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あんな上司にウチはなりたい。

 山を下り、そこからウルチルの同郷のおばちゃんが御するイノシシのような魔物が引く荷台に揺られること数十分、慎ましい村がそこにはあり、ウルチルの姿を見かけると村すべての村民が出てきたんじゃないかというほどの人々が彼に駆け寄った。



「ウル、おまえどこほっつき歩いとったんだべ。村長が心配さしとったど」



「あれからそんちょう、夜も眠らずおめえさの帰りまっとたでさ」



 ウルチルから聞いた村の状況と一致しない現状に、我子はハリセンを振り回しながら彼に笑みを向けた。

 するとウルチルは脂汗を流した顔を横に振り、ちゃんと理由があるという。そして村人たちを指差し、ムキュナトッポギはどこだと叫び始めた。



「いやぁ愉快なことになりそうですなアンジュ殿」



「あんた一人でもいっぱいいっぱいなのに、これ以上変人を増やすわけないでしょ。この話はなかったことになるわ」



 え〜ほんとに〜とニヤケ顔を浮かべるナイトの頭にハリセンを叩きつけたアンジュは、ため息をついて話ができそうな人間を探した。



 すると、村で一番大きな家屋から髭まみれの顔をした老人が、欠伸をしながら眠そうに顔を出した。



「一体なんの騒ぎじゃ。夜眠れないからわしは昼に寝るしかないんじゃが――む、ウルチルか貴様! 一体どこをほっつき歩いておったんじゃ! 未熟者のお前が一人で外に出て何ができると何度も……おや、これはまた随分と物々しい顔を連れてきたのぅ」



 村民が老人を長老と呼んでいたことから、彼がこの村での最高権力者なのだろうと、我子は彼に近づいて手を差し出す。



「はじめましておじいちゃん、ウチはアンジュといいます。こっちの小さい子がルーア、そこの鎧がナイトです」



 紹介されたことでルーアとナイトが頭を下げると、長老の老人が我子に手を差し出し握手を求める。

 我子は彼と握手を交わすと、顎でウルチルを指し、彼に依頼されましたと事情を説明するのだった。



「あの大馬鹿者がご迷惑をおかけしました。しかもプラチナランクとゴールドランクを抱えるギルドに世話になるとは……」



「まあそのことについては良いわ。最近働き詰めだったし、ちょうどピクニックがしたかったのよ。おかげで美味しいお弁当が食べられたわ」



 我子は長老に微笑むと一応事情を聞かせてほしいと言う。



「それは――」



 長老が言い淀んでいるとそれは突然起きた。

 ウルチルがいただろう箇所からとんでもない熱気が、空気を焼き尽くすように風とともに吹いてきた。



「僕は騙されないぞ! お前たちは、お前たちは僕から友だちを奪ったんだ! だから僕はお前たちに復讐してやるんだ! そのための力は得た、覚悟しろ!」



 ウルチルの服装が変わり、腰に収められていた剣が赤く、赤く発光し、別の剣を地面に突き刺すとその剣を中心に地が凍りついた。



「魔剣の力は僕に熱を吸収する力を授けてくれた。この力ならばもう半人前とは言わせない! 僕だって戦士だ、友の一人くらい守ってみせる!」



 我子はチラリと長老に目をやった。 

 すると彼は頭を抱えたまま、申し訳なさそうな顔を我子に向けており、我子は彼らが悪いわけではないのだと察した。



「わかった、わかったから少し落ち着きなさい。お前のためを思ってやったんじゃがな」



 そう言って長老が家屋に引っ込んでいき、そこから何かを持ってきた。

 そしてそれ、可愛いとは言い難い例えるのならバックベアード様のような見た目で洋服を着せられたぬいぐるみを掲げた。



「ほれ、これでいいじゃろう。まったく14にもなってこれから離れられないとは情けない」



「黙れ! 僕は僕の友だち……ん? おいおじいちゃん、そのシミはなんだ?」



 ここまでの会話からある程度察した我子は今すぐに帰ろうと思ったが、感情を爆発させなければどうにかなりそうだったために、それを見守る。



 そしてウルチルはと言うと、長老が持ってきたぬいぐるみについたシミを引きつった顔で見ていた。



「んぁ? ああ飯食っとったらこぼしてしまっての。まあ洗えばなんとかなるじゃろ――」



 しかし、シミを付けられたと聞かされた瞬間、ウルチルの体が輝き出し、しかも周囲に光線をばらまき始めた。



「ムキュナトッポギー! 許さんぞ、貴様ら許さんぞ! ジワジワとなぶり殺しにしてやる!」



 そのぬいぐるみの名前がムキュナトッポギであることは理解できた。

 しかしぬいぐるみにシミをつけられて、あそこまで激高するのは理解できない。



 我子は終始笑顔のまま、一歩、また一歩とウルチルに近づいていく。



 そうしている間にもウルチルの体が最早金色に輝かきだし、大サービスで見せてやる。僕の最強の変身を、僕の真の姿を! などと言いながら、熱をあちこちに放っていた。



 我子は彼の背後に立つとブンブンとハリセンを振り、何度かの深呼吸をする。

 彼が放つ熱量は一般の人間であれば近くにいるだけで喉を焼くほどのものであるが、我子は一切気にした様子もなく、大きく口を開く。



「む、いくらプラチナといえども僕の邪魔は――」



「クリリンのことかぁっ!」



「ざーぼんっ!」



 妙な奇声を発しながらハリセンで打たれてぶっ飛んだウルチルが、そのまま轟音を上げながら突き進んでいき、誰もいない箇所で破裂するように爆発を起こした。



「汚い花火ね。少しはそこで反省なさい」



 また変な特殊能力が目覚めているとハリセンを見ていたナイトが、げんなりしたようにピクリとも動かなくなったウルチルを見て、両手を合わせて頭を下げるのだった。

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