第十話
どうしてもここで切りたかったので今回は短めです。
その分次は長くなると思います。
結局彼は彼らを追いもせず、周りの親友達の言葉を鵜吞みにしそのまま帰宅した。
何故俺は追いかけようとしなかったのだろうか…
そしてその日も又、彼は自室に籠り勉強しながら思考する。だが、この日の彼は放課後に起きた出来事の整理がついておらず、数段思考能力が低下していた脳を酷使していた。
あのタイミング。俺が心を乱され、状況を正確に判断できなかったあの時。確実にこれまでとは違う感覚だった。この俺が非現実的な事を考える事になるとは思わなかったが、あの時、確実に俺じゃない俺がその場にいた。勿論、俺もあの場に居たし、周りの状況を五感を使って感じていた。今も記憶として残っている事から、というか常識的に考えてあの場に居ないはずがない。問題はあの時の俺の行動。頭に靄が掛かったように、いやあれはきっと状況が理解できずに混乱していただけだろう。ではなくて行動だ。あと感覚。あの時、確かに誰かが俺の体を動かしている感覚、頭が支配されている感覚に陥った。あ、このせいで頭に靄が掛かったような感覚があったのか。ではなくて。あの俺は一体何なんだ?あの人当たりの良さ、友人への態度……思い当たる節は一つしかない。つまり、友人用会話プログラムが原因である可能性が高いという事。正直な話、これを酷使していた自覚はあった。あんな理不尽な態度を取ってくる奴らに仲直りするためだと何回も交渉に行ってくれた髙木。いじめられている間も優しくいつも通り接してくれた彼奴等。少しでも恩返ししたk…いや、あれはあくまで双方の立場を統一させたかったからであって…否定出来ないな。俺は本当に少しだが確実に彼奴等に感謝の念を感じていた気がするし、その返しとしてせめて俺と一緒にいる時は楽しく過ごしてほしいと思っていた…はず。いやしかしやはり与えられるだけの立場を俺は嫌うから結果としてこの結論に至ったとしてもそれが確実に正しいわけではないからやはりあくまで立場を対等にしておくために構築した可能性が高いな。…まぁ、どちらにしても目的はともかく彼らを楽しませようとしていた、話しやすいように努めていた、という事実は残ってしまうな。…彼奴等は確かに良い奴等だ。もっとこちらから感謝の念とやらを示すべきだろうか。…て今結局俺彼奴等を評価してるじゃないか。あくまで観測者として立ち回ってた俺が…か。きっと俺は彼奴等の事信頼してるんだろうな。ははっ、笑えるな。テキトウに選んだ奴等だったのに。結局時間が仲を深めるのかって話だ。…何だろうこの違和感は。何か見落としているような感じがする。…………………………………分からない。何が違和感の原因なんだろうか。
余りに原因が分からなかった彼は、手を止め大きな伸びをし深呼吸をした。
ダメだ。一度思考をリセットしなければ。…でもコーヒーって気分でもないな。…
趣味を持たない、正確にはこの思考こそ彼の趣味だが、取り敢えず気持ちをリセット出来るような行動を知らない彼は、只々天井を眺め五分程静止していた。
…そうか、彼奴等は俺の順位が下がっても友達でいたって事だ!スッキリした。という事は、友人関係において学力は関係ないという事か。いやしかしまず最初に彼奴等と仲良くなったのは偏に学力のためだろう。…もう今日はダメそうだ。本当に頭が回っていない。問題の答えが出ないばっかだ。歯磨きして寝よ。
そう思い立ち彼は終わっていない自主学習ノートを見向きもせず席を立つ。歯磨きから戻ってきてお風呂に入る準備をしている時も。お風呂に入って寝に戻ってきた時も彼はその日、机の上に開かれたままのノート、広げられたままの勉強道具を一瞥もせず寝に入った。ベッドから寝息が聞こえてき始めたとき、彼の部屋の時計は十時四十三分を示していた。