第十八話
今さっき評価ポイントが付いている事に気付きました。
ポイント付けてくださった方、本当にありがとうございます。モチベが爆上がりしました。
「おぅ。じゃあまた明日も二十二時から。あぁ。当たり前だろ。言われなくてもやるわ。…そうそう。じゃ」
彼はそう言って受話器を置いた。電話相手は相棒。彼らは昼間の約束通り、ゲームを一緒にプレイした。
「圭一ー、ゲーム終わったの?」
「うん、お風呂だよね?」
「そう。早く入っちゃなさい。いくら圭一が冬休みだからって、お父さんは仕事があるの。あの人、圭一が入るの待ってたんだから」
「そうだったのか。ごめんごめん。すぐ入るよ」
そう言い彼は手早くお風呂に入る準備を終え、湯舟に浸かった。
「…楽しかったな。ゲーム」
そう。実際楽しかった。あんなに拒絶してたのに。今考えると、彼奴よく怒らなかったな。夏休みのあの日、私は彼奴の好きなものを一方的に否定して、壊して。それなのに冬休みになったらやっぱ楽しかったから一緒にやろうだなんて。都合が良すぎる。俺だったら確実に意地を張ってしまっただろう。…これもまた彼奴の器のでかさ故か…。一度堕落してもそこから立ち直れる胆力。他人を許せる心に広さ。それに加えたあのスペックの高さ。溜息が出る程に優秀で私が知るなかで完璧に近い。…完璧と言えば我が校の彼女が頭に浮かぶな。あの二人はほぼ完璧と言って良いのではないだろうか。が、あの二人がイコール又はニアリィイコールで繋げるかと言われたら答えは勿論ノーだ。寧ろ彼らは真逆と言っても差し支えないだろう。だが私は彼らを同じ"天才"という括りでまとめられる。これは非常に不可解だ。…が、もし天才とはある点、即ち頂点として定義するのではなく、ある条件を満たすある集合として定義するとしたら辻褄は合う。ではその条件、もとい私が彼らに抱いている印象、彼らと私の関係性での共通項は…尊敬できる点が多い?何かしらで私に勝っている?そんな単純なものではない。…待てよ。天才をある点ではなくある集合として定義し直すと、これまでの見て学ぶ手法では意味が無いという事じゃないか。いやいや落ち着け。そうじゃない。今の私が考えているのは…一旦自身の考え方が正しいと仮定すると、私の周りの天才達の共通項。つまり天才である条件。つまりその条件さえ解り、その条件を私が満たせた場合、私は天才になる事が出来るという事だ。そしてその条件とは、凡人である者達が持ってないもの、つまり私と彼らとの差。まず、というかこれが殆どの理由だろうが、思考回路の差。彼らと私では物事の捉え方、事柄の繋がり、因果関係がまるで違う。そこが差となっている可能性が…待て。思考回路の差は…彼らと私の間だけに存在する訳じゃない。私と私の親友達との間にも差はあった。雑談に出てくる話題を考えれば解る。つまり思考回路の差は天才との差別化に有効ではない?改めて考えると、その通りだ。昨日の父のゲームの戦術と今日の彼奴の戦術。似てはいるが全く同じではなかった。つまり天才と天才の間にも思考回路の差は存在する。…いよいよ解らなくなってきた。では彼らとの差は何か。…余りにも比べる項目が多すぎる。もっと条件を具体化しよう。今の私の目標は彼女なので、彼女との差、勉強面。あとは私個人での興味だが、社会における天才との差。この二つでの天才との差を考えてみよう。…
「っとまずいな。もうこんな時間だ」
彼は時計を見て自身が湯舟に浸かってもう五分経っている事に気付き、急いで体を洗ってお風呂から出た。それからすぐ寝る準備を整え、自身の部屋に入っていった。
天才との差…は一旦お預けだな。明らかにデータが少なすぎる。もっと彼女との接触が図れたらいいのだが。これも再考する必要有りだ。
床に就こうとしたとき、彼の視界の隅にカレンダーが映った。
「…はぁ、あと二週間弱で冬休み終了。そしたら学調か…学調じゃないか!」
そうだ。俺は学調の英語で満点を取るという目標があったじゃないか!いやでもしかし、せっかく彼奴との繋がりも戻ってきたのに今更それはどうだろうか。何よりゲームは楽しいし。
考えつつ彼は布団に潜った。
待て。今この場において確実に不可解である事柄が存在する。私は今何と思った?そう、"ゲームは楽しい"と思ったんだ。確かに論理を積み上げてこの結論に至り、行動に移し、現在に至る。が、繋がりうんぬんすっ飛ばして結果だけを見てみると、"ゲームとはいけないものだ"と"ゲームとはやるべきものだ"という矛盾した事実がこの場に存在する。この矛盾を受け、私が真っ先に思いつく原因は"私の思考回路が正しくないから"だろう。だがそれではこれ以上の発展は望めない。一旦この説を捻じ伏せておいて、別の理由を考えようとすると、ヒトの行動の矛盾が思考に現れる。例えば、現在の私のように目標を立てたのにも関わらず、それ以外の娯楽等に逃げてしまうという矛盾。これはごく一般に発生している矛盾であり、これは原因として十分立てられる程人間にとっての根源的な部分に則った矛盾であると言えるだろう。ではその矛盾の発生の原因とは何か。今の私の状態を考えてみよう。英語を勉強しないといけない、という義務。そしてゲームは楽しいからもっとやるべきというもの、つまり感情、欲望。よって、この矛盾は私がこれまでずっと使っていた、意識下のモノと私が最近理解を深めてきた無意識化のモノという二つから発生する矛盾である可能性がある。ではこれを一般に起こる矛盾に当てはめると………例外なし。つまり、意識と無意識の食い違いによるものだと断定しても一般に用いる事が可能であるという事。という事は、ヒトの行動とは、"意識"と"無意識"、"理性"と"本能"によって決定される可能性が高い。だがここでとある疑問が浮かんでくる。では何故これまで私はそれを認知できなかったのか、何故認知できないほどにこの矛盾が発生しないような状態で居続けていたのかという事だ。が、これも簡単だ。これまでの私には自我というモノが殆ど存在しない。つまり、本能が非常に弱かったためこの状態に陥りずらかったと考えられる。いや、感情も本能の一部、根源的な論理に含まれるなら、これまで謎の状態と称してきたあの状態こそあの矛盾した状態と言えるだろう。直近で言えば彼女に話し掛けたいのに話し掛けられていない私が良い例だ。理性側では"彼女に話し掛けなければいけない"と考えていても、本能側では"恥ずかしいし申し訳ない、話しかけたくない"と思っていて、結果として…こう考えると、本能側の方が力は強いのか。いやしかし、あくまで私はヒトだ。これまでこの矛盾した状態に陥っていなかったのは本能が欠落していたからと考えるのは不可能だ。仮に欠落していたら今の私の状態の説明が付かない。つまり本能は存在した。が、本能が示すであろう行動は取っていない。つまり理性が勝っている状態であったと考えても差し支えないだろう。では理性と本能の力関係は変動すると言えるだろう。そしてその力関係は、過去のデータに鑑みるに何かしらの変数に依存している。ではそれは何か。単純に理性と本能のどちらを優先すべきか決める機関があるのではないだろうか。これまでの私が心掛けてきたのは"以下に周りに褒められるか"。そして褒められる状況とは、周りの人が出来ない事が出来る状態。つまり、皆本能で動いている中、その本能を殺し、理性で行動している状態と言えるだろう。つまり褒められるためには理性を優先させる必要がある。よって、目下の目標を達成するためにはどちらを優先すべきかを判断基準にしている可能性が高い。…はずなのだが。彼女に話し掛け、天才のデータを集める事が最重要目標のはずなのに、私は理性より本能を優先してしまっている。…ゲームの件も同様と言えるだろう。では何故か。これは完全に感覚だが、私が気付いていない変数があるんじゃないだろうか。彼女の件で言えば、丁度、私が彼女の事が好きである、という事を仮定すれば、恥ずかしい、という変数の値は大幅に上昇する。ゲームの件もそうだ。ゲームをプレイするときの、楽しい、という変数の大きさを見誤っている可能性は十二分にある。そう。私は不完全なのだ。最も完全から離れていると考えても問題ないほどに。そんな私が全ての変数を見つけられるなんてあり得る訳が無い。今の私に辛うじてできるのは、自身の行動から自身の行動を司る機関はどちらを優先しているのか理解する程度だろう。…ではこれはどうだろうか。本能の権限が強い時、理性の目標を達成した場合、本能に報酬が与えられる状態に持っていくのは。本能の権限が強いなら、その新しく設けた報酬を求める本能も又権限が強いと言えるだろう。その権限と理性の権限が合わされば私は自身の行動を完全に掌握出来るのではないだろうか。今の私には、理性と本能の力関係を観測する術がある。そこにこの考え方を合わせればきっと可能だ。ようやく、研究が進む可能性が出てきた。…楽しみにしておこう。まずは明日の午前、ゲームをやりたいという心理状態でありながら、勉強出来るかで実験してみよう。
思考が一段落つき、理性が弱まった時、彼の寝たいという本能が顔を出し、そのまま彼は眠りに落ちた。
次の日の朝。彼は朝食を食べ終え、自由時間に突入しようとした時、実験を開始した。
うん。今の私の脳内は"ゲームがしたい"で埋め尽くされているな。が、ここでこう考えればいい。午前勉強頑張れば、午後のゲームはとても楽しいだろうな。あー、楽しいだろうなー。…おぉ素晴らしい。脳内に"勉強しよう"という情報が発生していく。これは…いけるぞ。ははっ、冬休みが明けるのが楽しみでならないな。
彼は一人ニヤけつつ、自身の部屋に向かい、勉強を始めた。




