6.第一章[少年]
目の前にいる見覚えのある男
あの時は性別がわからなかったが今は男だとわかる。
何故あの時の男だとわかるのか、あのひきつった口……笑っている姿が目に焼き付いている。
6~7mの交差点を挟んで向かい合う。
逃げるべきか、いや、向こうは気づいていないかもしれない、下手に逃げて追われて、逃げ延びれる保証はない。
だが、もし相手が気づいていてそのままバッサリ……等と思考を巡らせていると、
「やっと二人になれたね…………人気がなくなるまでずっと待ってたんだよ…当校する時も弁当食ってる時も……でも待ってて良かったよ、覚えててくれてるみたいだね、ひっ」
甲高い声。
自分の足が動かない事に気付いた……震えている。
その男が犯人だと俺が知っているとバレている。
逃げないと、逃げろ……死にたくない……
信号が点滅しだした。
「もうすぐ行くよ、少し待っててね…………すぐには終わらせないから…………」
信号が変わり青になった。
ゆっくりと横断歩道を渡ってくる。
やつの右手が刀の柄にかかる、ゆっくりと刀を抜いた。
やつは右斜め上に振りかぶった、「ひっ」と奇声をだし振り下ろす。
刀は俺の鼻先をかすめて空を切る。
「あれ、避けたらだめだよ」
咄嗟に身体が反応したらしく一歩後ずさっていた。
逃げられる、と思った瞬間胸の辺りが一瞬熱くなった。
その後すぐに痛みに代わり、とっさに胸を押さえるとねっとりとした物が手にまとわりついてきた。
その手は赤く染まっている、力が抜けていく。
「あれ、そんなに深くはないはずだよ?」
あいつ……最初の振りはわざとだ、油断させるために……一撃目の後、左からの切り返しは目で追えなかった。
「くそっ」俺も刀の柄に触れる。
「ひひっ、いいね……やっぱり切り合わなきゃ、ほら早く早く!」
カモンカモンみたいな素振りで俺に立つよう促す。
切られて少しだけ吹っ切れた。
何もしなければ殺される。
……先生の無念を晴らす。
よろめきながらも立ち上がり刀を抜いた。
だが、力が入らない。
切られるとこんなにも痛くて苦しいのか、きっと先生の奥さんも……妹さんも……太一君も。
柄を強く握り直す。胸から血が吹き出た気がする。
だがそんな事はどうでもいい、こいつを斬る。
こいつにもこの苦しみを味わさせてやる。
昔から遊びで繰り返していた素振りを思い浮かべる。
自分で型を考えたりもした……バカだな、でもここでそれを生かす。
「もういい?君もそろそろ限界みたいだし」
「うるせぇ」
「ん?なんか言ったかなー?」
右足を踏み出し上段やや右斜めから振り下ろす。
刃はやつの左肩をかする……間合いが少し遠かったか、間髪開けず左足を踏み込み、左下から切り上げる
「なっ、調子にのるな」とやつが逆一文字に刀を振る。
俺の刀とやつの刀が交差しぶつかった。
「ガキィン!」
腕が衝撃で右の方に持っていかれそうになる。
その瞬間やつの刀が真上から振り下ろされ、それを咄嗟に刀で受ける。
「キィン!」何かが弾けて落ちた。
今度は左肩が熱くなった。
「う"っ……」
受けた俺の刀は折れて地面に落ち、左肩からは出血している。
「あれ、折れたね……もう君はいらないやさよなら」
ひきつった笑顔は真顔に変わり、もう興味がなくなったと、そんな目をしている。
やつは突きの構えから右手を突き出す。
刃は真っ直ぐ俺の顔に向かってくる。
早いっ避けられない…
終わりだ……
「ギィン!!!」
目の前で火花が散る、
「なんっだ!」やつが仰け反る。
俺の横には金色の髪の少年が刀を構えやつを睨んでいた。
その刀を構えた姿は美しく絵画のようだ。
こんな状況にも関わらず見とれてしまう。
「なんだお前……邪魔すんなよ……なんだその目は」
やつの顔からは完全に笑みは消え、鬼のような恐ろしい形相へと変化する。
すぐさま狙いを彼に絞り襲いかかった。
今までよりも数段早く斬りかかる、それを彼は寸前のところで避ける、避ける。
速い、彼の動きは驚くほどに速く華麗だ。
「くそっ……ちょう……しに」
奴が刀を振る、彼はそれをかわし奴の左手側から回り後ろを取ろうとした。
その瞬間、奴が笑った気がした。
「ひっ」
やつの奇声のあと彼は吹き飛ばされていた。
奴から左足が伸びている。
わざと、自分の左側にまわらせてから、相手が刀を振りかぶる瞬間を狙った蹴りだった。
金髪の彼は吹き飛ばされた場所からゆっくりと立ち上がり、刀を構え直し奴に突進しようとする。
しかし、蹴りの衝撃か足元がおぼつかず少しよろめいた。
奴はその瞬間を見逃さない、左から右からと物凄い速さで刀を振り斬る。
彼はそれをなんとか避けながらも刀で受ける。
彼の身のこなしは驚く程だが、次第に押されていく。
ただ、何故か彼からは攻撃する意識が感じられない気がする。
その証拠に、まだ彼は奴に1度も斬りかかっていない。
奴がそんなにも強いという事なのだろうか。
いくら速いからと言っても限界はくる。
「あっ、」思わず声が出てしまった。
少年の左腕に奴の刃がかすめた、次は右足、右肩と、かすり傷だが徐々に押され始めている。
まずい……けど俺じゃなんの役にも立てない。
折れた刀を見て自分の無力さを改めて実感した。
少年に助けられて……そしてその子も危険な目に。
自分も斬られて血が……だんだん視界がぼやけてきたぞ……
ヤバい、今一瞬眠くなった、よく寝たら最期だっていうし、、んっ?
自分の傷口を良く見ると血は出ているがそこまで深くはないみたいだ……視界がぼやけたのは……気のせいかな。
病は気からと言うが、段々と意識がはっきりとしてきた。
というか心に余裕まで出てきた。
あんな少年が奮闘していて、こんなかすり傷でひーひーいってる自分が恥ずかしい。
というかあいつだって同じ人間だろ。
よし……いける。
そう意識し自分の固まった足を叩く。
まずは奴に隙を作らせて、その隙を彼に突いてもらおう。
俺は折れた刀の刃を拾い右手に、柄は左手に持ち直す。
ただ奴の動きも尋常じゃないな……ただ投げつけただけじゃダメだよな。
こういう時に冬樹がいればなんか良い事も思い付きそうなのに……まぁいないやつの話しても意味ないな…………あれやってみるか。
奴と少年は未だに打ち合っている、お互いに疲労の色が見える。
出きる限り気配を殺して近づく、奴との距離は12m……10m…………よし今だ「ぉらぁっ!」
声とともに折れた刃を投げつける。
投げた瞬間、声を出したこともあり奴と目があった気がする。
声で気づかれ、飛んできた刃は刀で弾き落とされる。
「無駄だ、っ?!」
俺の投げた刃を弾き落とし安心したのか2投目には気付かなかったらしい。思惑通りだ。
俺が投げたのは1投目には刃、2投目には折れた刀ごと、出きるだけ同じ軌道になるよう間髪空けずに投げた。
この技は陰陽ナントカという技で、とある漫画から拝借した。
俺も髪型真ん中分けにして京都に店を出そうかな……いや似合わないからやめておこう。
ただ、こんなに上手くいくとは思わなかった……まだ心臓がバクバクしている。
折れた刀の先は浅くしか刺さらなかったが、奴の右肩に突き立った。
奴に隙を作るのには十分なはず。
「今だ!」そう少年に呼びかけた。
…………しかし、少年は動かず俺を見てきた。
え、何?……卑怯だってこと?……いや、そもそも君を助けるためでもある訳だし、相手は殺人犯だし……つかなんで心の中で言い訳してんだ俺は。
「……先にこのガキから殺ろうと思ったけど、やっぱり君にするよ」
また口元をひきつらせながらこっちへ歩いてくる。
ガシャンっと浅く刺さっていた刀が地面に落ちた。
「いや……え?俺?……ですよね(笑)」
余計なことをしたようだ。
歩きから一気に突っ込んでくる!
だが奴は「ちっ」っと舌打ちをし後ろを振り向き刀を受ける。
少年が斬りかかってくれたようだ。
「邪魔すんなよ、お前じゃおれには勝てないんだよっ」
奴は荒々しく刀を振り回す。
さっきと何も変わってないぞ、むしろ相手を余計怒らせた。
というかなぜ少年は攻めないんだ!せっかくチャンスを作ったのに……
「まだやってんのかカノン!」
突然長身の男の人が現れた。その男は少年に向かって話しかけてるようだ。
「……さすがに不利だな」
奴はそういうと少年の刀を弾き姿を消した。
追いかけようとする俺に男は「待てっ!死にたいのか?今救急車を呼んだからじっとしてるんだ」
なんだこの人、いきなり現れて仕切りだしたぞ。
「でも今アイツを逃がしたらまた誰かが襲われるかもしれないですか!」と、は反論。
「今の君が行っても殺されるだけだ、やめておけ、カノンが居なかったら君は既に死んでる」
ぐ、たしかにそうだがアンタに言われる筋合いはない。
「いや、そもそも貴方は何なんですか!突然現れて人に命令して」
「俺は一応警察だ、一般の警官ではないがな」
警察なんですか……言葉使い悪かったかな、大丈夫かな。
「そ、そうですか、すみませんでした」何謝ってんだおれは。
「わかれば良い、それよりカノン!お前がいてなんで彼が斬られてんだ?」
「私が来たときには既に斬られていた。弓近がもたもたしてたから、責任は貴方にあります」
「ったく、相変わらず堅苦しいやつだ、護衛対象が、まさかわざわざ犯人のいる方へ行くとは思わなかったからな、ホントにそこまでして守る価値があるのか疑問だね」
話がどんどん進んでいく。
とりあえず少年にお礼を言おう、
「あの……先程は助けてくれて本当にありがとうございました。君がいなかったらどうなっていたか。傷は大丈夫ですか??」
そう言いながら少年の元へ近づいた。
そこで俺はあることに気づいた、あれ……少年??じゃないかも。
すると彼女から挨拶をされた
「はじめまして、今日付けで貴方の護衛につきます、霧島夏音です。宜しくお願いします。私の傷は大したこと無さそうですので、大丈夫です。
貴方の方こそ大丈夫ですか?」
突然の事に驚きつつ応える
「僕は大丈夫そうです。病院へは行きたいですが……?……護衛?……僕を?」
挨拶の言葉のどこに突っ込めばいいのかわからず取り留めもなく疑問をぶつけた。
「はい、そうです貴方を守るように本部から言われてきました。
昨日の殺人事件の犯人は他の殺人事件にも関わっている疑いがあり、その顔を見た唯一の証人である、高柳幸成さんを護衛するよう警視庁から派遣されたという訳です」
やっぱり、近くで見て、話して確信した。
少年は女の子だ。
いや、少年だと思っていたけど少女だった、が正しい。
しかもよく見るととても可愛い……さっきは平常じゃなかったし性別とか気にしてられなかったからな。
気持ちが落ち着いてきたという事か。
「そうだったんですね、ありがとうございます。
あの……やっぱりさっきのアイツは先生の奥さんを殺した……」
「あぁそうだ、奴は諸戸早希、陽子殺害の容疑者だ。その他にも何件か殺人や殺人未遂の容疑がかかってる。ちなみに奴の顔を見て生きてるのは君くらいだ。皆死んでるか意識不明だからな……あ、まぁ俺と夏音も今さっき見たから今は3人だな」
やっぱりあいつが犯人か……今ももしかしたら誰かを。
「でも今はこんな殺人事件が増えてるって聞きますが、俺なんかに二人も付けて大丈夫なんですか?」
少し呆れた顔でこっちを見られる。
「大丈夫な訳ないだろ、こうしてるうちにも犠牲者が出てるかもしれない。君はそこまでしても守らなければならない人間なんだ、自覚してほしいよ」
「すみませんでした」
なぜ謝らなければいけないのか、わからないのに謝ってしまった。
「俺に謝られても仕方ないことだよ。まぁ俺ら二人も奴の顔を拝めたから、君の護衛もあと数日かな、安心するといい」
嫌なやつ。
顔は良いかもしれないが……背も高くて割りとガタイも良くて、頭も切れそうだけど嫌なやつだ。
「あのっ、高柳さん、すみませんちゃんとした自己紹介がまだでしたね、私は警視庁特殊捜査課、特別護衛官の霧島夏音です。宜しくお願い致します。そしてこちらは、私と同じ課所属の……」
「近衛弓近だ。俺の担当は君の家族、親御さん担当だからあまり関わる事はないと思う」
……ん?何のアピールだよ!
俺もイケメンムキムキ男はお断りですけどね!!
というか霧島さんも警察官ってことは俺より年上なんだよな、可愛らしい容姿からはとてもそんな風には見えないけど。
身長は俺より少し低いくらいか、髪は金髪ボブ?ミディアム?女の子の髪型は良くわかりません。
全身黒の制服か、黒ずくめだと警察官っていうより暗殺者って感じだな。
「あのすみません、近衛さんがボクの家族担当って仰ってましたが、僕の担当は霧島さんという事ですか?」
「はい、そうです。今日から数日間宜しくお願い致しますっ」
頭を深く下げる姿は、さっきまで犯人と斬り合っていた子には到底見えない。
普通の女の子だ。
そうして少し話をした後、まず病院へ行き簡単に治療をしてもらう事になった。
その後警察へ行き、事情説明として取り調べの様な事を受ける。
霧島さんと近衛さんも立ち会ってくれたし気楽ではあった、まぁほとんど2人が話していたかな。
その後家へ帰った。
時刻は夜の7時を回っていたが、警察へ行く前に親には連絡しておいたから、心配などしていないだろう。
ただ……この2人がいる事を受け入れてくれるかが心配だ。
kogetora_suguです。
話の中だけではキャラクターの名前等分かりにくいかと思いますので、簡単にご紹介させて頂きます。
まず舞台となっている町は、殿町という所で、現代の東京のような町です。
高柳 幸成
石倉高校2年、元サッカー部、現在軽音楽部
身長 165程
父親
高柳 幸一 (たかやなぎ こういち)
建築自営業
母親
高柳 香織
専業主婦
姉
高柳 絢香
大学2年
同級生で同じ部活動仲間
黒木 泰平 (くろき たいへい)
高校では仲は良い方、
身長177
中々イケメン
クラスメイト
古西 泉美 (こにし いずみ)
身長158
頭脳 中々良い
運動神経 中々良い
見た目 中々良い 男子からの人気もある。
弓道部次期部長
黒髪ロング、たまにポニーテールにメガネが特徴
霧島夏音
身長153
金髪美少女
高柳幸成の護衛官
近衛弓近
身長180
霧島夏音と同じ護衛官
とりあえずざっくり紹介。
細かな詳細はお話の中での説明と、時期をみてキャラクタープロフィールを投稿したいと思っています。
是非引き続き宜しくお願いいたします。