2.第一章[帯刀令]
職員室の机の上の光景を不思議に思ったのは俺だけじゃなかったみたいだ。
「先生、これはどういう事なんですか?」と疑問をぶつける小西さん。
「まぁ取り敢えずテレビ観てみるか」と言い先生はテレビの電源をつけた。
ついた瞬間の映像は、何やら国会議事堂前の様だ。
「やっぱりまだやってんのか」と諸戸先生。
何が?と思ったがまぁ取り敢えず黙って見ることにした。
その後、映像は切り替わり、今度は見覚えのある白髪のおじさんが映し出された。
その人の前には数本のマイクが置かれていた。
「えー、国民の皆さまに再度お伝え致します。もうすでにご存知の方が殆どだとは思いますが、改めてお伝え致します。
本日5/7を持ちまして我が国、羅国はアルメント国の統治下に置かれる事となりました。
そして、その政策の1つと致しまして帯刀令が実施されます。
また、それに伴いましてその他の法改正も行われ…………」その後も殺人罪の緩和や増税の話、最後には暴動の映像など様々な事が、一日で大きく変わった事が説明された。
「先生……まだ良くわからないのですが」
俺も古西さんもテレビの説明だけでは、はいそうなんですかと理解出来る程の説明ではなかった。
そもそもアルメント国の統治下ってなんだ、羅国はどの国も支配せず支配されない独立国で強国のアルメント国ともうまくやっていたはず、それに統治下なんて、同盟でもなく支配って事か?
そもそも昨日まで何事もなかったじゃないか、戦争もせずに支配なんてできるのか?
ただ、今戦争をしたとしても、国の大きさ、人口の多さと、どれもアルメント国には及ばないから結果は見えているかもしれないけど……。
急な出来事の連続で混乱し考えはまとまらない。
「まぁこれだけ見てもわからんだろ」と諸戸先生はイスに座るように促した。
僕ら二人は言われるがまま空いてる席に腰かける。
「俺ら教師に知らされたのも今日の早朝だ、まぁ国民に知らされたのと同時だから当たり前だが……
まず俺らが学校にいるのは、お前らみたいに知らずに来る奴がいるんじゃないかと思ってな、教頭先生にお願いして学校を開けてもらったんだよ。
そうじゃなけりゃ今頃俺らも家から出ようとは思わん。
まぁ教頭先生を巻き込んじまって悪かったが」
「いえ、私は構いません。最初は誰も来ないと思っておりましたが、あなた方のような子達もいるとわかり、来てよかったと思いますよ。
ただしこうして待っているのも10時までにしましょう。その時間になれば来る生徒は流石にいないでしょうし、諸戸先生にもお子さんがいらっしゃるので心配でしょう」
「あぁ、うちには妻もいるし、たまたま私の妹も来てたから安心ですよ。
教頭先生もありがとうございました」
二人の先生の会話を聞いて、やはり先程のテレビの映像も目の前の光景も現実なんだと実感した。
その時、職員室の電話が突然鳴った。
「はい、石倉高等学校です。はい、えーはい、おります。…………かしこまりました、大丈夫です、そのように致しますのでご心配なさらずに、はい、では失礼致します」
電話を切った教頭先生は少し安心した顔をしていた。
「古西さん、今仕事場のお母様からご連絡がありました。早朝に出掛けた為、仕事場についてから今回の件を知ったようです。
とても心配されていたので帰って安心させてあげてください。お母様もすぐ家に戻られるそうですので。」
「ありがとうございます……私もさっきの映像を見て心配で……お母さん抜けてるとこあるし……」と古西は少し涙目になっていた。
「あ、それとお母様からの申し出で、御自宅までお送りすることになりましたので、申し訳ないのですが10時まで学校で待っていて頂けますか?」
「えっと、いいんですか?」
「えぇ、他の生徒も一緒になるかとは思いますが、諸戸先生ともその様に考えていましたので大丈夫ですよ。安心してください」
「お願いします。ありがとうございますっ」
お母さんが無事で安心した事もあるのか、涙目ながらもいつもの古西さんの笑顔に戻っていた。
「良かったね、古西さん、お母さんも無事みたいだし!というか古西さんなら今回の事は朝のニュースとかで知っていると思ったけど」
「う、うん、今朝は少し油断してて、朝練もないから昨日は遅くまでゲームしてて……」と顔を少し赤くし、照れながら話す古西さん。
……なんと!あの真面目な中々古西さんがゲームをするとは、普段の運動や勉強の成績からは家に帰ったら少しお茶をして、その後は勉強、夕飯の支度のお手伝いをして、運動は朝練もあるから夜はしないかな、寝不足はお肌の敵!夜は11時には寝ます!等と妄想を膨らませていたが、まさか夜遅くまでゲームをするなんて!意外な一面を垣間見れたぞ。
そして好印象だ、ギャップ萌えだ!
と、ここまでが勝手な妄想。
「古西さんもゲームするんだ!!意外だね」
「そう?やっぱり変かな?」
「いやっ!!!良いと思うよ、ちなみにどんなゲームを?」
と、そこで電話が鳴った。
なんでこのタイミングで!と怒る俺、
「はい、石倉高校です。」
「はい、えぇはい、おりますが代わりますか?はいかしこまりました。その様にお伝え致します。ご連絡ありがとうございます。それでは失礼致します。」
そこで教頭先生は電話を切り、こちらを向いた。
「高柳君、今度はあなたのお母様からでした。急に家を出て来たそうですね、親御さんのご指示には従うように気をつけてください。
すぐに帰ってくるようにと仰っていまいたよ。お母様もとてもご心配されていました」
「え……急に飛び出して来てはないのですが」
「なんですか?」
「いえ、すみませんでした、すぐに帰ります!」
なんで俺だけ叱られるんだよ……親達がちゃんと説明しなかったくせに俺を悪者にしやがって……と考えつつも、心配してくれていたのか、少し悪いことしたかなとも思う。
「教頭先生、私の家の方向は高柳と一緒ですので残りの生徒を送るついでに届けて来ますよ」
「そうですか、申し訳ございませんが宜しくお願い致します、諸戸先生」
「わかりました。という訳だから高柳、取り敢えず自転車は学校に置いておいてくれ、まずは家に帰ることを優先しよう。他の生徒ももうそれほど増えんだろうが10時までは教室か図書室にでも行って待っていてくれ」
来るときも問題無かったし、それほど危機感も覚えなかったので送って頂かなくて結構ですと言うか迷ったが、話が進んでいたので取り敢えず従うことにした。
「じゃ高柳くん図書室で良い?」
と古西さんからお誘いが……
「そ、そだね、教室行っても何もないしね、本でも読んでいれば時間もすぐたつね」
その後の時間を2人図書室で過ごした。
恐らく自分だけが、二人きりというシチュエーションに終始どきどきしていた。
kogetora_suguです。
話はまだまだ序盤、冒険もなければアクションもありませんが、どうか最後までお付き合い頂けましたら幸いです。
宜しくお願いいたします。