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無双もできるしわりと最強の力なんじゃないでしょうか。

「いや違うのよ、ウチはどちらかというとクラピカよりクロロ派ってだけで、このエンブレムにも他意はないっていうか」



「どなた様ですか? というかアンジュ様、ルーア蜘蛛は嫌です、もっと可愛いエンブレムが良いです」



「え、そう? じゃあもっと柔らかい感じで」



 と、我子とルーア、2人で紙を広げてエンブレムについて話し合っていた。



 この世界に来て一日が経ち、我子はルーアが淹れてくれたコーヒーに近い風味の何かよくわからない植物から抽出された液体を喉に流し込みながら、のんびりとしていた。



 昨日、拠点となるこの場所に案内された時、我子は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 何故ならこの街――大地と空と海の街·ウィンチェスターと呼ばれるこの街の中心部から少し離れた場所に拠点はあるのだが、東京の高級住宅街でしか見たことのないような屋敷とも言える母屋に、大きな庭には花壇があり、さらに異世界から来たということを配慮してくれたのか、お風呂はルーアが見たこともないような形式だと話していたが、我子にとっては一般的な形式のお風呂で、その日のうちにルーアと2人一緒に入った。

 そんなこともあり、あの神様の老人には悪いことをしてしまったと庭の外れに適当な木の棒を挿し、毎日お祈りをすると我子は決めた。



 そんなことを我子が考えていると玄関の方からごめんくださいと声が聞こえてきた。



「アンジュ様、多分昨日のフィリアムさんです。聞いたことある声です」



「そうね。それじゃあルーア、彼女をこっちに案内するからお茶の用意を頼んでもいいかしら?」



「はい! お任せください。あのぅ……」



「スタンプは後でね」



「はいです」



 咲いたような笑顔でパタパタと忙しなく駆け出したルーアに、我子は微笑み、玄関まで足を進ませる。

 基本的にルーアは働き者で、頼られるととても喜ぶ。

 この世界の住人らしいのだが、神様から啓示を授かり、こうして世話を焼いてくれているらしいのだが、我子は彼女を別に自分に縛り付けたいとは思っておらず、できる限りルーアの意思を聞くようにしている。

 そしてあのスタンプなのだが、1日一回ご褒美として押すことができ、数に応じて神様から何か特典が出るらしいのだが、その神様もおらず一体どうなるのだろうと正直彼女には謝りたい気持ちも我子にはあった。



「あ、アンジュさん、おはようございます」



「おはようフィリアム、それじゃあ中に……ってそちらは?」



 玄関でフィリアムを迎えると彼女の隣には大きな袋を2つ担いだ男性がおり、我子は首を傾げて彼について尋ねた。



「ああ彼は――」



「俺はナイト=ヴァイス、あなたが昨日出来たギルドのギルドマスター殿か?」



「え、ええそうだけれど」



 フィリアムに視線を向けると彼女が困り顔を浮かべており、この男が無茶を言ったのだろうと我子は察した。

 すると奥で準備していたルーアが玄関までパタパタとやってきて、我子に「とりあえず奥に案内したらどうです?」と、耳打ちをした。



 我子は2人をとりあえず一番綺麗な部屋、窓寄りに高そうな大きな机と椅子、その机から少し離したところにソファーと低いテーブルがあり、そこに座るよう2人に促す。



「ごめんなさいね、まだこの屋敷に来たばかりだから掃除の方もままならなくて、この部屋くらいしか使えそうな場所がなくて」



「いえいえ、十分立派な部屋だと思います。というかアンジュさん実はすごい人なんでしょう? この屋敷だって普通、アンジュさんくらいの年の人じゃ絶対に買えないと思いますもん。ってあたしアンジュさんと年が近いと思って話を進めちゃってますけれど、そのくらいですよね?」



「あなたの年がいくつかわからないけれど、一応18よ」



 まだ18になっていないが、今年その年齢になるから良いかと我子はフィリアムに話した。

 すると彼女は驚いたように目を見開いた。



「え、年下だったんですか? あたし19です。スタイルも見た目も大人っぽくて良いなぁ」



 フィリアムから羨望の眼差しを受けた我子だったが、その手の視線には慣れており、微笑みを返した。

 しかしルーアは当然だが、フィリアムも少し子どもっぽく、我子的にはこういう子どもっぽい性格の人間は放っておけず、出来れば仲良くしたいと考えていた。

 そしてそんな子どもっぽい性格に惹かれるのは幼馴染のせいだろうと息を吐いた。



「と、まあ雑談はまた後でね。それでフィリアム、ウチはまずギルドのことを聞いたほうがいいのかしら? それともそこの、ナイトさんだっけ? 彼について聞いたほうが良いのかしら?」



「ああ、彼はその――」



「アンジュ殿はここ50年現れることのなかったプラチナランクの冒険者と聞きました」



 フィリアムの言葉を遮り、ナイトが声を上げる。

 そして我子にある紙を突きつけ、これは本当かと確認した。



「あ? ああこれ、あなたがそうなの?」



「然り。そのちーとという言葉の意味はわからぬが、強力な力を持っている」



「ふ〜ん」



 我子は頬杖を突くとナイトが持ってきた書類を見た。

 そこには昨日、我子がフィリアムに出したギルド員募集の条件を纏めてくれた案内で、そこに書かれていたのはギルドの拠点と目的、活動内容とギルドマスターの冒険者ランクであり、そして求めるギルド員の欄には3つの条件が書かれていた。



一、チート能力者(すごい力を持った方とのことです)



ニ、復讐を企てている者



三、我こそは性格の良いと言い切れる金持ちのお嬢様



 フィリアムには募集の条件がよくわかっていなかったようだが、我子にはこの条件に希望を見出していた。

 うちは詳しいんだ。と、異世界で最も強いのはこの三種類でそれを仲間に引き入れればあとは楽できると、我子は雑なプランを持っていた。



「まあついでに面接しちゃいましょうか? フィリアムも困っているみたいだし」



「い、いえ、ただその、ナイトさんも一応冒険者ランクがプラチナの下のゴールドなので、扱いがその」



「やっぱり困っているんじゃないの。あんまり女の子を困らせるんじゃないわよ、ただでさえうちはウチとルーアの2人とも女の子なんだから、扱いには気を遣ってくれる人じゃないと嫌よ」



「心得ております。私、元々騎士をやっておりましたので、女性はもちろんですが男性でも力なきものには細心の注意を払っております」



 すると彼がルーアとフィリアムを我子のそばに行くように言い、持っていた袋を掴んだ。



 ゴールドランクの冒険者かと我子は呆けた頭でそれについて思案した。

 プラチナの一つ下ということは相当な実力を持った人間ということになる。しかも彼いわくチート能力を持っているということで期待が持てる。

 しかも騎士ということは人間的にも優れていると想像できる。



 勝ったな。我子はこの異世界での生活をすでに余裕で乗り切った気で彼に力を見せてほしいと促す。



 彼は袋からゴソゴソと蠢いている何かを取り出し、それをその場に放り投げた。



 魔物、我子はすぐに気が付き、体に力を込めると左手にはハリセンが握られていた。



 しかしナイトが大丈夫だと声を上げ、その唸り声をあげているヘドロのような色合いと見た目で、目がついている魔物をジッと見つめた。そして次の瞬間、彼は魔物に飛びかかり――。



「これこそが我が真髄にして奥義、『光射止めるのはその心 (グローリーオブルミナス)』!」



 着ている服を全て取っ払い全裸になってポーズを決めた。



「……」



 我子がルーアとフィリアムを抱きしめて視線を彼に向けないように言っていると、放り出された魔物の目がハートマークになり、その直後魔物が泡を口から吐き出した。



「相手は死ぬ!」



 泡を吐き出した魔物が確かに絶命しているのだが、我子は笑顔のままナイトに近づいていき、彼の目の前で足を止めた。



「どうですかなアンジュ殿――」



「ふんっ!」



 我子は左手でナイトの頬にビンタをかます。

 スパーンっと小気味のいい音が響いたのだが、ナイトはまるで、親父にもぶたれたことないのに。みたいな顔を我子に向けた。



 しかし彼はははーんと何か納得したように頷き、もう一つの袋からもう一体魔物を取り出した。



「さてはアンジュ殿、この力が女性にしか効かないと思っているのですね。その心配はございません」



 ナイトは取り出した魔物に飛びかかり、先ほどとは違うポーズを決める。



「グローリーオブルミナス!」



 袋から出た魔物はナイトのその姿を目に入れた瞬間、目を覆いだし、そのまま灰になって燃え尽きた。



「相手は死ぬ――」



「ふんっ!」



 我子は再度ナイトにビンタをし、小気味の良い音を鳴らした。



「な、何故ですかアンジュ殿!」



「はい、お帰りはあちらになります」



「何故ぇ! はっ、なるほどそういうことですか。このナイト、今理解しましたぞ。この力は確かに強力です、しかしそれが格上の相手にも通用するのか。そういうことですねアンジュ殿!」



 ナイトは我子を瞳に捉え、ならば刮目せよと言う。



「アンジュ殿ほどの冒険者、死ぬことはないと思いますが、無傷ではいられまい。我が力、今こそ全開に! グローリーオブルミナス!」



 我子に向かってポーズを取るナイト。

 両足を広げ、片方の手で太陽も見えないのに目を覆い顔の角度は頭上斜め上、表情は目を細め、真っ白な歯をキランと見せつける。そんなポーズをとった。



「相手は死ぬ!」



 しかしその空間は静寂が支配し、我子にも何も起こらない。

 それどころか彼女はハリセンを手にナイトに近づき、持っているハリセンを手首のスナップをきかせてクルクルと回し、彼の真ん前に立つ。そしてまるで野球選手のバッターのような持ち方でハリセンを持ち、大きく口を開く。



「少しは恥じろ!」



「ふぅんぬっ!」



 その一撃はナイトの股間へと放たれ、紙で出来ているとは思えないほどの大きな音とエフェクト、彼のたまにハリセンが触れた瞬間、一瞬景色が歪み、そこにあったものが消え失せてゴーっと吸い込むような音がし、ナイトはその場に倒れ伏した。



「あ、二人とももう顔を上げていいわよ。えっととりあえずゴミ掃除はあとでウチがしておくからとりあえず食事ができる場所にでも行きましょう。フィリアムもそこで説明してくれればいいわ」



「え、ええ」



「アンジュ様アンジュ様、あの方は――」



「ルーア、あそこにあるのはゴミよ、ウチが掃除しておくから気にしないの。さあ行きましょう」



 我子はルーアとフィリアムを連れ、屋敷から急ぎ足で出ていくのだった。

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