第6話:歓迎
4月は忙しく中々執筆できずに遅れに遅れてしまいました(-。-;
5月になれば時間ができる・・・と思います。
「ここが購買部だ」
一階の廊下をしばらく歩いてそう結翔が言った場所は、壁がガラス張りで中が見えて中にはお菓子や化粧品、ジュースの棚なんかがある。
・・・・・・どう見てもコンビニだった。
ここまで結翔の後をついてきたが、途中カフェやら本屋やら・・・おまけにカラオケやダーツバーなど、とにかく色んな施設が目に入った。
結翔曰く、
「俺達はここに缶詰状態だからな。
このくらい無いと寂しいだろ」
・・・だそうだ。
確かにここから余り出れないのだから、娯楽は沢山あったほうがいいのだろう。
そう思いながらも目の前のコンビニ的な施設を苦笑いしながら眺めた。
当然入り口は自動ドアで、ご丁寧にどこかで聞いた事のある入店音も完備している。
「いらっしゃい・・・あら結翔ちゃんじゃない」
店内に中年女性らしき人が話しかけてきた。
ここの店員だろうか?
「こんにちは、ちえさん。
今日はこいつ・・・彩香って言う新入りなんだけど、こいつの買い物なんだ」
「あら新人さん。
可愛い女の子ねぇ。
彩香ちゃんって言うの?」
「・・・すみません。僕、男です」
少しうつむいた僕の横で結翔はケタケタ笑っている。
「あら〜、ごめんなさいね。
あんまりにも可愛いから、女の子だと思ったわ」
「大丈夫です。もう慣れてますから・・・」
「まあまあ彩香、色々買う物があるんだろ。
とりあえず店内を見てこいよ」
「・・・そうだね」
僕の見た目の話は置いといて、ここで生活するのに必要な物を選ぶことにした。
店の中にはお菓子や化粧品が並び、飲み物やアイスクリームなどもある。
本当にコンビニそのものだ。
ただ、お弁当やサンドイッチ、肉まんなどのコンビニによくあるもの見当たらなかった。
多分日持ちのしないものは置いてないのだろう。
僕は身の回りに必要な物をカゴに入れてレジに持っていく。
すると中年女性の店員さんは、僕に話しながら手際よくレジ打ちをしてくれる。
店員さん・・・どうやら名前を千江子と言い、皆からちえさんと言われているらしい。
僕の持ってきた生活必需品を全てレジ打ちした後、ちえさんは他に何かいるものはないかと聞いてきた。
それで、僕が服が欲しいと言うと、何処からかファイルに閉じた自作のカタログを持ってきてくれた。
そのファイルには洋服から、ジャージ、寝間着、靴、コートやジャケットまで沢山あった。
何着かファイルの中の服を選んでちえさんに伝えると、彼女は僕をカウンターの裏の扉に案内してくれた。
ファイルには沢山の服や靴が載っていたのでここの何処にそれらを置いている場所があるのかと思ったが、裏の扉の先が大きな部屋になっていて、そこは大量の服が置いてある倉庫の様な場所になっていた。
ちえさんは僕の服のサイズを聞くと、そこから僕が選んだ服を持って来てくれた。
「そういえば彩香はカードを持ってたっけ?」
服のサイズを合わせていたら、僕に後ろでその光景を見ていた結翔はそんな事を言ってきた。
「カード?」
「ここで買い物や食事をする時は全部カード支払いなんだ」
そう言って見せてくれたのは何処からどう見てもクレジットカードだった。
・・・なんて近代的な魔法使い達なんだろう。
クレジットカードはさすがに持ってはいない。
「ごめん、現金しか持ってないや」
「うーん、どうしようか、ちえさん?」
「そうねぇ、それでもすぐにいる物ばかりみたいだしねぇ・・・とりあえずおばちゃんがどうにかしてあげるから、気にせず選びなさい」
「すいません、ありがとうございます」
そう言った僕をちえさんは気にしないでいいからと言ってくれた。
一瞬どうしようか困ったけど、本当に助かった。
一通り買い物を済ませた僕は、次は目の前の大量の荷物をどう運ぼうか考えていた。
「彩香ちゃん、お部屋までは運んであげるからお部屋を教えてね」
ちえさんはそう言ってくれた。
何から何まで本当に助かる。
でも僕の部屋が何処か分からない。
「俺の部屋の隣だから、とりあえず俺の部屋の前に置いといてよ」
いつの間にか自分の買い物をしていた結翔は、買い物かごに大量のお菓子やジュース等を入れてレジの前にいた。
「そんなにいっぱい買うの?」
「まあ、ちょっとな。
このお菓子は俺が持っていくから彩香の物だけ運んでくれよ」
「はいはい、それじゃあこっちの荷物を結翔ちゃんの部屋に置いておけばいいんだね。
そういえば結翔ちゃんの荷物も届いてたから一緒に持って行くわよ」
「おお! あれ、やっと届いたか!
ちえさんありがとう」
「いいのよ。それじゃあ彩香ちゃん、後で荷物を置いておくわね」
「お願いします、ちえさん」
ちえさんにお礼を言って、コンビニ・・・購買部を出た。
結翔もとても大きい袋を手に購買部を出る。
出た先で何気無い疑問を結翔に聞いて見た。
「結翔、ちえさんも魔法使いなの?」
「そうだぜ。
年をとっても魔法の力は衰えないけど、体力的に辛くなるからな。
ある程度したらこういった場所で働いたり、希望すれば色んな部署に移動できたり出来るんだ。
・・・と、時間が少し迫ってるな。それじゃあ次行くぞ!」
結翔は大量のお菓子の袋を下げ、次にそそくさ進んでいった。
「ちょっと待ってよ」
先程から思っていたが、結構広い建物だ。
逸れたら迷子になる自信がある。
結翔に逸れぬ様に急いでついて行った。
次に着いたのは一階の廊下の多分端っこ・・・食堂と書かれた場所だった。
中は机と椅子がとても沢山並んでいて、奥にキッチンが見える。
物凄く広い学生食堂といった感じだ。
そろそろ夕食も近い事もあり、割と席は埋まっていた。
「すごい広いところだね」
「ここにいる魔法使い全員が食事をする場所だからな。
どうしても広くなるよ」
「そういえば聞いてなかったけど、ここにはどの位の魔法使いがいるの?」
「そうだな・・・多分150から200人位はいるんじゃないかな?」
150から200人位か・・・
多い様だけど、この国の人口割合からしたらかなり少ないかな。
「ちなみに俺たちの国にいる魔法使い全部がここにいるわけじゃないぜ。
魔法使い同士結婚したり、子供が生まれたりしたら、この国にもう一箇所同じ様な場所があるから、そこに配属になるんだ」
「そうなの?」
「家族から離れれる年齢の魔法使いや、親がいないみたいな訳ありで魔法の力がある魔法使いがここにいるんだ」
親がいない・・・僕のことだな。
「だからここではみんな家族とかの話をしない様にしてるんだ。
一応彩香の事情も先生から聞いているけど、そうゆう事だからよろしく頼む」
「うん、わかったよ」
「よし!
じゃあここで必要なものを貰って次に行くぞ」
食堂の配膳場所に来た結翔は、奥にいる人と何かを話している。
しばらくすると何やらとても大きな袋を結翔は貰った。
「それじゃあ次に行くぞ」
大きな袋を貰った結翔はそういって食堂の出口に歩いていく。
もう食事時だ、てっきりご飯を食べに来たと思ったが違うみたいだ。
それでも結翔は先に行くので、遅れない様に着いて行く。
先程の購買部の横を通り、カフェやダーツバーがあった場所も通り過ぎ、どんどん来た道を逆走して行く。
そうして見覚えのある場所に着く。
多分最初に僕が寝ていた部屋の入り口があった場所だと思う。
結翔が止まった場所には第3救護室と書かれていた。
「ここは?」
「救護室・・・まあ病室だ」
「第3って書いてあるから第1や第2もあるの?」
「ああ、あるぞ。
第1は診察する所、第2は手術や処置をする場所、第3は病室になっていて、個室の部屋と団体の部屋の二つに別れている。
おまえが寝てたのは団体の部屋だな」
そう言って隣のドアを指差した。
僕が寝ていた場所・・・まあ確かに病室といえばそんな感じだったかな。
「それで、ここに何の用があるの?」
「まあ着いてこいよ」
言われるがまま中に入った。
中に入るとさらにドアが沢山並んでおり、ここからさらに個室になっているみたいだ。
結翔は、その並んだドアの一つのインターホンを押した。
「はーい」
インターホンから女の子の声が聞こえた。
「夏望いるか? 結翔だ。
客もいるんだが入っていいか?」
「結翔お兄ちゃん!
入っても大丈夫だよ」
「それじゃあ入るぞー」
結翔は病室に入っていき、僕は続いて入って行った。
病室は6畳位の大きさで、中央にテーブルがあり、窓際にベット、それにテレビなどあり、病院の個室といった感じだった。
ベットには僕より少し年下ぐらいに見える可愛らしい女の子が1人腰掛けている。
多分昨日巨人と戦っていた女の子・・・確か『なつみ』とか言ったかな。
「いらっしゃい結翔お兄ちゃん・・・それと後ろのお姉ちゃんは誰?」
それを聞いた結翔は「やっぱり」と言って笑い出し、目の前の女の子は「なぜ?」と言いたそうに首をかしげる。
うん、もうなんでもいいよ・・・
心が折れてきた。
「ごめん・・・これでも僕は男なんだ」
「・・・・・・え!?」
「夏望、こいつがさっき言った彩香だぞ」
結翔が僕の事を彼女に言うと、さらにびっくりして僕のところに飛んで謝って来た。
「あ、あなたが彩香さんだったんですね。
ごめんなさい、てっきり女の人が来たんだと思って・・・
ちょっと! 結翔お兄ちゃん!
私を助けてくれた人なんだからちゃんと教えてよ」
結翔は怒っている女の子をなだめながら笑っている。
・・・多分僕の見た目について、あえて言わなかったんだろう。
僕は結翔を見て睨んだ。
「まあまあ彩香。夏望も元気になったし、彩香の歓迎パーティーを兼ねて色々買って来たから食べようぜ」
結翔は持っていた大量の荷物をテーブルに置いてそう言った。
だから購買部で大量にお菓子を買ったり食堂で大きな荷物をもらったりしてたんだな。
結翔に言いたい事はあるが、とりあえず目の前の女の子に体調について聞くことにした。
「えっと、なつみちゃん・・・だっけ?
体の方はもう大丈夫なの?」
「はい! おかげですごく元気です。
私は最上夏望と言います。
彩香さんの事は結翔お兄ちゃんから聞きました。
ここにいるって事は組織に入ったんですね。
これからよろしくお願いします」
夏望ちゃんは礼儀正しく、ハキハキ自己紹介してくれた。
昨日の案内がクレハではなく夏望ちゃんならよかったのに・・・ちょっとそう思う。
「よろしく、夏望ちゃん。
僕は一ノ宮彩香・・・彩香でいいよ」
「はい! よろしくお願いします」
「おーい、そろそろ飯にしようぜ」
お互いの自己紹介をしている間に、結翔は自分の持って来た大量のお菓子やら重箱の弁当箱を机に並べていた。
確かにもう夕食どきだ、結翔の用意してくれた食べ物を食べる事にした・・・のだが、その大量の食料に驚く。
結翔の持って来た食事は、重箱5段の中に、おにぎりやサンドイッチ、唐揚げ、ウインナー、焼き魚、サラダ的なもの、フルーツ・・・と一般的にお弁当の中身ではあるが、とにかく量が多い。
お菓子も大量にある。
お菓子だけでもお腹いっぱいになりそうなのに、5段の重箱だ。
僕の歓迎会と言っていたが、僕はあまり食べる方ではない・・・むしろ少食である。
目の前の大量な食料を全部食べれるか心配になってくる。
だが、食べ始めると、そんな心配をしなくていい事にすぐ気づいた。
どうやらこの大量の食べ物は夏望ちゃんのために用意されていた物らしい。
その証拠に、彼女は重箱の食べ物をあっという間に平らげていった。
正直びっくりしたが、僕もお腹は空いているので、重箱の弁当を食べる事にする。
「そういえば彩香お兄ちゃん」
「おっ・・・お兄ちゃん!?」
「・・・? どうしました?」
夏望ちゃんは僕の事を急にお兄ちゃんと言い出した。
「夏望は年上の知り合いをお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼んでるんだ。
何でもいいだろ、呼び方なんて」
おにぎりをモグモグさせながら結翔は教えてくれた。
養子で邪魔者扱いされていた一ノ宮の家では、年下からも名前を呼び捨てで呼ばれていたので、お兄ちゃんと言われたのは初めてだ。
正直呼び名なんて何でもいいが、何か恥ずかしい。
「まあ、夏望ちゃんの言いやすい呼び名でいいよ」
少しむずかゆいが、夏望ちゃんを見ながらそう言った。
それにしてもお兄ちゃんか・・・まあ悪くはないかな。
「ところでどうかしたの?」
「はい、彩香お兄ちゃんの魔法図の色を教えてもらおうと思って・・・
私に使った傷を治す魔法、何色だったのかなって思って」
「魔法図・・・ああ、あの色の変わる紙か。
黒色だったよ」
「「!!!!!」」
それを聞いた結翔と夏望ちゃんは食事をやめるほどびっくりした。
「黒・・・まあ確かに傷を治す魔法なんて聞いた事がないからな」
「黒色の魔法使いなんて初めて見た・・・」
それぞれ色んな感想を言ってくれる。
「黒色・・・やっぱり珍しいの?」
「珍しいってもんじゃないぞ彩香!
お前すごいな」
「すごいと言われても・・・
結局何の魔法が使えてるのか分からないし、ここにも途中から来たわけだから結局のところ黒色は誰もいないみたいだし、僕の魔法を誰も教えてくれないだろうから困ってるよ」
「まあそうか、黒色っていないもんな」
「傷を治す・・・なんの魔法の属性だろうね」
結翔と夏望ちゃんは今度は僕の魔法の属性について話をしだす。
2人であーでもない、こーでもないと言っている。
僕自身魔法使いの実感が未だにわかない事もあり、これについては、そのうち分かるだろう位にしか思っていない。
だから、一生懸命考えている所申し訳ないけど、他の話に話題を変えることにした。
「ところで、2人はどんな魔法が使えるの?」
「・・・うん? 俺達の属性か?
俺は大地の魔法で夏望は水の魔法だ」
結翔が大地で夏望ちゃんが水か・・・
「結局のところ魔法使いって何ができるの?」
「先生から聞かなかったのか?」
「魔法はイメージとか、後は大地の魔法が薬草を作れるとかを教えてくれたぐらいかな」
「まあ先生も大地の魔法使いだしな、他の属性は説明しずらいかな。
話を聞く限り、先生からあまり詳しくは聞いてないみたいだけど・・・」
「先生からは魔法使いの属性は基本3つで、大地と水が大半を占めているって事くらいは聞いたよ」
「そうか、それじゃあ俺達が大地と水の魔法について説明してやるよ」
結翔は得意げに言うと重箱に入っていた最後の唐揚げを口に入れた。
5段のあった重箱の中身もあらかたなくなってきた。
まあ大体夏望ちゃんが食べたんだけど・・・
目の前の小さな体の何処にそんなに食べ物が入るのだろうか?
食事を終えてお菓子に手を伸ばし出した彼女をまだ食べるんだと呆然と眺めながら、結翔の魔法使いの説明を聞くことにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




