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狂人  作者: 透明人間りんね。
7/8

7.不穏

 「眠い…。」

 リーサの後について歩くジャックが、欠伸をかきながら呟いた。横にいたドロシーは、伸びをしているその横腹に手刀を入れた。

 「仕事中だよ!」

 姉にそう言われ、渋々と返事をしたジャックは、今度は口の中で欠伸をした。

 二人の様子に、前を歩くリーサは楽しそうに笑う。

 「あんたらはいつも仲が良いね。」

 振り返ると、不満そうな顔をしたドロシーと満面の笑みを浮かべたジャックがいた。ジャックはリーサのスカートをつかむと、思うがままにブンブンと降る。

 「さすがリーサ!わかってるね。姉さんと俺は二人で一人なんだ!」

 「違うもん!」

 ドロシーはジャックの背中を叩いて一生懸命拒否する。しかしジャックはどこ吹く風。ドロシーの動作をすべて無視している。

 それが勘に触るのか、ドロシーの叩く音が次第に大きくなっていく。だんだんジャックの悲鳴も上がってきた。

 「ほら、喧嘩すんな!」

 見かねたリーサの掌が、騒ぐ二人の頭に降りかかった。

 「ジャックはお姉ちゃんに甘えたいんだよ。」

 「同い年なのに?」

 ドロシーは頬を膨らませ、嫌そうだ。ジャックは、味方をしてくれているリーサの腰にぎゅうと抱きついた。

 「そう!俺は姉さんが大好きだからね!」

 高々と宣言する。その迷いのない声には、幼稚さだけでなく、どこか妖艶な雰囲気が混ざっていた。

 「そうよ。こう好かれているんだから、今は受け止めな。」

 洗い物で荒れに荒れたリーサの手が、乱雑に二人の頭を撫でた。

 「人間、いつ別れが来るかなんてわからないんだから。」

 そう言った顔に陰りが出たので、双子は顔を見合わせた。いつも明るく快活な表情とはかけ離れていた。

 彼女の過去の事など、双子はなにも知らない。少なくとも、この人がオリービアのお眼鏡にかかったと言うことだけだ。

 「なあ、リーサ。」

 空気を変えようと、意識したようにジャックが明るい声を出す。

 「掃除が終わったら昼飯の準備だろ?俺、リーサの作ったホウレン草が入ったオムレツがいいな!」

 身ぶりまでつけて、楽しそうに言う。ドロシーも隣で大きく首を縦に振る。

 リーサは自分のしていた顔を理解したのか、眉間に手を置き、一つ溜め息を吐いた。そしてにいっと口角を上げた。

 「勿論、ニンジンとブロッコリーも食べるんだろうね?」

 「うっ。食べなきゃダメ?」

 ニンジンはドロシーの苦手な野菜。ブロッコリーはジャックの苦手な野菜だった。

 「当たり前だろう!さあ、そうと決まったらさっさと仕事を終わらせなきゃね!」

 リーサは、唇を尖らせた二人の背後に回った。そしてその薄い背中に手を合わせ、優しい力で前に進むよう押し始めた。

 「ありがとうね。」

 ふいにリーサが囁いた。

 双子は同時に振り向き、同じ顔をした。そして同じ言葉を吐いた。

 「何が?」



―――――――――――――



 「オリービア、今度どこかにいこうか。」

 大きい体をオリービアにすり寄せ、王は言った。

 窓の外を眺めていたオリービアは、それを聞いて嬉しそうに王の方へ振り向いた。

 「本当に?それだったらあなた。私、西の森に行きたいわ。」

 「西の森?」

 思いがけない場所だったのか、王からすっとんきょうな声が漏れた。

 「ええ。この前ゴードンが言っていたのだけれど、とても素敵なお花畑があるんですって。」

 庭師が言うからには、結構なものがあるのだろう。王も楽しそうに頷いた。

 「いいね、是非行こう。」

 「嬉しい!」

 オリービアが王に抱きつく。しかし、王の体が大きすぎて手が背中の中心まで届かない。

 それが不満なのか、唸りながらぽんと出たお腹にグリグリと頭を押し付けている。それが嬉しいのか、王は満面の笑みを浮かべ力強くオリービアを抱き締めた。

 オリービアの背中から不穏な音が鳴る。

 オリービアはそれに対しては何も言わず、ふふと笑った。

 「楽しみですね。」

 それを聞き、王は更に腕の力を強めた。

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