十四話
現実でも友人にこう言われたかったですね。ちょっと書いてて悲しくなりました。
その日の放課後、木村達とのいざこざが収束した事もあり、彼は前の三人組で帰っていた。
「なぁ知ってるか?三組の伊藤、吹奏楽部のアイツに気があるらしいぜ」
「あー、まぁ気にはなってるだろうな、あの感じ」
彼女ねぇ。あまり必要性を感じないな。
雑談が一段落し、男の娘が話題を恋バナに移した。それに茄が便乗する。
「あー、俺にも彼女できねぇかなー、めっちゃ欲しー」
まあ此奴は欲しがってそうなイメージあるな。
「お前部活やってないからな。接点が少ねぇんだろ」
「それだと吹奏楽部なのに彼女ができないあなたは何なんですかねー」
「俺は高校になってから作るって決めてるから。そっちこそ顔はまあまあ整ってるのに何でなんですかねー」
そうだったのか。運動も勉強も出来るのに何故彼女がいないのかと思っていたけどそういう理由だったのね。
「さっき自分で言ってましたよね?部活やってないからって。記憶力大丈夫ですか?進学できそ?」
「普段使ってる脳と勉強するときに使ってる脳は違う。安心しろ。それに部活だけが原因なんて一言も俺は言ってない。他に要因があるんじゃないかと俺は聞いてるんだ」
「あらそう。まぁオーラが強すぎるんじゃないですかね。一応俺、年齢イコール彼女いない歴じゃないんで」
オーラって何だ?そんな威圧感無いと思うんだが。
「小学生にとっての付き合うってのと中学生にとっての付き合うは次元が違う。過去の栄光に縋るしかできないんすか?」
「だからこそ小学生時代は皆俺のオーラに気付いてなかったのよ。今はね、ほら皆気付いてるから」
「ほほう。じゃあ小学生時代はモテモテだったと」
「事実付き合ってたんだからそうと言えるのでは?」
「モテモテかどうかはそれだけでは判断できんだろう」
仲良いな、この二人。俺居ていいのかな。これまで、二人が木村達と仲が良いからと少し距離を取っていたが、改めて接してみるとこの二人仲が良すぎる。俺が入れる隙間何て無さそうだ。うん。大人しく会話を聞き流していよう。
「まぁ実際問題。この三人、全員モテる要素は持ってると思うんだよな」
そうなのか。色恋沙汰に全くと言っていい程興味が無い私にはその判断基準が分からない。是非とも参考にさせていただこう。
「というと?」
「ん?何だ圭一、興味あるのか?」
「え、意外」
いや実際興味はないg
「まぁ多少はね。年齢的にも思春期真っ只中だし」
「それもそうか。逆に興味が無い方がおかしいもんな」
興味ない方がおかしいのか…。
「じゃあ逆に何で彼女いないんだよ。お前ほどの高スペックな奴、女子からはある程度の人気があるはずだろ」
すいません。興味無いんです。
「高スペック?僕が?」
「それはそうだろ。運動も勉強も人並み以上。勉強に至っては学年トップレベル。よく話を聞いてくれる性格。顔もまあまあだし、背も高い。マイナスな要素が無いに等しいだろ、こんなん」
「そうそう。こんだけ揃ってて彼女いない方がおかしいってもんよ。それこそ興味が無いとか言われないと納得できん」
多分興味無いってのと、あなた方の過大評価ですよ原因。
「そっかー。自分の事では考えたことなかったなー確かに」
「お前がその気になったら誰でもいけそう」
「誰でもは言いすぎな気もするが、まぁ大抵の女子はOKするだろうな」
そこまで言うか。
「まぁこれまで木村達の事があったりしたしなー」
「あーでも、ちょっと前の圭一は少し怖かったかも」
「確かに。てかむしろ木村達とのいざこざの終わりらへんから話しやすい印象になった感はある」
「ね。前まで全然自分から話そうとしてくれなくて、怖かったもん、正直」
そうだったのか。
「そうかな。あんまり意識してないや」
明らかに会話プログラムの影響だろう。変な失言をしないようにと気を付けてたのが裏目に出てたのか。
「まぁ今は話しやすいし。気にすんな」
「そーそー」
やっぱり今の僕の方が受けが良いな…。私はやっぱり間違っているのだろうか…。
「てか興味あるなら好きな女子とかいないの?」
「好きな女子ねー」
すまない。好きの定義が分からないから言いようがない。
「まず好きってどんな感じなの?」
「そうだなー、例えば話してて楽しい、緊張するとか目で追ってしまうとか、カッコイイ所見せたいと思うとかかな」
前の二つはともかく、最後のは動物の求愛行動みたいだな。まぁヒトも所詮動物。仕方ない面もあるだろう。
「そういう感じの人はぱっと思いつかないなー」
「そっかー…あでも、あの人は?えーっとめっちゃ頭の良い…」
「中野さん?」
「そうその人!話してて楽しそうだった記憶がある」
よりによってあの人か…てか楽しそうだった何てあり得ないだろ。私の最も苦手な人だぞ。
「楽しそうだった?」
「うん。いつもの落ち着いた雰囲気が無くて焦ってる感じがあって、でも楽しそうだった」
前の二つは認める。がしかし、楽しそうだったっていうのは…いや待て。あの頃の私の思考回路は今より数段劣る。ましてや感情の観測なんて出来るはずがない。だったら楽しそうだったっていうのも本当の可能性が出てきてしまう…。また私は間違てたのか…。
この時、昨晩からのこれまでの自分に対する正当性の無さ、自分の無力さ、愚かさ、惨めさが遂に限界を超え、彼の自己肯定感は完全に無くなってしまった。それに加え昨晩から続く大人、社会への猜疑の意識、常識への猜疑の意識が重なり、彼の自尊心は完全に無くなり、むしろマイナスにすらなっていた。そして自尊心が無くなればこれまでの論理の繋がりへの信頼も無くなり、彼にとってのこれまでの論理への信頼も無くなる。これまでの論理への信頼が無くなるという事は、彼を構成する主が無くなったという事とほぼ同義である。彼はこんな日常の中の軽い会話の中で完全に自分を見失ってしまった。
「そうかー。じゃあ僕自身が気付いてないだけで意外と好きだったりしてね」
「だとしたら胸アツ展開だな!お二人さんお似合いだし!」
「だな。…でも圭一が彼女にデレてる姿が想像出来ないな」
「いや、そこは愛の力で一発よ!愛は人間性すら変えるんだぜ!」
ほほう。
「何だそれ」
「愛はスゴいんだぞ!互いを想う気持ちが影響し合うんだ!愛は世界を救う!」
「漫画の読み過ぎだ馬鹿。そんなの現実にはありゃしねぇよ」
「流石にそこまでの影響力は無いかな」
「えー、圭一まで言うか。いやでも!俺は信じ続けるぞ!」
…可能性はある。仮定に仮定を重ねるが、もし本当に愛には、もとい恋には人を変える力があって、そして尚且つ私が彼女の事が好きであり、彼女が僕の事を好きだとしたら、可能性はある。彼奴の言い方的に、私が彼女の事が気付かずとも好きである可能性は往々にしてある。そして彼らの言い分からすれば、私は所謂"モテる男子"らしい。そして彼奴の言い方的にも現実的では無さすぎるという訳ではなさそうだ。更に、恋というのは彼奴の言い方的に常識のもの、つまりヒトが無意識にあると考えているものつまりかなり根本に近い場所にあるものだと言える。これは研究が進む予感しかしない!…というか、私にはもうこれしか残っていない。これまで積み上げてきた論理は全て崩れてしまった。もう、何が正しいのか何て私には理解できない。会話は会話プログラムを拡張すればどうにでもなる。でも、勉強の意味も、自分の意思も全部分からなくなってしまった。…もう"僕"を支えてくれるものが残ってない。この研究しかもう残ってない。これが失敗したら私はもうどうなってしまうか分からない。これが私にとっての最期の勝負になってしまうかもしれない。
「もう家だわ。また明日なー」
そう言い、彼は二人に手を振りつつ離れていった。




