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11.これでようやくお買い物ができます!

反応ありがとうございます。

続きも頑張ります。

今日も少し長めです。

 市のたつ広場の片隅には、商業ギルドの出張所がございます。

 わたくしはそこで金貨二枚を銀貨二百枚へと変えました。本当は全部変えてよかったのですけれど、重くなりますからね。


 これでようやくお買い物ができます!


 広場には天幕の張られた簡易な出店がぎっしりと立ち並んでいます。ざっくりといくつかのブロックに分けられ、北側は農作物を販売するブロック、西側は工芸品を販売するブロックといったように、売り物の種類によって店が分けられているようです。

 予定通り、わたくしは真っ先にカバンを見に、西ブロックを目指しました。カバン専門店は二件しかありませんでしたが、他の商品に混じってカバンを置いてあるところもあり、探し甲斐があります。

 革でできたもの、布でできたもの、肩掛け、手提げ、いろいろあります。

 わたくしは出店をいくつか回って、気に入ったものがあれば値段をお店の人に聞きました。そうやって、だいたいの相場を把握していったのです。


 こちらの世界では商品に価格タグなどは付いていませんので、いちいちお店の人に値段を聞かなくてはなりません。市だと値段を聞くのも隣の店にいくのも、気楽なのがいいですわね。

 いくつかの候補を見つけ、悩んだ末にわたくしは斜め掛けタイプの革のバッグを選びました。前世で郵便バッグと呼ばれている形ですが、もう少し容量は大きめです。


 本当はリュックサックかナップザックのようなものが欲しかったのですが見当たりません。背負うタイプのものだと、背負子や籠のようなものになってしまうのです。

 この世界ではまだ背嚢は一般化されてないのでしょうか。そのうち自分で作ってもよいかもしれませんね。


 店の人に先ほど聞いた値段は銀貨五十枚。少し高い気もしますが、革なので仕方がないでしょう。

 前世でも値切るのが得意ではなかったわたくしは、そのまま代金を支払ってカバンを手に入れました。


 さっそく肩からかけ、レティキュールをしまいます。ドレスに合わせて作られたレディキュールは、派手な造りで制服には不似合いです。悪い人の目にも付きそうで、早めに隠したかったのです。

 カバンはカバンで武骨なので制服に不釣り合いですが、いかにも高価なレティキュールを持ち歩いてるよりはマシなはずです。


 さっきのこともありますし、用心するにこしたことはありません。

 カバンは革が柔らかくて使いやすそうで、わたくしの頬は自然と緩みました。


 次は服です。武者修行にふさわしく丈夫で動きやすいシャツとズボンを何枚か買いましょう。ふふふ、ズボンなんて履くのは初めてです。


 わたくしはうきうきと服屋を探しました。ですが、なかなか見つかりません。布を売っている店はあるのですが、完成品がないのです。

 ようやく服が並んでいる店を見つけましたが、服屋は服屋ですが古着屋でした。……もしかして、こちらの世界の庶民は既製服を買うという概念がないのでしょうか。


 そういえば、前世で読んだ赤毛の少女の物語でも、布を買って洋服を作っていたような……。一応既製服もありましたけれど、あの話の文明は近代だったはず。

 近世レベルのこの世界なら、既製服はもっと馴染みがないのかもしれません。ミシンもないでしょうし。

 まあ、いいでしょう。もともと高ければ古着でもいいと思っていましたから。


「お嬢ちゃん、ちょっと見ておいきよ!」


 わたくしが店の前で足を止めると、店主らしき女の人がドレス……いえ、ワンピースでしょうか、薄紫の地にレースの丸襟の付いた可愛い服を広げました。


「どうだい! 本物のお貴族様の着てらした服だよ。まだ全然痛んじゃいない。これならお茶会で恥をかくことはないよ!」


 それはどうでしょう、とわたくしは首を傾げました。

 確かにものはそこそこいいようですが、お茶会に着て行くには形があまりに簡素すぎて失礼に当たります。むしろ、下位貴族などが街歩きに着るような服ではないでしょうか。もちろんお茶会にもいろいろありますけれど。


 ……そういえば、わたくし、街歩き用のワンピースが欲しかったのですよね。


「あんた、学院の生徒さんだろ。今後のために一着はこういう服も持っといた方がいいよ。こんないい品、めったに手に入らないんだ。掘り出し物だよ!」


 どうやら店主はイオアンとは違い、わたくしのことを学院に通う平民だと思っているようです。髪が短いせいでしょうか?

 ぐいぐい押してくる店主に思わず服を手に取ってしまいます。


 そうですね、わたくしの好きな色ですし、デザインも嫌いではありません。今後また買い物に出る時のために、一着ぐらい……。


「値段はなんとびっくり金貨一枚! お買い得だよ」


 ぐらついていたわたくしでしたが、値段を聞いて正気に戻りました。いけません、無駄遣いをしている余裕はないのです。


「ごめんなさい。今日は別のものを買いに来ましたの」

「そうかい……? あんたに似合うと思うんだけどねえ」


 店主は残念そうにひらひらとワンピースを揺らします。ですが、我慢です。


「丈夫なシャツとズボンを数着。外の作業にも耐えられるようなものが欲しいのですけど」

「あんたが着るのかい?」

「ええ」


 店主はわたくしを上から下まで見て、いくつかの服を出してくれました。


「あんたのサイズならこれぐらいかねえ」


 受け取って体に当ててみようとしたわたくしは、まずその手触りの悪さにビックリしました。ゴワゴワでざらざらしているのです。

 わたくしとて絹の手触りを期待していたわけではありません。それにしてもこれは……。


 公爵家や前世で、上質な布で作られた着心地のよい服ばかり身につけてきたわたくしには、なかなかの衝撃でした。

 しかも、こんなに質が悪いのに高いのです。シャツは少し安めですが、ズボンはカバンと同価格帯です。

 とりあえず、ちょっと考えるといって店を離れます。


 ……困りました。


 古着屋はどうやらあの一軒しかないようで、比較ができません。

 ただ、ワンピースの値段から考えると、あの店はそこまで法外な価格を付けているわけでもない気がいたします。


 布屋もいくつか見ましたが、庶民がシャツにするような布は似たり寄ったりで、特にあの店の質が悪いようにも思えません。

 とはいえ、これから武具も買わねばならぬ身です。服で予算をあまり使うわけにはいきません。

 おそらく装備品で一番高いのは武器と防具のはずなのですから。


 わたくしは魔術使いですので、長剣や槍などが必要ないだけ安くすむのが救いです。でも、短剣ぐらいは持っていた方がいいでしょう。そうなると剣帯も必要になります。あとはナイフも必要かしら……。


 鎧も必要ありませんが、マントと帽子ぐらいは身につけますし、ブーツも買わなければならないでしょう。多少のぬかるみでも平気なぐらい頑丈なものを。

 ……いくらぐらいかかるのかしら。


 悩んでいても仕方ありません。わたくしは武具を扱う店に向かうことにしました。そちらで価格を確かめて、予算を組むことにいたしましょう。


 武具の店は工芸品と近い西の外れにまとまってありました。

 どの店もいかついおじさまが店主でちょっと怖かったのですが、話しかけたら案外気さくな方ばかりでした。


 いくつかお気に入りをチェックして、頭の中でざっくりと予算を組みます。さすがにカバンや服よりははるかに高価でしたが、手持ちで充分まかなえます。むしろ余るぐらいです。

 それなら、少しぐらい無駄遣いしてもいいでしょうか。


 そろそろお昼時。朝から歩き回って足がぱんぱんですし、お腹も空いているのです。

 食べ物などの屋台は、広場の中央付近に集まっています。いい匂いに惹かれるように、そちらへと向かいます。


「らっしゃいらっしゃい! キール地方名物ぷりぷりのソーセージだよ!」

「魚介のスープを飲んできな。出汁がよく効いててうまいよ~」

「焼きたてのパンはいかが?」

「いちど食べたらやみつきの珍味! ツチノコのソース焼きだよ~」


 ツチノコ、と聞いてわたくしは思わず足を止めました。それは蛇型の魔物の名前です。

 魔物の肉を売っている店なんてあるのですね。食べられる種類がいるのは存じておりましたが、見るのは初めてです。


「お、お嬢ちゃん、食べてみるかい? うまいよ~」


 店の前で立ちどまったわたくしに、肉が三つほど刺さった串が差し出されます。きっと、これがツチノコの肉なのでしょう。

 うーん、好奇心はそそられますが、ゲテモノはちょっと……。

 丁重にお断りして、かわりに鶏肉の串焼きを注文いたします。


「はいよ、銅貨三枚ね」


 ――やっす!

 淑女らしくない声を上げそうになって、わたくしは口を押さえます。ときどき前世の口調が出そうになるのは困りものですね。


 ちなみに銅貨百枚が銀貨一枚にあたります。つまり、わたくしのカバンは串焼き一千六百個ちょっとということです。どうやら食べ物の相場はかなり安いようです。

 お金を払おうとして、わたくしは手持ちが銀貨しかないことに気がつきました。


「申し訳ありません。今銀貨しかないのですが、お釣りはありますか? なかったらギルドで崩してまいります」


 おじさんは少し困った顔をしましたが、すぐにいいよいいよと九十七枚の銅貨を渡してくれました。銅貨は銀貨より大きめなので、すでに銀貨百四十九枚が入っていたレティキュールはいっばいにふくれあがります。


 おじさんに感謝を込めてもう一本串焼きを追加し、レティキュールから銅貨三枚を渡して、わたくしは店を離れました。

 お行儀悪く食べ歩きをしながら、ぶらぶらと屋台を見て回ります。


 豪快な羊の丸焼き、分厚い肉のステーキ、干物を炙るいい匂いも漂ってきます。パンとチーズ、麦のおかゆ、カラフルな果物……。

 あれもこれもと食べたくなってしまいますが、お腹には限界があるのが残念です。


 喉が渇いたのでレモン水を買おうとした時、わたくしにぶつかった人がいました。ぐい、っとカバンを引っ張られる感触がすると同時に、バチバチッと何かが弾けるような音がします。


「あいてっ!」


 振り返ると、ひげ面の男が右手を左手で撫でながら、驚いた様子でわたくしを見ていました。


「何しやがるっ」

「それはこちらのセリフです」


 わたくしはカバンを抱えて、男を睨みつけました。


「手が痺れましたか。それはこのカバンにかけた防御魔術です。――あなた、ひったくりですわね」


 正確にはレティキュールに忍ばせていた護符の対象をカバンに変更しておいたのですが。

 私以外の人が勝手に触れたら、静電気が起きるように仕掛けておいたのです。前世の記憶をもとにした、わたくしオリジナルの魔術です。

 威力はそれほどありませんが、このような場所で不心得者を防ぐには充分です。


「ちっ、魔術師かよ!」


 男は忌々しげに呟くと、身を翻して逃げていきました。未遂ですから、わたくしも追いかけることはしませんでした。


「あんたすごいね! 魔術師なのかい?」

「いえ、まだ勉強中で……」

「魔術使いだって」

「学院の制服だから生徒よね?」

「まだ若いのに腕がいいのね」


 レモン水のお店のおばさんの声が大きくて、わたくしは少し注目されてしまったようです。ひそひそと囁く声が聞こえます。

 居心地悪く周囲を見回したとき、わたくしはその中に見覚えのある姿を見つけました。


「お兄様……」


 家でわたくしを待っているはずのヴィタリー兄様が、青い顔でそこに立っていたのです。

金貨1枚=銀貨100枚=銅貨10000枚

と大変分かりやすい金額設定となっています(笑)。

一応金貨の上に大金貨などもあります。

金貨1枚で下流平民一家4人(not貧民)が1ヶ月ぐらい暮らせますが、物価がこちらとかなり違うのでだいたい10万円ぐらいかな~とこれまた大ざっぱにイメージしています。

そう考えると髪が高いような気もしますが、質が良くて珍しい銀の髪だったので高く売れました。


読んでいただいてありがとうございます。

次回は土曜日夜に投稿いたします。


もし面白いと思われたら、評価などいただけましたら嬉しく思います。

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