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この戦いが終わったら祝杯を上げよう。  作者: 七井望月
第1章『コンビニバイトとクリーチャー』
5/8

「磯城エルゼ」

2話は明日編集します

「強欲…というと?」


「最近ここらで連続盗難事件が起きてるッス。その犯人の通り名ッス。」


 強盗犯といい、強欲といいここら辺は治安が良くないな。引っ越しを考えようか、ここに引っ越して来て間もないが。


「そんで、盗まれた物について、詳しく説明してもらっていいスか?」


「カップラーメンと後はかくかくしかじか。」


「成る程ッス。」


 小説って便利だな。


「盗まれた物っていうのは、犯人が見つかったら戻ってくるものなのか?」


「どうッスかね、食料品なんで食べられてる可能性が高いと思うッス。賠償金の請求とかはできると思うッスけど。」


 そうか、参ったな。昼飯はどうしようか。この辺にいい飯屋とかあるのだろうか。


「だったらこの辺にいいラーメン屋があるんスよ。紹介するんで奢ってもらっていいスか?自分も昼まだなんで。」


 取引か…、だが悪くない。こちらもお金に余裕がある訳ではないが、相手は女性でしかもスタイル抜群と来た。食べる量もそこそこだろう。それに美少女に一緒に食事と誘われて断る訳がない。


「そうですね、行きましょう。」


「商談成立ッスね。」


 という訳で一緒に食事に行くこととなった、美少女と。こんなイベント都会に住んでたなら無かっただろう、絶対に。いやー、田舎バンザイ!。


「そのラーメン屋はここから車で数分ッス。運転よろしくッス。」


「車…………?」


「え?持ってたッスよね、車。」


「……。」


「…もしかして運転出来ないんスか?」


「…………。」


「まじスか!?」


「…………面目無い。」


「…………まあ、いいッスよ、今回は自分が運転するッス。」


「ホントに申し訳ない。」


「大丈夫ッスよ。ただ彼女が出来るまでに、運転は出来るようになっといた方がいいッスよ。お姉さんからのアドバイスッス。」


「ありがとうございます。」


 ダサいことこの上ない。好感度も駄々下がりだろう。こうなるんだったらちゃんと運転出来るようにしとけば良かった。ラーメン屋に向かう途中の車内でも、


「こんないい車持ってるのに、勿体無いッスねー。」


「女の子に車運転してもらうとかお兄さんダサいッスね~。」


 等と弄られ続けた。ただ嫌われてるような感じは無く、純粋に弄っていたただけのようで、好感度は下がってないようで良かった。そうこうしてる内に俺達はラーメン屋に到着し、車から出るや否や、彼女が、


「そう言えば、お兄さん。名前は何て言うんですか?」


 名前を尋ねて来た。ここまで来てやけに今更だが。


「…赤井コガネです。」


「ほーん、成る程。自分は磯城エルゼって言うッス。今更ッスがよろしくッス。」


 名前を聞いて少し驚いたような顔をしたエルゼ。キラキラネーム以外の何物でもない、黄金、何て名前。聞けばみんな同じ反応をする。


 只、彼女が驚いたのはそれが理由では無いことに気付かない。考えてみればエルゼというのも正直変わった名前だ。


「じゃあ、赤井さん。ゴチになりますッス。」


 そう言うとエルゼは足早にラーメン屋と入っていった。





 ※






「いやー、うまいッスね。」


「……。」


 まさかこんな事になるとは、いや、何となく嫌な予感はしてたね。俺達がラーメン屋に入るや否や、


「大将!自分、特盛一つお願いしますッス!!」


 とか言ってたからな。最初は良く食うなー、とか思ってたけど、


「大将!替え玉下さいッス!!」


 何て言われた時には流石にびびったね。最初こそ「お嬢ちゃん、女の子なのに良く食うね!」何て言ってた大将も若干引き気味だったからな。


「大将!替え玉もう一丁ッス!!」


 この時はもう、ああ、来たな。ってそんな感じだったね。何となく俺はもう一杯来るかな、って思ってたからね。大将はドン引きだったけどね。


 この後も何回か替え玉エンドレスが続いて、自分の分を先に食べ終えた俺はやることもなく。ただ何となく、ラーメンを食べ続けているエルゼを見ていた。ああ、なんかすごい美味しそうに食べるなあ、何て、子供のように頬張って食べる彼女を見て、いいなあと思った。(小並感)


「お会計お願いしますッス!!」


 ついに来たか、この時が…。


 現在、財布の中には野口英世が三人、他に小銭がじゃらじゃらと何枚か。安さと量を売りとするこの店だがエルゼが食べた量は、おおよそ六人前。三千円でギリギリ足りるかどうかだが…。


「ラーメン大盛り一つと、特盛の炒飯セット。……替え玉が五つ。」


 ああ、会計の人も引いてるよ。


「合計が3050円になります。」


 ぐっ、足りるか?だがここで払わなければ、またエルゼに迷惑をかける事になる。それはダサすぎる。いや、それもだが約束を破ることになる。絶対に払わねば。


 英世が三人、あと五十円だが、五十円玉がない。十円、十円、十円、十円。五円、一円、一円、一円、一円、一円。


「な、なんとか足りたぜ。」


「なんか小銭じゃらじゃら出すの貧乏臭いッスよ。」


「いや、まさかアンタがあんなに食うとは思わなかったから、持ち合わせがないんだよ。」


「それはすまないッス。」


 頭の横にピースサインをつくり、ウインクして舌を出す。いわゆる、てへぺろのポーズをするエルゼ。かわいいから許す。


「ありゃっしたー!!」


 大将の威勢のいい挨拶に見送られ、ラーメン屋を後にした。


「あーあ、赤井さんが運転出来ればなー。」


 運転席に座るエルゼが愚痴る。俺は返す言葉も無く無視する。するとこちらを見ていたエルゼが微笑み。


「……あのー、赤井さん?」


「ん?」


 エルゼの雰囲気が変わった。それに気づき俺も返事を返す。


「赤井さんって、過去にでも彼女いたことあるッスか?」


「…。」


 え?これって告白?いや、でも“過去にでも”?なんか俺の振る舞いに問題でもあったか?分からん。まあ、ここは正直に。


「無いよ。」


「へー、そうなんスね。」


「なんで?」


「ん?あー別になんでもないんスけど、最初、赤井さんに会ったときは彼女いなさそうだなーって思ったッスけど、一緒にいて何かこの人彼女いそうだなーって思ったんで。」


 何故だろう、自分の内で眠っていたモテモテオーラがここに来て目覚めたとか?……いや、無いな。自分で言ってて何か恥ずかしくなってきた。でも理由は気になる。


「なんで?」


「何でって、まあ、勘ッス。」


「なんで?」


「もー!そういうとこッスよ!!もう「なんで?」禁止ッス!!」


 エルゼは「もう、からかわないでほしいッス。」と彭を膨らませている。かわいい。


 こう見るとエルゼのことは年上だと思っていたが、歳は自分と同じくらいか、もしくは下なんじゃないかと思えてくる。今は歳を聞けるような状況じゃないので、想像に留めておくが。


「着いたッスよ。」


 どうやらマイホームへ帰ってきたようだ。田圃だらけこの場所に佇む、山小屋風の建物。何か懐かしい。


「“強欲”の件についてはこっちも捜査を続けとくッス。」


「強欲とかすっかり忘れてたよ。」


「それと今日はごちそうさまでしたッス。」


「あー、いいよいいよ、こっちも運転ありがとね。」


「はい、ではまた何処かで。」


 差し障り無い別れの挨拶をして、エルゼは振り返り歩いていった。




 ……その刹那、エルゼが羽のような物を生やし、空に飛んでいくのを俺は見た。


 俺は視線を動かして、飛んだ彼女を追った。


 その姿は遥か上空にあった。エルゼは轟音を響かせ、凄まじい跳躍を見せ、空の彼方に飛んでいた。


 その姿は一瞬で消えた。その動きは鳥でも虫でもない、人間の動きだった。ただ普通の人間では真似できない、映画に出てくるスーパーヒーローの如く、遠く天空の彼方へ消えていった。


「…………。」


 言葉が出なかった。目の前の出来事に呆気にとられていた。俺はもしかしたら夢を見てたんじゃ無いのか、そうだ、これはきっと夢だ。目の前で起こった不可解な現象をそう解釈する。


 ……だが今日この日を、エルゼを、夢だとは思いたくないという矛盾が心の中にあった。

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