3:サービス開始
サービス開始日、午後1時からの開始とあり昼食を簡単に終わらせてトイレも済ませた。
サービス開始までは後5分。
昂る気持ちのまま、VRカプセルに入り、その時を待つ。
すでに接続は終えており、キャラメイクを行った部屋で待機状態となっており、カウントダウンを示す時計が表示されている。
いよいよだ。
この日の為に開発の合間に相棒と協力して、『チート』も用意した。
俺達の優雅なプレイは約束されたようなものだ。
時計を見れば、30秒を切っていた。心を静かにその時を待つ。
『只今より、サービスを開始します』
アナウンスと共に俺の意識は移り変わる。
『ようこそ、Again Horic On-lineの世界へ』
ダイブした場所は噴水のある広場。ここは始まりの都コナン。
中世ヨーロッパ風の街並みの中、さっそくマップで確認すれば、サーバーが重くなるのを防ぐために幾つか設定されているポータルポイントのひとつ。街の北側にある広場のひとつにダイブしたのだとわかった。
周りからは同じようにダイブしてきたプレイヤー達の驚愕する声がポツポツと時間が経ち、人が増えるたびに歓声へと変わっていく。
俺も開発中のデータを見て美麗さは知ってはいたつもりだったが実際にダイブして見てみると現実と変わらないクオリティーで思わず、驚きの声をあげそうになるが今はそれよりも俺達専用のチートアイテムを回収するのが先決だ。
無事にデータが反映されていると良いのだが・・・。
広場で増え続けるプレイヤーを掻き分け、待ち合わせ場所へと向かう。
現在は街の北側にいるので中心部へ向かい人混みを抜け出すとマップを開きながらショートカットのため細い路地に入る。
今、目指している場所はこの街唯一の教会。そこにひとつ目のチートアイテムが隠してあり、合流地点でもある。
すれ違うNPCを無視して足早に駆け抜ける。
第一陣だけで3万人いるが街には余裕で受け入れられる広さがあるだけにこの街はかなり大きい。
マップを確認しながら進むこと数分。教会がやっと見えてきたが相棒のシコウとは遭遇しなかった。先を越されたのかと思いつつ、進んでいく。
教会はサッカー場2面分ほどの敷地に神殿と言って差し支えない造りをしており、外周を3メートル位の石壁が囲っている。
門は無人で出入りは自由なようだ。
敷地に足を踏み入れると教会の中には入らず、建物と塀の間を進んでいき、建物の裏側を目指す。
裏側に着くなり、ひとりの男が手を上げて挨拶してくる。
『よう、遅かったな』
見た目は俺のアバターとほぼ同じ体格の180cmくらいの細マッチョ。
肌はやや焼けており、浅黒い感じに髪は黒髪。
顔はイケメン俳優を思わせるセクシーな顔立ち。
「早かったな、シコウ」
頭の上にはプレイヤーを意味する緑色の逆三角形とネームが出ていたので相棒のシコウだと断定する。
「たまたま、近くにダイブしたからな。それにしてもユウギのアバター、リアルとあまり変わらないな」
今、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「おいおい、俺がどれだけ心血注いで作ったと思ってるんだ?そもそも、シコウだってリアルとそっくりじゃねぇか!」
こいつ苦笑いで返してきやがった。まあ、アバターを弄るにも制限が設けてあるから仕方がないのだが。
「それよりも早く確認しようぜ!」
俺を待っていてくれたシコウに促され行動に移す。まずは石壁に使われている石を数える。
俺は石壁の端の下から5段目、右から13個目の石垣。シコウはさらに5つ隣の石を選ぶ。
目当ての石を確認すると二人で頷き、初期装備の剣の柄を使って、表面を叩き割る。
「「せーのっ!」」
ドカッ!
綺麗な長方形に整えられた石は空洞になっており、中には皮製の袋がひとつ。
ゆっくりと手を伸ばし、袋を掴む。隣ではシコウも同じように袋を取り出している。
これが俺達の仕込んでおいたチートアイテムだ。後はちゃんとアイテムが入っているかどうかを確認するだけ。ここまでは今のところ問題ない。
この袋も実はただの皮袋ではなく、魔法の袋だったりする。
お互いに顔を見合せ、頷くと恐る恐る魔法の袋に手を入れて、仕込んでいたアイテムを思い浮かべる。
手にアイテムを掴んだ感触を得ると自然と口角が上がった。
袋から引き抜いた手の中には虹色に輝く小さな宝石が付いたピアスが1つ。
[レギンレイヴピアス]
【レア度】★★★★★★★★
SP+150、INT+150
全攻撃時属性付与
隠蔽効果
※ユウギ専用装備
『装備者の全ての攻撃に属性を付与する。その際に敵の弱点属性に自動的に変更する。又、隠蔽効果を持ち、看破スキルによる露呈を防ぐ。』
この装備さえあれば、どんな敵にも特攻効果が望めるまさにチート。しかも、他のユーザー対策用に隠蔽効果を持たせつつ、盗まれないように専用化して対策済みだ。
そして、まだ他にもチートアイテムはある。
次に取り出したのは3つのカプセル錠。
[成長増進剤]×3錠
【レア度】★★★★★★★★
※消費アイテム
『使用するとレベルアップ時のボーナスポイントが1ポイント増加する。』
このカプセル錠は説明の通り、使用すると本来6ポイントしか貰えないレベルアップボーナス値を永続的に増やすことが出来る。これによりレベルアップのたびに他のプレイヤーとの差を拡げることが出来るチート・オブ・チートなアイテムだ。
まだまだ続く。
[自然治癒(大)の書]
【レア度】★★★★★★★★
※消費アイテム
『スキルが記された珍しい書物。自身に使用すれば、内容のスキルを修得することができ、装備品に付与することも出来る。』
コンビでの活動に加えて、ガチガチの剣士ビルドを想定して、万全の体制で望めるように用意したアイテムだ。
次に取り出したのは・・・。
[不思議な地図]
【レア度】★
※譲渡不可
『何処の場所を記しているのか解らない不思議な地図』
この地図も二人で行動することを想定して、用意した物でダンジョンで効力を発揮する。簡単に説明すると初めてのダンジョンだろうが瞬時に構造と罠を読み取り、地図に表示してくれるのだ。
これにより、スカウト系技能の大半を必要としなくなる反則級アイテム。
[魔法の鍵]
【レア度】★
※譲渡不可
『どんな鍵でも解錠することができ、尚且つ罠も一緒に解除することが出来る魔法の鍵』
不思議な地図とセットでこれさえ持っていれば、ダンジョンで困ることは少ないだろう。
そして、最後は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お金だ。
お金は大事だからな、当然用意しておいたさ。
さて、隣を見れば、シコウの方も問題なかったようでここでの回収は終わったので次の場所へ移動する。
仕込みが発覚した際の修正を恐れて、念の為に分けておいたがこの調子ならもうひとつの方も運営に対する隠蔽も大丈夫だろう。
次の場所へ向かおうとシコウを見れば、フレンド申請が飛んできた。
「俺もユウギも回収に夢中でフレンド登録もしてなかっただろ」
確かにチートの回収に気を取られて、すっかり忘れていた。
すぐに承認すると改めて挨拶しておく。
「今更だけど、これからよろしくな!」
「おう!俺の方こそ、よろしく!」
硬く握手をかわし、俺達は次の場所へと向かうのであった。




