8.第一章[転校生]
霧島さん達の護衛が始まった翌日、いつもは妻(仮)との二度寝芝居がある朝だが、今日は少し違っていた。
アラームが鳴り止める。するとスヌーズ機能の前に、別のスヌーズ機能が作動しだした。
ゆさゆさと身体を揺すられる、なんと妄想が現実にと目を開けると、そこには金髪の美少女が俺の名前を呼んでいる。
あぁ神様、生きていて良かったよ。
中々起きれないでいると、扉が開かれ別の人影が入ってきた。
誰だーとボヤける目を擦っていると、目の前に
正拳突きが物凄い速さで打たれ、目の前数センチで止まった。
風で髪がなびいた……一気に目が覚める。
「お前、今のが敵なら死んでるぞ?危機感がたりないな」
と寝巻き姿の近衛さんに言われた 。
いやいや、何言ってるんですかあなたは。
私は普通の高校生ですよ、寝込みを襲われる危険性なんて考えていませんよ。とは思っていても言えません。
「あ、すみませんでした。これからは気を付けます」と言いながら部屋を見渡すと、霧島さんは居なかった。
「あの、起こしていただきありがとうございます。あの、霧島さんはもう下ですか?」
「(あの)は余計だ、いらない。夏音は下で支度をしてる。お前も早く学校へ行く支度をした方が良い」
やばい、ムカつく、でも強そうだしキレても殺られるな……
「あ、わかりました!ありがとうございます。」
あ、は余計だ、と思われている顔で下へ降りて行った。
考えが甘かった……近衛さんは家族担当で霧島さんが俺の担当で、まさかのロマンスが待っていて、とうとう俺にも春が!などと微かな希望を持っていた俺の考えは甘かった。
まぁ人生そんなもんだ。
立ち上がった時、少しだけ胸と肩の傷が痛んだ。
下へ降りて行くと、みんな朝御飯を食べている所だった。
みんなと言っても父さんは既に仕事へ行っていなかったが、姉ちゃんはちゃっかり、しかもメイクばっちりで近衛さんの隣をゲットしていた。
今まで姉の相手なんかまったく興味無かったが、あんな奴が仮に俺の兄貴になんてなったら……最悪だ。どうか近衛さんには彼女がいますように。
「幸成この時間に起きれるなんて珍しいわね、今仕度しちゃうから座って待ってなさい」
と母親からは温かい言葉を頂くが、生憎いつもの席は埋まってますけどね!
さすがに優しき母親の席は奪えないので、
「母さん、俺リビングで食べるから」と伝えた。
「高柳さんっすみません、もうすぐ食べ終わりますのでこちらで」と、こちらも女神霧島さんが口一杯に頬張りながら言ってくれたが、姉ちゃん達を見ながら食べたくなかったので丁重にお断りしました。
すると姉が突然、「あのー霧島さん?ウチはみんな高柳なんですよ、私の事は絢香って呼んで下さいねっ」と俺が言おうと思った内容を近衛さんに言っている。
色々と間違ってますけどね、姉さん、あなた変わってしまったよ。
恋とは恐ろしい。
「あ!そうですよね……すみませんでした。ではこれからは絢香さん、それから幸成さんと呼ばせて頂きます」
きましたね……不思議のラビリンス、いや!恋のラビリンスへいざ参らん!
「幸成!早くご飯食べちゃいなさい !」
「は、はーい」
余韻には浸れなかったがまだチャンスはあるはずだ。
いやっ!俺の心の教科書が言っている。
騙されるな!これはまやかしだ!今までの事を思い出せ。
ただ名前で呼ばれているだけだ、彼女になった訳でもない、ただの……業務の一貫だ。
さ、支度しよう。
支度を終え玄関に向かうと既に霧島さんは居なかった。えっ、護衛は……いいの?
すると後ろから近衛さんが、「夏音を探しているのか?ふん、子供が色気付いてるんじゃないぞ。
ちなみに夏音ならもう外だ、昨日の事でも分かるように、犯人は人目のあるところは避けるはずだ。だから通学時の人通りの多い時間帯に襲われる事はまず無いだろう。
お前が意図して人気の無いところへ行かない限りは、だけどな」
「そうですか……教えて頂きありがとうございます」コノヤロウ。
「じゃ僕も安心して学校へいってきます」クソヤロウ。
イケナイ、イケナイ!こんな汚い言葉使いは良くないぞっ!あぁ口うるさい上司ってこんな感じかなー嫌だー社会人になりたくないー、と考えてしまう今日この頃。
「あぁ、気をつけて、あと何かあったらくれぐれも自分で何とかしようなんて考えないように」
と、コーヒー片手に忠告を【して頂きました!】
「ありがとぅござ……」ほぼ言い切らず外へ出た。
あんな人いるんだな。
俺は良い人になろう。
外は昨日よりも人が増えているようだった。
ただ、最近は殺人や傷害事件が増えているせいか、少し空気がピリピリとしているように感じた。
昨日人混みを避けるために自転車を置いてきたので今日も歩きだ、まぁ今日は早く起きたから時間に余裕もあるし良いけどね。
昨日折れてしまった刀は昨日のうちに警察署で新たに支給してもらった。見た目は前とほぼ変わらず、地味な刀だ。
今日は人通りの多い道を選んで学校まで向かった。
いつもは速さ重視なので裏道なんかも多様してるけど、今日は口うるさい上司に念を押されたので素直に従うことにした。
なんだかんだ襲われるのは恐いからね。
学校まであと少しという所で後ろから声をかけられた。
「おはよう高柳くん、今日はちゃんと持ってきたんだねっ、ギター」
そう優しく声をかけてくれたのは中々小西さんである。
昨日の出来事を覚えてくれていて、何だか知らないが嬉しくて少しドキドキ。
只ここは平静を装って、「おはよ、まぁ泰平達がちゃんと来るかわからないけどね。古西さんは今日も部活?」
「そっか、高柳君も色々大変なんだね。
私も部活だよー、部長が替わったり1年生が入ってきたりで忙しい時期だからね。今は休みは殆ど無いかな」と少し斜め下へ頭を落とす仕草は何と可愛らしいのだろう。
中々小西さんは中々じゃなくて普通に可愛いんですけど!
ちなみに今日の髪型はポニーテールにメガネと破壊力がやばば。
「そっか、でもそれなら俺の大変さなんて古西さんに比べれば全然だよ、先輩だって殆ど関わらないし、練習も本人の自由だしね。
まぁだから良くも悪くも自己責任だけどね。
お互い頑張らないとね!」
「うんっ、そだね。頑張ろっ」と拳を握る古西さん……目に焼き付けました。
2人は正門を通り、各々の下駄箱へ向かう。
「高柳君…最近色々あって大変だよね、何かあったら相談してね、あんまり力にはなれないかもしれないけど」
突然の告白に驚く(告白では無い)
「え、う、うん。ありがと、古西さんも何かあったら言ってね。俺も役に立つかわからないけど(笑)」
へらへらしてしまった。
ここはかっこよく決めるべき所だろ!
「うん、ありがと」
2人はその後も他愛の無い話をしながら教室へ。
朝のショートホームルームの時間になり、先生が入ってくる。
「えぇーと、今日は皆さんに転校生を紹介します。
さ、霧島さん入って」
えっ?!……
ガラガラと扉が開き、見覚えのある金髪の少女が教室に入ってきた。
男子からは分かりやすい歓声が、女子からも感嘆の声とヒソヒソ声が聞こえてきた。
「はじめまして、霧島夏音です。今日から宜しくお願い致しますっ」
言い終わったあと目があったが、すぐ逸らされた。
すると「おぉー!かわいいー!」や「金髪?!地毛?!」など、またしても様々な歓声が上がった。
「じゃ霧島さんはあそこの空いてる席に座ってね~あ!あと今日は1限目の現国の時間を使って皆さんに霧島さんへ自己紹介してもらいますので、各々何を言うか考えといてくださいね~」と先生がさらっと言った。
皆なんだかんだノリノリのはずが「えぇ~まじか~」などの声が聞こえてきた。
僕はというと、入ってきてから開いた口が閉じません。
というか、同い年だったんだな……昨日言ってた「明日になれば解ります」ってこの事だったのか。
俺の横を通りすぎる霧島さんは、俺の顔をまったく見ずに通りすぎる。
えっ、なに……俺と知り合いって事は内緒なのかな。
「高柳くん?どうかしたの?」うしろの古西さんから小声で聞かれてしまった。そんなに挙動不審だったのかな……
「いや、特になんでもないよ。金髪が珍しくて」どこの田舎者だ発言をしてしまったが、口に出てしまったものは仕方ない。
「そうだよね、あそこまで綺麗な髪の色の子いないもんね」
やさしいフォローをいただきました。
そして、席の前の方から順番に自己紹介が始まった。
好きな食べものや、好きなスポーツ、今ハマってる物など、俺自身へぇーと思うような事まで聞けたので案外面白かった。
そして自分の番になり、先生に促されて立ち上がり、霧島さんの方に向かって部活の事を少し話して終わった。
その時は目があったり合わなかったり、少し挙動不審でしたかね。
その後、各授業は順調に進み昼休みになった。
昨日は1人で食べていたが、今日はどうしようかなーと考えていると、そこに泰平が現れた。
「高柳!今日はメシここで食べてくのっ?」
「う~ん、どうしようか考えてたとこだよ」
「そっか、なんか転校生来たらしいね!どこどこ?!」
メシの話はいいんかい、「あそこ」と左後ろを指差す。
するとそこには人だかりが出来ていた。
「すげぇーー皆に囲まれてるじゃん!なんか噂では金髪の美少女らしいじゃん!うらやましいわー、俺もそんな子とお近づきになりたいわー」と泰平ははしゃぎっぱなしだ。
「あぁーそう、でもあの子なんか冷たそうだけどね」と、先程からの他人行儀さを気にしてしまう。
嘘じゃないよね、今日はなぜかツンツン夏音ちゃんだし。
「そうかな?なんかみんなと話してる姿は普通だけど」
「えっ?!」と振り向くとそこには笑顔で皆と話す霧島さんの姿が。
「俺もご挨拶してくるわっ!じゃっ!」と泰平は俺を置いて霧島さんの所へ。
メシも俺もいいんかい……。
「おっ、転校生発見!」と、またまた俺のところに……来ずに通りすぎたのは隣のクラスの、学年で一二を争うイケメン サッカー部員、櫻井一輝だ。
彼は帰国子女で頭も良く、もちろん見た目も良い、あぁイケメンってカッコいいって意味だよねー。
まぁカッコいいですね、しかも優しい雰囲気あるから女子からはテモテモです、モテモテね。
そんな選びたい放題櫻井くんが、霧島さんにどんなご用件でしょうか。
「霧島さん霧島さん!もしかして霧島さんってハーフ?!」
「霧島さん!もう部活決めたの?!」
「一緒にご飯食べようよ!」
などなど皆からの質問攻めだ。
そこへ、やり放題櫻井くんが、
「はじめまして、隣のクラスの櫻井一輝です。霧島さん、海外から来たらしいね、僕も1年前までは海外にいてね、もし羅国の事で何か分からないことがあったら何でも相談してねっ『キラッ』。
みんな、もうこれくらいにしておかないと霧島さんのお昼の時間が終わっちゃうよ!じゃ、霧島さんまた今度ねっ」と、かっこよく?挨拶しておりましたとさ。
おわり。
その後、みんな解散し各々昼食をとっていた。
やっと開放されたと気が抜けた様子の霧島さんを確認し、昼飯を中庭で食べるべく席を立った。
すると後ろから声をかけられた。
「幸成さん、お昼はどちらで食べますか?」
振り向くとそこには霧島さんが立っていた。
「えっ?……と、」なぜこのタイミングで!
しかもここで名前呼び?!
すると周りから「え、何アレ?」「わかんなーい知り合いかな??」「なんであいつ?」等とヒソヒソ囁かれていた。
「どうしますか?」
「あ、最近は中庭で食べてるけど、」
「わかりました、今日も天気良いですし外で食べるのも良さそうですね。では行きましょうか」と言いながら教室の外へと歩き出す。
そしてソレについていく俺。
行く先々で「あれが転校生?!可愛い っ!!え、でもあの後ろの人高柳君じゃない?」「えっ、ホントだ高柳だ、なんであいつが転校生と」等またまたヒソヒソ囁かれていた。いや、囁くなら俺に聞こえないようにしてくれよな。
ようやく中庭のベンチへ着いた。
「羅国の学校はみんな明るくて楽しい方ばかりですねっ。ですが、幸成さんはあんまり楽しそうではないですね?」
「え?そう?、かな。最近色々あったせいもあるかな」
「そう、ですよね。すみませんでした、気遣いの無い事を言ってしまいました。私、少し気持ちが浮わついていましたね、すみませんでした、気を引き締めます」
「あ、いやっ、そんな大した意味で言ったんじゃないから、霧島さんが謝る必要は全然ないよ!むしろ俺なんかを守ってくれて有り難く思ってるよ」
「いえ……幸成さんをお守りすることは私の仕事ですし……使命ですので」と霧島さんは真っ直ぐ俺を見て話す。
「し、ごとね、霧島さんは若いのに大変な仕事をしてるよね。どういう経緯で警察に?」
普通はこの歳の女の子が警察なんかしないよな、しかも使命って、何か余程の理由があるんだろう。
「そうですよね。不思議に思われても仕方ないと思います。
ただお話しているとお昼休みが終わってしまうのでまずはお昼を頂きましょう」。
「そうだね、お腹すいたもんね」
何か話し難い事でもあるのだろうか、気になるけど、無理に聞いても仕方ないか。
うちの親が霧島さんの分の弁当も作っていたので中身は二人とも同じ内容となっている。
こんな所見られた絶対怪しまれるシチュエーションだ。と言ってるそばから
「高柳君、今日は泰平君達と一緒じゃないんだね?」
いきなり後ろから声をかけられ、一瞬ぞわっとしてしまった。
声で誰だかわかったが、急いで振り返ると
そこには古西さんと友達数人が立っていた。
素早く弁当のフタをして返事をする。
「あ、うんっ、今日も天気良いから外で食べたくて。昨日もここで食べてたんだけどさ(笑)」
また意味も無くへらへらしてしまった。
「へぇ、そうなんだ、霧島さんと一緒みたいだけど、2人は知り合いだったの?」
そう話す古西さんは少しいつもと雰囲気が違うような、「う、うん。実は……「私達は昔から親同士が知り合いで、昔は一緒に遊んだりしてたんです。でも私がアルメントに行くことになって、それからはずっと離れ離れになってしまいました。
長い時間がお互いの事を忘れさせてしまって、
でもさっき自己紹介の時の幸成の話を聞いて思い出したんです。
幸成はまだあまり私の事を思い出してはくれませんが……早くあの頃の二人に戻れたら……」
え?、、俺にそんな過去があったなんて知らなかった……
いや、ないよ!
途中で話を割って入ってきて何を言うかと思ったら、しかも呼び捨てですか?!
ちょっと嬉しいじゃないか、いやいや、
「霧島さん?えーっと、」と戸惑いを隠せず話しかけるも、
「幸成、なんで名前で呼んでくれないんですか?……私の事本当に覚えていないんですか??……」
塞ぎ混む霧島さん。
「そう、だったんだね、高柳君、早く思い出してあげてね。霧島さん、頑張って!」と古西さんは霧島さんを励ました。
「ありがとうございます。古西さんっ」と笑顔を交わす二人。
そして古西さん達は校舎へ帰っていった。
「霧島さん?これはどういう」
「すみませんでした。咄嗟に口からでまかせを。
幸成さんが狙われているという事をあまり他の方に知られるのは高柳さんにも、周りの方にも良くないかと思います。
またこの学校に犯人に関係する者が居ないとも限りませんので、念の為あの様な事を話しました。何か問題はありましたか?」
「い、や、無いこともないけど、でもまぁ一緒にいる口実にもなるから良いのかもしれないけど……霧島さんはそれで大丈夫なの?」
「少し恥ずかしいですが、任務の為ですので精一杯頑張ります」
「そうか、まずは事件が解決しないと他のみんなも危険だし……俺も、出来る限り頑張るよ」
複雑だけど。
放課後、軽音楽部の部室へ向かう。
後ろからついてくる人の気配がするが、見なくても誰だかわかるので振り向かない。
部室の扉を開けるとそこには誰も居なかった。
「まじか、メール返って来なかったもんな……」
「幸成さん、どうかされましたか?」
当たり前のように俺の横に立ち話しかけてくる霧島さん。
「いや、今日は部活があるはすなんだけど、まだ誰も来てないみたいで」
「そうですか、たしか軽音楽部でしたよね。私はアルメントでの生活が長かったせいか、ポップスよりもクラシックの方が身近にありましたので、羅国の音楽が今どうなっているのか凄く興味があります!ですが……今日聴くのは難しそうですかね?」
そう少し寂しそうに話す霧島さん。
「う~ん、今日は学園祭でやる曲を決めるはずだったんだけど……もう少し皆を待ってもいいかな?もしかしたら少し遅れてるだけかもだし」
「えぇ、勿論大丈夫ですっ!待ちましょう」
それから1時間程部室で羅国の音楽について霧島さんと話し合い、曲を決める為に持ってきた音楽プレーヤーで霧島さんにいくつかおすすめのバンドを聴かせてあげた。
「羅国のポップスも良いですね!
特にDear childrenの曲は耳に残りました。」
「おっ!いいねっ!俺Dear childrenが大好きで音楽始めたんだ!霧島さん中々わかってるね」
と何故か俺が得意気な顔で話している。
「いえ、それほどでもないですっ。 他の曲も気になります!」
「ほんと?!じゃ今度家で聴かせて挙げるねっ!それに他にも良いバンドいっぱいあるから是非!」
「はいっ、ありがとうございます。」
その時の霧島さんの笑顔はいつも以上に無邪気でとても眩しかった。
こんな笑顔が出来るんだな、いつもは礼儀正しくてお堅いイメージが強いし……刀を抜いてる姿はやっぱり違和感だよなぁ。
それから更に時間が過ぎた。
「そろそろ諦めて帰ろうかな」
「良いんですか?」
「良いも何も皆が集まらなきゃ決まるものも決まらないしね。
まぁ世の中がこんな風になったらバンドなんてやってられないのかもしれないね」
「……すみません、私達警察がもっとしっかり安心させてあげられれば」と悲しそうに俯く霧島さん。
「いや、霧島さんのせいじゃないよ。それにこの法律が無くならない限り安心なんて出来ないんじゃないかな。
それか、もしかしたら時が経って皆この生活に慣れて、また前みたいに戻るのかもしれないけどね。
この法律が出来る前の羅国に殺人事件が無かった訳じゃないし、むしろ今までは平和な世の中に安心しすぎてた部分もあると思う。
事件なんて身近なものじゃなくて、ただニュースで観るだけ。
実際に人が傷ついていた事に感心が低かった気がするよ。
でも今は皆が周りを気にして、警戒して、時には団結して。
あの犯人みたいに乱す人もいるけど……きっと皆が協力すれば乗り越えられると思う……よね」
「はい、私もそう信じます」
霧島さんはそう笑顔で応えてくれた。
そして俺達は諦めて家に帰ることにした。
部室から出て下駄箱へ向かう。
すると途中の渡り廊下で胴着姿の古西さんと会った。
「お疲れ様、古西さんももう終わり?」
「ううん、まだまだこれからだよっ、教室に忘れ物したから取りに行こうと思って」
胴着姿が気になったのか、一歩前へでて霧島さんが古西さんに質問した。
「すみません、古西さんは何部なんですか?」
「あ、霧島さんは知らないよね、古西さんは弓道部のエースだよっ!」
「ちょっ、エースだなんてっ、全然そんな事ないです!変なこと言わないでください!」
恥ずかしそうにしながら答える古西さん。
そして胴着姿も可愛いと思う。危うく惚れてしまう勢いだ。
「失礼いたしました。でも噂では県大会で優勝したらしいねっ」
「えぇ、でも試合は団体戦で5人ずつなので、私だけの力じゃないです!」
「そうなんだ、でも凄い事にはかわりないよ、おめでと。これからも頑張ってね!」
「あ、ありがとう……それより高柳くん達はもう終わったの?」
「あぁうん、泰平達来なかったから結局何も出来なかったよ」
「そっか……それじゃ仕方ないね。
皆も色々あるのかもしれないし、諦めないで頑張ってねっ。
それはそうと霧島さんも軽音楽部に入ったの?」
「いえ、私は部活動に所属するつもりはありません。ただ、幸成と一緒に居ただけです。さっ、古西さんも部活の途中ですし、これ以上時間を割いたら申し訳ないですよ。帰りましょう幸成」
「そ、そっか、そうだよね。私も部活があるし、そろそろ行くねっ。じゃまた明日」
古西さんは手を振り教室へ向かった。
その時、古西さんが向かった教室とは反対方向、自分達の後ろからチリチリと嫌な感じがしたので振り向いた。
そこには誰もいないように見えたが、遠くの方に歩いていく人が見えた。
遠かったが、あれは3年の加納勇喜さんだ。
直接話したことは無いが校内では知らない人はいない。現生徒会長で部活は科学部だったかな、噂では空手部も兼部してるらしい。
まさに文武両道だ。
黒髪短髪、見た目からは出来る男オーラが出ているが、少し冷たい印象がある。
加納さんが向かっているのは物理室の方かな、今から実験でもするのかなーくらいで考えていると、霧島さんが小さな声で話しかけてきた。
「幸成さん、あの方は?」
咄嗟に俺も小声になる。
「え、あの人はうちの学校の生徒会長で3年の加納勇喜さんだよ。何かあった? 」
「いえ、見たところ只者ではないような気がしたので」
「そうだね、あの人頭は良いし、空手部で運動神経も良いんだよ。確かに只者ではないよ」
「……そうですか、ありがとうございます。では帰りましょうか」
霧島さんさっきと少し雰囲気が違うような、
不安?警戒してるのかな。
下校時霧島さんは歩きなので、それに合わせて自転車は押して帰ることにした。
2人乗りも考えたが、さすがに恥ずかしいしやめておいた。
それに相手は警察官……無理だな。
ホントは2人乗りしてみたかったけど…………彼女が出来てからの楽しみにとっておく事にした。
無言のまま歩き続ける。
するとぐぅーと空腹を知らせる音が聞こえた。
「すみません」
少し顔を赤らめて謝る霧島さん。
「お腹空いたよね、夕飯まではまだ時間あるし何処かで何か食べる?霧島さんは何食べたい?」
「え、いえ私は大丈夫ですので」ぐぅー……
「この先にたこ焼きとかソフトクリーム売ってる店があるからそこ行こっか」
「……はい」
2人は少し寄り道をして帰ることにした。
寄り道先のお店【やまとや】は、たこ焼き、ソフトクリーム、たい焼き等、学生の好きな食べ物を格安で販売する、石倉高校の学生御用達の店である。
俺はたい焼き、霧島さんはたこ焼きを注文した。
近くの公園で、お互いに半分ずつ分け合って食べることにした。
甘いもの食べたらしょっぱいもの食べたくなるもんね。逆もしかり。
「ごめんね、俺がたこ焼き買えば良かったよね」
たこ焼き280円に対して、たい焼き80円ではなんか申し訳ない気持ちになる。
「えっ?…………もしかして金額の事ですか?それでしたら気になさらないで下さいっ、これでも私は警察官ですので!収入は私の方がありますよ(笑)」
と控えめな胸を張りつつドヤ顔になる霧島さん。
たしかに……「ありがとうございます、それではお言葉に甘えて」
「ふぅー、結構お腹ふくれたね」
「はい、ありがとうございました」
「いや今日は時間も余っちゃったし、お腹も空いてたし丁度良かったよ。そういえばずっと気になってたんだけど、霧島さんの家は羅国にあるの?」
「家、という事になるのか分からないのですが、こちらに赴任した時は警察の寮で寝泊まりしていました。
ただ、あまり利用している方はいないみたいで寮はいつも閑散としてて、今の幸成さんの家の方がずっと居心地が良いですっ。ありがとうございます」
「そっか、それは良かったです。まぁ父親の家ですけどね。
でも家に泊まることになった時は驚いたよ、しかもあのエリート警察官も一緒だし……」
「近衛さんの事ですか?あの方は一見冷たそうですが、時間が経てばたつほど優しさを感じるスルメの様な方ですよ。ですので幸成さんもこれからです!」
スルメ……その扱いには少し同情してしまう。
でもやっぱり良い人なんだろうな、ふむ、霧島さんの顔を立てて朝の出来事は水に流そう。
「そうなんだ、じゃもう少し様子を見てみます」
「はいっ、そうしてください。護衛もチームワークが大事ですから、幸成さんと近衛さん、そして私も信頼関係を築けていけたら良いと思ってます」
「そうだね…………ん?」
「どうかしましたか?」
「い、や、あの人なんか少しおかしい様な」
俺が指差した先には、全身ほぼグレーの格好をした、およそ30代くらいの男性が歩いている。
それだけだと普通だが、何やらずっと後ろを気にしている様で、歩いては振り返りを繰り返している。
「そうですね、少し変ですね。
普段ですと職務質問をするのですが、今は護衛中ですし、素性がバレてしまうのも不味いですので……」
「確認してきてもいいですよ?」
「え?」
「俺はここで待ってるし、それにあの距離ならそんなに時間はかからないでしょ。
昨日の犯人でもなさそうだし、大丈夫じゃないかな?もし仮にあの人に何かあったら大変だし、行ってあげてよ」
眉間にシワを寄せて一瞬考え込む霧島さん。
「…………そう、ですか。たしかにこの距離でしたら、何かあっても戻ってこれますね。あの方の事も気になりますし……では少しお話を伺ってきます」
そう言うと霧島さんは男性の方へ急いだ、がすぐに振り向き「じっとしてて下さいねっ」と念を押された。
その男性までは思ったより距離があった。
男性を驚かせないよう、私は優しく声をかけた。
「すみません、どうかされましたか?」
すると男性はびくっと驚き、
「んえっ、何が?」と問い返された。
何かに恐怖を感じているように見えたので、安心させるために素性を明かした。
「驚かせてすみません、私はこういう者ですが、何かお困りの事はございますか?」
と警察手帳を見せながら話しかける。
「けいさつっ?!……俺は何もしてないっ!関係ないんだっ!!通りかかっただけで……」
そう言うと男性は額にびっしょりと汗をかきキョロキョロと辺りを見渡し、今にも走って逃げてしまいそうだ。
「わかりました!すみません。貴方は悪くないと思います。ただ、詳細を詳しく話して頂かないと貴方に疑いが掛かってしまうかもしれないんです。私はそれを防ぐ為にも貴方のお話が聞きたいです。聞かせて頂けますか?」
詳しくは解らないが、何かを見たらしい、そしてそれは自分のせいだと疑われる物のようだ。
「本当に信じてくれるのか?……」
目の焦点が定まらずキョロキョロ辺りを見回しながら男が応えた。
「えぇ、信じます。
ただ嘘をつかれてしまうと、疑いが貴方にかかってしまいますので、見たまま真実を教えてください」
「……あぁ、わかった」と項垂れながら応える男。
「俺は本屋で本を買ったんだ、その帰り道にいつもは通らない路地に目がいったんだ。何故か俺にもわからないが気になったんだ。
そしたら呻き声が聞こえてきて……とても苦しそうな声だった。
怖くて近づけなくて、そしたら路地から1人の男が出てきた。
全身黒い服をきた男だ。そいつは……?!」
突然話が中断した理由は男の顔を見てわかった。
すぐに男の視線の先、自分の後ろを振り向くとそこには昨日の高柳幸成を襲った殺人犯が歩いていた。
ただこちらには気づいていないようだ、「すみません、その路地から出てきた人というのはあの方ですか?」
…………「そうだ……俺を追ってきたんだ、、あの時、あいつは笑ってた、袖が赤く染まっててすぐにわかった、あいつがあの声の主を襲ったんだって、そして俺がそれに気付いたって思って追ってきたんだ……いやだっ!死にたくないっ!」そう言いながら男は走って逃げていった。
「まって!今保護してもらうように手配しますのでっ!」そう言い終わる前に男は遠くへと走り去って行く……?!
霧島さんが見たものは、走って逃げていく男の前に一瞬にして現れた長身の男。
その長身の男の身体が動いたと思った瞬間、逃げていた男の首から上は無くなっていた。
一瞬思考が止まってしまったが、すぐに切り替えた。
まずは前の長身の男、自分との距離は十分にある。
そして次は後ろの殺人犯、振り返ると奴は茂みの一歩手前に立ち何かを凝視していた。
その先には……公園のベンチが……そしてそこには高柳幸成が携帯をいじっている姿があった。
kogetora_suguです。
少しずつ学園生活のお話も出て参りましたが、部活やイベント等、楽しみがたくさんですね。
ただ、高柳くんの第一章はだんだんと後半に入って参りました。
お楽しみの学園生活が描かれるのはもう少し先になるかもです。
引き続き宜しくお願いいたします。