あんた調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?
「あなたは……?」
突然現れた金髪縦ロールの少女を訝しむ我子はジッと彼女を見つめる。
金髪で縦ロール、さらにはドレスを着ている明らかに金持ちの風貌で、雰囲気や立ち振る舞いもどこか気品があった。
見た目についてだが、小学生5年生の平均身長ほどのルーアよりは大きく、160ちょっとのフィリアムよりは小さい。
燃えるような鮮やかな真紅の瞳を携え、滑らかな肌、健康そうなほどよく肉付きのある四肢にルーアとフィリアムより胸がある。
見た目の情報としてはそのくらいだったが、我子は彼女を知らない。
これだけ目立つ見た目をしていれば多少の噂は立っているはずだが、そんな話もなく完全な初対面。
だが彼女は近頃流行っている病を知っており、それについて協力できると言った。
我子は彼女に近づくと手を差し出し、自己紹介をする。
「我子よ、あなたは?」
「あら、冒険者たちのギルドって言うからもっと不躾なのかと思っていましたが、意外と躾がなっていますのね。私はルウゲンシュタイン=ツヴェルフ・ミュートス。ルウと呼ぶことを許しますわ」
「そう、なら遠慮なく。それでルウ、あなたは今、流行の病について協力が出来ると言ったわね? それは善意でウチたちに声を掛けてくれたのかしら? それとも依頼をこのギルドに持ってきたのかしら? まずはそこを聞きたいわ」
ルーアが淹れてくれた茶に礼を言い、彼女――ルウに我子は尋ねる。
しかしどうにも値踏みするような彼女の視線に我子は我慢していた。正直不快でならなく、出来ることならばぶん殴りたい。しかしそんな気持ちを押さえ込み、あくまでも冷静に対応する。
するとクスりと声を漏らしたルウが一度微笑んだのだが、すぐに口角を上げ一瞬だけだが悪人のような顔を浮かべてルーアが淹れた茶を口に運んだ。
そして彼女は嫌悪の顔を隠しもせずに手に持ったカップを傾け、茶を床にぶちまけた。
「躾はなっているかもしれませんが、随分と安っぽい茶を客に出しますのね。それとも……」
ルウはそう言って驚きカップを片づけようとするルーアに視線を向けた。
「淹れた人間の身分の臭いでも移ったんですのね」
「――ッ!」
その刹那、まさに弾薬が弾けるような勢いで我子が飛び出した。
テーブルを吹き飛ばし、まるで陽炎のようにゆらゆらとした蒸気がハリセンの背後で形作っていき、斧のような形を形成してそのままルウへと振りかざす。
しかしそれが届くことがなく、金色にまで姿を変えたウルチルが歯を食いしばり、ハリセンを受け止めた。
「ば、……っかやろう。ナイトのおっさんがいないのに、僕にお前を止め、させるな!」
ギチギチと歯を鳴らすウルチルの正面で、我子は右手の骨を何度も鳴らし、据わった光のない瞳でルウを見下ろし、まるでケダモノのような圧を発していた。
しかし当のルウは涼しい顔で、脚を組んで挑発的な表情を浮かべた。
そして彼女は辺りを見渡し、あからさまなため息を吐く。
「プラチナのギルドだというから期待していたんですのよ私、それがこの程度とは本当にがっかりですわ」
「あんたも一々挑発を――」
「くすんだ銀色には興味ありませんわ。私の前に立つことすらおこがましい、退きなさい」
ハリセンから昇る蒸気が徐々に徐々に実体を得る。
これ以上は許してはいけない。この悪意しか溢れ出てこない口を、この女を黙らせるべきだ。それ以上先に進む者を我子は許容しない。
否定の連鎖は頭の中で何度も反響し残響する。
痛い位に鳴り響く警告音に我子は自我を失いそうなほどの怒りを覚えた。
そしてついにウルチルを突き飛ばし、その狂気が、否定が、あらゆる存在への在り方、そして世界へと繋がるパスをも我子には無関係であるようにそれは放たれた。
「――」
しかしハリセンがルウに放たれることはなかった。
「アンジュ殿」
我子はハッとなって目の前のルウから視線を外し、何故か全裸になって股間でハリセンを受け止めたナイトを泣きそうな瞳で見たのだが、現状を確認し、顔を引きつらせる。
「あんた何やって……」
「拙者、ああいや違ったでござる。ああやぁもうアンジュちゃ~ん、あたしぃの袋にくっ付いていた二つあった尊厳両方なくなっちゃったじゃな~いの~。そそり立つ尊厳だけは守るわよ――」
「じゃかあしい」
「痛いでござる!」
ナイトの頭にハリセンを落とした我子だったが、すぐに表情を柔らかくし、何バカみたいなことしてんのよ。と、クスクスと声を漏らして笑う。
笑顔を見せたことで安心したように微笑んだナイトだったが、その額には脂汗が滲んでおり、足元もおぼつかない。
そしてついに倒れ掛かるのだが、我子はそれを受け止めた。
「無理するんじゃないわよ」
「アンジュ殿、拙者は頑丈です。大抵のことは耐えられます。しかしそうじゃない人もいるでござる、力とは敵に向ける物でござるよ。アンジュ殿、彼女は敵ですか?」
「……」
そう言って意識を手放したナイトを我子はウルチルとフィリアムに抱えてもらい、改めてルウと向き合った。
そして深く彼女に頭を下げる。
「助けてほしい、ウチの大事な家族が苦しんでいるの」
「――」
すると今のやり取りをジッと見ていたルウが突然口元を押さえながら大声で笑いだした。
何事かと我子は呆然とするのだが、彼女は瞳の端に涙を浮かべながらごめんなさいと口にする。
「良いギルドですわね、力にかまけた名前だけのギルドかもと思ったけれど、そんなことがないようで安心しましたわ」
ルウは狼狽えていたルーアに手を差し出し、本当はお茶美味しかったと、ごめんなさいと口にし、彼女の手を包むように握った。
我子は呆気にとられるのだが、ルウが手を差し出してきたことで頭を掻いてため息を吐き、握手に応じた。
「試すようなことをしてごめんなさいですわ。でもどうしても知っておきたかったんですわ、このギルドがどんなものなのかということを」
「……あなた性格悪いって言われるでしょ?」
「ギルドの絆を改めて認識させたんですもの、性格が良いに決まっていますわ。それこそ、ここの募集要項に書かれていた性格の良いお金持ちのお嬢様に準ずる程度には」
そう言って上品に笑うルウに、我子は笑顔で頷きそうかそうかと彼女と同じように口元を押さえて上品に笑う。
「うちのギルドに所属希望だったのね~、そうかそうか――」
「あっ」
「ふんっ!」
ウルチルの声も遅く、我子はルウの脳天にハリセンを叩きつけた。
彼女は顔面から床に叩きつけられ、頭から直立姿勢で床に埋まり、ドレスがめくれ下に着ていた肌着を晒すようにピクリとも動かなくなった。
「うちのギルドの通過儀礼よ。入ることを認めてあげるからとりあえずウチを手伝いなさい」
我子はウルチルとフィリアムからナイトを受け取ると彼を部屋まで運んでいくのだった。




