たまにはギルマスらしいことしないとね
「というわけで、やってきました山の上」
「アンジュ様、ルピレス山でございます。お弁当もしっかり詰めてきました」
「うんうん、ルーアは偉いわね。もう遠足気分なんだもの、人間そのくらいの余裕は必要よ。でもギルドでフィムと待っていてもよかったのよ?」
「いいえ、アンジュ様あるところにルーアありです。それとも、お邪魔でしたか?」
そう言うルーアの瞳には涙がコーティングされており、我子はズルい子ね。と、彼女を撫でる。
「まあいいではないですか。拙者がルーア殿には指一本でも触れさせませんよ」
「頼もしいわね内藤、ちなみにか弱いギルドマスターももちろん守ってくれるのよね?」
「え〜アンジュ殿拙者よりも強いも〜ん。攻撃範囲に入って男の尊厳どころか下半身奪われるくらいなら、拙者騎士の誇り捨てる〜」
「はっ倒すぞ。そこは嘘でも全員を守るって言っておきなさい」
「アンジュ殿、嘘は良くないぞ」
「急に真顔になんな、殺すぞ」
あんな凶暴になっちゃいけないでござるよ〜。と、ナイトはルーアを肩車しながら言い、そのまま山道を駆けて行った。
「ったく。で、あんたはなにキョドってんの?」
呆れたようにため息をついた我子だったが、後ろを歩くウルチルに一瞥を投げ、面倒臭そうに尋ねた。
すると彼は鋭い瞳で面々を咎めるように口を開く。
「遊びではないんだぞ。いくらプラチナとゴールドがいようともこれから戦うやつには通用しないかもしれない。それをわかっているのか?」
「あんたシルバー程度でしょ? 内藤がしっかりと辺りを警戒してるのわからない? あんなんでもうちの騎士様はそこそこやるのよ」
拗ねたように口をつぐんだウルチルに我子は盛大にため息をついた。
正直、言うほどの怪物がいるとは思えず、一応フィリアムに彼の証言を元に討伐依頼があるか確認してもらったところ、この山には確かに強力な魔物がいるとのことだが、ゴールドが3人いれば余裕らしく、ギルド協会としてはプラチナがいるこのギルドでは少々役不足では。との見解だった。
「正直ウチは慢心してるけれど、内藤が補ってくれているからそんな肩肘張るもんじゃないわよ。いざという時動きにくくなるわ」
我子はそう言ってウルチルの肩を組み、もう少し気楽に構えておきなさいとアドバイスした。
ウルチルが小さく頷いたのを確認し、我子は彼を連れてナイトたちを追う。
そうしてしばらく歩くと山頂に到達したのだが、そこにはあからさまな剣が刺さった台座とそれを守るように立っている獣のような、おかしな……巨大なゴリラのような魔物が控えていた。
「アンジュ殿」
「どう、倒せる?」
「ええ、あの程度であればアンジュ殿の手を煩わせることことはないかと」
「ウチと同じ見解ね。それがわかる程度なら良いわ、ウチが出る」
「しかし」
「たまにはルーアと戯れてなさい。ツッコミどころも満載だしね」
我子が前に出るとウルチルが焦ったように静止の声を放つ。
「正気か! 一人で倒せる相手じゃない」
「良いから見てなさい田舎暮らしのお坊っちゃん。あんまりプラチナをナメるんじゃないわよ」
ハリセンを取り出した我子はただゆっくりと歩いて魔物へと近づいていく。
そして魔物を正面に捉えた我子はジッと怪物を見つめるとわざとらしく肩をすくませ、大きく息を吸う。
我子の目の前には巨大なゴリラ、互いに攻撃の射程距離に入ると最初に動いたのは魔物だった。
ゴリラが奇声を上げ飛びかかった刹那、我子はハリセンを振り上げる。
「なんでゴリラがドレス着てんねん!」
スパーんっと小気味の良い音が鳴るとゴリラを中心にした世界が割れた。
世界の欠片が魔物に突き刺さり、動きが止まったところで掃除機をかけたような音が鳴ると彼を中心にブラックホールのような空間の歪みが発生し、そのままゴリラが飲み込まれていった。
「はい終了。ツッコミどころ満載で出てくんなっつうの」
頭を掻きながら振り返った我子はルーアのそばまで行くと彼女を撫で、持たせているポシェットから酒瓶を取り出しそれを呷る。
「お見事です。しかしすぐに酒に行くのはいかがなものかと」
「勝利の美酒くらい堪能させなさい。ルーア、お弁当食べましょう」
「はいですアンジュ様」
「せっかく景色も良いしね。ほら、欲しがっていた魔剣よ、さっさと引っこ抜きなさい」
「あ、ああ……」
困惑するウルチルに一言だけ告げ、我子は弁当を開き、遠足モードに移行するのだった。