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おいおいなんだあのコロネ。

「おいアンジュ、最近僕のおやつだけ小さくないか? 不公平だぞ」



「戯言をいうのはこの口かしら?」



「いだだだだっ」



 内田ことウルチルがギルドに加入して幾ばくか経った今日、我子はウルチルの頬を引っ張り彼に与えられるべきだった甘味を口に放った。



「あんたまた苦情が来たわよ、ぶっ放すのは構わないけれどもう少し考えてやりなさい」



「溢れ出る僕の力が収まらなかった」



 我子はウルチルをハリセンで引っ叩くと、今日のおやつを作ってくれたルーアを一撫でし、今日も美味しいと感想を告げる。



「はい、アンジュ様が食べたいと話していたおまんじゅう? を再現してみました」



「うんうん、ちゃんと出来ているわ。ルーアは努力家だし、何をやらしても一所懸命だからたくさん褒めたくなっちゃうわ。どこかの中二病に爪の垢を煎じて飲ませたいわ」



 ルーアもウルチルも首を傾げている中、ふと我子はあたりを見渡す。



「内藤は? 今日はここにいたはずよね?」



「ナイト様は今朝朝食を作っていたのですが、どうにも調子が悪いと部屋にこもっています」



「珍しいこともあるのね、頑丈さだけが取り柄なのに」



「他にもたくさんあるだろうが」



「ならあんたの口から本人に言ってやりなさい」



 そうして我子は饅頭片手に酒を呷っていると、ギルドの入り口から疲れたような声色で、ただいま〜と言う声が聞こえてきた。



 その声にルーアが動き出し、冷たいお茶をカップに入れるとそれをテーブルに置いた。

 カップがちょうどテーブルに置かれたタイミングで、扉が開きそこからたくさんの荷物を持ったフィリアムが現れた。



「おかえりフィム、それで満足のいくものは買えたのかしら?」



「おかえりなさいフィリアム様、どうぞ冷たいお茶を用意しました」



「ルーアちゃんありがと〜。まさかあんなに遠くにしか売ってないとは思わなかったよ」



 テーブルに腰を掛け、一息ついたフィリアムに我子は頬杖をしたまま、勝ち気な表情で彼女に言う。



「だから何でもいいって言ったでしょう? どうせグラスや食器なんて誰も見やしないわよ」



「み〜ま〜す〜」



 ぷくぷくとリスのように頬を膨らませたフィリアムが、このギルドの人間がここまで商売に向いていないとは思っても見なかったうなだれた。



 フィリアム=ランドクローバー、彼女はウルチルがギルドに来た後、我子の強い希望もありすぐにギルドに加入した。

 役割としては商業ギルドとのやり取りやまだ幼いルーアのサポートなどだが、基本的には街でのやり取りをルーアとともにしている。



「うう〜、喫茶店も兼業するって言うから楽しみにしていたのに、アンジュちゃんのアイデアはすっごく感心したのに、見た目にこだわりがなさ過ぎてなんかパッとしないし、ルーアちゃんはアンジュちゃんがそう言っちゃったからそれに従いっぱなしだし、ナイトさんはわけわかんない銅像置こうとするし、ウルチルさんはダサいし」



「ダサっ――」



 涙ぐむウルチルの頭を我子は撫でてやり、苦笑いでフィリアムが買いに行った食器類や小物を覗き込んだ。

 そこには統一感のある雰囲気の食器やカップ、主張しすぎない程度の小物など本当に彼女はセンスがいいのかと感心する。

 しかし結構な量があり、これを一人で持って帰ってきたのかとフィリアムを労う。



「お疲れ様。でもこれだけの荷物があるのならコンドラを頼んでも良かったのよ? うちのギルドは別にそこまで切羽詰まっているわけじゃないし、負担を減らせるのなら減らすべきでしょう」



「甘いよアンジュちゃん、商業をやるっていうのなら切り詰めるところは切り詰めないと」



「そういうものなのかしらね? まあ正直その辺りはよくわからないし任せるわ」



 我子はそう言って手をヒラヒラとさせるのだが、突然フィリアムがそばまでやってきて顔をズイっと近づけてきた。



「任せる。じゃ困ります! アンジュちゃんがやる気になってくれないとあたしもどう動いていいかわからないんだから。それに結局ギルド名もエンブレムも完成してないし、アンジュちゃん基本的に脳筋だよね」



「失礼な子ね、ウチは内藤と内田とは違って色々考えているわよ。この件に関してはただフィムに任せた方が上手くいくんだもの。今日買ってきた食器類だって見事なもだわ、あなたに任せて正解だった」



「都合の良いことばっかり言うのはこの口かな~」



 フィリアムはそう言って我子の頬を軽く引っ張った。

 そうして我子が苦笑いを浮かべていると、肩を落としため息を吐いたフィリアムに申し訳ない気持ちになり、悪かったと謝罪をする。



「ごめんなさいね、だってフィムったら本当に何でもやってくれるんだもの。ルーアにずっと任せっきりだったウチも悪いけれど、2人が本当によくやってくれるからつい甘えてしまうの。だからさっき言ったことは本心よ、あなたたちに任せればきっと上手くいくと思っている。だからそれ以外のことに関してだったらなんだって協力できるようにしているつもりよ。だからそんな顔をしないでちょうだい、ね?」



「……アンジュちゃんって基本的に人たらしだよね。あ~もう、わかりました。なんとか頑張ってみるけれど、決定権はギルドマスターにあるんだからそこだけは真面目に聞いてよ」



「ええ、約束する。じゃあそうね、この間ウチが出したアイデアについてはどうだった、進められそう?」



「うん、それに関してはばっちり。あたしも勉強してるよ」



 そう言ってフィリアムがいくつかの書類を出し、我子はそれを確認して頷く。



「まさか本当に実現可能とはね。というかハーブティーの喫茶なんて普通思いつくものだと思ったけれど、誰もやっていないのね」



「ハーブって薬草のことだよね? それはそうだよ、だって基本的に薬草なんてものは潰して塗るくらいにしか使わないもん。それをお茶にして飲むなんて考え付かないよ。そもそも薬草って飲んでも効果あるものなの?」



 この世界は基本的に怪我や病気は魔法で治すことができる。しかし長期の治療が必要な場合や魔法が使えない場合などに限り、薬草を使っている。

 つまりこの世界での薬草とは現代で言う絆創膏のようなもので、急に使うこともあるかもしれないという程度の役割でしかなかった。



 そんなことを知らなかった我子だったが、フィリアムにどんな商売をやるのかと聞かれた時、とりあえずでハーブティーやブレンドティーの専門店でもやればいいんじゃないかと言ったのだが、それに食いついてきたのが彼女で、その案で話が進んでいるということだった。



 そして今渡された書類には幾つもの薬草の種類とそれの採取場所、業者を使うのならどこがいいのかが丁寧にまとめられた書類で、良く出来ていると我子はフィリアムを撫でる。



「それでアンジュちゃん、あたしは実際にそれを飲んだことがないんだけれど、どんな感じになるのかな?」



「それなら今ちょっと作って――ルーア、お願いね」



「はいです」



 我子がハーブティーを淹れようとしたのだが、ルーアが構ってほしそうな目を向けてきていたために彼女にお願いする。



「ルーアにはレシピを渡したからあとで確認すると良いわ。まあそこそこな出来だと思うわよ」



「すっごい楽しみ。っとそうだアンジュちゃん、ちょっと気になる噂を協会で聞いてきたんだけれど」



「噂?」



 我子が首を傾げるとフィリアムがポーチからもう一枚書類を取り出した。

 これなんだけれどと言う彼女に手渡された書類に目を通してみると、そこには男性冒険者たちが原因不明の病に侵され、現役を引退せざるを得ないというものだった。



「男だけ?」



「うん、何でもやる気が起きないみたいで、体がほとんど動かなくなるんだって。一応原因を調べているそうなんだけれど、まったくわからないみたいで。それでほら、ここのギルドもナイトさんとウルチルさんがいるでしょう? だから伝えておいた方が良いと思って」



「なるほどね、ありがとうわざわざ調べてくれて。まあでも大丈夫よ、内田はあの通り元気だし、内藤は丈夫さが……っ」



 ハッとなる我子はすぐに部屋から飛び出した。

 そしてナイトが使っている部屋の扉を開け放ち、横になっている彼にずんずんと近付く。



「あ~……アンジュ殿でござるか~?」



「どこか痛いところは? 今の自分の感じを出来る限り詳細に伝えなさい」



「え~っとでござるね~……なんとも体がだるいといいますか、動く気が起きないといいますか。あ~かったるいでござるー。あ~でも、あたし~なんだかとっても夢見が良くて~」



「笑いに走ろうとする辺りまだ大丈夫そうね」



「ん? 拙者今何か口走ったでござるか~?」



「は? まあいいわ。それよりほしいものがあったら言いなさい。病人の特権よ」



「いや~済みませぬ~。しかしアンジュ殿が優しいと変な感じですな~」



「ウチはいつだって優しいわよ、ったく。甘いものでも作ってくるからちょっと待ってなさい」



 立ち上がろうとしたナイトを制した我子は彼に肩まで布団をかけてやり、扉の外で覗き込んでいたルーア、ウルチル、フィリアムに目を向けた。



「というわけでルーアも手伝ってくれる? あの自己管理も出来ないアホ騎士様に美味しいものを作ってあげるわよ」



「はいですアンジュ様。ナイト様、少々お待ちくださいね」



 そう言ってリビングまで降りてきた面々だったが、フィリアムが微笑んでおり、我子は首を傾げる。



「どうかした?」



「ううん、優しいギルドマスターのいるギルドに入れて良かったなって」



「同じ釜の飯をって奴よ。それにウチの幼馴染も手のかかる子でね、こういうのには慣れているってだけよ」



 そうしてキッチンへと移動しようとした我子だったが、ふと知らない気配を覚え、視線を玄関と繋がっている扉に目をやる。



「……ごめんなさいね、今お客様に構っている時間がなくて、あとで来てもらえる?」



 そこには西洋人形のような目元がクリクリして、高級そうなドレスを着た金髪の少女が立っていた。

 初めて見た縦ロールに感動しそうになった我子だったが、今はそれどころではなく、あとで来るように告げるのだが、そんな彼女が口を開いたのが見える。



「ここ最近流行っている病についてお悩みじゃなくって? 私なら協力できてよ」


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