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恐喝? 詐欺? いいえ本心です。ではみなさま救われましょう。

「さってとりあえず」



 胸に顔を埋めていたルウを体から離した我子は辺りを見渡す。

 すると予定通り一体の夢魔が生き残っており、彼女に近づいて行く。



「ひっ」



「そんなに怯えられると傷つくじゃない。とりあえず死にたくないならウチの言うことを聞きなさい」



 コクコクと頷く夢魔に、いい子ねと我子は微笑むと彼女の片方しかない小さな羽根を指差す。



「あんた夢魔の中でも規格外でしょう? 他の奴があんたを盾にしたり、どことなく距離を取ったりしていたのが見えたんだけれど、間違いないわよね?」



 頷く夢魔の頭を撫でると、我子は思案顔を浮かべる。



「あんた、ウチの物になりなさい。それとさっきも戦ったからその時に調べたんだけれど、あんたたち夢魔には生命力を増加させる秘薬があるわね? それのレシピを提供しなさい」



 呆けた顔を我子に向けていた夢魔だったが、未だに不安が拭えないのか顔を伏せた。

 しかしそんな彼女に我子は微笑みを向け、出来るだけ優しく語りかける。



「あなた名前は?」



「……ミリア」



 ミリアと名乗った彼女は、碧眼のたれ目で、口元を常にすぼめている小動物のような雰囲気で、他の夢魔と違い、昭和らしい恰好ではなくヨレヨレのTシャツ一枚で、それを引っ張って下半身を隠していた。

 他の夢魔よりよっぽど色っぽいなと我子は思いつつ、外ハネしているボブの髪型に指を通した。



「そう、ミリアね。ねえミリア、あなた今のままじゃきっと、上位の魔族としても人間サイドからも追われることになるわ。やらかしたことがやらかしたことだからね。けれどあなたはきっとそれに関わっていない。いいえ、関わらせてもらっていない。それならばウチはあなたを許してあげるわ。けれどそうなるとどうしてもウチの側についたという証明が欲しいの。そうすればあなたの身の安全、それと今までにはなかった生活を提供してあげるわ」



「……」



「じゃあこうしましょう」



 我子はミリアの頬を両手で優しく持ち上げると、どこかの女神を彷彿とさせるような、そんな神話の一幕のような笑みを浮かべる。



「ミリア、あなたはこれからウチの、私のために生きるの。あなたの人生はきっとまだ始まってすらいなかった。だから私がその機会を作ってあげる。もう怯えなくてもいいの、もう悲しまなくてもいいの。私が、あなたに生きるきっかけを作ってあげるわ。だからほら、この手を取って、その可愛らしい顔、笑顔をを見せてちょうだい」



 顔を赤らめたミリアが恥ずかしそうに顔を伏せるのだが、我子は彼女の顎を持ち、ほらと声を掛けると、決心したらしいミリアがうんと頷いた。



「いい子ね、これからはウチのために在りなさい。そうすればきっと幸せになれるわよ」



 満足げに彼女から手を離す我子だったが、ミリアに袖を掴まれてしまい、首を傾げる。



「はい、お姉さま」


「ん?」



 どこか恍惚な表情を浮かべるミリアに、我子は脂汗を流す。

 あれやっちまったかと、多少の後悔を抱いているとそれは横から伸びてきた手によって意識を別のところに向けざるを得なくなる。



「む~……」



 ルーアがミリアと対峙しており、険悪な雰囲気ではないもののどこかハムスター同士の喧嘩を彷彿とさせる光景に我子は頬を緩ませた。



 そして2人の面倒をフィリアムに任せると、そのままルウの傍による。



「で、あんたはどうしたのよ?」



「……女たらし」



「失礼なことを言う子ね、ウチはウチのやれることをやっているだけよ。けれどあんたは違うわ、出来ることとそれしかやってこなかったことを一緒くたにしている。人間で生きていればなんでも出来る? それを否定してんのはあんたでしょうが」



「私は、この力でしか生きていませんでしたわ。それは私の人生を否定することになるのですけれど、少しは心が痛まないんですの?」



「痛むわけないでしょうが。それは間違っているんだもの、間違いを指摘されるだけ有り難いと思いなさい。それともあんたの周りにはそれが正しいとでも言われた? 全員ブッ飛ばしてやりなさいよ」



「本当、強いギルドマスターですわね、羨ましいですわ」



「良かったわね、うちのギルドに入ればあんたもそうなれるかもしれないわよ」



 クスクスと上品に笑うルウの頭に我子は手を置き、酒瓶を取り出した。

 そしてルーアたちに目をやり、あんたにも守ってもらう光景よ。と、伝える。



「この光景が自分のためになったのなら、あんたは立派なうちの子よ。それでどう? うちのギルドに入る?」



 ルウが肩を竦めて笑うと我子から酒瓶を奪い取り、それを呷る。そして清々しい表情を浮かべながらウインクを一度し、口を開いた。



「ええ、お世話になりますわアンジュさん、私――ルウゲンシュタイン=ツヴェルフ・ミュートスはあなたのために、このギルドのために在ることを誓いますわ」



「そう。さって、それじゃあ帰りますか」



 あっさりと返事をした我子に頬を膨らませるルウだったが、そんな彼女に我子は振り返り、好戦的に笑う。



「内海、頭撫でてほしい時は言いなさい。せっかく綺麗にしているんだもの。誰かに見せびらかさなきゃもったいないわ」



「誰ですのそれは……」



「あんたのことよ。ああそれと、ウチのためになんて言うな。あんたがあんたのために想ってくれたんならきっとこのギルドは、もっと楽しくなるわよ」



 ルーアとフィリアム、ミリアのもとに歩んでいった我子を見ながらルウは呆れたように肩を落とす。

 しかし彼女はすぐに勝気な表情を浮かべ、我子の後に続くのだった。

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