その旅路を進むのはいつだって自分の意思。
「本当に、わしの孫がご迷惑をおかけしました」
「おじいちゃんは謝らなくていいのよ。そこでまだ伸びている馬鹿者が原因でしょう? そんなにあなたに謝れてしまうと逆に申し訳ないわ」
我子たちはウルチルの祖父であると言う長老の家屋に案内され、そこでお茶をもらっていた。
先ほどの爆発したウルチルだが、ルーアが看病しており、傷はないものの未だ目を覚まさないでいた。
「いやはや、さすがプラチナランクのギルドマスター殿ですな。わしは若い頃に一度だけプラチナランクを見かけたことがありますが、彼以上の実力かもしれません。そんな凄まじいアンジュさんにあのバカ孫は……」
頭を抱えた長老が立ち上がり、部屋のタンスに手を伸ばした。するとそこから革袋に入った大量の金貨を取り出し、我子にこれで足りるでしょうかと申し訳なさそうに言った。
しかし我子は首を横に振る。
「それはこの村の発展のために使いなさい。村の財政を圧迫させるほどの無理難題を吹っかけたなんて名誉いらないもの。それに……」
我子はそばで横になっているウルチルの横腹にハリセンを打ち付けた。すると彼がビクりと肩を跳ねさせたのを横目に、挑発的な表情を浮かべる。
「14歳と言っても、自分で選択して自分の意思でウチのギルドに来たのよ。今回の依頼料は、その半人前から一人前になろうとしている馬鹿に払わせるべきでしょう? 都合よくうちのギルドは人員を募集中でね、返せる機会なんていくらでも都合がつけられるのよ」
長老にウインクを投げた我子はたぬき寝入りをしているウルチルに目を向けた後、ルーアとナイトに視線を向け、そろそろお暇しましょうと言った。
「さすが我らのギルドマスター殿です」
「わたくしもそういうこと言ってみたいです」
「はいはい、褒めるのなら言葉じゃなくて美味しい夕ご飯を用意してちょうだい」
我子たちは揃って長老に頭を下げると、そのまま家屋を出ていこうとする。
しかし我子は振り返り、背中側からでもわかるほど頬を膨らませているウルチルに目を向け、ため息混じりに口を開く。
「あんたの言う一人前が何かはわからないけれど、うちのギルドならそれも叶うんじゃない? まああんた次第だけれどね」
そう言って我子は深々と頭を下げる長老に手を振り、家屋を出て村を後にする。
そうして暫く進んでいくと、後ろから息を切らしたウルチルが駆けてきて我子たちに並んで歩幅を合わせた。
「随分とスッキリしたじゃない、その方が良いわ」
「……おじいちゃんが、せめて見た目だけは恥ずかしくないようにあんたに付いていきなさいって。僕はもう少し格好良い方が良いけれど、おじいちゃんがそう言うから仕方なく」
最初に出会った時に着ていた物々しい鎧を脱ぎ去り、体中に巻かれていた包帯を取っ払ったウルチルが、どこか民族衣装、現世で例えるのならアイヌの民が着ていたとされる衣装に酷似した様々な模様が美しい服で現れた。
「いいお祖父様じゃない、大事になさい。ああそうだ、それと」
我子はウルチルに手を差し出すのだが、首を傾げた彼が何をどう勘違いしたのか、その手に手を重ねた。
「お手。じゃなくてね。さっきのぬいぐるみを出しなさい」
ウルチルが一瞬顔を歪めたが、我子は「んっ」と微笑みを浮かべて手をずいっと彼に向ける。
そして彼が諦めたようにぬいぐるみ――ムキュナトッポギを差し出すと我子はそれを手に持ち、ルーアを手招きして彼女の袋からいくつかの道具を取り出した。
そしていくつかのアイテムを駆使して、ムキュナトッポギについていたシミを抜くとそれを彼に返した。
「あんた……」
「あんたがどんな理由があってこれを大事にしているのかは知らないけれど、ウチはそれを笑ったりはしないわ。それを傷つけられて怒るのは構わないし、それを笑うやつがいたらぶっ飛ばしても良いわ。けれど約束しなさい、嘘までついて人様に迷惑はかけるな。あんたを想ってくれている人が後ろ指を差されるような生き方はするな。それが出来てから一人前だの半人前だのを考えなさい」
「……」
我子は後ろ手に彼に手を上げ、そのまま伸びをすると食べられない物や好きな物は今の内にルーアとナイトに言っておきなさい。と、今日の夕食は豪勢にいくと宣言してウルチル前を歩きだした。
ぷっくりと頬を膨らませたウルチルだったが、顔を赤めたり言葉を発しようとしているのか口を開閉させたりとしながら我子の背に向かって口を開いた。
「――っ、おいアンジュ! 僕も行くぞ。それに少しは料理だって作れる」
「はいはい、期待しているわよ内田」
「誰だそれは!」
「あんたの名前長ったらしいのよ。だから今日から内田よ」
ぶうぶうと文句を言うウルチルを我子は適当にいなしながらギルドへの帰路を進むのだった。




