五感ー永恋ー
「平穏」、「安らぎ」を窓の奥から跳ねてでも背伸びしてでも求めた私を所詮無駄だと周囲から見透かされた気がしてならない。
「お前、ちっちゃくね?だから俺お前と席替え後の席交換せねばならんかったんよ」
昔言われた言葉が今になり少々刺さったがそもそも通勤ラッシュの時間帯。「ラッシュ」と日常的に現代社会で使われる言葉を初めて理解した。
甘ったるい香水や新品の鞄の匂い…
「うっそ〜やばない?」
「そうそう!ガチよ!」
と何かを話していると思えば甲高い笑い声… そしてキンと響く音…
表しきれない膨大な情報量が脳内に吸収されていく。どうやら鼻や耳へと伝わっていくようだ…なんとなく実感した。
ぼんやりと眺めた透明な扉の奥にはメガネをかけた何かを読んでいる(?)少年が見える。どうやら思っていた以上に真面目君のようだ。
(蓮介かな…?)
微笑みかける気力など私にはない。なんせ騒々しい、強烈な匂いが漂う、そんな地にいられやしない。
人工物は肌に合わない者である。
ぐっと力を全身に入れてみる。ふっと力を抜いてみる…などと思わなくともクリーム色のフワッとしたものに私は包み込まれ、自然とかがみこんでいた。
うさぎが五感を用いるときの使いこなし方が急に気になり始めた。別に習性なのだから何も考えないだろうとは思いながらも…ヒトの10倍嗅げて聞こえて感じて…想像できない。
私は確かに周りよりも五感が鋭い。2〜3倍鋭い。周りよりも鋭い…はうさぎの世界にでもあるのだろうか。通用するのだろうか。通用しない動物を仲間と思うとともに哀れに感じる。周りと異なる…それは周りから見て私たちを理解をし難いとも言い換えられるもの。
ふと電車内に目を戻そう…と思いきや…
(ホーム?!)
蓮介が私の目の前に立っていた…