黒くて大きいお屋敷
ある、古いお屋敷の話だ。
もう、十三年も昔のこと、そのお屋敷にはな仲の良さそうな家族が暮らしていた。
若い夫婦とその娘さんの三人、あと、家政婦さんが二人住み込みで働いていて、合計で5人がお屋敷に住んでいた。
毎日楽しく平和に暮らしていた。
でも、そんな家にこそなぜか事件というものは非情にも起こるものなのだ。
ある日、何が原因なのか、その5人の人達は忽然と姿を消した。
身に付けていた腕時計や服を残し体だけが…消えた。
リビングのソファーには血の付いた男物の服と腕時計が見つかった。
台所はフライパンなどの調理器具が散乱していて、家政婦のものと思われる血で汚れた服がその場に落ちていた。
二階子供部屋は特に酷かった。
そこら中が血だらけで鏡の前には血の付いた女の子の洋服が…そして、そのすぐそばではその女の子の母親と思わしき人の服が…発見された。
恐らく、女の子の髪を結んであげていたのだろうら。 そして、その時に…。
警察は殺人事件として捜査を進めた。
屋敷のなかを隈無く捜索した、近所の住人や通りかかった人達に聞き込みをした。
凶器となるものの捜索、情報は集められるものは手当たり次第 何でも集めた。
現場検証もなんども繰り返し思案して答えを出そうと必死に試行錯誤した。
いろんな手を尽くした。 だが、答えにつながるすべてはまるで神隠しかのように巧妙に隠され真相が警察の目にふれることはなかった。
肝心のこの屋敷の人間やその遺体すら見つからない。
犯人の残したものはなにも。
そのまま事件は解決することはなく、挙げ句の果てに捜査は打ち切り、それから現在に至るまで、そして、おそらくこれからも屋敷の人を見ることはないだろう。
そして、十三年後の現在、そのお屋敷の前の道を通と、屋敷から女の子が啜り泣くのが聞こえてくるのだそうだ。
噂では、女の子の霊が夜な夜な現れて誰も居なくなってしまった屋敷の中で一人寂しく泣いているのだそう。
今ではもうこのお屋敷はネットで話題の心霊スポットとなった。
これは、ネットの掲示板にあった記事を頼りにそのお屋敷に向かい行方不明となってしまった二人の友人を捜す俺と友人達の物語。
ー噂の屋敷に肝試しに行こう!ー
という記事がネットの掲示板に書いてあった。
興味深いものではあったが、ちょうど開催日がとある用事と重なってしまっていくことができない。
さっき、友人の高崎 寛大からメッセージが届きこの掲示板を閲覧した。
メッセージの内容は、「なぁ、子門。 面白そうな肝試しの記事があるんだ。 一緒に行かないか? よっちも誘おうと思ってんだけど」というものだった。
子門とは俺の名前。 子門 勇樹。
そして、よっちとは、高知 喜朗。
高崎に事情を説明して行けないということを伝えると意外にもあっさりと諦めてくれた。
もう少しこの掲示板を閲覧し続けていたら、そのお屋敷の写真があった。
しばらく眺めていると何か思い出しそうになったんだけど結局思い出せなかった。
なんだろう。
それから、肝試し当日。
俺のそのとある用事とはバイト。
大学生でアパートで一人暮らしの俺は生活費や学費を払うためにバイトをしている。
と、しばらく、バイトが終わり家へ帰ろうとしたとき高崎からメッセージが届いた。
「助けて 今 館にいる 早く」
何だろうこれは。 まぁ、普通に考えれば高崎のことだ悪戯に違いはない…と、思うんだが、今回はちょっとだけ胸騒ぎがした。
でも、結局は悪戯だと判断して今日のところは無視することにした。
次の日
高崎と高知からのメッセージは無かった。
やっぱり悪戯だったのか? それとも、本当だからこそ?
考えても仕方がない電話でもしてみよう。
しばらく待ったが出る気配がない…まったく。
俺の心は恐怖が支配していった。
俺は突然 怖くなってきた。 そして、ほかの奴らに電話する事にした。
まず、寮暮らしの遠音 真咲に電話をかけた。
最初は朝早くに電話をしたことに苛立ちが隠せないといった口調だったが事情を話すと理解してくれたようだ。
相談の結果、今日1日あの二人が現れなかったら探しに行こうということになった。
大学の寮にいる人たちに呼び掛けると、ほとんどの人が屋敷の噂を怖がって行きたくないと言った。
そんな中、橋上 京助と戸祭 栄吉が協力してくれると言ってくれた。
京助に関しては昔、柔道部の主将を勤め上げた人なので心強い。
戸祭は…、家に警棒・木刀は当たり前、日本刀、サバイバルナイフ、バアフライナイフまでコレクションしている。
つまり、彼は武器マニアなんだ。
……。
結局、高崎と高知が帰ってくることはなかった。
大学にも街にも寮にも現れなかった。
あの二人は、まだ、屋敷…なのか? とりあえず、明日、屋敷へ探しに行こう。
次の日
大学へは適当な理由を言って休み俺達は屋敷へと向かった。
「子門! なにボケーッとしてんだ。 さっさとバス降りるぞ」
「ぉ、おう」
京助の言葉に俺は恥ずかしささえ覚えるか弱そうな声で応えた。
屋敷の門前で俺達は息を呑んだ。
何かこう独特な、例えるなら本格的で恐いと評判のお化け屋敷に入る前に感じるあの雰囲気…いや、それ以上の。
それを醸し出すその屋敷を目の当たりにして、いくら身構えていたとは言え俺達はやはり恐怖を隠せなかった。
「なぁ、武器、持ってきたか? 栄吉」
「あぁ」
「そうか、ありがとう。 だけどあまり、使いたくはないな」
「……」
「…そんじゃあ、行くか」
流石、こういう時 頼れんのは京助だ。 とても、心強い。
京助に続いて屋敷の門をくぐる。
敷居を越えたとき、鳥肌(関西では、さぶいぼ)がたった。
「15年前と変わってないね…」
「え?」
咄嗟に遠音がそう呟いた。 俺はその言葉に強い疑問を抱いた。
だがこのあと、靄のかかった記憶に小さな光が射すことになる。
だが、それは今ではない。
「憶えてない? 確かちょうどこのメンバーでこのお屋敷の女の子と一緒に遊んだじゃない」
「全然…」
「おい! そこの二人、早く来いよ。 子門、玄関開けんの手伝ってくれ」
俺は走って京助と戸祭の元に駆け寄り、馬鹿みたいに堅く閉ざされた扉を、扉の隙間に細い棒をねじ込み、てこの原理てきやり方でこじ開けようと試みた。
だが、扉はビクともしなくはない、が、開くとまではいかなかった。
「仕方ない。 他の入れそうなところ探すか」
俺達はなんとかして屋敷に侵入できないか屋敷の周りを探すことにした。
地下室への入り口を発見した。
「これって、どう見ても、地下室…だよな。 ここ入んのか?」
「他が無いんだから、仕方ねぇだろ。 ほらぼさっとしてねぇで、手伝えって」
「…」
「せぇーのぉ!」
地下室につながっていると思われる木製の扉を玄関の扉と同じようにやった。
見事、こじ開けることができた。
開けるというよりは、壊したの方が適切な表現だが。
扉が開いた瞬間、何ともいえない空気が僕らの周りにとりまく。
「…暗いな。 全員、懐中電灯はあるよな」
無言で頷くと、京助はゆっくりと階段を降りたら、他のメンバーも彼に続き降りていった。
薄暗く物凄い湿気と澱んだ空気と埃の集まったその空間はどうにも好きになれない。
誰でも、こんな場所を好きではないだろうけれど。
僕らは、京助の後を付いて歩くことしかできずにいた。
階段を降りた一番下の地下室、頼りない懐中電灯の明かりだけを信じてただ上の家へと繋がる階段をみんなで探した。
壁沿いに探しているとスイッチを見つけた。 何のスイッチだかはわからないがとりあえずスイッチだ。
恐る恐る押してみたが特に何も起こらなかった。
まあ、当然と言えば当然だ。 事件の日から屋敷には電気やガス、水などといったライフラインは止められているからだ。
「おーい。 みんな、こっちきてくれ」
と、戸祭の声がしたので、僕らは声のする方へ向かった。
近くまでいくと手招きする戸祭と橋上の姿があった。
遠音はおどおどしながら最後に現れた。
「んで、何があったんだ」
「これ、何だと思う?」
そう、戸祭が指さしたのは古びて埃をかぶっているがまだ使えそうな発電機だった。
「発電機か?」
「その通り、旧型でちゃんとメンテナンスをされてないけど、まだ問題なく使える」
「本当?」
「あぁ」
だが、俺はちょっと不安が残る。
「でも、この旧型発電機一つでこの屋敷を賄えるだけの発電量があるのか? それに、燃料とかは…」
「大丈夫さ、発電機は一つじゃねぇし、燃料はあそこの棚にずらーっと並べてある赤色のポリタンクがそうだ。 動かし方は俺が知ってる。 問題はねぇよ」
「そうか、んじゃ、さっさと動かそうぜ」
戸祭、子門、橋上の三人は燃料のはいったタンクを運びそれぞれの発電機に入れた。
「うっ…」
「どうした、子門」
「大丈夫、なんでもない。 ただ、燃料の臭いが嫌いなんだ」
戸祭は手際よく慣れた手つきで発電機を稼働させた。
3つ稼働させたところで屋敷の電灯がつくかどうかスイッチを押してみた。
ここからは、ハッピーエンドとバッドエンドの二つの終わりへ向かいます。
今後に投稿されるハッピーエンドとバッドエンド、どちらか好きな方を選び読んでみてください。