表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/42

プロローグ

 ある朝起きてみるとわたしは豚になっていた。


 まるでどこかの小説の出だしのような始まりだった。


 自分がいつ寝たのかは記憶にない。しかし目覚めてみると、明らかに今まで自分のいたところとは違うところにいた。


 天蓋というのだろうか、ベッドの上に大きなおおいのようなものがついていた。それもこれでもかというほど装飾が施された厚い布である。

 横たわっている寝台はあり得ないくらい柔らかく肌触りのよい布だ。手で触るとすべすべしてそれでいてほんのり暖かい。


 ここは私の部屋ではない。ぼんやりとした頭でもわかる。わたしはいつも布団で寝ていた。ベッドなどつかったことはない。

 ホテルにでも泊まったのだろうか。そうだとすると、何の間違いか超豪華一流ホテルのスィートにでも迷い込んでしまったに違いない。それほど豪華な装飾のある部屋だった。


 体を動かそうとすると異様に重かった。ダンベルをいくつも体につけているような気がする。

 まさか酔いつぶれるまで飲んでしまってその先でどこかのホテルへ直行・・・なんてことはないな。

 しかし、飲み過ぎたことには変わりがない。なにしろベッドに横になる姿勢ではなく半分体を起こして座った状態で眠っていたのだから・・・。


 その部屋に私以外の人の気配はしない。とても静かだった。

 いつも部屋をがたがた揺らすトラックの振動もエンジンの音も聞こえない。今日は休日だっただろうか。頭にもやがかかっているようで、日付がわからなくなっている。


 変な姿勢で眠っていたせいか体がしびれているようだ。アルコールのせいもあってかうまく体が動かせない。

 もぞもぞと重い体を動かすと柔らかいクッションがたくさん体の下に埋まっているのを感じた。ふわふわした大量のクッションだ。私がクッションに埋もれているのか、それともクッションが私に押しつぶされているのか・・・。


 押しつぶされる?

 わたしに?


 わたしは手で目をこする。何かがおかしい。

 わたしの手にはたくさんの指輪がはまっていた。いや、指輪に指がめり込んでいる。ウィンナーのように見えるが、わたしの指だ。ぽっちゃりとした指にめり込む金属の環・・・。これは誰の指なんだろう。


 指輪もすごい。とても高そうな石が肉のつきすぎた指を飾っている。いや、高そうなんだけど、これはないだろうというくらい悪趣味だよ。ごてごてした石が当たって痛い。

 いつ、わたしはこんな変な指輪を手に入れたのだろう。はずそうとしたが、当然外れない。ハムに食い込んだ紐のように押しても引いても動かなくなっている。


 それに・・・この指についた肉は何だ。まるで手袋を何重にもつけているかのように膨張しているではないか。

 確かにこれはわたしの指だ。動かそうと思えば、ひくひくと動く。だが、どう考えても今までのわたしの指ではない。こんな指ではパソコンも打てない・・・そう思ってから、私が疑問符をつける。ぱそこん、ってなんだ?


 わたしは混乱する。私って誰だ?私の中にわたしがいるのか。


 混乱したわたしの目の端で何かが動くのが見えた。

 人だろうか。


 そちらにおそるおそる目をやると、その人もこちらに向き直るところだった。

 いや、人ではない。


 豚だ・・・

 人豚だ・・・


 肉の中にめり込んだ小さな目がこちらを見て少しだけ大きくなった。

 わたしはその化け物を見て悲鳴を上げる。

 それを見て、相手も口とおぼしき穴をめいっぱい開いて何かを叫んだ。


 怪物だ・・・人豚だ・・・


 長い、甲高い悲鳴が部屋の中に響き渡った。

 その不快な音と、化け物をみたショックでわたしは意識を閉ざす。


 後になって気がついた。

 あれは鏡に映った私の姿だったと。


お読みいただきありがとうございます。

30話前後の長さになる予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=onscript?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ