2:キャラメイク
数々の伝説的な人気ゲームが生み出された現在。
新たな伝説の1ページを刻むゲームの開始が3日後に迫っていた。
『Again Horic On-line』
このゲームを体験してしまったら「もう現実には戻れない」みたいな意味らしい。
略して『AHO』。
普通に読んだらアホなので制作会社の上の人達はこれで大丈夫なのかと思ったものだが期待しているユーザー達にはアホほど凄いゲームなんて良心的に捉えられているみたいなのでいいかと思う。
1週間前、俺達『最高 友誼』と『芸向 至高』は自分達の仕事を全うして契約終了を迎えている。
もしかしたらゲーム開始後のサポートなんかも頼まれるかもしれないと思っていたが俺達の何物に代えてもプレイしたいんだという気持ちを上司が汲んでくれたのだと思う。
今回、開発に携わったゲームのプレイに際して、社会人になってからというもの普段から仕事とゲームしかしておらず無駄らしい無駄遣いをしていなかった俺はそこそこな金額の貯金がある為、4年くらいなら無職でも大丈夫だななんて軽口を叩いていたらシコウも似たような生活をしていたらしい。
サービス開始は3日後だがキャラメイク自体は1週間前から開始されている。
最高の環境で楽しむ為の準備も主にインスタント食品の確保も終わり、部屋の中央に陣取るは最新式カプセル型VRマシン。人がひとり、すっぽりと納まるカプセルに身を委ねキャラメイクをスタートする。
「リンクスタート!」
それまで感じていた五感が途切れ、気付けば現実とは違う床と全身を写せる鏡だけが存在する部屋に立っていた。
キャラメイクを促すアナウンスを聞き流し、さっそく始める。
『ゲーム内で使用する名前を入力してください』
指示に従い、入力する。
名前は『ユウギ』。本名そのままだ。
『では次の設問にお答えください』
この設問がなかなかの曲者だったりする。と言うのもこの設問で選択した答えにより、この後に選べるJobと種族と初期スキルが変わるからだ。
開発に携わっていた俺達は当然、設問の内容とその答えによって反映される結果を知っていたので事前に打ち合わせをして、最適だと思う答えを決めてある。
『次はあなたがなりたいJobを選択してください』
表示されたJobは『剣士・軽剣士・重剣士・盾士・侍』の全部で5種類だ。
その中からゲーム内でも行動を供にするシコウと相談した結果、俺が選んだ職業は『剣士』だ。ちなみに相棒の至高も『剣士』の予定だ。
『剣士』を選択する。
『種族を選択してください』
選択可能な種類は『人族・獣人族(5種のみ)』の2種族のみ。
前の設問次第でレアな種族が出たりもするのだがシコウと色々と考察した結果、人族が一番無難との結論に至ったので人族を選択する。
[Name]ユウギ
[level]1
[Job]剣士
HP:10 MP:0 SP:10
STR:10
VIT:5
INT:0
MND:5
DEX:10
AGI:5
LUK:5
《J/skill》
《skill》
これが人族の剣士の基礎値になる。さらにこのキャラメイクでプレイヤーが好きに割り振れるポイントは50ptあるが出来上がったキャラが気に入らない場合はこのポイントを2ポイント支払うことにより、やり直しが出来る。
当然、25回を超えるとボーナスポイントは0になる。
さて、先に進もう。HP・MPはそれぞれVIT値とINT値の2倍と決まっているので数値を上げたければどちらかにポイントを振るしかない。SPはレベルにより、10ずつ上昇する。
魔法威力及びMPに関係するINT値がない時点でお気付きかもしれないが所謂、『脳筋ビルド』だ。
ステータスの下にある《J/skill》は職業固有もしくは専用スキルで《skill》は一般的なスキルになる。
違いはステータス値の補正に関わる。
例えば、職業を剣士にした俺が選択出来る《J/skill》、【J/剣術Lv:1】ではSTR+10、DEX+10という補正がステータスにつくが《skill》の方では【剣術Lv:1】を選択しても補正値はSTR+5、DEX+5と《J/skill》の半分しか補整が点かない。使用できる剣技に違いはないけど。
両方とも取得すれば、それぞれステータス値が+15されるが《skill》にも枠が存在し、初期では5つしかないので無駄に消費する訳にはいかない。《J/skill》に至っては1つのみ。レベルを上げて、Job条件を満たしていけばクラスアップして枠は増えていく。
とりあえず、ポイントを割り振るとしよう。
[Name]ユウギ
[level]1
[Job]剣士
HP:30 MP:0 SP:10
STR:25
VIT:15
INT:0
MND:5
DEX:25
AGI:15
LUK:5
次はスキルだ。俺の選んだ剣士の《J/skill》はまだ【J/剣術Lv:1】、【J/大剣術Lv:1】、【J/細剣術Lv:1】、【J/回避Lv:1】しかない。なので【J/剣術Lv:1】を選ぶ。
初回のみ《skill》の設定にはスキルポイントと交換で取得する。ただし、スキルポイントが使えるのはキャラメイク時のみで以降は努力と根性で発現させていくしかない。
この初期スキル選択が強さを左右する。
今あるスキルポイントは100pt。
当然だが剣士である俺が攻撃魔法や支援魔法といったスキルを取得しようとすると本職に比べてかなり割高なポイントになるので注意が必要だ。
それを踏まえた上で選択する。
[Name]ユウギ
[level]1
[Job]剣士
HP:30 MP:0 SP:10
STR:40
VIT:15
INT:0
MND:5
DEX:45
AGI:40
LUK:5
《J/skill》
【J/剣術Lv:1】
《skill》
【剣士の心得Lv:1】
【思考加速Lv:1】
【同調強化】
内訳はこうだ。
【J/剣術Lv:1】
STR+10、DEX+10
※剣士にとって必須なスキル。
スキルレベルに応じて、剣技を覚えていく。
【剣士の心得Lv:1】30pt
STR+5、DEX+10、AGI+5
※剣士系スキルの成長を促す運営オススメのスキル。
(passive skill)
【思考加速Lv:1】50pt
AGI+20
※戦闘中、任意により思考を加速させる。
(active skill)
【同調強化】20pt
※パーティー内に同じスキルを保持する者がいる場合に限り発動する。
保持者同士のSTR、VIT、INT、MND、DEX、AGI、LUKの数値が一致するたびに1.2倍ずつ加算され最大でステータス値を2倍まで引き上げることが出来る。
(passive skill)
特筆すべきは【思考加速】と【同調強化】だろう。
【思考加速】は総合能力値の低い人族限定のレアスキルであり、この為に俺とシコウは泣く泣くケモミミを諦めた。ちなみに獣人族だと【思考加速】に代わる【野生開放】という制限はあるがステータスを1.5倍にする強スキルや定番の森人族ならば【精霊魔法】、土人族は種族特性として火属性・土属性耐性を持つ。
【同調強化】は事前にどういうビルドにするかシコウと話し合った時、お互いの好みが大変似ており、ならば【同調強化】を取得してステータスを爆上げしてやろうという話になったのだ。なのでこのキャラメイクでは同じステータス値に同じスキル構成となっている。
俺達は技巧派のビルド剣士を目指す予定なので回避や見切りといったスキルも捨てがたいがJobのクラスが上がれば、《J/skill》で出てくるので初回は見送りだ。
ステータス設定が終わり、決定するとアナウンスが流れる。
『選択したスキルの中に使用に伴い、注意が必要なスキルがあります。一度、使用の上、身体に影響が出ないかご確認ください』
『使用上、注意が必要なスキル』
※【思考加速】スキル。
・確認する
・確認しない
俺は確認しないを選ぶとアバター作成へと移る。
思考加速スキルは通常時よりも脳に負担がかかる為、人によっては吐き気や目眩を起こすことがあるが既に俺達は開発中にどんな感じになるのか気になって、上司を説得して散々試した上で平気だったので取得に踏み切っている。
さて、気持ちを新たにゲーム開始まで3日あるので余裕はあるが気合いを入れて、イケメンアバターを創らねばならない。なぜなら相棒にアバターで負ける訳にはいないし、何よりイケメンじゃないと俺のテンションが上がらないからだ。
その日、遅くまで作業した甲斐もあり、黒髪黒目の細マッチョイケメンアバターは完成した。




