いざゆかん。
「……初めてですわよ、私にここまで恥をかかせた人間は」
「なに、あんたも金色になるの?」
「なりませんわよ、冒険者のライセンスを取得したところで私ではシルバーがいいところですわ」
「ふ〜ん」
ルウを床に埋めた後、ナイトを自室に戻した我子がリビングに戻ってくるとそこには優雅にルーアが淹れた茶を飲んでいるルウの姿があった。
「まあいいわ。それであんたはここのギルドに入った上でウチに協力するの? それともそれを取り消して改めて依頼でもする?」
「いいえ、このギルドが気に入りましたわ。引っ叩いたことにかんしては不問にしてあげますわ。ここに私がいることを光栄に――」
「もう一度地の中で眠りたいようね? このギルドはまだあんたの栄光は一欠片もないわ。威光を広めたいのならしっかり働きなさい」
「先ほどの激高していた人の言葉とは思えませんわね。私、本当に殺されるかと思いましたわよ」
「その割には落ち着いていたわね。それと気になったんだけれど、随分と怪我の治りが早いようね」
ルウはどこか妖艶な笑みを浮かべて、さすがと呟いた。
「プラチナランクは伊達ではありませんのね、目の付け所が違いますわ」
そう言って茶を口に運ぶルウがそれ以上言葉を発しないことに我子は呆れつつ、ルーアに紙とペンを持ってくるように言う。
そしてウルチルを手招くと改めてルウに向き直る。
「なんだ?」
「ちょっとそこにいなさい。それでルウ、協力出来るというのはこの病の真相がわかっているということ?」
「せっかちですわね、もう少しその可愛らしい方のお茶を味わっていたいのですわ」
我子は考え込むと、ルーアが持ってきた紙にペンを走らせ、いくつか材料や必要なものを書いていく。
そしてそれをウルチルに見せると買ってくるように言う。
「ウル、あんたは今日留守番していなさい。買い物も必要最低限だけ」
「何故だ?」
「男にしか発症しない病が出回っているのよ? その原因を探りに行くのに、あんたを連れていけるわけないでしょう。今日は留守番をして、ナイトの面倒を見てやって」
渋々と頷くウルチルの頭を我子は撫で、ルーアに茶のおかわりをして一息つく。
するとそれを見ていたフィリアムが首を傾げた。
「アンジュちゃん、急がなくていいの?」
「そこのお嬢様が急がなくていいと言ったのよ、それならそれに従いましょう」
「でも……」
我子は不安そうにしているルーアとフィリアムを交互に撫でる。
「焦る気持ちはわかるけれどね、きっと今行っても何もないんだと思うわ。そうでしょうルウ」
「流石ですわ。あれらは夜でないと活動しませんわ」
「だそうよ。だからこの間にルーアと……フィムも行きましょうか?」
「ええっ、あたしも? でもあたし何も出来ないよ?」
「戦闘を頼むわけじゃないわ。場合によってはってだけ。それでどうする?」
考え込んだフィリアムだったが、すぐに頷き一緒に行くと決めた。
我子は彼女に礼を言うと、ルーアに持たせているいくつかのアイテムを取り出し、それをルーア、フィリアム、ルウに見せる。
しかしふと、釈然としていないウルチルに我子はデコピンをする。
「夜まで準備をするのなら僕が買い物行く必要はないんじゃないか? いつもみたいにルーアに行ってもらえばいいだろう」
我子はアイテムを一つ持ち上げ、それをウルチルの腕に巻く。
「なんだこれは?」
「状態異常無効のブレスレットよ。良いウル? ウチがあんたに買い物に行かせるのは調査してもらいたいから。最近あんたとナイトはよく一緒にいるでしょう? だから病気の出処を探してほしいのよ」
「ん? そこの新入りと解決するんだろう? それなら調査なんて」
「必要よ。これが作為的なものだろうがなんだろうが、情報を持っていれば先に動ける。ウチたちはギルドよ、そんな匂いのすることをみすみす逃せないわ」
話を聞いていたルウが感心したように息を漏らした。
「武勲でのみそこにいるわけではないんですのね。ということはそちらの方が商売の要ということですわね」
「そういうこと。それじゃあ準備するわよ」
頷く面々に我子は微笑み、行動を始めるのだった。




