表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才理論  作者: 三輪 圭一 ・
19/23

第十九話

冬休みが明け、登校日初日。彼は冬休み中に見つけた彼女への接し方を試したく思い、いつもよりも早めに家を出て、教室に着いていた。

教室に着いて早五分、未だに誰も教室に入ってこない。少し早く着きすぎたかもしれないな。

教室の壁に掛けられた時計は七時二十三分を示していた。これは彼の通っている学校の始業時刻より一時間程早い。誰も登校してこないのは当たり前の事であった。

今のうちに作戦のシミュレーションを行っておこう。彼女が教室に入ってくる。そして話しかける、何て都合の良い事は起こりえないだろう。彼女と仲が良い女子が約一名このクラスにいる。家の位置は把握していないが、確率的には彼女らが一緒に登校する可能性が高いと言えるだろう。となると、彼女に急に話し掛けるのは得策とは言えない。何より、改めて考えると私がこんなに早く登校しているのは些か不自然であり、皆何かしらの理由があると考えるだろう。そう考えている内に私が彼女に話し掛けたらそれこそ不自然だ。こう考えると衝動に任せて早く家を出てしまったのは失策だと考えざるを得ない。がしかし、それはもう過去の事。今、この状況下で私が取れる最善手を考えなければならない。幸い時間がある。今の私の最終目標は彼女に話し掛け私の作戦が成功するかの確認をする事。更に踏み込めそうなら彼女と話している私自身の本能側の考えを観測し、彼女の事が好きであるかの確認、理性側では彼女の粗探し、天才の特徴の抽出を続行。では彼女にどうやって話し掛けるか。解りきってはいたが、やはりこれまでの彼女との会話は基本的に彼女から声を掛けられているパターンしか存在しない。つまり私から話し掛けるのは初めてであり、彼女に違和感を覚えさせてしまう可能性が高い。となると話し掛けるにはそれ相応の理由がいる。実際問題、学校生活において彼女に頼るべき問題は皆無だが、何とか絞り出して話し掛けるきっかけを作る必要がある。それを考えるにはまず彼女にいつ話し掛けるかを決める必要がある。時系列によって我々に必要な情報が変わってくる、朝だったら…昼だと…放課後なら………。彼女に聞くべき何かとは何だ?普段から彼女無しで生活が成り立っているんだからわざわざ彼女に話し掛ける必要性が皆無だ。が、私は話し掛けなければならない。こういう時こそ皆の普段の行動を思い出すんだ。皆がいつもしている会話…雑談が殆どを占めているな。つまり雑談をすればいい訳だ。雑談なら会話プログラムを使えばどうとでもなる。では私は彼女に話し掛ける、という行動を取り、最初は会話プログラムに任せてある程度会話を進める。その後、会話プログラムの話の会話を短時間で模倣し、会話プログラムから主導権を取り戻しつつ会話を続行。その間に作戦を実行。上手くいかなかったらすぐ会話プログラムを起動。上手くいけば情報収集。これで問題ないだろう。シミュレーションは完了したが、まだまだ時間があるな。英語の勉強でもしてるか。

七時二十九分、彼はバッグからテキストを取り出し勉強を始めた。

八時五分、彼女が教室に入ってきた。一人で。更に彼は彼女が登校してきた事に気付かなかった。更にもう一つ、彼女は長期休み明け、彼に話し掛けるのが習慣化されていた。

「おはよー。ミスターユー」

「え…」

彼はその声、独特なネーミングセンスから話し掛けてきている人物にすぐ気付き、焦りを隠しきれないまま対応を開始した。

「あ…。おはよう、ミセスエヌ」

彼はオウム返しに一度切り替え時計を一瞥。状況を整理しだした。

もう八時五分じゃないか!勉強に没頭し過ぎたな。作戦は瓦解した。正直不安しかないがやるしかない。まずは会話プログラムでお茶を濁す。

「あはは!何それ、裏番もユーモア?ってやつが分かってきたんじゃないの?」

「だと良いな。だがこれは君の話し方を真似ただけだ、ユーモアを理解したとは到底言えんだろ」

「いやいや、前までの君では想像出来んな、そんな事言うのは。最近の君はー何と言うかーんー、柔らかくなった気がするな!」

「柔らかく、か。それはまぁ褒め言葉として受け取っておくよ」

「む、逆に褒め言葉以外の捉え方があるのか」

「あぁあるとも。柔らかくなったって事は気の緩みを意味する。警戒心が無くなったって事は飼いならされたようなもんだ。従順になったとも捉えられる」

「あー、あー。そういう捉え方良くなーい。というか君はこれまでも今も周りに従順だろう?」

「ん…否定はしない。その方が全てが円滑に回るんだからそれで良いだろう」

「そういう論理的な考え方、変わんないねー。前言撤回、ユーモアの欠けらも君には無いね」

「では柔らかくなったというのも撤回するか?」

「んー、それはしない。本当に柔らかくなった気がする」

「それはまぁアバウトな事で」

「ほんとだって。前までの君は常に周りを警戒してて、誰も信頼しているようには見えなくて、敵意丸出しー、って感じで近寄りがたかったけど、最近の君はこう、その壁が取り壊された感じがする。うん、前より話し掛けやすくなった。今の君には裏番ってあだ名は似合わないかもね」

「そうか。まぁ色々あったしな」

「え?何かあったの?」

「知らないのか?俺が学年の結構な男子にハブられてたりした事」

「え…、そうだったんだ。ごめん、嫌な事言わせて…」

「気にするな、今はもうそんな事ないし、寧ろそのおかげで俺は今の友達を信頼できるようになったんだから。嫌な面ばかりじゃなくて、良い面にも目を向けた方が有意義だろ?」

「また論理的な。まぁそっちの方がいいか」

良く話すな、私たちは。もうそろそろ切り替えても良いだろう、彼女への会話プログラムが下した対応方法も大体解った。

「そうだ。というか意外だな、もっと噂になっていると思ったが。そんな事ないのか?」

言葉に詰まる事は無かった。取り敢えずは目立った問題なし。

「あー、私がグループに所属していないのが原因かも」

返答的にこれまでの会話との違和感は無し。問題なく会話が成立していると言って良いだろう。これなら、次の行動に移っても問題は無いだろう。

「え?そうなのか。てっきり皆と仲が良いものかと」

本能側は…ほう、もっと話したい、か。あと彼女に笑ってほしい、気まずい雰囲気にはしたくない等があるな。これはいよいよ好きである可能性が高まってきた。理性側は、粗探しは上手くいってない。正直言って彼女に裏の顔があるとは到底思えない。現在の私にとって、天才の特徴を見出す方が優先度が高い。もう粗探しが中止にしても差し支えないだろう。

「皆と仲は良いんだけどね。ある特定のグループには所属してないから全員、めっちゃ親しいって訳でもないんだよね」

天才の特徴は会話からはあまり掴めそうにないな。というか彼女は私にとって勉強の天才であり、会話の天才という訳ではない。つまり、この会話の意味は、私が彼女の事が好きであるどうかの確認をするためだけという事だ。

「その割には君は誰と話していてもとても楽しそうじゃないか?」

「え?だって会話するって楽しいじゃん」

「そうか?」

「え?じゃあ今楽しくないの?」

楽しいか楽しくないかの判断は本能側の領域だが、まだ理解が及んでいない範囲が多すぎる。楽しいのか楽しくないのか何て判断できない。仕方ない、一般論に当てはめて、今の本能から得られる情報から自身の感情を読み取るしかない。楽しいは、人にとっての報酬、つまりよりいっぱい受けようとする事。つまり継続。つまり現在の私は会話を楽しんでいると言えるだろう。

「あー…楽しいかもしれない」

「でしょー、会話してるとさ、みんなみんな全然違くてさー」

今私は会話を楽しんでいるのか。会話が楽しい、これは好きな人と話している時に発生する状況だ。更に確率が上がったな。

「例えばー、君は豪勢な装飾がされたびっくり箱でしょー、君の友達の髙木君はダックスフントの長、更に更に――」

!?一体此奴は何を言ってるんだ!?

「え、中野さん急にどうしたの?」

「うん?みんなの話した印象を挙げってってるだけだけど」

印象?は?私の印象が"豪勢な装飾がされたびっくり箱"?何を言ってるんだ?

「印象…なのか?それは。すまないが解説をお願いしても?」

会話から天才との差が観測できない?何寝ぼけた事言ってるんだ私は。天才と私達凡人との差は思考回路。会話内容は思考回路と直結している。会話が思考回路の差、天才との差を見出すチャンスだと最初に考えたのは他でもない私だ。そして今私はその天才との差を目の当たりにしている。これほどのチャンスはそうない。何としても聞きださなければならない。そこに至ったプロセスを!

「解説?うーん…」

さぁ!早く!天才と凡人の差を明確にしてくれ!

「…分かんないや。ごめんね、圭一君」

「え…」

今…名前呼んで

「じゃ!時間だから席戻るね。また話そうではないか」

彼女はそう言いながら、呆けた彼に背を向ける。

名…前呼んで…。

余りの出来事に彼の脳は思考停止に陥りそうになる。

…!ダメだ!ここで思考停止するようでは!考えろ!この一連の出来事での不可解な事柄を!

時刻は八時二十分。皆がいつものように読書を始めた。彼も周りに合わせ本を開き目を通しているように見せかける。

………。不可解な点は二つ。彼女との会話の途中、私は粗探し、天才との差の観測を放棄しようとしていた事。残っているのは、本能側のみ。つまり、私は本能に全ての権利を譲渡しようとしていたという事だ。本能側と理性側の差。それは彼女への悪感情、利用しようという考えの有無。つまり彼女への好感情を優先した。そして最後に名前を呼ばれた時の過剰な反応。あの時の私の本能は、嬉しさで満ちていた。これらの情報に鑑みて結論づけよう。…私は彼女が好きだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ