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きみと歩くすこし不思議な魔法の世界  作者: ねんねこザウルス
7/15

第7話:討伐隊

 5月に体調を崩してしまい投稿が遅れに遅れてしまいました。

 まだ本調子では無いのですが、頑張って行きたいと思います。


 第3救護室の一室で、歓迎会と言う名の食事をしている僕は、結翔が魔法使いの属性についてこれから話してくれるらしいので聞くことにした。


 それにしても目の前の女の子・・・夏望ちゃんは本当によく食べる子だ。

 5段あった重箱の弁当箱の約半分をペロリと平らげ、今度は結翔の持って来たお菓子を食べている。

 

 「それじゃあ大地の魔法から説明しようかな」


 結翔は窓際にあった観賞用の小さな木が生えている植木鉢を持って来てテーブルの上に置いた。


 「大地の魔法とは大地に根を張る物・・・木や植物を操ることの出来る魔法なんだ。

 聞くより見た方が早いからまあ見てろよ」


 結翔はそう言い、持って来た植木鉢を両手で包む様に手をかざした。

 結翔は一息呼吸をして何か集中しだす・・・すると結翔の手が僕の傷を治す魔法を使う時みたいに光りだした。

 しばらくすると、植木鉢の木が薄っすら光に包まれ、木の根元から触手の様に数本木の根っこがにょきにょき出てきた。

 その不思議な光景を眺めていると、さらに出て来た数本の木の根は絡み合いながら星型に成型されていく。


 ・・・それはまるで手品でも見ている様だった。


 「とりあえずこんな感じだ」


 目の前の出来事を目を丸くして僕は見ていた。

 その光景に驚愕しつつも、今までパソコンや携帯電話、クレジットカードなど魔法使いの組織なのに魔法とかけ離れた事ばかりだったこの施設で、ようやく自分が魔法使いの組織に入った事を実感する。


 「大地の魔法はこんな感じで、木や草花を自由に操ったり育てたりする事の出来る魔法なんだ。

 彩香が先生から聞いた薬草を作れるってのは、薬草の種を地面に植えて急速に育たせることで薬草を作り出すってことさ。

 あと変わった使い方として、大地の魔法は植物を使って周辺の情報を知ることが出来る。

 大地の魔法使いはこの魔法を使って山の監視をする仕事なんてもある」

 

 「大地の魔法使いはこの山に何かあるとすぐ分かるって事?」


 「さすがに1人で山全部は無理だけどな。

 それに大体の位置と大きさ位は分かるけど、それが一体何なのかは分からない。

 それでも何人かの大地の魔法使いが協力してこの山に何か変わったことがないか監視はしている。

 ・・・まあ大地の魔法はこんなもんかな」


 結翔は持って来た植木鉢を窓際に置いた。

 植木鉢の根っこが星型のままだが良いのだろうか?


 「それじゃあ夏望、水の魔法はお前の方が詳しいんだからお前が彩香に説明してやれよ」


 水の魔法は夏望ちゃんが説明してくれるみたいだ。

 水の魔法は一体どんなことができるのかな。

 少し楽しくなってきた僕は、夏望ちゃんの話を期待して聞くことにした。

 

 「それじゃあ彩香お兄ちゃん、私からは水の魔法についてお話しするね」


 夏望ちゃんは持っていたクッキーを口に放り込み、えっへんと行った感じで話しを始めた。

 彼女のテーブルの周りには食べ終わった大量のお菓子の袋が散乱している。

 この子は本当にどれだけ食べたら満足するのだろうか・・・

 

 「私は水の魔法を使えるんだけど、さっきの結翔お兄ちゃんみたいに見せた方が分かりやすいと思うから、とりあえず見せるね」


 夏望ちゃんは両手を前に出して手を開いた。

 そして結翔と同じ様に集中しだ始める。すると結翔と同じく、夏望ちゃんの両方の手が光りだした。

 そうしてしばらくすると彼女の両手の中間ぐらいに丸い透明な液体・・・多分水だと思うが、とにかく液体が作られていく。

 液体は大体ソフトボールくらいまでに大きくなり夏望ちゃんの両手の間に浮いている。

 

 「この部屋だとこんなものかな。

 水の魔法はこうやって水を作り出せるんだよ。

 それでこれをこうやると・・・」


 夏望ちゃんはさらに両手に力を込めていく。

 すると今度は液体がどんどん凍って氷になっていった。


 「ふぅー、出来たよ」


 液体が完全に氷になり、夏望ちゃんは一呼吸入れる。

 彼女の手から光が消え、手の間に浮いていた丸い氷はテーブルにゴロンと落ちた。


 彼女はその凍った氷を僕に渡してくれた。


 呆然としながら氷の球体を貰い、とりあえず渡された氷の球体を眺めてみる。

 氷はとても冷たくて透き通った・・・まるで水晶玉みたいに綺麗だった。


 多分だけど、昨日の鎧の巨人の攻撃からクレハを守っていた宙に浮く透明な物体・・・あれは夏望ちゃんが作り出した、とてつもなくでかい氷だったんだな。


 しばらくそんな事を考えながらそれを眺めていたが、そこはやはり氷だ、いつまでも持っていられないのでそっとテーブルに置いた。


 これが水の魔法の力なんだろうが、どう言えばいいか言葉に困る。


 「どう? 驚いたでしょ。

 今は部屋の中だからこれ位の大きさだけど、外だともっと大きいのが作れるよ。

 ちなみに凍らせるだけじゃなくて水を暖かくも出来るし、形も自由に出来るんだよ」


 夏望ちゃんはにっこり笑ってそう言った。

 結翔の大地の魔法も確かに凄かったが、夏望ちゃんの魔法は何も無い場所から液体を作り出した。

 ついでにそれを凍らせたのだから驚きだ。

 

 「えっと、凄すぎてどう言ったらいいかわからないよ。

 水の魔法は水を自由に操れるって事でいいのかな?

 それにしてもこの氷・・・今夏望ちゃんの作った液体は何処から出て来たの?」


 「何処から出て来た?

 えっと・・・どうゆう事?」


 夏望ちゃんは首を傾げている。

 先ほどの結翔の大地の魔法は木や花などを育てたり操ってたりする魔法・・・植物を使う魔法だったので特に何も思わなかったが、夏望ちゃんの水の魔法の場合は話が違う。

 テーブルの上にはジュースやお茶などの液体はある。

 これら既に存在する液体を操るのなら話がわかる、しかし水の魔法は何もないところから液体を出現させた訳だ。

 この水は一体何処からきたのだろうか・・・疑問に思った。

 夏望ちゃんは暫く考えたのち、結翔に助けてくれる様頼んだ。


 「水の魔法を使った授業の時に絶対教えてもらっただろ」


 「そうだったかな?」


 どうやら夏望ちゃんは覚えてない様だ。


 「・・・おまえなぁ。

 まあこの事はまだ完璧に分かってない部分でもあるから仕方ないけど。

 彩香、あくまで現在の魔法使いが一般的に考えられている仮定の話になるし・・・それでもいいか?」


 「仮定? それでもいいから話して見てよ」


 「分かった。とりあえず確認なんだが、彩香が気になってるのは、夏望が作り出した水は何処からやってきたのかって話だよな」


 まあそうゆう事だ。

 僕は結翔の言葉に頷いた。

 

 「それじゃあ彩香、そもそも俺たちが吸っている空気ってなんだか分かるか?」


 「空気? えっと・・・酸素とかの事」


 「そうだな。大体8割が窒素で2割程が酸素らしいがその辺はあまり詳しく無いから割愛するぞ」


 窒素と酸素・・・昔理科の授業で聞いたやつだと思うんだけど、それが一体どうしたのだろう?

 とにかく頷きながら結翔の話を聞くことにする。


 「さっき言ったのが世間一般に知れ渡っている空気だ。

 ただ魔法使いが知っている空気にはこれにあるものが足される」


 「あるもの?」


 「異界から出る魔法の力だ」


 異界から出る魔法の力・・・

 確かその力のせいで生態系が狂ったり、生物が凶暴化したりする力だったけ?

 確か先生が教えてくれたと思う。


 「魔法の力で生物がおかしくなるってのは聞いたよな?

 なら当然酸素や窒素の混ざって魔法の力がある事になる」

 

 ・・・なんとなく分かってきたかもしれない。


 「要するに、窒素や酸素みたいに見えない物質が空気中に存在しているって事?」


 「その通りだ。

 俺達は異界の風って呼んでるけど、先生言わなかったのか?」


 「異界から出る魔法の力は聞いたけど、それが異界の風って言葉は聞いてないよ」


 「そうなのか、先生何も話さなかったんだな・・・

 まあいい、とにかくその異界の風と言ってる物質のおかげで俺達は魔法を使えるんだ。

 ただ最初に言った通り、この異界の風がどんなものなのかは研究中だ。

 要するに水の魔法に限って言えば、異界から何か不思議な物質が出て、それを魔法使いの力で水に変換しているけど、それが一体何で、どう言ったものなのかのは分からない・・・そんなところだ。

 夏望思い出したか?」


 そう言いながら結翔は人差し指を夏望ちゃんにビシッと向けた。


 「え〜〜と・・・多分そんな感じだったと思う」


 「おいおい、魔法使いでは一応お前の方が彩香の先輩になるんだからしっかりしろよ」


 「えへへ・・・」


 話を振られた夏望ちゃんは笑顔を作って誤魔化そうとした。


 「彩香の方は理解出来たか?」


 異界の風・・・とりあえず空気中に不思議な魔法の力がある事は分かった。

 

 「まあ大体分かったよ。

 それにしても僕の傷を治す魔法と違って2人の魔法は色々出来るんだね」


 「まあ大地と水の魔法使いは組織全体の大半を占めてるからな。

 お前の傷を治す魔法もそうだけど、クレハの火の魔法なんかも使える魔法使いが少ないから今まさに研究中って感じだしな」


 クレハは火の魔法使いか・・・

 まあ昨日鎌の先に火をつけて戦っていたし、そうだろうとは思っていた。


 「クレハお姉ちゃんは凄いんだよ。

 火の魔法を使ったら、組織全体の中でもトップになれる位上手なんだよ。

 それに今の討伐隊もクレハお姉ちゃんがいないと私と結翔お兄ちゃんだけじゃ機能しなくなるしね」


 テーブルの上の食べ物をあらかた食べ終えた夏望ちゃんは嬉しそうにクレハの事を話す。


 あの無口でぶっきらぼうのクレハが?


 正直クレハにはあんまりいい印象は無いんだけど、夏望ちゃんが凄いって言ってるから凄いんだろうな・・・

 

 「そ、そうなんだね。

 ところで先生や結翔も討伐隊って言ってたけど討伐隊ってなんなの?」


 「えっとね、討伐隊って言うのは私達の組織の所属の名前だよ。

 やってる事は色々あるんだけど・・・後は結翔お兄ちゃんよろしく〜」


 夏望ちゃんは結翔に「後は頼んだ」って感じに話を丸投げした。

 結翔は「お前言わないのかよ」と言いたそうな顔をしてため息をついた。


 「まったく・・・まあ先生にもこの辺は説明しろって言われてるからいいけど。

 夏望がさっき少し言ってたが、討伐隊ってのはここの組織の役割の1つで、討伐隊は組織の最後の砦ってとこかな」


 最後の砦?

 いまいちよくわからないが、とりあえず黙って話を聞いてみる。


 「ここではそれなりに大勢の魔法使いが色々な役割分担をして生活している。

 例えばこの山の中に異界の風の影響で変化した生物がいないかを監視または駆除をしたり、異界の風を制御して出来るだけ外に出さないようにしていたり、この施設に限って言えば、食事を作ってくれたり、医療系を専門にしたり、後は異界について研究したり色んな役割がある。

 その中でも特に危険な任務や他で解決できない事柄を解決していくのが俺や夏望なんかがしている討伐隊の仕事だ。

 昨日の巨人・・・異界の物と戦うのも討伐隊の仕事さ」


 昨日の巨人・・・

 ある程度覚悟を決めていたが、やはり昨日の巨人の話になると緊張する。


 「まだよく分かって無いんだけど、とりあえず僕はその討伐隊ってのになればいいのかな?」


 「彩香はどう思うんだ?」


 「本当のことを言えばまだ怖いし危険なことはしたくないよ。

 でも結翔達は危険だけど頑張っているし、僕にしか出来ない事もここではあるみたいだし、先生もそのために僕を呼んだんだと思ったんだ。

 ・・・だから討伐隊に入るのが当たり前だと思ったんだけど」


 「・・・・・・本当にいいのか?」


 低く冷たい声・・・

 討伐隊に入ると僕が言うと、結翔は突然険しい顔になりこちらを睨んだ。


 「えっと・・・何か変な事を言ったかな?」


 部屋の空気がなんだか重い。

 先ほどまで楽しく話していた部屋だったはずなんだけど・・・

 しばらくの沈黙の後結翔は話し出した。


 「いや・・・すまない。

 彩香が討伐隊に入ってくれると言ってくれて、本当にありがたいと思っている。

 それにさっきも言ったが俺自身も彩香には討伐隊に居て貰いたい」


 「・・・どうしたの結翔?

 何か僕が討伐隊になって悪い事でもあるの?」


 「悪い事か・・・

 正直に言わしてもらうと、ここの討伐隊は人手不足だ。

 経験が何も無い彩香も即戦力として扱うことになる。

 だからまずは他の部隊で経験を積んで貰うのが本当は彩香の為にもなるし、その方がいいと思うんだ」


 「人手不足なの? 先生が大人はいないって言ってたけど、そんな危険な事をするんだからある程度の人数は・・・」


 「4人だ」


 「・・・・・・え?」


 話の途中で結翔が答える。


 「残念ながら今の討伐隊は4人しかいない」

 

 「よ・・・4人!?

 4人しかいないの!?

 なんで!? どうして!?」


 病室に来る前、結翔にこの施設の大まかな人数を聞いた時、200人程はいると言っていた。

 多分討伐隊ってのがその中でもある程度は魔法の力が強い人、才能のある魔法使いなのだろう・・・大人はいないと聞いていたがそれでもそんな危険な仕事だ、もっといると思っていた。


 「討伐隊は魔法使いの中でも一部の魔法の力が強い魔法使いが討伐隊の所属になる。

 理由は色々あるけれど、異界の物と戦うには強力な魔法を使わないといけないからな。

 一応討伐隊になりたかったら申請すれば誰でもなれるんだけど、中途半端な魔法使いだと危険だったり最悪死んだりするから自分からなりたい奴なんていないんだ」


 「そんな・・・それじゃあもし昨日の巨人みたいなのが出て来て結翔達が戦えなくなったらどうするのさ?」


 「討伐隊がやられたら残った魔法使いでどうにかしないといけないだろうな」


 「そんなのおかしいよ!

 最初からみんな一斉に戦った方が効率が良いし、何よりも確実に勝てるじゃ無いか!」


 「・・・そうだろうな」


 結翔は否定をしなかった。

 

 「だけどな彩香、ここにいる魔法使いが昨日の巨人と一斉に戦ったら一体何人が犠牲になると思う?

 俺達は異界の物の攻撃を受け流す事ができるけど、多分普通の魔法使いには無理だ。

 異界の物が出るたびに数人・・・もしかしたら何十人か犠牲になる。

 今までの討伐隊の連中でさえ何人も犠牲になってるからな・・・」


 そう言った結翔の顔はとても寂しそうだった。


 どうやら、魔法使いの世界でも結局は能力やセンスによって、出来ること、出来ない事があるみたいだ。


 討伐隊・・・本当に僕みたいな大した能力もない、昨日今日『貴方は魔法使いなんだよ』と、言われた自分がそんな重要なポジションにいて大丈夫なのか・・・

 やる気だけの話で済まされない、とても大事な事だと気づかされる。


 「彩香お兄ちゃんは大丈夫だよ」


 心配している僕に、夏望ちゃんはそう言ってきた。


 「彩香お兄ちゃんは、異界の物を目の前にして私を魔法で助けてくれたんだよ。

 普通の魔法使いは、慌てて魔法なんて使えてないよ。

 でも彩香お兄ちゃんはしっかり魔法で私を助けてくれたし大丈夫だよ」


 「ああ、俺もそう思ってるぜ彩香。

 正直お前に討伐隊に入ってもらおうと思ったのも、

異界の物を初めて見たのに臆せずしっかりとしたイメージを持って魔法を使えたからなんだ。

 夏望も言っているけど、並の魔法使いは恐怖で魔法のイメージが出来ずにただ慌てるだけなのに、お前はしっかり魔法を使えてたからな」


 「そうなのかな?

 でもあの時、僕もどうすればいいか分からずパニックになってたと思ったけど・・・」


 「まあそうかもしれないけど、結果としてお前の魔法で夏望を助けた。

 どんな状況でも最高のイメージを持って魔法を使える、そうゆう事が出来るのが才能のある魔法使いだと思うんだ」


 才能があると言われてもよく分からない。

 またあの時と同じような状況になって、また同じように出来るかどうか・・・

 

 そんな事を考えふと窓を見ると、外はもう真っ暗になっていた。

 部屋の時計を見ると、時計の針は夜の8時を示していた。


 「そろそろいい時間だし解散するか」


 結翔も同じタイミングで時計を見てそう言った。


 「そうだね結翔お兄ちゃん。それじゃあ片付けるよ」


 夏望ちゃんはテーブルの上のお菓子をかたずけていく。

 僕も何か心にモヤモヤした物があったが、とりあえず夏望ちゃんと一緒にテーブルの上を片付けていった。


 あらかた片付けが終わり、後は各々部屋に戻って休む事になった。

 結翔は、これから僕のために用意してくれた部屋に案内してくれるらしい。


 まあ結翔の部屋の隣らしいのだが・・・


 夏望ちゃんにおやすみを言って病室から出る時、夏望ちゃんは改めて僕にお礼の言葉を言ってくれた。

 それを見て、結果はどうあれ僕はこの子を助けたことには違いない。

 討伐隊に入るか・・・今はまだ分からない。

 でもきっと僕にもここで出来る事がある、だから頑張れる・・・そう思う事にして夏望ちゃんのいる部屋の病室のドアを静かに閉めた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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