中に弓を背負っています。いちおう腰に短剣も佩いてはいますが、きっとメイン武器は弓なのでしょう。


「チケットは買っておきましたよ」


 イオアンは乗合馬車のチケットを二人分差し出してきました。経費は後でまとめて計上することになっているので、わたくしは礼を言って受け取ります。

 チケットには行き先と出発時間が印刷されていて、わたくしは念のため間違いがないかどうか確認しました。


 わたくしたちが乗るのは、南の森直通の乗合馬車の始発です。

 南の森は国が管理する狩猟と修行専用の場所なので、専用の馬車が広場から出ているのです。

 国営で比較的王都に近く初心者にぴったり――というより、過去に武者修行での事故があまりに多かったため、武者修行に慣れるための場を国が作ったというのが真相です。


 森には王都から騎士団が常駐していて、何かあった時に信号弾を上げれば、すぐに駆けつけてくれることになっております。

 おかげで、武者修行における初期の死亡事故はぐんと減ったそうです。

 まあ、無茶をする人や不運な人はどこにもいるもので、とれだけ対策してもゼロにはならないのですが……。


 車庫から出た馬車が、ガラガラと石畳の上を音を立てて停留所にやってきます。

 眠そうな所員が近寄ってきてチケットを改めます。

 始発なので人数は少なく、南の森行きの馬車に乗る人は私たち以外だと、ふた組ぐらいでしょうか。


 女性がこの馬車に乗るのは珍しいのか、所員や馬車の客がちらちらとこちらを見ているのを感じます。

 わたくしは帽子を深めに被り直して、馬車のステップに足を掛けました。


 さあ、いよいよ武者修行の始まりです。死亡事故にカウントされるような無様なことにならないよう、気を引き締めて参りましょう。

だいぶ削ったのに、武者修行場所までたどり着かなかった……。


今回は出てきませんが、アレクサンドラが学ぶ魔術Ⅲを「マスタークラス」に変更しております。

初級・中級・上級・マスターと4つのクラスがあって、通常上級までで修了となりますが、さらに深く学びたい人のためにマスタークラスがあります。


読んでいただいてありがとうございました。

次回は土曜日夜に投稿いたします。


もし面白いと思われたら、評価などいただけましたら嬉しく思います。

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