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天才理論  作者: 三輪 圭一 ・
3/23

第三話

 暗い部屋の中、文字を書く音だけが聞こえる。

彼は今日も勉強している。せっかくの冬休みなのに、よくもまあ飽きないで出来るものである。

ワークは全部終わってるから、あとは親を黙らせるために自主勉を明後日までに一通り終わらせて、明々後日書初めを終わらせれば、自由に行動できるな。

そういえば、これには結構重大な理由があった。彼は友達と野球をやってから、友達の存在の重要性を改めて理解した。それから彼は、彼の「親友だけを作る」という考えに則り、ゆっくりじわじわと親友と呼べそうな、言い換えれば才能がありそうな者と重点的に接するようにし、他の友達とは、まあちょっと話す位の関係にしていた。これまでの状況に鑑みると、そのような事が出来るような感じはしない。が、人とはかなり飽き性な生物らしく、あれだけこぞって話しかけてきたのに、もう親友に選ばれた人以外はあまり話さなくなっているのが現状であった。多分あれは、これまで話さなかった人が急に話し始めた、一種の物珍しさがそうさせたのだろう。これまでの無口っぷりが、人特有の想像力によって過剰評価させた可能性もある。この状態が、淋しくないと言ったら嘘になるが、まあとりあえずそんな状況だったので、簡単に彼の臨んだ状況は作りだされた。彼が選んだのは、五人。

一人目は自分のパソコンを持っていて、プログラミングが出来、ネットスラングをめっちゃ使える面白い人、二人目はリーダーシップがあり、僕以外の皆から信頼されている、所謂カースト上位の人、三人目は運動神経が良く、明るい性格で皆を笑顔にできる人、四人目は勉強熱心で運動が出来、ピアノが弾ける、なんかもうすごい人(因みに三番目の人と仲がいい)、五人目は野球部で、本を読むことが好きで、不愛想だがなんだかんだ面白い人。彼らと彼は、なんとなく仲良くなっただけだが、彼は彼らを選んだ。

これまで以上に研究をスムーズに進めるためには、人間関係を良好にするのは必須条件だ。絶対に冬休み友達と遊んで、友好関係を深める。これまでの研究上、人は一緒にいる時間が長ければ長いほど仲が良くなる傾向があるのは分かっているから、あとはその時間をいかに多く確保するかだ。できれば、同時に複数人いると同時に好感度を上げられるから、そっちの方が好ましいんだが。

この時、彼は自心の変化に気づいていなかった。いや、むしろ気づけという方が酷かもしれない。もし気づいたとしても、身体的なもので、この答えには至らないだろう。

その後、彼は友達と多くの時間を過ごしたらしい。らしい、というのは、そこらへんが曖昧なデータしか残っていないからである。結果として、彼と友達の友好関係がより強固なものになったと分かるだけで十分だと私は思っている。結局、その後彼は研究のためと託け、残りの二年生の時間を友達に多く費やした。


二年生から三年生に上がるまでの春休み、彼は小学生からの友達の家へと向かっていた。これまで語られる事は無かったが、彼にはもう一人、とても大事な友達がいる。親友では足りないくらいに。相棒あたりが丁度良いかもしれない。そんな相棒君は彼以上に頭が良く、外部受験をして、中学校に入学した俗にいうエリートというやつである。別の学校に通っているのにも関わらず、彼らの友好関係は風化していくどころか、どんどん深まっており、このように長期休暇では相棒君の家で遊ぶのが慣例となっていた。無論、彼は冬休みも相棒君の家に行った。いつも通り、午前九時に相棒君の家前に到着し、チャイムを押す。家の中からトントンと階段を降りる音がし、少しして玄関のドアが開く。そこには前より少しばかり顔が細くなり、より大人びた顔になった相棒君がいた。

「相変わらずイケメンだねぇ。さぞかし学校でモテモテなのだろう?」

「冗談はよしてくれよ。まあ確かに、女子の友達は多いけど、彼女と呼べる人なんていないさ。」

「知ってるか?生物学で男女の友情は芽生えないって証明されてるんだ。その友情のようにみえるのは、全て恋愛感情の上に成り立っており、よって彼女らは君に少なからず好意と呼ばれるものを抱いているという訳だ。よってその彼女らは、全員君の彼女になる可能性があるわけで、いやむしろその全員が彼女と言っても過言ではない訳で」

「はいはい。わーったよ。とりあえず俺の部屋行こうぜ。」

相棒君はそう言って彼を宥めて家へと招き入れた。彼は、まだ相棒君に屁理屈を垂れ流している。これが、彼の嫉妬心を表す方法であり、小学校の頃からの彼との関わり方だった。普通だったら、嫌いになったりしてしまうものだが、悪意を込めつつ、茶化すような彼の態度は相棒君の性に合うらしかった。

彼が玄関からすぐ近くの相棒君の部屋に通される。彼の部屋には、歴史、数学、ソフトウェア、ハードウェアに関する本、小説(有名作家からマイナーな作家まで)、プラモデル等が置かれた大きな本棚、勉強机、パソコン(見るからにハイスペックそう。なんかもう光っちゃってるし)、ゲーミングチェア、ベッドがあった。

「相変わらず、お前は多趣味だなぁおい。こんなパソコン、前まであったか?」

「安定の方法で親に買ってもらったよ。それ、いいCPU積んでるんだよ。容量もDドライブ合わせて4TBあるんだ」

「その安定の方法って、どうせ"テストで学年一位取ったら買って"ってやつだろ?全く、頭が良い奴にしかできない方法を、頭の悪い奴の前で"安定の"とか言うな!」

「頭が悪いって、圭一この前"学年二位取った"って自慢してきたじゃん。」

「これとそれとは話が別だ。有名なエリート中学で一位を取るのと、辺境の無名の中学校で二位を取るのでは訳がちげぇ。…っていうか、学校の勉強道具が見当たらないんだが?まさか置き勉して尚一位取ってるとか言わないよな?なあ?それだったら俺泣くぞ?」

「落ち着け圭一。流石に煩い。勉強は普段リビングルームでやるからここには置いてないだけだよ。勉強は流石に家でやるさ。」

「はぁ、さいですか。んで、今回は何をするんだ?」

「ちょっと待っててね。」

そう言うと相棒君は階段を上ってリビングに行き、ノートパソコンを持ってきた。

「今回は、二人でFPSゲームをやろうと思ってたんだ。」

「FPSゲームとは」

「えっとね、FPSってのは"First-Person shooter"の略で、まあ武器を持ってプレイヤー同士が戦うゲームだと思ってくれればいいよ。」

「なんか野蛮なゲームだな。それ面白いのか?お前が外すとは考えれられないが」

「これが結構面白くてね。勝つための戦略とか、武器の特性とか色々勝利するための要素があって考えるのが楽しいんだ。とりあえずやってみてよ。」

そう言って相棒君は立ち上げたノートパソコンとゲーミングマウスを渡す。

「…すまん。操作方法を教えてくれ。」

「そういえば圭一はパソコン持ってないんだっけね。ごめんごめん。」

彼からパソコンを受け取った彼は、アイコンをクリックし、ゲームを起動する。彼がこの頃こんな簡単な事も出来なかったと思うと、正直驚いてしまう。

その後、チュートリアルの画面まで進めて、相棒君は彼にパソコンを渡した。

「CS機と比べると、確かに取っつきにくいかもね。」

「CS?まあいいや。取り敢えず、この説明通りやればいいんだな。」

しばらくして

「一通り操作方法は覚えたぞ」

「了解。じゃあ、僕と1V1してみようか。」

「一対一で戦うって事だよな。いいぜ、ボコボコにしてやるよ」

「ははっ、楽しみにしておくよ。じゃあひとまずロビーに戻ってくれないかな。」

「うぃ」

そして双方準備が終わり

「武器は…それか、これまた変なものを選ぶね、圭一は。」

「悪いかっ。この一発一発丁寧に打てるスナイパーライフルは実に強いと思う。だって一撃70ダメージだぞ。三発当てたらお前倒せるじゃん。」

「全く圭一は単純すぎるよ。しかも何で武器一個しか持たないのさ。」

「これは、もう一つあるから大丈夫っていう邪念を払うためなんだ。第一、三発当てれば倒せるのに、何でもう一つ持たないといけないのだ」

「僕みたいに普通にアサルトライフルとショットガンみたいな感じでいいのになぁ。まあ追々わかるか。じゃあ、あのマークが付いてる地点まで行って。僕が用意ドンって言ったらスタートで。」

「OK」

「よし、じゃあ始めるよー。よーい、ドン!」

試合の火蓋が切られ、一斉に動き出す…なんてことはなく、彼はただずっとスコープを覗いて動かなかった。そのまま、彼は一度も相棒君に弾を当てられず、結果惨敗した。

「うぅ、今のは運が悪かっただけだ。もう一回!」

「良いよ。」

その後何度も戦ったが、彼は一度も勝つことが出来なかった。

「くそぅ、どうして勝てないんだ、悔しぃ」

「如何にも初心者って感じの動きしてたね…フフ」

「今笑ったろ!」

「ごめんごめん、まあこのゲームを長い時間やってる僕が勝つのは当然と言えば当然だよね。」

「そういえばそうだ!ずるいぞお前!」

「まあまあ、そう怒らずにさ。これは君にこのFPSゲームという物の奥深さを理解してほしくてやってたんだよ。」

「ほほぅ。というと?」

「まず、圭一はずっと体を晒しながら僕を狙っていただろう?」

「?ああ、そうだけど」

「普通は、ちょっと体を出して、打って、引いてまた体を出して打って、ていう所謂ヒットアンドアウェイっていう感じの動きをするんだよね。そこがまずなってない。」

「しょうがないだろ。初めてやったんだから」

「じゃあ、何でこんな動きをしなければならないと思う?」

「何でってそりゃ、敵に打たれないためだろ」

「そう。極論、このゲームは敵にダメージを与えて、自分が受けなければ100%勝てる。これは事実だ。」

「だから何?」

「ここからだよ。問題は。じゃあ次に、どうやったらこの極論の形に近づけると思う?」

「それは………すまん分からん」

「ホントに?」

「ああ、さっぱりだ」

「そうか…。」

心なしか、彼は相棒君が悲しそうな顔をしたように思った。

「そうだね、例えば圭一の使っているスナイパーライフルなんて分かりやすい。スナイパーライフルは、圭一の言った通り、一発一発丁寧に打てる。しかも一撃が強い。この事実とさっきの極論、いや理想形を掛け合わせると、一瞬顔を出して打って引く。これが一番被弾しない、基、ダメージを受けない事になり、尚且つこちらは強力な一撃を相手にお見舞いできる。な?理想形に近づこうとすると、自ずとこの戦い方になるんだよ。」

「…マジかよ。それ、どうやって見つけたんだ?」

「?この戦い方くらい、普通に思い付かない?」

「これか…」

これが、考えるという事なのか。何かを成し遂げようとするとき、その成し遂げるための無限に近い道筋の中から最適解を見つける。これが考える。という事なのか。しかも、その道筋は、想像力によって変わってくる。更に、道筋が最適かどうかを見極めるために多くの要素が関係してるはずだ。これは…今の僕には無理だ…。

「圭一。大丈夫?」

急に黙り込んだ彼を見て、心配になった相棒君が声を掛ける。

「敬道、もっと俺にFPSについて教えてくれ。そして、俺が満足するまで戦ってくれ。」

「良いけど、どうしたんだい?何で急にそんな事」

「考えたいんだ。俺も、お前みたいに。勝つ方法ってやつを」

「っ!ああ、勿論だよ。」

相棒君は嬉しそうに頷いた。

あれから夜七時まで一緒にゲームをした。

「あ、アラーム鳴っちゃったね。これで終わりだ。」

「話しかけんな!ああ、外しちゃったじゃんか」

「はいはい、じゃあサクッと倒しちゃうね。」

「そんな簡単に倒されっ、何でそこから出てくるんだよぉ~」

「はい、これにて終了。今日も家まで送るよ。」

「うぅぅぅ、後もう一っ」

「ダメだよ。もう暗いんだし。ほら立って。」

駄々をこねる彼を、相棒君は少し強引に立たせ、家の外に連れていく。

「お前本当に時間に厳しいよな、ちょっとくらい良いのに」

「まあ、時間に厳しくってのが僕のモットーだからね。」

「それはご立派な事で」

「それはそうと、圭一FPS下手過ぎないか?なんだよ、約10時間やって一回も勝てないって。」

「仕方ねぇだろ!全然勝ち方思いつかないんだもん」

そう、彼は結局一度も相棒君に勝てなかった。原因としては、彼が考える力が無さすぎるというなんとも悲しいものだった。

「ここまで考えれない人、初めてみたよ…フフ」

「笑うな!好きで考えてない訳じゃねぇ!」

「悪かったって。しかし、そこまで考えれないものなんだね。僕は普通に出来るのに。」

「最後の一言余計ですー。まあ、一番驚いてるのは俺なんだがな」

「なんかネットで最近、"考える力"を鍛える方法っての見た気がする。調べてみたら?」

「そうだな。帰ったら見てみるわ」

「あ、もう家だね。今日は楽しかったよ。」

「俺もめちゃくちゃ楽しかった。また夏休みにな」

「うん。また夏休みに。」

そう言って彼らは別れた。









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