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氏子寄り  作者: 晴羽照尊
第四話 視覚的不協和
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視覚的不協和 2


 しんしんと、雪が降り続いていた。これは私だけなのかもしれないけれど、雪が降り積もると、世界は圧迫されて、静かになったように感じる。そして不思議なことに、雪のない春や秋よりも、雪の積もった真冬の方が暖かく感じる。これについては湿度の関係かもしれないが。

『清観の儀』は、烏瓜村南方の祭殿で行われた。あれだけ宗教色に染まった烏瓜村であったが、それらしい施設はあの祭殿くらいだったろう。見るからに厳かで、子ども心にも『神域』という印象を受けたものだった。そういう語彙は当時の私にはなかったとしても。

 当日は、雪のせいもあったかもしれないが、どこか村全体が神妙な空気に包まれて感じられた。いや、やはり私の気のせいかもしれないが。私自身が緊張でもしていたのか、そう感じていたのかもしれない。しかし、村全体、は言い過ぎにしても、うちの両親はたぶん神妙な様子だった。娘の晴れ舞台を祝福しているのか、むしろとうとうこの日がきてしまったと嘆いていたのか。どちらの感情を抱えていたにしろ、そのどちらをも感じさせない無表情で、言葉数も少なく、どこか投げやりに、着々と準備は進められていた。

 儀式は夜中に行われる。そのため、私たちは睡眠のリズムを調整するように、数日前から夜更かしをしたり、お昼まで寝させられたりと、おかしな生活を強いられていた。また、当日は儀式終了までなにも食べてはいけないということだったので、やはり数日前から、食事の量や回数が減っていった。私は別になんとも思わなかったけれど、ケンシくんやノクトくんは私たちと遊ぶたびに文句を垂れていた。ケンシくんは食事について、ノクトくんは睡眠について、なんかぶつくさ言っていた覚えがある。ちなみに定子(さだこ)ちゃんに関しては儀式前どころか、物心ついたときからそういう生活をしていたらしく、そもそもそういうことに文句を言うようなタイプでもないので、いつも通り困ったような顔で相槌を打っていた。で、照花(てるか)ちゃんはさらにわけ解らん。わけ解らんっていうか、彼女は最初っからわけ解らなかった。そのわけの解らなさを七歳のころは疑問に思うこともなかったけれど――そもそも七歳児なんてだいたいみんなわけ解らん――十二歳の私には、照花ちゃんのおかしさというのがようやく解り始めていた。いや、なにがおかしいかはあまりよく解らなかったのだけれど。ただ彼女は、なにが楽しいのかずっとニケケと張り付けたような笑みを気味悪く浮かべて、近すぎず遠すぎない位置から、ひとりだけ語り手のようなスタンスをとって私たちを眺めていた。

頼子(よりこ)、遊び行こうよ」

 その日もそうやって夕方ごろに、ふと現れては、ニケケ、と笑い、照花ちゃんは私に手招きしたのだった。

「照花ちゃん? え、今日? いまから?」

 ここ数日、睡眠リズムをいい感じに狂わされた私たちは、遊ぶ時間も徐々に後ろに倒れて、いい年齢になってきたのもあるし、夕方から遊びに行くことも多くなっていたけれど、しかし、その日は儀式の当日である。まあ、準備らしい準備というか、当日の流れみたいなものは何度も聞かされているし、当日にやる準備も特別に多くはないので、時間的に余裕があることは確かだが、照花ちゃんは肝が据わってるなあ、と、やはりそういう語彙はなかったのだけれど、そういうことを感じたのだった。

「だって暇だろ? ガラとノクトもいたし、影踏みしようよ」

 私は当時すでに『ガラ』呼びを卒業していたけれど、照花ちゃんはどこ吹く風で継続していた。まあ、補足である。

「んー……」

 私は瞬間、迷った。というのも、私の気持ちとしては照花ちゃんに誘われるなら、いついつでも遊びに行くのにやぶさかではなかったけれど、その日は朝から――正確には私がその日起きたのはお昼過ぎだったので、それ以降の記憶しかないわけだが――両親も静かにそわそわしていたし、この日のためにいろんな人が準備を進めてきていたのも知っていたから、当日くらいおとなしく儀式のことだけ考えて過ごすべきかと、まあ、つまりは気を遣ったのだ。

「おー、照花。遊び行くんか?」

 そんな私の葛藤に、お兄ちゃんが割り込んだ。なにやら大きな段ボール箱を抱えた、忙しそうな様子で。

「おにーさん。頼子持ってっていい?」

 変な言葉だと、当時ですら思った。せめて『借りてっていい?』だろうに。

「おー、持ってけ持ってけ。でも、怪我せんようになあ。生傷なんかノイギィに見せたら恥ずかしいでー」

 なんの逡巡もなく、お兄ちゃんはいつも通りに言った。だから私も、遊んでいいのだと確信する。「ちょっと待ってて」と部屋に走り、ダサいジャンパーを引っ掴んで、私は玄関へ走った。

 ふと、思い至り、

「お兄ちゃんは?」

 と、問う。

「俺は準備あるから。頼子。遊んどいで」

 さきほどの段ボールはどこかへ運び終えたのだろう。両手の空いた様子で、靴を履く私のそばへやってきては、わしゃわしゃと頭を撫でてくれた。お兄ちゃんと遊べないのは残念だったけれど、その一撫でで私は機嫌を良くして、外で待つ照花ちゃんのもとへ走ったのだった。



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