「とある事件の後日談」
8月中ほぼ毎日投稿します。明日は1話、2話編集します。
あの一件の後は嵐の後の静けさの様に、いや、あの一件以外特に特にめぼしいイベントは無かったため、嵐と言うより通りすがりのゲリラ豪雨が適切か、そのゲリラが過ぎ去った後、しばらくすると、新人を店に一人残して一体どこにほっつき歩いていたのか、先輩店員、茶髪のチャラ男、岩隈が帰って来た。
茶髪のチャラ男に留守中の出来事を一通り説明して一つや二つでは全然足りない悪口や文句をぶつけてやったが、それでも飽き足らず、そのにやけ面に全力の右ストレートをかましてやろうとも思ったが、仮にも相手は先輩である。情けをかけてやる必要もないが、そこは俺の仏の心で許してやるとしよう。
「いやー、ホント災難だったね。」
「いや、ホントにな。これで死んでたらあんたを呪い殺してその首をボールにしてサッカーしてやる所だったぜ。」
「おー、こわいこわい。でもなんとかなったんだし良かったんじゃない?終わり良ければ全て良しってね。」
「まずお前がちゃんとしてればこんなことにならなかったんだけどな。」
瞳に憎悪を宿しニヤケ面を睨みつけるが、全く気にせず飄々としている。こいつの口に火薬を詰め込んで火をつけてやりたい。
「まあ、今回の件も含めてのボーナスを給料にいれておくよ。後僕にも過失があるから僕の給料を減らしてもらって君の給料に追加してもらう様に店長に言っておくよ。」
「本当ですか!?ありがとうございます。」
「今、はじめて敬語使ったね。」
前言撤回、素晴らしい先輩だ。今までは見た目も中身も鰹節程に薄っぺらいと思っていたのだが、否、あっぱれな男気だ。実際自ら自分の給料を削ってまで過失の責任を取る何て中々出来ることではない。
「そういえば、店長ってどんな人なんですか?」
「あれ、まだ会ってなかったんだっけ。」
会ってないも何も、今日が初日、というか面接受けに来たのが今日何だ。その店長が本日不在のため会おうにも会えない、会ってるはずがない。
「基本的には優しくていい人だけど、怒ると怖いタイプかな。」
俺の脳内でなんか優しそうなおじさんと、そのおじさんが鬼の形相になり雷を落とすイメージが再生される。
怒ると怖い何てよく言われるが、怒って怖くない人なんていないだろうと思う。普段は怒らない人ということだと思うが、そういう人はかなり接しづらい。滅茶苦茶怒られた後に何事もなかったように接してくるが、正直どう反応していいか分からないからだ。
「多分明日は店長来るから、明日も暇ならバイト来てね~。」
実際の所、店長にあまり会う気は起きない。でも、最初は岩隈さんのこのテンションも正直苦手だったが今となれば絡みやすいいい先輩だ。店長とも案外気が合うかもしれない。それにお金もないし、毎日でも働かないと生活ができない状況でもある。
「とりあえず、今日は上がっていいよ。悪かったね~初日から色々と。」
「いえ、大丈夫です。お疲れさまでした。」
「お疲れ~。」
色々とあったが、岩隈さんに別れを告げて、俺は店を後にした。
※
面接が終わったと思ったら、いきなりレジに駆り出され、暇な時間を過ごすこと小一時間。こういう時間は永遠に続きそうな錯覚を覚えるが、終わってみればほんの一瞬の出来事のように感じる。ただ今回ばかりは強盗犯の襲来なんていうとんでもないことがあり、体感時間に比べ、経過時間の短さに驚きを隠せない。
時刻は昼時、昼食は家にあるカップのラーメンでも食べよう等と考える帰り道。太陽が我が身を焦がして地表を照らし、蝉が僅かな命を燃やし鳴き、流れる汗が全身にいやらしくまとわりつく中、田圃道を歩く。灼熱の太陽や喚く蝉に罪はないが文句の一つも言いたくなるだろう、……俺以外なら。
俺はというと、この環境を満喫していた。これぞ求めていた、ザ・田舎生活。細かく言えば田舎の夏だ。
今度暇があれば山にカブトムシを取りに行こう。新種の一つや二つ、ここでは見つかるかもしれない。
そんなことを考えながら照りつける太陽を物ともせずに家に帰った。
「……なん…だと。」
俺は驚愕した、そして震撼した。何が起こったのか最初は分からなかった。
「カップラーメンが…無い…。」
それだけではない、食料品全般が盗まれている。貴重品やその他が無事なのを見ると犯人はよほど腹が減っていたか、愉快犯かのどちらかだろう。
「愉快犯か、…愉快な真似しやがって。」
とりあえず警察に通報しよう。受話器を取り、110とボタンを押した。
「…………。」
「…只今電話に出ることができません。もう一度おかけ直しください。」
あれ、おかしいぞ?110番に電話して出ないとか初めてなんだが、これって田舎あるあるなのか?それでいいのか公務員。
留守電の機会のアナウンスに従いもう一度おかけし直してみる。
「…………。」
「あ!もしもしッス。事件っスか?」
受話器から聞こえてきたのは語尾が特徴的な女の声だ。受話器を勢いよく取ったのかガチャッという音の後にその声が聞こえてきた。
「そちら警察ですか?」
「こちら警察ッス。そちらはさっき電話かけた人ッスか?」
「はい、そうです。」
「そうッスか、先程はすまなかったッス。暑かったんでクーラーガンガンにかけて寝てたッス。」
「なら仕方がない。」
「へへっ、感謝ッス。所で用件はなんスか?」
「ああ、そうだった。事件です、食料品全部盗まれました。」
「マジスか?すぐ行くッス。なんで住所を教えてほしいッス。」
「天正村、○○番地◎&#%♀♂です。」
「分かったッス。」
ガチャ。
小説っていうのは便利だな。適当に記号を打っただけで住所が伝わるんだからな。
そういえばやけに腹が減った、昼飯が無いのは不便だな。早くお巡りさん来てくれないだろうか?
ドンッ!!
外でやけに大きな音がなった。地面が揺れるが地震ではない。何かがぶつかったような衝撃だ。事故でも起きたのだろうか。
「お待たせッス。」
やって来たのはやけにグラマラスな女性だ。髪は艶のある深緑色で、顔はやけに整っている。特徴的な語尾と警官服を着ていることから電話の主で間違いないだろう。
「え?早くない、早いよね、早くない?」
「まあ、近かったんで。」
近かったからといっても2分も経ってない。一体どんなからくりを使ったんだ。ダッシュ、いやパトカーか?
「飛んできたッス。」
「…………ほわい?」
ちょっと何言ってるか分かんないです。聞き間違いかな?話がややこしくなりそうなんでこれ以上は突っ込まないでおこう。
「それで事件の証拠品とかあったら見せてほしいッス。」
「証拠品、って言われると無いな。ただそこに元は食料品がありましたよー、しか。」
「成る程ッス。」
ふむふむ、といいながら冷蔵庫と食料棚を物色する女警官。やけにセクシーだ。
「証拠は無いッスけど、何となく犯人はわかるッス。」
「本当ですか?」
「本当ッス。犯人は……。」
目をつむり警官帽の鍔を軽く摘まむ。決め台詞を言うような間を開けて。
「“強欲”ッス。」
……その名を言った。