19.まるで平民ね。みすぼらしい
投稿間隔を平均化するため、今回から水曜日は昼更新にしてみました。
お休みしてしまったので、また読んでいただけるかなと不安でしたが、変わらず見ていただけて嬉しかったです。
ありがとうございます。
ようやく学院に戻ってこられましたし、続きも頑張ります。
武者修行まであと少し!
二人のメイドはソフィーヤ大伯母様からお金を渡されて、我が家の情報を大伯母様に流していたのです。大伯母様がわたくしの謹慎を知っていたのはそのためでした。
大伯母様からは我が家が心配だから、といかにも親身な口調で言われ――実際、大伯母様は本心からおっしゃっていたのでしょう――メイドたちに悪いことをしているという意識はなかったそうです。それで発覚が遅れたのだとか。
まだ前世ほど整備されたものではありませんが、こちらの世界でも最近は少しずつ労働者の雇用条件を見直そうという動きになっておりまして、雇用主からの一方的な解雇は非難の的になります。
ただ、雇用契約の時に守秘義務は口頭で説明されていますし、明確な契約違反をおかした二人は可哀想ですが紹介状もなく辞めることになってしまいました。
大伯母様が面倒を見てくださるといいのですが……。
元気でよく働いてくれる子たちだったのに、残念です。
わたくしが物思いに沈んでいると、ゆっくりと速度を落としていた馬車が静かに止まる気配がいたしました。
どうやら王立学院に着いたようです。
今日は謹慎が明けて、最初の登校日。気を引き締めて参りましょう。
わたくしが馬車から降りると、ざわりと周囲の空気が動いた気がしました。
学院の車止めには、各家の馬車がひしめき合っております。普通の屋敷のように玄関前に車止めを作っては登校や下校時に大渋滞になってしまいますので、前世の駐車場のように少し離れた場所に馬車を止めるための大きな広場があるのです。
馬車は置きっぱなしではなく、用事が済めばそれぞれの屋敷に帰るので、この車止めは昼間は演習などに使われたりいたします。
馬車を止める位置も身分によって決まっていて、学院に一番近い場所に停められるのは当然王族。その次が公爵家、侯爵家、伯爵、子爵、男爵……と続いていきます。
おかげでわたくしは歩く距離は少なめですが、男爵令嬢のミラベル様などはかなりの距離を歩くので、いつも少し早めに来ているとおっしゃっていましたね。
ちなみに学院には寮もございますが、それは王都にタウンハウスを持たない貴族や遠方から来ている平民のためのもの。
寮にも人数制限はありますので、本当に寮に入りたい人があぶれてしまわないよう、王都に住む貴族は基本的には屋敷から通うのが一般的です。
寮は車止めの外にあるので、寮から登校する方たちもここを通ることになります。
ですので、朝のこの時間はかなりの人数が車止めに集まっているのです。
その視線が、わたくしに一斉に集まった気がいたします。自意識過剰……ではありませんわね。
「見て、あの髪……」
「噂では聞いていたけど本当だったんだ」
「アレクサンドラ様の御髪が……」
「まるで平民ね。みすぼらしい」
白を基調とした制服姿の男女から、抑えているつもりで抑え切れていないざわめきがわたくしの耳に届きます。一部、わざと聞こえるようにおっしゃってる方もいるようですが。
わたくしはそれらの声を無視して、真っ直ぐに頭を上げて学院の玄関に向かいます。
侍女に整えてもらった銀色の髪が、顔の横で揺れているのが視界に入ります。その髪は、街の理髪店で切ってもらったときより、さらに短くなっております。
サイドの髪は顎の下あたりまであるのですが、後ろは衿にも届きません。前世で言うところの前下がりのショートボブ、という形です。
この世界では女性の短髪のデザインはおかっぱかベリーショートぐらいでしたので、あまりない形にしたかったのです。
“ニューモードの牽引役”であるならば、他に倣うのではなく、新しい髪型を示さなければ。
「でもちょっとカッコいいかも」
そんな呟きも聞こえてきて、わたくしは内心でガッツポーズをいたしました。
そうそう、謹慎中にドレスデザイナーと打ち合わせをいたしまして、初見はこの髪を見て絶句されましたが、卒業パーティーのドレスはショートヘアを活かしつつ公爵家令嬢に相応しく上品な衣装にデザインを変更してくれるとのことなので楽しみです。
「おはようございます、アレクサンドラ様」
「あら、おはようございます、ヨゼフィーネ様」
わたくしに挨拶をされた女生徒は、ヘンチュケ公爵令嬢のヨゼフィーネ様です。美しくカールさせた赤茶色の長い髪を、見せつけるように手で肩から後ろに流しています。
わたくしより一学年下で、とてもお綺麗で優秀な方なのですが……少々野心家と申しますか、筆頭公爵家の娘であるわたくしをライバル視しているところがあります。
政界や社交界の権力争いを学院に持ち込むのは無粋ではありますが、貴族とは自らの家名を背負う者。意識してしまうのは仕方ないのかも知れません。
「この目で見るまでは信じられませんでしたが、髪を切られたというのは本当でしたのね」
彼女は扇子をばさりと顔の前で広げ、眉をひそめてわたくしを眺めました。その表情はどことなく大伯母様に似ております。
きっと彼女であれば、大伯母様も完璧な淑女としてお認めになるのでしょう。残念ながら派閥が違うので、親しくはされていないようですが。
「そういえばご存じ? 西の野蛮な辺境国では罪人は髪を切られて見世物にされるのだとか。アレクサンドラ様も先ほどから大層注目されておいでですね」
「ここはロランクール王国でございますが、ヨゼフィーネ様は辺境国のご出身でしたかしら?」
「そんなはずございませんでしょう!」
建国から続くヘンチュケ公爵家の血筋を誇りとする彼女の顔色が変わりました。こういう点は大伯母様に比べるとまだまだですわね。
「それは失礼いたしました。我が国と関係ない国の因習を持ち出してこられたので、てっきり……」
わたくしはわざと扇を出さずに、ヨゼフィーネ様ににっこりと笑ってみせました。
「世界にはいろんな国がありますが、我が国は先進的な考えを取り入れ、自由が許されていて素晴らしゅうございますわね。ヨゼフィーネ様もぜひ一度、髪を切ってみてはいかがかしら。とても軽くて爽快ですのよ」
「ご冗談を。わたくしには羞恥心というものがございますの。そのような髪型で外を歩く勇気はとてもとても……。アレクサンドラ様にはよおくお似合いですけれどね」
「まあ、ありがとうございます」
「……っ」
お礼を言っただけなのに、綺麗なお顔が悔しそうに歪みます。
「ク、クリストフ様がなんと思われるかしら」
「は?」
突然クリストフ様のお名前が出てきて、わたくしは面食らってしまいました。
「アレクサンドラ様はそんな頭でクリストフ様の隣に立てるとお思いですの?」
「もちろんですわ」
頭の中に疑問符を浮かべつつ、わたくしは肯定します。
クリストフ様は生徒会長でわたくしは副会長。隣に並ぶことなどしょっちゅうです。わたくしの髪が短かろうが長かろうが、何も関係ないと思うのですが……。
「~~~あ、あなたなんてクリストフ様に相応しいはずが」
「――私がどうしたと?」
涼やかな声に振り向ければ、クリストフ様がすぐ後ろに佇んでいらっしゃいました。黄金の髪が陽を弾いて、まるで光の王冠のようです。
読んでいただいてありがとうございました。
次回は土曜日夜に投稿いたします。
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