夜
ーーーー何やら…少し蒸し暑い。・・・葉が揺れる音……風?それと…虫の鳴き声・・・・?
俺は、ぼんやりとする意識のなか辺りを見回した。
「・・・何で…こんな所に?(確か俺は、部屋で自慰行為に耽っていたはず…)」
どうやら俺は、森の中で気を失っていたみたいだ…。しかし何故、森にいるんだ?
辺りは真っ暗な闇に包まれており、木々の青臭い匂いが鼻をついた。
俺は少し考えた。もしかして、夢遊病か何かで、近隣の山に迷い混んでしまったのか?それとも、宇宙人にキャトられたか…?
・・・・いや、そんなこと言ってる場合か!とにかく、早くこの森を出よう。熊かなんか出たらヤバい。そう思い、背を預けていた木から体を動かそうとした時だった。
「ぐっ!あぁぁ!?」
体に痛みが走った。自分の体を良く見ると、見たことも無い服を着ていて血がベッタリ付いていた。
黒い軍服のような服、右腕には腕章と白い布が巻かれている。腰には小物入れと・・・・刀が差してあった。
・・・・どゆこと!?服装も然る事ながら、「刀てっ!これ銃刀法違反じゃねーか!ヤベェ!!!何でこんなもん持っ…!?てっ……痛ってぇぇぇぇ!!」
又、先程と同じ痛みが走った。俺は、恐る恐る自分の体を確かめた。
・・・・どうやら、体中傷だらけの様だ。それに、あばら骨や腕、足の骨がズキズキと痛む。だが一番心配だった、服にベッタリ付いていた血は俺のものじゃなかったようで、少しほっとした。
だが、状況がさっぱり分からない…。これだけの事になっているのに!覚えて無いなんて。記憶喪失でもなければ考えられない。
森の中、この格好に刀、それに傷だらけの体。
普通じゃない。・・・何があった?俺に…。・・・・冷静に自分の記憶を辿ってみる。
・・・・やはり俺は……自慰行為に耽っていた……はず!それが何で森の中?意味が分からな過ぎる!
どうする…。どうしたらいい…。
・・・・とりあえず、夜の森てっ危ないし。この血の匂いに誘われて何か、獣とか来たらやだし。木に登って、朝になるのを待つ…か。
俺は、やや混乱気味の頭で漠然とした考えを実行することにしたーーーが、
「痛ってぇぇぇ!!いや無理だろこれ、ワンチャン死ねるわ。痛さで!」
体中クソ痛くて、木を登るとか言ってる場合じゃないわ。病院行かないと。
・・・・でも、どうやって?・・・え?・・・・無理じゃね?・・・・・・・・どうしよう。
◇ ◇ ◇ ◇
暑い、喉が渇いた。それに体の傷がズキズキと熱を帯び次第に痛みを増していった。
俺は為す術なく、暑さでボーッとするなかボソッと呟いた。
「みず…水が飲みたい…」
そう言った瞬間、とうとう俺は横に倒れてしまった。
暑さと痛さで体力を奪われ続けたせいであった。
このまま死ぬのだと思った。だけれど妙に穏やかな気分だった。まるで、こうなる事を望んでいたかの様に。
薄れゆく意識の中、「嗚呼、俺はひょとしたら『安らかに眠らせて』欲しかったんじゃないか」と思った時だった。
目の前に液体の入った小瓶が、転がっていた。俺は最後の力を振り絞って、小瓶を掴み疑いもせずに中の液体を飲み干した。
スゥーっと体が楽になるのを感じた。それと同時に心の中で張り詰めていた物も解けていった。俺はそのまま目を閉じてしまった。
ーーーー
なにやら体が痛い。さっきのは夢だったのか死の間際に見る走馬灯…幻影?それとも最初から夢だったのか…。
俺はゆっくりと目を開いた。
すると、そこには大きいムカデの様な虫が俺の体の上を這っていた。
「ぎゃああああああああ!!?」
俺は飛び起き、急いでその虫をはね除けた。辺りは、薄らと明るくなっていた。