平和な一幕。
「おはよう……頭いった」
「アンジュ殿、おはようございます」
「アンジュ様ぁ、おはようございますぅ」
自室から下りてきた我子はリビングダイニングに顔を出すのだが、飛び込むように抱きついてきたルーアを受け止めると、頭を抱えてナイトが出してくれた水の入ったコップを呷る。奥のキッチンからわざわざ出てきてくれた2人に礼を言い、エプロン姿のルーアとナイトに朝食は軽めでお願いと告げる。
昨夜ナイトの歓迎会を開いたのだが、ルーアはもちろんのこと、意外にもナイトの家事スキルが高く、出てきた料理に大変満足した。
むしろし過ぎたとも言える。
昨日、我子は初めて酒というものを飲んだ。聞けばこの世界で酒は18才から飲めるらしく、一応今年18になるため試しに飲んでみた。
すると意外にも酒との相性が良かったことと、ルーアとナイトが用意してくれた料理が美味しかったために歯止めが効かなくなり、我子は大量に飲んだ挙げ句潰れたのだった。
「具合はどうですかな? もし必要ならばなにか酒に効く薬でも買ってきますが」
「ああ、ありがとう。でも良いわ、せっかくご飯作ってくれているんでしょう? 邪魔したくないもの。それに」
我子はルーアを抱き上げるとそのままテーブルの椅子に腰を掛け、彼女を膝に乗せると片方の手に持っていた酒の瓶を呷る。
「二日酔いにはこれが一番効くことがわかったわ」
「そんな中年の飲んだくれがやるようなことを。みっともないですぞ」
「姑は間に合っているわよ。早く2人が作ってくれた美味しいご飯が食べたいわ」
ウインクを投げ、2人に甘えたような声をあげる我子に、ナイトは呆れたように頷き、ルーアを連れてキッチンへ引っ込んでいった。
2人がキッチンに行ったのを確認した我子は酒を呷りながら布袋を取り出す。
その布袋は魔法のアイテムで、所謂四次元ポケットとなっている。このアイテムも特典で貰ったものなのだが、今はこのアイテムではなく、中身のことを我子は考えていた。
中からアイテムをいくつか取り出し、それの説明をメモに書き殴っていく。そして先ほどの布袋の元になっている布も特典としてあったために、それでポシェットを作り、その中にアイテムを入れていく。
「こんなものかしらね。今度ルーアには黄色の浴衣と猫耳でもプレゼントしようかしら? 青いと猫耳つけられないものね」
「アンジュ様ぁ?」
「アンジュ殿、食事が……と、作業中でしたか?」
「今終わったわ。ルーア、こっちに来なさい」
首を傾げるルーアがひょこひょこと近寄ってきたために、我子は彼女を一撫ですると先ほどのポシェットを肩からかけた。
「ルーアは常にこれを持っていなさい、この中にある物を使えば大抵の状況はどうにでも出来るから。ああそれと」
ポシェットから先ほどのメモを取り出し、読んでおくように言うと我子はルーアの首に鈴付きのチョーカーを巻いた。
「アンジュ様、これは?」
「鈴の方は迷子になっても大丈夫なアイテムで、チョーカーの方は」
我子はナイトに視線を向けると、彼と一緒に依頼に行くこともあるかもしれないという想定を前置きし、口を開く。
「一種の魔眼殺しよ。それさえつけていれば内藤の魔眼も無効化できるから、一緒にいても問題ないでしょう」
「なんと、そんなものが。いやはやアンジュ殿には毎回驚かされますな。いや、感謝いたします」
我子は彼に適当に返事をするのだが、すぐに両手を上げて伸びをするとお腹が空いたわと2人に言う。
するとルーアとナイトが顔を見合わせた後、微笑んで食事の用意が出来たと我子に手告げるのだった。