騎士みたいな名前よりお前内藤の方がいいって
フィリアムから受けた依頼は街から馬車で1時間ほど行った場所にある地下墳墓で、そこからアンデット型の魔物が溢れてきたから退治してほしいというものだった。
必要ランクはシルバーというゴールドの下のランクで、推奨人数5人以上から10人となっていた。
「ウチの手を煩わせることなくこの依頼を達成しなさい。そうすれば晴れてあんたはギルド員よ」
一行が地下墳墓に赴くと、すでに腐敗臭を撒き散らしている魔物が溢れ出てきており我子は眉を顰める。そしてルーアを抱き上げ、振り落とされないようにくっついているように言い、さらに道中で購入しておいた匂いを変換する魔法がかかっているマスクを彼女にかけてあげる。
「ルーアはとにかく危ないことはしないこと。いいわね?」
「アンジュ様アンジュ様、こうしてくっついていれば危なくないと思います」
「絶対ではないからね、とにかくくっついているようにね」
ルーアを撫で、我子はナイトへと視線を向ける。
「それじゃあ騎士様、ウチは後ろからついていくけれど、よろしくお願いね」
「承知したでござる。拙者の勇姿、とくとご覧ください」
結局その喋り方かと我子は肩を竦ませるのだが、ナイトが動き出したことでその背中についていく。
そしてふと気がつくのだが、元の世界にいた時より、圧倒的に体が軽くなっている。それだけではなく、どれだけ体力を使おうともその体力が減っている気がしない。
これが神殺しのスキルランク特典に書いてあった世界から生命力の配給というものなのかと納得する。
しかしこの体の軽さはなんだと思案していると目の前から腐臭と嫌な気配を感じる。
我子が足を止めると武器一つ持っていないナイトが庇うように前に躍り出た。
「不浄な下僕ども、拙者が成敗してくれる!」
鎧を脱ぎ捨てたナイトが飛び上がり、アンデットの魔物に向かってポーズをとった。
「グローリーオブルミナス!」
彼を見ていた魔物たちが次々と灰に還っていく中、我子はモゾモゾと動くルーアを胸に抱き寄せ、あんまり動かないように言う。
「アンジュ様アンジュ様、ルーアも見たいです」
「ダメよ、教育上まだ早いわ。まったく別に脱ぐ必要なんて……ああいやあるのか、あれをすること自体が儀式になってるのね。ほんと難儀な【魔眼】ね」
「アンジュ様はナイトさんの力についてもう理解されたのですか?」
「ええ、さっき読んだもの。まあありえないとは思うけれど、ルーアはあんまり彼の戦闘域に入っちゃダメよ」
「みゅ? はい、承知しました」
そうしてナイトが次々と魔物を消し飛ばしていくのを我子は見ていたのだが、ずっと見ているだけでは退屈でハリセンを取り出してルーアに当たらないように気を遣いながら素振りを始める。
するとハリセンを見たナイトが肩を跳ねさせたのがわかり、相当なトラウマを植え付けてしまったかと反省する。
そして地下墳墓にいたアンデット型の魔物の気配がほとんどしなくなった辺りで、依頼書に同封されていた何も書かれていなかった白紙を我子は取り出した。
するとその白紙にはいくつもの線が引かれており、ナイトが魔物を倒すたびに線が増えていった。
この紙は特定の魔物を倒すとその数を数えてくれるというもので、今回ナイト一人で313の魔物を倒していた。
我子はさらに別のアイテムを肩からさげていたカバンから取り出すとそれを宙に放る。
するとその球状のアイテムがSF映画もびっくりな展開の仕方をして平べったくなり、そこから光を射出して宙に映像を映し出した。
その映像はこのあたり一帯の生物反応を映し出したもので、アンデットだろうがもちろん反応する。そして映像ではあと十数の魔物しか残っておらず、終わったかと我子はアイテムを仕舞うのだった。
今ナイトが相手にしている魔物が最後かと我子があくびを漏らすとふと背後に気配があり、ハリセンを握ろうとするのだが、ナイトの試験であることを思い出し彼に視線を向けた。
「な――ッ」
しかし彼は驚いたような表情を浮かべ、奥歯を噛み締めたのがわかる。
どうしたものかと我子が思案しようとするとナイトが駆け出してきて、背後にいた魔物と我子――正確にはルーアの間に体を潜り込ませたのだった。
我子はなるほどと喉を鳴らすとハリセンをそのまま下から上に振り上げた。
「ぐっはっ!」
ナイトをふっ飛ばし、その背後にいた魔物をバラバラにした我子は息を吐き、ルーアに依頼が達成したことを告げた。
「わ、終わったです?」
「ええ、この辺りの魔物は全て退治したわ」
「……」
我子が彼に視線を向けるとナイトは顔を伏せ、悔しげに拳を握っていた。
「ぅんぅ? アンジュ様、ナイトさんはどうなさったのですか?」
「うん、まあね。そうね〜……」
ルーアを下ろし、我子は考え込む素振りをした。そして彼女にウインクを投げ、ちょっと聞いてくれると尋ねる。
ルーアは首を傾げていたが、頷いてくれ我子は話し始める。
「ルーアは魔眼って知ってる?」
「はい、魔を宿す瞳です」
「うん、そのまんまね。あれって対象を見るだけで発動することがほとんどなんだけれど、中には自分で制限をつけて使いにくくする人がいるのよ」
「そうなんですか?」
「うん、魔眼の上に別の魔法を重ねることで封じている。で、限定的に魔眼を解除するために重ねた魔法を解かなければならないんだけれど、何をどう思ったのか二度と近づきたくないような儀式を意図的に選んでいる」
「……」
「まったく馬鹿げた話よね、他人に近寄られたくないくせに誰かと共にあることを止められない。力を使うくらいなら進んで自分が傷つこうとする。騎士っていうのはそういう生き方しか出来ないのかしら。いっそ誰かを犠牲にしてみれば良いのに」
「……それは出来ませぬ。この魔眼は目に映る全てを殺してしまう、ですが私にその幼い少女は殺せません」
「そう、その結果武器も持っていないあんたはルーアの盾になるという行動をとったわけね、試験を諦めるわけでもなくただ自分が攻撃を受ければいいと」
「格好つけすぎたでござるな。しかも結果はアンジュ殿の手を煩わせてしまった。これでは、試験も――」
ルーアが見上げてくるが、我子はふっと笑みを浮かべ、彼に紙を放った。
「アンジュ殿?」
「その達成した依頼料で日用品を買っておきなさい。服やらベットやら他に必要な雑貨もね」
呆けるナイトに我子は歯を見せて笑い、あまり女の子を待たせるなと言う。
「あんまり遅くなるとギルド員第一号の歓迎会に間に合わなくなるわよ」
「――」
ナイトのそばに近寄ったルーアが彼の手を引っ張り、懐っこい笑みを浮かべて早く行きましょうと声をかけると彼は大きく息を吸い、口を開いた。
「これから、お世話になります!」
「はいはい、行くわよ内藤」
「ナイトでございます!」
「言いにくいから内藤よ」
我子のギルドにこうして騒がしい男が加わったのだった。
彼の力はチート寄りというより、ほとんどの生物に有効であるため、使い方を誤らないようにしなくてはと我子は思うのだった。