「磯城エルゼ」
2話は明日編集します
「強欲…というと?」
「最近ここらで連続盗難事件が起きてるッス。その犯人の通り名ッス。」
強盗犯といい、強欲といいここら辺は治安が良くないな。引っ越しを考えようか、ここに引っ越して来て間もないが。
「そんで、盗まれた物について、詳しく説明してもらっていいスか?」
「カップラーメンと後はかくかくしかじか。」
「成る程ッス。」
小説って便利だな。
「盗まれた物っていうのは、犯人が見つかったら戻ってくるものなのか?」
「どうッスかね、食料品なんで食べられてる可能性が高いと思うッス。賠償金の請求とかはできると思うッスけど。」
そうか、参ったな。昼飯はどうしようか。この辺にいい飯屋とかあるのだろうか。
「だったらこの辺にいいラーメン屋があるんスよ。紹介するんで奢ってもらっていいスか?自分も昼まだなんで。」
取引か…、だが悪くない。こちらもお金に余裕がある訳ではないが、相手は女性でしかもスタイル抜群と来た。食べる量もそこそこだろう。それに美少女に一緒に食事と誘われて断る訳がない。
「そうですね、行きましょう。」
「商談成立ッスね。」
という訳で一緒に食事に行くこととなった、美少女と。こんなイベント都会に住んでたなら無かっただろう、絶対に。いやー、田舎バンザイ!。
「そのラーメン屋はここから車で数分ッス。運転よろしくッス。」
「車…………?」
「え?持ってたッスよね、車。」
「……。」
「…もしかして運転出来ないんスか?」
「…………。」
「まじスか!?」
「…………面目無い。」
「…………まあ、いいッスよ、今回は自分が運転するッス。」
「ホントに申し訳ない。」
「大丈夫ッスよ。ただ彼女が出来るまでに、運転は出来るようになっといた方がいいッスよ。お姉さんからのアドバイスッス。」
「ありがとうございます。」
ダサいことこの上ない。好感度も駄々下がりだろう。こうなるんだったらちゃんと運転出来るようにしとけば良かった。ラーメン屋に向かう途中の車内でも、
「こんないい車持ってるのに、勿体無いッスねー。」
「女の子に車運転してもらうとかお兄さんダサいッスね~。」
等と弄られ続けた。ただ嫌われてるような感じは無く、純粋に弄っていたただけのようで、好感度は下がってないようで良かった。そうこうしてる内に俺達はラーメン屋に到着し、車から出るや否や、彼女が、
「そう言えば、お兄さん。名前は何て言うんですか?」
名前を尋ねて来た。ここまで来てやけに今更だが。
「…赤井コガネです。」
「ほーん、成る程。自分は磯城エルゼって言うッス。今更ッスがよろしくッス。」
名前を聞いて少し驚いたような顔をしたエルゼ。キラキラネーム以外の何物でもない、黄金、何て名前。聞けばみんな同じ反応をする。
只、彼女が驚いたのはそれが理由では無いことに気付かない。考えてみればエルゼというのも正直変わった名前だ。
「じゃあ、赤井さん。ゴチになりますッス。」
そう言うとエルゼは足早にラーメン屋と入っていった。
※
「いやー、うまいッスね。」
「……。」
まさかこんな事になるとは、いや、何となく嫌な予感はしてたね。俺達がラーメン屋に入るや否や、
「大将!自分、特盛一つお願いしますッス!!」
とか言ってたからな。最初は良く食うなー、とか思ってたけど、
「大将!替え玉下さいッス!!」
何て言われた時には流石にびびったね。最初こそ「お嬢ちゃん、女の子なのに良く食うね!」何て言ってた大将も若干引き気味だったからな。
「大将!替え玉もう一丁ッス!!」
この時はもう、ああ、来たな。ってそんな感じだったね。何となく俺はもう一杯来るかな、って思ってたからね。大将はドン引きだったけどね。
この後も何回か替え玉エンドレスが続いて、自分の分を先に食べ終えた俺はやることもなく。ただ何となく、ラーメンを食べ続けているエルゼを見ていた。ああ、なんかすごい美味しそうに食べるなあ、何て、子供のように頬張って食べる彼女を見て、いいなあと思った。(小並感)
「お会計お願いしますッス!!」
ついに来たか、この時が…。
現在、財布の中には野口英世が三人、他に小銭がじゃらじゃらと何枚か。安さと量を売りとするこの店だがエルゼが食べた量は、おおよそ六人前。三千円でギリギリ足りるかどうかだが…。
「ラーメン大盛り一つと、特盛の炒飯セット。……替え玉が五つ。」
ああ、会計の人も引いてるよ。
「合計が3050円になります。」
ぐっ、足りるか?だがここで払わなければ、またエルゼに迷惑をかける事になる。それはダサすぎる。いや、それもだが約束を破ることになる。絶対に払わねば。
英世が三人、あと五十円だが、五十円玉がない。十円、十円、十円、十円。五円、一円、一円、一円、一円、一円。
「な、なんとか足りたぜ。」
「なんか小銭じゃらじゃら出すの貧乏臭いッスよ。」
「いや、まさかアンタがあんなに食うとは思わなかったから、持ち合わせがないんだよ。」
「それはすまないッス。」
頭の横にピースサインをつくり、ウインクして舌を出す。いわゆる、てへぺろのポーズをするエルゼ。かわいいから許す。
「ありゃっしたー!!」
大将の威勢のいい挨拶に見送られ、ラーメン屋を後にした。
「あーあ、赤井さんが運転出来ればなー。」
運転席に座るエルゼが愚痴る。俺は返す言葉も無く無視する。するとこちらを見ていたエルゼが微笑み。
「……あのー、赤井さん?」
「ん?」
エルゼの雰囲気が変わった。それに気づき俺も返事を返す。
「赤井さんって、過去にでも彼女いたことあるッスか?」
「…。」
え?これって告白?いや、でも“過去にでも”?なんか俺の振る舞いに問題でもあったか?分からん。まあ、ここは正直に。
「無いよ。」
「へー、そうなんスね。」
「なんで?」
「ん?あー別になんでもないんスけど、最初、赤井さんに会ったときは彼女いなさそうだなーって思ったッスけど、一緒にいて何かこの人彼女いそうだなーって思ったんで。」
何故だろう、自分の内で眠っていたモテモテオーラがここに来て目覚めたとか?……いや、無いな。自分で言ってて何か恥ずかしくなってきた。でも理由は気になる。
「なんで?」
「何でって、まあ、勘ッス。」
「なんで?」
「もー!そういうとこッスよ!!もう「なんで?」禁止ッス!!」
エルゼは「もう、からかわないでほしいッス。」と彭を膨らませている。かわいい。
こう見るとエルゼのことは年上だと思っていたが、歳は自分と同じくらいか、もしくは下なんじゃないかと思えてくる。今は歳を聞けるような状況じゃないので、想像に留めておくが。
「着いたッスよ。」
どうやらマイホームへ帰ってきたようだ。田圃だらけこの場所に佇む、山小屋風の建物。何か懐かしい。
「“強欲”の件についてはこっちも捜査を続けとくッス。」
「強欲とかすっかり忘れてたよ。」
「それと今日はごちそうさまでしたッス。」
「あー、いいよいいよ、こっちも運転ありがとね。」
「はい、ではまた何処かで。」
差し障り無い別れの挨拶をして、エルゼは振り返り歩いていった。
……その刹那、エルゼが羽のような物を生やし、空に飛んでいくのを俺は見た。
俺は視線を動かして、飛んだ彼女を追った。
その姿は遥か上空にあった。エルゼは轟音を響かせ、凄まじい跳躍を見せ、空の彼方に飛んでいた。
その姿は一瞬で消えた。その動きは鳥でも虫でもない、人間の動きだった。ただ普通の人間では真似できない、映画に出てくるスーパーヒーローの如く、遠く天空の彼方へ消えていった。
「…………。」
言葉が出なかった。目の前の出来事に呆気にとられていた。俺はもしかしたら夢を見てたんじゃ無いのか、そうだ、これはきっと夢だ。目の前で起こった不可解な現象をそう解釈する。
……だが今日この日を、エルゼを、夢だとは思いたくないという矛盾が心の中にあった。