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天才理論  作者: 三輪 圭一 ・
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第二話

 彼女に接触を図る。これだけの事なのに彼はなかなか接触できずにいた。理由は分からない。いや、解らなかった。彼女との接触が出来ない以上、彼女に関する、つまり勉強に関する研究は一度止めなければならない。だからと言って彼が何もしない訳がなかった。今度彼が興味を持ったのは友人だった。

彼女はとても面白い被検体だ。だが、彼女は結局「人」だ。それなら、人である僕の周りの人々も面白い奴がいるかもしれない。

彼はこう考え、行動を始めた。まず最初に、面白い被検体を探し始めた。彼の周りの人々と一口に言っても、大勢の人がいる。そして、人によって特徴が違う。特徴と言っても、普通のものではダメだと彼は考えていた。そこで彼が使ったのは…彼は拒絶してきた「感覚」というとてもひ現実的な物だった。

勿論彼だって最初は使おうと思わなかった。というか、使う事自体思いつかなかった。では何故彼が今こんなものに頼ろうとしているのか。それは、彼の研究が原因だった。

それは約二日前の事である。彼はいつものように、勉強をしながら面白い被検体を見つける方法を考えていた。

面白い被検体、か…正直皆目見当がつかないな。待てよ。まず面白いって何なのか分からないと被検体を選ぶことは不可能なんじゃないか?ううん、面白い…面白いねぇ………ダメだ思いつかん。

シャーペンの芯が折れる音が静寂を壊す。

いいやダメだ。こうやって分からない事を分かる事にする事が研究なんだ。一度、知識を整理してみよう。まず、何で面白い被検体が必要なのか。それは、研究をするためだ。何故研究をするのか。それは、僕が分からない事を分かるようにするためだ。じゃあ、一体何が分からなくて、一体何を求めて研究をしているのか。…それが分からねぇんだよなぁ。彼女の研究は、当初不快を得たからだし、今は勉強に関する研究の被検体でもあるけど、新しい被検体に、一体僕は何を求めているんだろうか…。ん?待てよ。研究ってのは分からない事を分かるようにするという事。そして、友人との会話は友人になる前は相手を知るため。友人ななった後は大体自分をどんな奴か相手に知らせるためのものだったはず(過去の研究から)。つまり、友人として仲を深めるという事は研究をしているという事?少し理論が飛躍している気がするが、まあ手がかりなしより断然マシだろう。じゃあ、最初はどうやって彼らの事を知ったんだ?別に誰かから「あの人と友達になってきなよ」なんて言われた訳じゃない。また、話してきた全員が全員、友人であるかと言われたら間違いなく違う。…待った。違う違う違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。これまで、おかしいと思ってたんだ。友人が、皆興味深くて、素晴らしい人達って事が。よく聞く「類は友を呼ぶ」ってやつかって思ってたけどそうじゃない。というか、今考えたら自惚れが過ぎるな。反省しよう。僕の友人が素晴らしいんじゃなくて、皆素晴らしいのに気づいていないだけだったんだ!そうだったのか。まあ、そりゃそうか。逆に自分の周りに素晴らしい人が集まってくるって主人公かよ全く…。じゃあ、皆素晴らしいから、誰でも良いかって言われたらそれも違う気がする。なんで、彼らと仲良くなったのか。そこが分からないと効率が悪くなる。…うーん。無理だ。一度休憩しよう。

そう思い彼は席を立った。机には、きれいにまとめられたノートとシャーペン、消しゴムなどが乱雑に置かれていた。あと、彼の髪の毛が散らばっていた。彼は考え事をするとき、髪で遊ぶ癖があったからだ。ドアを開け、暗い廊下を歩いて階段を降りていく。相変わらず閑散としているリビングに着く。時計を見ると、もう九時半を指していた。彼はキッチンに行き、戸棚からインスタントコーヒーの入った袋を取り出し、コップを取り出す。次に引き出しからスプーンを取り出し、それらをキッチンの作業スペース(彼が命名)に持っていく。袋を開け、中身をコップに入れ、今度はキッチンの正面にある食事スペースに行き、ポットのお湯をコップに注いでいく。お湯は残り1.5L程だと、ポットが主張しているが、彼はそんなことなど気にも留めなかった。四つの席のうち、いつも彼が座っている席に座る。キッチンが良く見える席であり、同時に一番キッチンから遠い席である。まあ、末っ子なのでしょうがないと言えばしょうがないのだが。テーブルにそれらを置き、ゆっくりコーヒーを混ぜていく。そしてようやくだまが無くなってきたタイミングで席を立ち、部屋の電気をつける。普通に電気をつけるスイッチは入口のドア付近にあるので、入ってくるタイミングでつければ良いのだが、彼は何故かいつもこうしている。席に戻り、出来たコーヒーを堪能する。彼はこれまで、本当のコーヒーを飲んだことがないため、この味が本物であると思っているらしい。一口目を飲み終えた彼は、今度は手元近くにあるリモコンを使い、カーペットを挟んだ向こう側にあるテレビの電源を付ける。テレビには、どこかの旅番組が映し出される。彼は、その光景を見ながらコーヒーをちょっとずつ飲んでいく。このコーヒーを飲む間だけは、何も考えなくていい時間としている。そんなリラックスした状態で、彼は一年生の頃を思い出していた。

そういえば、一年生の頃はずっと友達と遊んでたな。毎日皆で近くの公園に寄って、鉄棒で誰が一番多く回れるか勝負したり、鬼ごっこしたり。最近は遊んでないけど、あの頃は楽しかった記憶が確かにある。

あの友達とは中学生になってから仲良くなったんだったけか。確か、入学式を終えて教室で会った時、何となく話しかけたんだよなぁ。あの頃はまだただの子供だったっけよな。今の自分と比べると。懐かしいねぇ。

テレビには、さっきと違ってドラマが映し出されている。時計はもう十時七分を指していた。彼はテレビを消し、コップを持ってリビングを出ていく。勿論電気を消して。階段を上がっていく音が、少しずつ廊下に聞こえてくる。そのまま彼は部屋に戻る。そして椅子に座り、机に向かう。ふと、彼は違和感を覚えた。

さっきの追憶…気持ち悪い感覚があったな。こう、胸から何か引っかかるような。もしかしたら、何か思う所があったのかもしれない。ちょっと考えてみよう。

そう思い彼は、シャーペンを持たずに思考を始める。今更ながら、何故このような感覚的なものによって行動出来たのかは謎である。

というか、この友人関係に関する研究をしている今、このタイミングで何故過去の記憶が出てきたのだろうか。何か関連性があるとしか思えない。今僕が分からないのは、何故今の友人と友達になったのか。ここだ。過去の記憶に鑑みると…え?あれなの?あの、何となくの原因になった、なんとも形容しがたいあの「感覚」なの?これはまだ解明出来てない。でも、残念ながらあれ以外に理由があったかと言われれば正直ない。これに頼るしかないのか…。

といった具合である。彼なりに考えた結果がこの「感覚に頼る」というものだった。


それから一週間後、彼は家から少し離れたグラウンドに来ていた。右手にはグローブ、左手には野球の軟式ボールが三本の指で握られている。

「まずは皆でキャッチボールしよーぜー!」

全員が集まって少しした後、一人の男子中学生がそう全員に呼びかけた。

「そうだね」

「了解」

「まず広がろーぜ」

各々がキャッチボールの準備を始める。彼はその様子を溜息をつきながら見ている。

どうしてこうなった…

「ほら、ボール持ってんの圭一なんだから、早くなげろよー」

声を掛けられ我に返った彼は、まず声をかけてきた奴にボールを投げた。

「うおっ!強く投げすぎだろ。めっちゃ痛いやん」

そして、皆和気あいあいとした雰囲気の中キャッチボールを始める。

マジでなんで僕はキャッチボールをしているんだ。研究のためだったのに。はぁ。

暗い顔をしているのは彼一人だ。皆楽しそうにキャッチボールをしている。


何故こうなったのか、それはこの一週間で彼の態度が急変したからだった。

彼が面白い被検体を探し始め、皆に興味を持つようになった。そして、彼はその「感覚」を用いて周りの人々から4,5人程度を選び、声を掛けた。彼は、一人でも仲良くなれたらそれで良いと思っていた。が、結果は全く違っていた。それには理由があった。まず声の掛け方。彼は「感覚」を用いて声を掛けたが、彼は「感覚」に意識を向けすぎていた。つまり、彼は、その「感覚」によって選んだ人に相手の状況関係なく声を掛けたため、周りに「感覚」で選んでいない人がいても声を掛けてしまった。そして普段の彼の態度。学生カーストにおいて最高の地位を持っている彼の周りには多くの人々がいる。だが、彼は大体研究に明け暮れているので、殆ど会話に入らない。普通だったら「何コイツ、付き合い悪すぎ」と切り捨てられるのが、学生カーストで最高の地位を持っていたがために「こんなに周りに人がいてもずっと考え事してるなー。憧れるわー」という認識になっていた。そして、またその地位がために、その認識が飛躍し、皆彼に畏敬の念を抱いていた。

その結果、「声を掛ける」というだけでなんかもう、すごいありがたい事になってしまったのだ。本当になんでこうなったのだろうか。取り敢えず、声を掛けるだけで皆からの好感度が爆上がりし、急激に仲良くなってき、現段階でクラスの男子のほぼ全員の12人と仲良くなってしまっていた。そして、今日の休み時間に皆で野球をやるという話が持ち上がり、このような状況になっているのである。


「おい圭一、なんか顔暗いぞ?大丈夫か?」

っ!まさか気付かれるなんてな。ポーカーフェイスを会得したと思ってたのに、まだまだだな。これだけでも、十分成果と言えるだろう。こうやって皆と馴れ合うのも悪くないかもしれない。

「ああ、もうキャッチボールも結構やったし、試合しようよ。試合」

「そうだな、皆ー!試合やるから一回集まってチーム分けしようぜー!」

この感覚はなんだろう。…今の俺には理解出来ない。がこの感覚は絶対に一人では手に入れられない感覚。感覚を研究を始めてからずっとなかった。人とのコミュニケーションは新たな感覚を認知する起因になるのか。これはより皆を近くに置いてみるのも全然有意義な選択になりそうだな。それに、もしかしたら彼女とのコミュニケーションでも何か感情を得られるかもしれない。

思考が一段落した彼は彼らの輪に溶け込んでいった。

結局彼らは暗くなるまでずっと遊んでいた。

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