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3話「遺跡」

 三匹の馬が鬱蒼とした森の中を歩く。一歩進む度に枯れ葉を踏む音がリズムを奏でた。


 馬にはそれぞれエルとフォクシー、ラヴィ、シルカが乗っている。


 人骨は馬にすら奇妙な目で見られていたが、地を動かすような掛け声を聞くと、大人しくキリキリ歩み始めた。

 今は先導して道案内をしている。今のところエル達に攻撃しようという様子は一度も見せていない。


「ていうか、どうしてお前は俺の後ろなんだよ」


 エルが後ろにいるフォクシーを振り返って尋ねる。


「なんでって……」


 彼女は馬が尻尾を振る動きに合わせて自分の尾を振る遊びをしていたようだ。一旦中止し、エルと目を合わせる。


「オジサンは側近でしょ?」


「ラヴィは家族だろ」


「そうだけど、今朝の事をまだ怒ってるみたいなんだ。しばらくは密着されたくないって」


「今朝? ……あぁ、お前の寝相の話か」


 鳥のつがいが飛んでいくのを眺めてこぼすエル。


 どうやらあの兎、耳を甘噛みされた件について根に持っているらしい。潔癖なのである。その割に汚れる農作業は惜しみ無くやるのだから、よく分からない性格だ。


「でもあれ、あいつも他人のこと偉そうに言えないだろ。お前に抱きついてたし」


「あ、やっぱりオジサンもそう思う? ラヴィってそういうとこあるからね~。自分の事はよく棚に上げるんだ。何かに抱き着かなきゃ眠れないんだよ。オジサンには隠してるけど、自分専用の抱き枕持ってるの」


 やれやれとジェスチャーする狐は、隣からジト目を向けていた姉を見て、わざとらしく伸びをした。そして流れるように、エルの服に毛玉がついていないか探す遊びに移行する。


「それなら私も、フォクシーがエル様に隠している事を教えてしまおうかしら」


「お姉様は素敵なお姉様ですっ!」


 わざわざ寄ってきて呟いたラヴィへ即座に敬礼する魔王。弱みを握られている分、立場は明白だ。


「……それにしても、あんなに人間っぽい魔物も珍しいですね」


 彼女の発言にエルも心の中で同意した。


 前方を歩く人骨は化粧水を取り出してスキンケアをしようとしている。馬に乗りながら、である。どうやっているのか不明だが、鼻歌まで歌っていた。

 背後から不意討ちされる事なんて頭の隅にも無いような様子である。


「さあな。表情が無いから顔色も読めねえ。ただ、油断はしない方がいいぞ。これから連れていかれる場所が罠だって可能性もあるんだ」


「二人とも疑い深いな~。もうちょっと他人を信用した方がいいよ?」


「貴方がそんなんだから周りが用心深くなるんじゃないの……」


 ガックリと肩を落としたラヴィにエルは同情せざるを得なかった。よく千年もこの平和ボケした妹を世話してこれたものだ。


 昔は悪魔への酷い差別があった。彼女達は人間の奴隷みたいな扱いだったから、二人は盗賊となり何とか毎日を生きていた訳である。

 まあ、それも数年の事で、二人はいずれ拾われる事になるのだが、それはまた別の話だ。


 ふと、ラヴィが気付く。フォクシーが骨を持っているのだ。十五センチほどの一本骨を、ペン回しでもするみたいにクルクル弄っている。


「……貴方、その骨どうしたの?」


 聞かれたフォクシーは目を丸くして答えた。


「シルカに貰ったんだよ! 信愛の証に、鎖骨を一本ね。槍捌きの練習に丁度良いよ。手が届かない背中の奥も楽に掻けるし」


「い、いつの間に……。しかも扱いが結構雑だわ……」


「大体、鎖骨を気軽に渡していいのかよ」


 骨で肩叩きをしてくれるフォクシーに呆れるエル。彼女は少しでも目を離すと危うい状況に陥る、子どもみたいな注意力の無さを発揮するのだった。


「引退する前に王様らしく(しつけ)ないとな」


 馬上でお昼寝の準備に入ったフォクシーに聞こえぬよう、彼は再び側近という名の世話係となったことを嘆くのであった。







「着いたわよ~」


 エル達が着いたのは森奥に人知れず存在していた遺跡だった。


 石だけで造られた建物や門は半分ほど既に倒壊し、自然との融合を始めている。

 その中だけ木々が少ないため、日光が辺りを照らし、朽ちてなお神聖な雰囲気を纏っていた。空はいつの間にか晴れ模様である。


「こんなところに魔物が住んでるのかよ。何となく強そうな奴が出てきそうな感じがあるな。離れるなよ、二人とも」


「分かってますよ。どこかの能天気魔王と一緒にしないでください。はぁ、早く帰ってレタスを食べたい」


 毒づいて寄ってくるのはラヴィだ。レインコートを畳みながら背中の槍を邪魔そうに背負っている。


 簡単なクエストを受けたから、こんなに長時間の移動をするとは思ってもみなかったのだろう。

 手足は野菜不足により痙攣している。傍目から見ると完全にヤバい奴だった。


「ここはアタシの家でもあるのよ」


 馬から降りて歩きだすシルカに三人は続いた。


 階段を上ると、さらに広い空間に出る。タワー型の建物内で、ここは三階らしかった。


「ん? てことは、今から倒しに行くのはシルカの家族なの?」


 彼の隣に並んだフォクシーが尋ねると、人骨は声だけで笑い飛ばした。


「違うわよ。他人、他人。だから倒されようと別に構わないわ。むしろ家が広くなって助かるくらい」


「案外薄情なんだな。魔物同士、絆みたいなもんがあるのかと思ってたぜ」


「まっさか~! だって喋る魔物よ? 気味が悪くて仕方ないわ」


「こいつ、天に向かって唾吐いてやがる……」


 珍しく三人が三人とも同じ反応を示していた。ケタケタと歯をかち合わせる骨に何と返すか悩んでいる。


 結局、無視して長い一本道を歩くことに専念した。時々、脇道に逸れる地点もあったが、シルカは気にせず真っ直ぐ進んでいく。


「あっ!」


 不意に、彼が声をあげた。いきなり走り出すと、前方を指差してエル達を振り向く。


「何かが動いていたわ! あいつ、逃げる気よ!」


 一番最初に追い掛けたのはラヴィだった。


「オジサン! 私達も行こう!」


「お、おう」


 少し遅れてエル達も駆け出すが、その途端、真下に地割れが起き始める。ヒビは蜘蛛の巣状に広がり、床が窪んでいった。


 一部に穴が開く。そこから見える光景は、遥か遠く下にある地面だった。


 瞬く間に地面は崩壊する。轟音が何かの始まりを告げようとしていた。それに混じって、ラヴィがエル達を呼んだ声もした気がする。


「おいおい、脆すぎだろ! こんなのアリかよ……!」


 エルとフォクシーは空に放り出され、二階の既に崩れ落ちた地面を抜け、一階の地に叩きつけられんとしていた。

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