ちびっ子給仕登場。
燦々と輝く太陽、瑞々しいほどに青々しい緑の香りが風に乗って鼻をくすぐる。
現代社会ではなくなってしまったような、そんな自然の当たり前の姿が残る街の中、我子はがっくりと膝をついて項垂れ、ネットでよく使われている『orz』のアスキーアートのように人の目もはばからず落ち込んでいた。
「いやいやいや、アカンでしょ。さっきウチなんのスキル入手したって?」
体勢はそのままに我子は小声でステータス表示、と口にしてみる。
しかし何も出てこず首を傾げていると、にゅっと先ほどのように効果音がし、改めて神殺しのスキルを表示した。
そこにはスキルの説明がされており、我子は読んでみる。
『神殺し――スキルランクS++
このスキルは倒した敵の格によりランクが変動する可変スキルであり、BランクからSランクまでの幅がある。
スキルランクS++ 最も上位にいる神を殺すことで得られる最上位の神殺し。このスキルは本来ならば入手することは叶わないものであるが、世界の理から外れている者に関してはその限りではない。
スキル効果 神に対して強力な力を発揮する。(神特攻 攻撃が効く)
ランク効果 最高神をも殺す力によりあらゆる状態異常の無効、世界から魔力の配給、世界から生命力の配給、少しでも神格のある相手を圧倒できる。信仰を集めることができる――』
我子はそこまで読んで頭を抱える。
「やっちまった……」
我子の頭には今、後悔しかない。
あれだけ自分のために尽くしてくれた神様をまさか殺してしまうとは思ってもいなかった。
そもそも何故神が死ぬのかと文句を口に出そうとしたが、それをぐっと堪えこれからどうしようかと途方に暮れるのだった。
そんな風に我子が体を震わせていると、彼女の肩に伸びる小さな手が一つ。
「もし? もしやアンジュ様ではないですか?」
「え、ええ、ウチは我子だけれど」
我子は顔を上げ、その声の主を見るのだが、そこには紺色の生地に金魚が描かれた浴衣に身を包んだ黒髪サイドポニーの美少女がいた。
「え、浴衣? なんで?」
「この格好ならばアンジュ様がわかりやすいとの伝を受けましたので、わたくししっかりと着ていました、褒めてください」
ピコっとアホ毛が左右に揺れ、浴衣の少女は我子に頭を差し向けた。
我子は状況が理解できていないが彼女の頭に手を伸ばし、ゆっくりと撫でてあげると肩をすくませる。
「アンジュ様、アンジュ様、ハンコ、ハンコ押してください」
「あ〜はいはい」
少女が取り出したカードとスタンプに判を押すと我子は少女の目線まで屈む。そして質問いいかなと優しく問いかける。
「なんですかぁアンジュ様?」
「えっと、あなたは誰?」
ポカンとした少女が首を傾げ、自身を指差したと思うとすぐに顔を伏せ、瞳いっぱいに涙を溜め始めた。
「ええぇっ! ちょ、ちょっとあなた、なんで泣いてるのよ」
「だ、だってアンジュ様、ルーアのこと知らないって」
「初対面なんだから知るわけないでしょう。ああもう、ほら泣き止みなさいよ。お菓子食べる? 確かポケットに飴が」
我子はポケットにいつも入れているいちごミルクのキャンディを少女に手渡すと近くに寄せて何度も撫でる。
すると彼女は落ち着いたのか、幸せそうに飴玉を口の中で転がし、上機嫌にぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「それで、あなたは誰なの?」
「……む〜、アンジュ様、上で何も聞いてなかったんですか?」
「上?」
そこで我子は察した。
この子は神様が用意してくれた特典の一つなのではないかと。
「あ〜ごめん、ウチ説明を聞く前にこっちに来ちゃったから」
「アンジュ様はせっかち様なのですね」
少女が鼻を鳴らして胸を張ると両腕を広げ、抱っこ。を要求するポーズをしたために我子は彼女を持ち上げ、そのまま歩き出す。
ここにいつまでもいても視線が痛いだけでいいことはなく、それならば移動しながら説明を受けようと考えた。
「ウチの名前は知っていると思うけれど一応、琴吹 我子よ」
「はいアンジュ様、よく知っております。わたくしはルーア、ルーア=ミスティアと名付けられました」
「ルーア、ルーアね。それでルーア、あなたはどうしてウチを探していたの?」
「わたくしは神様にアンジュ様の身の回りのお世話を任されました。だからなんでもおっしゃってくださいね」
懐っこくそう言ったルーアを撫で、我子はそれなら。と、とりあえず拠点になりそうな場所に案内してほしいと言う。
するとルーアが考え込むような動作をし我子の制服を引っ張る。
「ん、どうかした?」
「アンジュ様アンジュ様、そこにご案内するのは良いのですが、まず聞いておきたいことがあります」
「なに?」
「アンジュ様はこの世界で何を成したいのですか? わたくしは神様にアンジュ様が新しい人生を歩むための手伝いを。としか言われておりません。ですから何に案内をするのか、どんな情報を与えればいいのか、それがわからないのです。ですがアンジュ様のやりたいことでわたくしがするべきことも出てくるはずなのです」
「あ〜なるほど。ウチが何をしたいのかわからないと案内もできないか。う〜ん、ねえルーア、例えばこの世界だと何ができるの?」
「そうですね……例えばモンスターを討伐したり、モンスターや特定の場所で得られるアイテムを入手したりする冒険者、他にはアイテムを調合、組み合わせるなどして店を持つ、いっそ賊になって街を脅かす、王様をぶっ飛ばして国を乗っ取るとか」
「物騒なこと言わんの。まあけれど冒険者に店か、ちょっと憧れるわね」
「複数ですか、それならギルド登録をわたくしはオススメします。ギルドを作ってしまえば色々と勝手が利きますし、有名になればきっとアンジュ様のためにもなります」
「それじゃあそうしましょう。まずはどこに行けばいいのかしら?」
「ギルド管理協会ですね。では案内はわたくし、ルーア=ミスティアが」
抱っこされながら案内するのかと我子は苦笑いを浮かべるのだが、すでにやる気満々な彼女の勢いを止めるわけにも行かないとよろしくとお願いするのだった。