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氏子寄り  作者: 晴羽照尊
第五話 死代り
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死代り 4


「だけど、ケンシくんを殺したのは、ノクトくんなんでしょ?」

 私は問うた。『清観の儀』については解った。どういった役割があって、現代ではどう変わったか。それは理解した。しかし、この謎解きのはじめに使われた、照花ちゃんの、「ノイギィに殺された」っていう言葉にはまだ、疑問が残っていたのだ。

「ん……まあ、そうだね」

 照花ちゃんはあっさりと肯定した。ともすればあの言葉は、話に興味を持たせるための方便だったのかもしれない。

「少なくともあたいにも、ガラを殺したのはノクトだって、そう説明したよ。うちの両親がね」

 ここまでくれば疑ってもいなかったが、やはり照花ちゃんもすでに――おそらくその日の朝に、ご両親から前夜の事件について聞かされていたようだった。そのことに、私は不思議な違和感を抱いた。そして、照花ちゃんもそれについて、語るのだった。

「でも、それもおかしいよね。いくら仲のいい友人だからって、殺された事実をこんなにすぐ、伝える? あたいたち、まだ十二歳の子どもだってのに、そんなショッキングなことを……。事故で死んだ、とかならまだ解るけど。百歩譲って、ガラが殺されたことは伝えるにしても、その犯人がノクトだって、そんなこと、教えてくれるかな?」

 そうだ。私もそれが引っかかっていた。やけにあっさりと話すものだ、って。しかも、私の家に関しては、私から聞くまでもなく教えてくれている。しつこくせがむから仕方なく、というわけでもないのだ。まあ、うちの場合、教えてくれたのがお兄ちゃんだったから、つい口を滑らせたということもあるかもしれないが。だいぶ歳が離れていて、しっかり者という印象が強かったとはいえ、お兄ちゃんも当時、十九歳だったはずだし。

 しかし、照花ちゃんのご両親が娘に話しているというなら、特段、隠す気もなかったと思う方が妥当な気がする。いや、あるいは、あえて伝えておきたかった理由でもあるのか。

「あたいは、実はノイギィって、いるんだと思ってるんだ」

 ふと、照花ちゃんはそう言った。それは、話を聞き終えてから考えてみても、はたして比喩だったのか、そのままの意味だったのか、私にはどうとも判断できない、言葉だった。

「本当はガラは、ノイギィに殺されたんだと思ってる。まがりなりにも儀式として行われている『清観の儀』。それを、冒涜した罪によって。かつてはその穴から覗き見る風習はあった。だけど、いまは違う。少なくともガラは知らなかったはずだよ。昔はそんな風習があったって。おにーさんだって、たまたま古い文献で記述を見つけただけだって言ってたし。だとしたら、ガラは、本当にただの悪意で覗き見たんだ。それはやっぱり、儀式としての体を保ってる『清観の儀』の冒涜なんだよ。それに、ノイギィは怒った」

「だけど、ノクトくんも自分でやったって言ってるんでしょ? それは、どういうこと?」

「……ノイギィに脅されたんじゃない? おまえがやったことにしろ、って」

「それは……ノクトくんがかわいそうじゃない? それともそんな罰を受ける理由があったのかな? 実はノクトくんも……覗いてたとか」

 その可能性に思い至って、私は再度、体の火照りを感じた。しかし、慣れのせいか、あるいはもう、火照るだけの体温が体に残っていないのか、直前の火照りと比べて、かなり短時間でその熱は、冷めた。

「ああ、そういうことも、あるのかもね。あたいは連帯責任だと思ってたけど。罰の重みが違うし」

「ふうん……」

 ここまで聞いて、ようやっと私は疑問を抱いた。疑問というか、疑念というか。

 そもそもノイギィがいて、罰を下すってのがやっぱり、荒唐無稽すぎる。当時の感覚だけでいうなら、私は烏瓜村以外の世界を知らなかったし、ノイギィが現実に存在していると説明されても信じる可能性はあったと思う。だからこそそこに疑念を抱くのが遅れた、とも言えるかもしれない。しかしそれでも、やはりそう簡単に信じられはしないものだ。両親やお兄ちゃんくらい信用できる大人が、とても真面目な様相で滔々と語ってくれなければ、信じ込んだりしないだろう。

 そのうえ、結局いまの私は、こうやって外の世界を知ってしまっている。絶対にどう考えても100%、神様なんていない。そう言い切るつもりはないけれど、やっぱりそれは、常識的には荒唐無稽という他ない。だから、あのときの照花ちゃんの推理は、まったくもってナンセンスだった。だけども当時、彼女はそう語ったのだ。しごく、真面目な口調で。不真面目にときおり、ニケケ、と、笑ってはいたけれど。

 だけど、いまとなって思うんだ。もし、あの言葉が比喩だったのなら。いまの私は、『ノイギィ』というものについて、当時よりかは少しだけ、知っている。その実在はいまだ確認していないけれど、それでも――。

 そういう存在(・・)のことは、知っているつもりだ。だって、いま、私はここにこうしているのだから。それ(・・)が原因で、私は烏瓜村を、出る決心をしたのだから。


        *


 全身が真っ青になるかのような錯覚を、感じた。そろそろ体も限界だ。そう、理解した。薄着で雪の上に、止まりすぎた。汗もかいたし、体が、悲鳴を上げたのだ。

「帰ろっか」

 私から、告げる。そして先んじて、立ち上がった。そういえばまだ朝ごはんを食べていなかった。時間的にはお昼なのだろうけれど。そう思って柱時計を見ると、雪化粧した顔の隙間から、長針だけは見てとれた。6のあたりをさしている。だから、きっと十一時半か十二時半ころだろうと推測した。……いや、十五分進んでいる時計だから、実際にはその推測より、十五分戻さなきゃいけないのだろうけれど。まあ、些細な差だ。

「ん」

 とだけ答えて、照花ちゃんも立ち上がる。お尻についた雪を払い落として、一度、なにを思ったか、ぴょん、と、軽く跳ねた。

 それで準備はできただろう。私はそう判断し、先に帰るための歩みを、一歩、動かした。


「……ガラは、マヅラを『マヅラ様』って呼んでたから」


 どこか、恨めしいような。凍えた手を温めるときの息の吐き方みたいな――体の低いところから囁くような、聞き取りづらい一言だった。だから、もしかしたら私はなにかを聞き違えていた可能性もある。それでも、そう言ったように、私は思っている。

 だけどだとしたら、あの言葉は、きっと、嘘だった。私はなぜだか確信している。ケンシくんがマヅラを『マヅラ様』と呼んでいたとは、絶対に思えない。というより、単純に、あのときの照花ちゃんの口調が、やはりなぜだか解らないけれど、私には、絶対に嘘を言っているようにしか聞こえなかったのだ。

「そりゃノイギィだって、怒るよね」

 先んじた私を一息に追い越しながら、照花ちゃんはニケケ、と、笑った。嘘を、誤魔化すように。



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