異端
『おーい、もしもーし。』
ーーーーー誰かが、俺を呼んでいる。……もう、朝か。…どうやら長い夢を見ていた様だ。しかし、まぁ…オナ○ーし過ぎて死ぬとか、これっぽっちも面白くはなかったがな……。そう思い俺は、重い瞼をゆっくり開いた。
『おはようございまーす。木村さん、あのまま消滅するのかと思いましたよ。』
俺の顔を覗き込みながら少女が言う。
「ーーーーここは?」
目の前に広がる美しい花畑、俺はまだ朦朧とする頭を上げ辺りを見回した。
『いやいやいや、木村さん!嘘でしょ!また最初っからやり直しとか勘弁してください!』
慌てる少女を無視してゆっくりと身体を起こす俺の脳裏に、先程までの出来事がよぎる。
そして、ふぃーと溜め息を漏らし、空を見上げて呟く。
「…………そっか、俺…オナ○ーし過ぎて……よし、死のうーー」
(夢なら覚めてくれ…)と、淡い期待を胸に空を見つめていると少女が飛び掛かって来た。
「何でだああぁぁぁぁ!おかしいでしょ!さっきまで心残りを無くして、異世界転生する流れだったでしょ!」
少女が叫びながら、オナ○ー野郎ふざけんな!話が違うでしょ!などと言い、俺の胸ぐらを掴んでぶんぶん揺らす。
「いやもう、心残りどころか…何か…色んなものまで無くなりましたわ。」
輝きを失った目で、無気力に男が答える。
『何でですか!異世界転生したら過去のことは、関係ありませんよ……そうだ!何でしたら、テクノブレイクした記憶だけ消しちゃいましょう!そうしましょう!』
「いや、いいっすわー」と少女を尻目に男がダルそうに答える。
「俺、そう言うの気になっちゃうて言ったじゃないすか~。記憶の欠落とか性犯罪、犯したんじゃないかって。気になって、眠れなくなるんで。」
・・・・なんで性犯罪?他に思いつかねーのか!と言いたい気持ちを抑えつつ少女は男から、手を離し真面目に言う。
『・・・・木村さん本当に申し訳ないですが、あなたには異世界へ行ってもらいます。あなたは、もうこの世界では輪廻転生できないのです。』 うつむき加減に少女が言った。
◇ ◇ ◇ ◇
なにやら不穏な空気の流れに、俺は少女の言葉に耳を傾けた。
『本来、亡くなった方の魂は輪廻転生し元いた世界を廻ります。ですが、あなたはそこから外れてしまった。……あなたは、異端なんです。』
〈異端〉と言うワードに少し引っ掛かったが、男はすぐに持ち直して話を聞く。
『あなたは、変わっています。他の人と違うことを無意識に…時には意図的に行ってしまう。』
目を逸らし、儚げな顔で語る少女に俺は、「ちょっといいですか?」と待ったをかけた。
「それって、おかしな事なんですか?別に普通な事だと思うんですけど…」
ーーそうだ、別におかしい事ではないはずだ。他人と違うこと、違う生き方をしたい。そう思うことは誰にだってあるはずだ。それと俺が異端であることに、どう関係があるのだろうか。
『あなたが意図的に違うことをするのは、問題ありません。ただの変わり者の範疇におさまるのですが…問題は、無意識に常識では考えられない行動をすること。そして、意識的に他の人と同じように行動しようとしても、結果的に人とは違うことをしてしまう所にあります。』
どう言うことだ?いまいち少女の言っている事が理解出来ず、頭を悩ませる。
『あなたが、天才、もしくは物凄い力、才能を持った人間ならば、おかしくはなかったのですが……あなたは、違う。とても平凡な人間です。それなのに、あなたは常識では考えられない様なことをして運命または輪廻の輪を乱してしまう。』
異端、常識では、考えられない様な事・・・・。
少女のを話を聞きながら俺は、疑問に思っていた。
たしかに、俺はテクノブレイクという普通じゃない死に方をした。だが、それだけだ。思い出してみるに、俺はそんな行き過ぎた異常行動をした覚えは無い・・・・はずだ。
『無意識に…ですから気付かなくても無理はありません。』眉間にシワを寄せて考える俺に少女が言う。
『昔、家への帰り道の途中に轢かれた猫の死体を見つけた事がありませんか?その時、どうしたか覚えていますか?』
少女が少し首を傾けて聞いた。
「確か、可哀想だったから…近くの山に持って行って埋めたはずだ。」
中学生の頃だった、朝登校するときに何気なく目を横にやると、塀の上に猫が丸まっていた。この辺じゃあまり見かけない猫だなと思って、その時は通り過ぎて行ったーー
ーーその帰り道、猫が死んでいた。毛色から朝の猫だとわかった。その猫を見たのは、朝が最初で最後だったけどそれでも可哀想だったから、墓を作ってやることにしたんだ。
俺は昔の記憶を思い出しながら、少し上を見ていた視線を少女に戻した。
『その通りです。しかしーー』と、少女が一歩近づき人差し指を俺の胸先に突きつけ言う。『少し、説明不足です。』と。
『あなたが見つけた死体は、ほぼ原形を留めておらず、酷い有り様でした。それを飛び散った内臓などもきれいに手で掻き集めて、あなたは山へ埋めに行ったのです。』
一瞬、息も止まる様な冷たい目で、じっと言う少女に何かを責められているような気がして俺は一歩下がった。
「それが…どうかしたんですか……」
俺は、死体愛好家か何かを疑われているんじゃないかと思い身構えた。
『木村さん、あなたがやったことって実は普通じゃないんです。たった一度見かけただけの猫の死体を可哀想と言う理由だけで、飛び散った内臓まで掻き集めて山にわざわざ埋めに行くなんて。常軌を逸していますーー』
少女が念を押すように、続ける。
『あなたは、ありふれた平凡な家庭に産まれごく普通に育った。それは間違いありません。なのに考え難いことをする。それ故にあなたは世界から拒絶され、外れてしまったのです。』
そんな小難しい少女の話に、とうとう俺のキャパは限界を迎えてしまった。