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狂人  作者: 透明人間りんね。
1/8

1.出会い

 「オリーヴィアはいるか」

 えらく恰幅の良い男が、周りに侍らした従者に焦ったように問う。そんな様子に慣れているのか、全員静かに目を伏せた。

 そんなか態度が気に入らなかったのか、男はもう一度声を張り上げた。

 「お散歩にお出掛けなさっています。」

 従者の中でも、殊更落ち着いた様子の初老の男性が、小さくそう応えた。それを聞いた途端、ばっと巨体を翻させて、男は窓辺へ駆け寄る。

 外はしとしとと、雨が降っていた。


******


 「今日は良い天気ね。」

 飾りっ気のないドレスに身を包み、女は庭を歩いていた。後ろにはたった一人、女の従者が付き従っている。

 「よろしかったのですか。今頃旦那様は大変焦っておいでだと思われますよ。」

 雨に声がかき消されぬよう、従者は少々声を大きくして問うた。そんな様子さえ楽しいのか、女は鼻唄を歌うかのように返事をした。

 「いいのよ、すこしくらい困らせた方が。」

 だってそっちの方が、私に執着してくれるでしょう、と彼女は続けた。

 「オリーヴィア様は意地が悪いですね。」

 侍女は苦虫を噛み潰したような顔をして言った。女は前を見ていて気づかず、「誉め言葉として受け止めておくわ。」と呟いた。

 しとしとと雨が降る中、二人は庭をつっきる。庭の中には、たくさんの紫陽花が咲き誇り、暗く沈んだ空の中、一層存在感を出していた。門の辺りに差し掛かった頃、女が足を止めた。

 「どうかなさいましたか。」

 後ろで不思議そうに従者が女の背を見る。女はそれを無視して、ゆっくり足を進める。足音をたてないように、ゆっくり、ゆっくりと。従者もそれに合わせて、ゆっくりとついていく。

 「こんにちは!あなた方、そこでなにをしてらっしゃるの?」

 元気よく声を出して、門の横に顔を出した。

 そこには、薄汚れた少年少女二人がいた。顔がよく似ている、双子であろうか。雨に濡れた肌は青白く、体ががたがたと震わせている。

 女は大きく目を見開き、徐々に口角を上げた。横に移動した従者は、その様子を見て、頭が痛くなったのか小さくため息を吐いた。

 双子は暫くの間呆気にとられていたが、男の子の方が、はっと意識が戻ったのか、女の子の前に立ちはだかるように立ち、「姉さんに近づくな!」と叫んだ。小さな手だ。震える手を見て、更に女の口元が緩んでいく。

 「孤児なのかしら。」

 女は先程よりも声を弾ましている。実に楽しそうだ。

 目の前の男の子はまるで親の仇とでも言いたげに、目尻を引きつり上げて、女を睨む。

 「関係ないだろ!大人は信じられない!どこかへ行け!」

 「ここは一応王宮の入り口なのだから、でていくのはそちらなのだけれど。」

 そこで一度言葉を切った。何か面白いことを思い付いたと言いたげに。

 女は口元を緩ませたまま、手を二人の前に差し出した。

 「あなたたち、私のお屋敷に来ないかしら。」

 柔和な笑顔を貼り付け、甘いセリフを吐く。外で凍えるか、暖かいところで就職するか。暗に問われていた。横にいる従者はなにもいわない。

 「女神様…。」

 女の子が小さく呟き、男の子の腕の下から手を伸ばし、女の手を掴んだ。男の子は慌てたように、後ろをふりかえる。

 女の子は恍惚とした表情で、はい、と返事をした。

 女は更に笑みを深くして、きいた。

 「私の名前はオリーヴィア。オリーヴィア=クーデンハルク。あなたのお名前は?」

 ――その瞬間、女の後ろから、光が差した。

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