稲葉山城にて…
おはようございます!日向を向く白猫です!
お待たせしました!第6話です!今回は稲葉山城を乗っ取った半兵衛の真意が明らかになります。
後半では猪右衛門こと信幸がゲームの知識を使うかも?やっとって感じですかね笑
では続きをどうぞ!
稲葉山城。周囲を山々に囲まれたこの城は、斎藤家の美濃支配における重要な拠点であり、龍興の祖父で、美濃の蝮と呼ばれた斎藤道三によって整備された城である。稲葉山の緑に囲まれたこの城で、竹中半兵衛こと竹中重治と、西美濃3人衆の内の一人安藤守就は、龍興と信長の動向を探っていた。
「守就さん、龍興様は何か動きましたかね?」
重治は、この事件でどうしようもない君主を立ち上がらせようとしていた。自分にしてきた行いの事は、正直どうでもいい。ただ自分達のいるこの美濃という国の為、そしてそれを治める龍興を諌める為に行動したのであった。傍から見るとただの腹いせにしか見えない。もしかするとただの言い訳なのかもしれない。だが、今自分がいるこの美濃という国を大事に思う気持ちに嘘はない。それを知ってか知らぬかはわからないが、付いてきてくれた仲間がいる。今は下克上の時代で、心の内など見えるはずはない。ただこの国を思う気持ちは、きっと同じだ。それが半兵衛の行動の真意であった。守就が答える。
「まだ龍興様に動きはありませぬ。今朝墨俣の方で城が築かれているのを物見が見つけました。昨日には無かった物で、どうやって1晩で城を築いたかわかりませんが、おそらく織田勢によるものでしょう。」
安藤守就。半兵衛の叔父にあたる彼は西美濃3人衆の1人で、稲葉良通、氏家直元と並び、西美濃における斎藤家の重要な家臣であり、信長の美濃攻略においてこの3人は立ち塞がっていた。斎藤家の古くからの家臣だった彼らだったが、龍興の代になると軽視されていた。半兵衛から城乗っ取りの話を受けた時、古くから斎藤家を見てきた彼にとって断る理由が無かった。もしこの事件がきっかけで龍興が変わればそれでいい、このまま半兵衛が美濃を良くしてくれるならばそれでいい、そんな思いで半兵衛の誘いに乗ったのである。
墨俣における1夜での築城。実際に攻撃した訳では無いが、斎藤家からすると事実上の奇襲である。中美濃、東美濃が攻略され、西美濃に矛を向け、喉元に突き付けられた状態。そんな時に、当主は城から追放、家臣はバラバラ。例え堅守な稲葉山城に天才軍師半兵衛がいるとしても、勢いに乗った織田軍を退けるのは難しい。
「重治、このまま龍興様が動かなかったらいかが致す?」
守就が聞き、半兵衛が答えようとしたちょうどその頃、半兵衛の弟竹中重矩が駆けてきた。
「お兄様!龍興様からの書状です!」
半兵衛は重矩から書状を受け取ると、即座に書状を読んだ。そこあったのは、半兵衛に当てた謝罪の気持ちと龍興自身が思っていた自分の弱さ、そして斎藤家の君主として、美濃の領主としての思いが書き綴られていた。龍興本人は見えないが、書状の文面からは今までの龍興とは違うのがしっかり伝わってくる。半兵衛は自分の行いが遂に龍興を動かしたことを知り、少し歓喜に浸っていた。
そこから数刻経った頃、猪右衛門らは稲葉山の南西に位置する神明宮まで来ていた。稲葉山の麓には、城を追い出された兵士達がおり、城へ入ることは容易ではなかった。長康は、持っていた城周辺の地図を地面に広げると、自分達の位置に落ちていた石を置き話し始めた。
「さて私たちは今この辺りにいるが、見ての通りの有様だ。このままでは半兵衛殿と交渉する前に、騒ぎになって交渉できなくなってしまう。」
いくら信長の1家臣の秀吉の部下とはいえ、1人の知らない男がピリつく兵士の中を行くのは困難であった。かと言って、明らかに不思議な格好をした猪右衛門を向かわせる訳にもいかない。彼らが交渉のために稲葉山城に辿り着くには、敵に見つからずに城門まで辿り着く必要があった。長康が続ける。
「何か良い案がないものか…」
長康は、手を顎に当て考える。同時に猪右衛門と護衛の兵士2人も考える。猪右衛門は、長康の広げた地図を見て、現代でやっていたBoW(Battle of Worlds)を思い出していた。
このBoWには、様々なルールのモードがある。中でもこのBoWの特徴である100名対100名の計200名で行われるコンクエストは最も人気のあるルールである。広いMAP内に10ヶ所の旗が立っており、プレイヤー達は相手プレイヤーと戦闘しつつ、その旗の元へ行き占領ゲージを貯め、拠点を奪取し合うといったルールである。猪右衛門こと信幸は、対人戦闘も優れていたが、いわゆる裏取りという戦法にも長けていた。この裏取りとは、敵と戦闘をすることなく、敵方の奥の拠点を占領、その拠点と味方の拠点で挟み撃ちにして、間にある拠点を攻めるといった戦法である。つまり、裏取りは敵に見つからないことが絶対条件なのだ。まさに今その必要がある。幸いMAPなら長康の地図がある。猪右衛門は、ゲームの知識を現実で試してみることを決めた。
「長康さん、この地図の大外を回って場内に近付ける場所を探してみませんか?」
長康の地図の外側に道らしきものは無い。つまりは道無き道を行こうということだった。最初は嫌がっていた長康だったが、騒ぎを避けるにはこの方法しかないと諦め猪右衛門の話に乗った。太陽は高いところにある。まだ正午になるかならないかという所だった。
長康一行は、山の中森の中を進む。兵士のいない場所を求めて。それは正に山の中を行く猪のようだった。深い山の木々をかき分け、道無き道を行く。歩いたところが道となり、4人の後には、長く狭い道が続いて行くのだった。手がかりになるのは稲葉山城の白い姿ただ1つそれのみ。最初稲葉山の南西に位置する神明宮にいた4人は、稲葉山のちょうど西にたどり着いた頃、ようやく人のいない稲葉山城へと続く森を見つけた。時間はかかったが、太陽はまだ沈んではいない。夕焼け色になりかけの空と大きく見える稲葉山城に少し安堵をしつつ、長康達はまだ広がる森の中を白くそびえ立つ稲葉山城へとかき分けて歩いていった。
空が夕焼け空から夜空へと変わっていく頃、何とか城門まで辿り着いた長康らは、門を叩いた。緊迫しているはずの稲葉山城。城門前で一悶着あってもおかしくない状況である。門番らしき兵士の声が、門の中から聞こえる。
「しばし、待たれよ。」
言われるがままに4人が待っていると、すんなり門は開いた。
「信長さんとこの人達だね。待っていたよ。」
容姿は一言で言うと美少女。その声の主こそがやっとの思いでたどり着いた交渉の相手、竹中半兵衛であった。4人は半兵衛に連れられ、稲葉山城内に入ってゆく。遂に稲葉山城での交渉が始まる。猪右衛門と長康は、期待と不安の入り乱れた複雑な気持ちを胸に抱きつつ、稲葉山城の城内に入っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回こそ遂に半兵衛と長康・猪右衛門の交渉が始まります。生まれ変わった美濃の君主龍興の思いを受け取った半兵衛。秀吉の思いを受け取った長康と猪右衛門。果たして歴史の波は変えられるのでしょうか?それとも歴史の波に呑まれてしまうのでしょうか?この作品の1つの正念場…乞うご期待でお願いします!