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浪漫紀行たまや編

「さて、道中は何も聞かなかったけれど、こんな夜中にか弱い乙女を連れてこさせるなんて大事よ。これで何もなかったらその縦ロール引きちぎるからね」



「か弱い乙女に髪を引き千切るほどの力があるとは思えませんの」



「残念、今どきの女は男の尊厳も引き抜けるわよ」



 馬車を走らせて幾ばくか。辿り着いたのは洋館で、真っ暗な夜の帳に不自然なほど華やかに明かりが灯っていた。

 面々はその洋館を見上げるのだが、ルーアとフィリアムに背中にくっつかれてしまい、我子は動きにくいと思いながら、首を横に振っていたフィリアムを横目にハリセンを取り出した。

 そして一歩を踏み出そうとしたがすぐに振り返り、ルウに目をやる。



「そういえばあんた、何が出来るのよ」



「人間、生きていれば何でもできますわ」



「そういうことを聞いているんじゃなくて……」



 しかしルウの目はそれが全てだと言わんばかりのもので、我子はそれ以上何も聞けなかった。

 しかしある予想があり、正直当たっていてほしくはないが、このルウという女性がどのような人生を歩んでいたかに思考を馳せるのを止め、ルーアのポシェットからアイテムを取り出す。



「ルウ、これ付けておきなさい」



「はい? 私がですの?」



「良いから。ただそれを使うことになったら一応覚悟しておきなさい」



「いえ、覚悟ってなんなのかわからないのですが――あ、そっちは」



 ルウの頭にリボンを巻いた我子は後ろ手で彼女に手を振るのだが、そのルウが静止の声を発したことに気が付いたものの、特に良いだろうと足を一歩踏み出した瞬間、床が開いた。



「へ――」



 素っ頓狂な声を我子は上げるのだがすでに遅く。重力よろしく真っ逆さまに落下を始める。



「今どき芸人ですら落とし穴なんて使わないわよぉ!」



 穴に落ちた瞬間、ルーアが飛び込んできたことを目にとどめていた我子は壁を蹴り、落下しているルーアを抱えて大きく口を開く。



「ルウ! フィムのこと任せたわよ!」



 それだけ言い、我子は下層まで降りた。

 そして小部屋に落とされたことは辺りを見れば明白で、ご丁寧に扉まで設置されていた。

 しかし我子はまずしなければならないことがあり、腕の中で強く抱きついているルーアの顔を上げさせた。



「駄目じゃないあの状況で落ちてきたら。ウチは一人でも大丈夫なんだから、ルーアは待機していなくちゃ」



 だがルーアは涙目で首を横にフルフル振るだけで、それだけは聞き入れることができないと決意を込めて言葉にした。



「ルーアは、ルーアはアンジュ様といかなる時でも一緒です。駄目ですかぁ?」



「もう、そんな顔をしておねだりされたら叱るに叱れないじゃない。本当、ルーアは可愛いわね」



 ルーアの頬や首、背中を撫でながら我子は苦笑いを浮かべる。

 しかし多少厳しい顔になり、危ないことはしないと約束はしてと言う。



「今回はウチも悪かったからこれ以上は言わないわ。けれど、ルーアがウチのことを大事に思ってくれているように、ウチもルーアが、みんなが大事なの。だからウチのために傷つこうとはしない。いい?」



「……はいです、約束します。でもルーアはアンジュ様と一緒にいたいですよぅ」



「ええわかってるわ。ウチも出来るだけルーアと一緒にいられるように考えておくから」



 満面の笑顔で頷いたルーアを撫で、我子は空いた腕を伸ばして関節を鳴らし、扉の先にいるいくつもの気配に、殺気を放つ。



 すると腕の中でゴソゴソしだしたルーアに我子はくすぐったいわと伝える。



「アンジュ様アンジュ様! ルーアもたまには役に立ちますよ!」



 ポシェットからアイテムを取り出し、戦う気満々の彼女に我子は呆れる。

 しかしどうにもやる気らしく、何かあってもフォローしようと心に決めて彼女を床に下ろした。



 その瞬間、扉を蹴破って顔が真っ青な人型の何かが飛び込んできた。



 我子はルーアを抱えて飛ぼうとするのだが、彼女が取り出したアイテムを見て顔を青ざめる。



「どっかん! です」



 筒状のアイテムをセットし、紐を引っ張ったルーアを我子はすぐにそのアイテムから引き離し、ポシェットから別のアイテムを取り出す。



 その刹那、筒状のアイテム――プロトハナビクン一号が文字通り火を吹いた。

 ルーアに持たせているアイテムは基本的に神から貰ったアイテムを分解し、我子考案でマジックアイテム専門の職人に新しい形として生まれ変わらせてもので、所謂ロマン特化のアイテムとなっている。



 そしてたった今ルーアが使ったプロトハナビクン一号なのだが、この世界に花火がないと聞いた我子がそれならとなんとなくで作らせた物。だったのだが、職人が何をどう勘違いしたのか、推定人数シルバー20人ほどで討伐する大型魔物を屠れるほどの波動砲を完成させた。



 これは危ないと我子は物置の奥に仕舞っていたのだが、ルーアが見つけて持ってきてしまっていたらしいと、目を白黒させて呆けている彼女の頭を撫で、消し炭となっている魔物たち面々に目を落とすのだった。

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