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ゲーマーが戦国時代で生き抜くようです  作者: 日向を向く白猫
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墨俣にて…

こんにちは。日向を向く白猫です。ついにここからが本編、タイムスリップ後のお話となります。歴史のタイムスリップ系に欠かせないのは、なんと言っても時代を作ってきた武将達に出会う事でしょう。主人公は様々な人物と出会い、成長し、決断を下していくものです。今回信幸は、とあるキーパーソンと、歴史的場面に立ち会うこととなります。本当の物語はここから始まる…是非ご覧下さい!

あれからどれだけの時間が経っただろうか…信幸は意識を取り戻していた。

横ばいになった体。確かに感じたのは、ステージのひんやりとした感触ではなく、固くてざらざらした土の感触である。少しづつ目を開けると、目の前には森が広がっていた。体を起こし、辺りを見回すとそこに広がっていたのは、美しい自然に囲まれた山の一本道。アスファルトで舗装されているような道ではなく、ただ切り開かれただけの土の道。目を覚ましたばかりで何も考えられなかったが、信幸は何かがおかしいとだけ感じていた。


ゆっくりと体を起こす。何もない山道に1人立ち尽くす信幸。辺りはだんだん暗くなってゆく。これからどうしようか、やっと少し考え出した頃、森の奥で賑やかな声を耳にする。

とにかく誰かの助けが必要だった信幸は、気付いた時にはその声の方向に駆け出していた。幸いFPSで耳が鍛えられていた彼は、なんとなくだがその声の方向が分かった。暗くなりつつある深い森の中をかき分け、ついにその声の集団を見つけた時、信幸は衝撃を受ける。

そこにいたのは着物を着た、何人もの男たち。上半身をはだけさせている者、中にはふんどしに鉢巻なんて者もいる。手には斧を持っており、どうやら木を伐採して、どこかに運んでいるようだった。ここで初めて、自分が異質な世界に来ていることに気付く。どうしようもないこの状況に絶望を感じていると、背後に誰かの気配がした。

「ここで何をしている?」

ゴツン。頭の方で鈍い音がした。信幸はまた意識が遠のく。男が持っていた松明の藁が焼ける匂いをほのかに感じながら…


次に意識が戻った時、信幸はまた土の感触を感じていた。と同時に縄のような物で手足を縛られているのが分かった。声が聞こえる。盃を合わせる、カーンという音も聞こえる。男たちが宴をしているようだ。信幸はまたゆっくりと目を覚ます。

「頭ぁ!目を覚ましやしたぜ!」

耳元で大きな声をあげる者がいた。

夜明け前の薄暗い中に、宴をする男たちを照らす松明の光。信幸は鼻を覆いたくなるほどの、酒の匂いを感じていた。

宴の輪の奥から頭と呼ばれたその男が近付いてくる。髪はぼさぼさ。ちょんまげらしきものを結っている。いかにも賊という風貌に信幸は恐怖を感じた。

「お前はどこの間者だ?」

幸村は何の事かわからなかった。が、本能からか命の危険だけは何となく察していた。

「どこの間者でもない!あなたが一体誰でここの人達が誰かも、何をしてるかも何も分からない!」

髭の男は答えた。

「俺の名前を知らない?とぼけるな!一体どこから来たんだ?」

「未来から来たんだ!だからこの世界のことは知らない!本当だ!信じてくれ!」

今の状況を何とかするには、相手に信じられないであろう話を信じてもらうしか無かった。それも初対面の男にだ。信幸はただ正直に言うことしか出来なかった。

その時だった、それまで様子を見ていた男達の1人が信幸の服装に目をつけた。

「頭ぁ、言われてみればこいつ奇妙な格好をしてますぜ!」

信幸はタイムスリップをした時、大会のチームユニフォームに黒い短パンという格好のままだった。周りの男がみな着物を来ている中で、それはものすごく異質な物であった。辺りが明るくなった事で、男達はその不思議な格好をはっきりと見ることができたのである。

髭の男が口を開く。

「すまねぇな、兄ちゃん。ここんとこ戦が続いててな。少しピリついてんだ。俺は今まで色んな着物を見たが、その着物は確かに見たことがねぇ。ここに何しに来たかはわかんねぇが、どっか知らねぇとこから来たことは信じてやる。」

男の表情が少し柔らかくなる。

「ところで、お前名はなんと言うんだ?」

「信幸と言います。幸せを信じると書いて信幸です。」

「信幸か…いい名前だな。俺の名は蜂須賀小六ってんだ。」

蜂須賀小六。信幸はどこかで聞いた名前だった。歴史好きの父は、よく信幸の前で歴史うんちくを語っていた。その話の中で確かそんな名前を聞いたことがあった。信幸がそんな事を考えていると男は続ける。

「ここいらじゃあちっとは、名の知れてる俺の名を知らないって事はほんとに何も知らねぇみてぇだな。ここで会ったのも何かの縁だ。兄ちゃんどうせ行くとこねぇだろ。俺らと一緒にいてみねぇか?その方がここについても分かるだろ?」

この世界で孤独を感じていた信幸には、とんでもなく嬉しい提案だった。信幸は答えた。

「小六さんありがとうございます。一緒にいさせてください。よろしくお願いします!」

そう彼が答えると、周りの男達が歓喜の声をあげる。

「野郎どもぉ!今日はほんとにめでてぇ日だ!」

小六がそう言うと、周りの男達が一斉に盃を掲げた。

「築城と新入りの信幸に乾杯!」

あちこちで鳴り響くカーンという音。笑顔で駆け寄ってくる男達。その全てが信幸の心を包み込んでいった。


ひと通り収まると、小六は信幸に今の状況を話した。どうやらここは墨俣と呼ばれる場所で、小六らはここに拠点となる城を築いていたらしい。それまではよく見えてなかったが、確かにそこに城があった。話の中で出てきた名前を聞いて、また信幸は衝撃を受ける。

「俺たちは、信長様んとこの秀吉様に仕えてんだ。この日の本をひとつにしようってんだからすげぇよな。」

『信長』『秀吉』この名前は、間違いなく知っている。歴史の授業でよく聞いた、覇王信長と天下人秀吉の名前である。この時やっと信幸は、自分が戦国時代にタイムスリップをした事を自覚した。つまり目の前に見える城、この城こそが秀吉の墨俣一夜城であることに気付いたのだ。事の顛末を知っている信幸は言った。

「日本は絶対にひとつになります。それまで色んな困難がありますけど、必ずひとつになります。だから信じて頑張りましょ。あなたの主君が必ず天下を統一しますから。」

小六は少し戸惑った。なぜなら、天下を統一するのが信長ではなく秀吉であると言われたからである。疑問に思った小六が信幸に問う。

「信長様じゃなく、秀吉様が天下を統一するのか?」

「そうです。最後に天下統一を果たすのは秀吉様です。信長様は本n…」

本能寺の変の話をしようとした時、信幸は自分の周りから空気が奪われたような感覚に陥った。声にならない。自分では話しているつもりだが、耳から自分の声が入ってこない。小六にもそれは聞こえないようで「どうした?」というような顔でこちらを見ている。

何度話をしようとしても、信長の死については話すことが出来ない。もどかしい思いをしながらも、信幸はごまかすしかなかった。

「ともかく、天下を統べるのは秀吉様です。間違いありません。」

「そ、そうか…まぁ秀吉様が天下を取ってくれるなら、その方がいいか。」

小六はそう言うと、大声で笑い手元の酒を飲み干した。信幸は小六の一軍の大将としての器の大きさに助けられたのであった。


遠くから馬が駈ける音がする。その音はだんだんと大きくなっていき、宴の輪に近づいている。馬には手に書状を持った兵士が1人乗っている。小六は兵士から書状を受け取ると、すぐさま書状の紐を解き、バサッと広げた。ひとしきりに読むと、小六は叫んだ。

「野郎どもぉ!宴は終わりだ!秀吉様がお見えになるぞ!」

それまで宴で騒いでいた男たちの態度が一変する。よく訓練された兵士の態度そのものだ。小六の声からほんの数分で宴の後は片付けられていた。信幸は初めて目の当たりにした、その光景に感心していた。

「信幸お前も行くぞ。付いてこい。」

小六に連れられ、完成したばかりの墨俣城に入ってゆく。信幸はこれから起こることへの期待と戦国時代で生き抜くことの不安を抱えながら歩いてゆく。いかにも新築という、木材の匂いをほのかに感じながら。

最後まで読んでいただきありがとうございます!信幸がこの世界で出会った最初の人物…それは蜂須賀小六こと蜂須賀正勝です。この人物多くの作品では元々は野盗の頭領として描かれることが多いのですが、れっきとした武将です。秀吉の墨俣一夜城を語る上で欠かせない人物となっています。一晩で城を完成させたその現場監督といったところですので、その凄さは何となくわかるかと思います。

次回、3話にしてこの物語の最も大事なキーパーソン秀吉の登場です。未来からの転移者信幸と未来を見据える者秀吉。この2人がどう関わっていくのか、ご期待ください!

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