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きみと歩くすこし不思議な魔法の世界  作者: ねんねこザウルス
5/15

第5話:黒い魔法使い

 4話目を今後の展開のためにいくつか修正しました。

 

 静寂が支配する応接間・・・


 僕と、目の前には先生と言われている女性がソファーに座っている。

 テーブルには記憶を戻すための液体の入った瓶、それと組織に入るための紙・・・

 僕はこれからそのどちらかを選ばなければならない。


 ・・・正直僕に帰る家はない。

 だからここで記憶を失って帰っても路頭に迷うだけなのだ。

 ただどうしても昨日の巨人が頭をよぎる。

 

 それから少し考え、僕は目の前の瓶を手に取り答えた。


 「僕はここで何ができますか?」


 ・・・自分でも変なことを言っているのは分かっている。 

 僕に魔法使いの素質があるから呼んだんだ。

 それでも大切な事だった。


 僕はいつも邪魔者だった。

 誰かに頼られたこともない。

 爺さんにいつも守られていた。

 自分が一体何なのかもわからない。

 だから僕はここで何ができるか知りたい・・・

 

 僕の言葉を聞き、目の前に座る女性は答えてくれた。


 「魔法使いは常に死と隣り合わせです。

 今までも沢山の魔法使いが亡くなりました。

 貴方の魔法はそんな魔法使いの命を助けることができます。

 それに・・・貴方は夏望さんを助けたではないですか。

 これは貴方にしかできなかった事ですよ」


 僕にしかできない・・・

 そもそも目の前の彼女は僕を仲間にする為に呼んだんだ。

 おかしな事は言わないだろう。


 ・・・でも、そう言ってもらえて嬉しかった。


 「・・・わかりました。

 貴方達の仲間になります」

 

 持っている瓶をテーブル戻した。


 「・・・本当によろしいのですか?

 私達の力になってくれる事、とても嬉しいです。

 でも組織に入った場合、魔法使いの存在を隠す為にこれまでの様に外を自由に出歩けなくなります。

 それに昨日みたいな巨人・・・異界の物と貴方は戦わないといけないかもしれません。

 怖い思いや悲しい思い、もしかしたら貴方自身死んでしまうかもしれないんですよ。

 それでもいいんですか?」


 「大丈夫です。

 それに昨日の巨人は・・・正直怖いですよ。

 でも僕の力で誰かを助けれるなら、ここが僕を必要としてくれるなら、僕は力になります。」


 そう力強く彼女を見て答えた。


 「そうですか・・・彩香さん、ありがとうございます」


 彼女は今日一番の笑顔を作った。


 「では組織に入るために、まずは私達組織の決まり事について知ってもらいます」


 彼女は薬を懐にしまい、置いてある紙を差し出した。


 「先ほども言いましたが、一般に魔法使いはこの世に居ない存在になっています。

 ですから魔法使いの存在を隠す為、基本的に許可がないとこの施設から外には出れません」


 「次に魔法を使って人を攻撃する事の無い様お願いします。

 魔法の力はとても強力です。人などすぐ死んでしまいます。

 それに魔法使い同士内輪揉めをすると、魔法が外部に漏れてしまう可能性もありますので。

 とにかく、魔法使いについて秘密にするよう努めて下さい」


 「最後に、何があっても生きて下さい。

 魔法使いが行なっている事はどうしても危険がついてきます。

 いつまでも元気で・・・これは私からのお願いです」


 彼女は真剣な顔で僕を見た。

 魔法使いが秘密主義なのはわかった。

 それと生きろ・・・か、多分本当に危険な仕事をするんだろうな。

 でももう決心はついている。

 

 「はい、わかりました」


 彼女にそう言って頷いた。

 

 彼女はまた笑顔になって話を続ける。

 

 「ありがとうございます。

 では今の話を了解した証として、この紙に魔法を使ってもらいます」


 「紙に魔法を・・・ですか?」


 「そうです。この紙・・・魔法図と私達は言ってるんですが、これに魔法を使うと紙の色が変化します。

 その変化した色によって貴方の魔法が何の属性かわかります。

 それと色の濃さによってどれだけ魔法の力が強いかもわかります」


 「魔法使いの属性は主に大地、水、火、この3つに分けられます。

 色とすれば、大地は緑、水は青、火は赤、といったところです。

 彩香さんは多分・・・まあとりあえずやってもらいましょうか」


 ・・・・・・?

 何か引っかかる言い方だな。

 

 「では、この紙の中心にどちらかの手を置いてください」


 言われるがままに右手を置いた。


 「それでこの紙に魔法を使って下さい」


 「紙に魔法を使う? どうやって?」


 「そうですね、貴方の場合は傷を治す魔法、それをこの紙に使って下さい」


 使えと言われてもなぁ・・・

 まあとりあえずやってみようか。

 傷を治す時の様に右手に力を入れて見る。


 そうすると紙の色がどんどん変わっていく。

 そしてその紙は真っ黒になった。


 ・・・・・・真っ黒?


 さっきの説明だと3色だった様な?

 何か失敗したのかな?


 「やはり、黒色でしたか・・・」


  しかし、それを見た彼女は、黒色に変化するのを初めからわかっていたみたいで、それでも興味深そうに紙を見ている。


 「あの、何か失敗しました?」


 「いえ、大丈夫ですよ。

 なんとなくそんな感じはしていましたから」


 どうゆうことだ?

 首を傾げて彼女を心配そうに見る。


 「実は先ほど言った3色ですが、大半の魔法使いがこの3色になります。

 大体9割の魔法使いが、緑色の大地の魔法が使える魔法使い、もしくは青色の水の魔法を使える魔法使いになります。

 残り1割が赤色の火の魔法が使える魔法使いになります。

 ですが、極々稀に黒色になる魔法使いがいます」


 「それじゃあ僕は・・・」


 「極々稀の魔法使いになります。

 ただ私も魔法図が黒色に変化したのを見たのは初めてですよ」

  

 「そうなんですか?」


 「ええ。何人か黒色に変化した魔法使いを知ってはいるんですけどね」


 「・・・それで黒色の属性は何ですか?」


 「不明です」


 「不明? 解らないって事ですか?」


 「まあ、そうゆう事です」


 いやいや、せっかく魔法使いになれたのに、結局僕が何の魔法を使えるか分からないだなんて・・・

 少し慌てた僕の様子を見て、彼女はクスクス笑い出した。


 「ふふ・・・心配しなくて大丈夫ですよ。

 彩香さんは傷を治す魔法を使っているではないですか」


 ・・・そういえばそうか。少しホッとした。


 「黒色の魔法図の魔法使いの人々は、全員同じ属性といったことでは無く、最初に言った3色以外の何かの属性である、ということなんです。

 要するに属性不明なだけで、魔法自体は何かを使えるんですよ」


 「彩香さんの傷を治す魔法は緑の大地の魔法に似ています。

 決定的な違いは、大地の魔法は魔法の力を使って大地から薬草など、傷を治す薬を作りだし、それを使って傷を治します。

 対して彩香さんの魔法は、傷そのものを治すことができると言った点で違いがあります」


 「それじゃあ僕以外の他の黒色になった人はどんな魔法が使えるんです?」


 「そうですね、私が知っている黒色の魔法使いは、空を飛べるとか、光線の様なものを出せたりとか・・・ですかね。」


 「魔法使いは空を飛べないんですか?」


 「飛べませんよ。

 まあ一般的な魔法使いのイメージはそうでしょうね」


 そうなんだ。

 何かがっかりした。


 「とにかく、黒色の魔法使いは数が少ないですし、一体なんの属性で、どんな魔法を使っているのか本人達も解らないんです。

 先ほどの空を飛べる方も、空は飛べるが、それをどうやって飛んでいるかと聞かれると、分かってないみたいです。

 分からないままみなさん使っているみたいですけどね」


 「じゃあ僕の傷を治す魔法は、何かの属性の魔法ってことですか?」


 「そうなりますね。

 ・・・例えば彩香さん、得意な事とか何か無いですか?」


 「得意なこと?」


 「魔法とはイメージをして使うものなんですよ。

 魔法使いの素質があるけれど魔法を知らない人は、無意識に魔法の力を使って人よりも優れた結果を出したりしてますから」


 「魔法って呪文とか唱えたら使えるんではないんですか?」


 「そんなことはないですよ。

 魔法をどういった形で表現するか、これが魔法の基本です。

 大地から薬草を作るのも、どのような用途の、どれくらい良く効く物かをイメージしてそれを再現させるんです。

 その時、魔法の力の強さが伴って初めて品質の高い薬草を作り出す事が出来るんですよ。

 魔法のイメージをわかりやすくする為に名前を付けて魔法を使う人も中にはいますけどね」

 

 魔法はイメージ・・・か。

 確かに僕の傷を治す魔法も特に呪文とか言ってないな。


 「ですので、何かあれば教えてくださると、もしかしたら何の属性かわかるかもしれませんから」


 得意なこと・・・何かあったかな?


 ・・・・・・!

 あった・・・けど、どうなんだろうこれ?


 「一応あるにはあるんですけど・・・

 なんて言えばいいのかな・・・」


 「何でもいいですよ、教えてください」


 「・・・勘がいいです」


 「勘・・・ですか?」


 「まあ、説明しにくいんですけど・・・

 例えばくじ引きで何となく選んだ物が当たりだったり、適当に歩いてたら目的地についたり、後はジャンケンしたらよく勝ったり・・・」


 「うーん・・・どうですかね?

 ジャンケンはいつも勝てるんですか?」


 「はい・・・昔からあまり負けた記憶がないです」


 「そうですね・・・今の所傷を治す魔法との関連はないですかね」


 彼女は苦笑いしてそう言った。

 そりゃそうだろう。

 勘がいいと言うか、運がいいの方が正しいかもしれないし。

 

 でも本当だからしょうがないじゃないか。


 「まあ、また何か思い当たるものがあれば教えて下さい。

 自分の属性の事がわかれば、今よりもっと魔法をイメージできますからね」


 「わかりました。

 それでこの紙はどうするんですか?」


 真っ黒になった魔法図と言われる紙を僕は指差し彼女にそう言った。

 彼女は忘れてたのか、慌てて立ち上がり、奥からボールペンを持ってきた。


 「彩香さんすみませんでした。

 この魔法図の隅に名前を記入してもらうと組織の加入完了になります」


 なるほど、この紙に魔法を使って色を変えて、それで自分の名前を書けばそれが魔法使いの証明になるってわけか。

 ただ紙全体が真っ黒でボールペンでは名前を書けそうにない。


 一応書いてみる・・・がやっぱり真っ黒のため書けない。


 「書けませんね・・・」


 「やっぱりダメでしたか」


 彼女はどうしようかと頬に手を置き悩み出した。

 悩んだ末彼女が出した答えは・・・


 「まあ、黒色の魔法使いなんてそんなにいないし、とりあえず書いちゃって下さい」


 ・・・それでいいのか秘密の組織。


 言われた通りにボールペンで真っ黒の紙に名前を書く。

 当然紙には何を書いたかわからなかった。


 「それではこれで終了です。

 彩香さんこれから大変ですけどよろしくお願いしますね」


 「こちらこそよろしくお願いします」


 「では、彩香さん!」


 「は・・・はい!?」


 「貴方はもう組織の一員・・・私達の仲間になりました。

 私の事はこれから先生と呼んでいいですからね」


 彼女は満面の笑顔でそんな事を言ってきた。


 先生・・・まあ別に言い方なんて何でもいいけど、最近知り合った人をいきなり先生と言うのも少し抵抗がある。

 結翔が先生と言ってるわけではなく、この人が先生と呼ばしているのか?


 「いやでも・・・」


 そう答えて彼女を見ると、


 じーーーーーー


 と言った声が聞こえそうな顔をしてこちらを見ている。

 

 「えっと・・・せ、先生」


 「はい!」


 彼女・・・先生はにこーとした笑顔でそう言った。


 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・まあ別にいいけどさ。


 「そろそろ良い時間ですし、今日はこの辺りにしておきますか」


 先生はポケットから携帯電話を取り出す。

 

 「・・・ちょっと待って下さいね」


 そう言って携帯電話で何か作業を始めた。


 「・・・・・・これでよし!

 そういえば彩香さんは携帯電話をお持ちですか?

 一応この周辺は田舎なので多分使えないと思うんですが・・・」


 自分の携帯電話を取り出してみる。


 「・・・ほんとだ、圏外になっている」


 「それでは使えるものを用意します。

 それと彩香さんはあまり荷物を持ってこられてないみたいなんですが・・・着替えなどは?」


 「まあ買えば良いかなと思いまして・・・」


 一応金持ちの育ちだった為、その場で買えば良いかなって思ってしまい、荷物は特に持ってこなかった。

 まさかこんな山奥に行くとは思わなかったし、爺さんに生前、もしもの時の為のお金を貰っていたからそれで大丈夫だろうと思っていた。


 「それならこの施設にそういった物を支給する場所がありますから、とりあえず必要なものを貰って下さい。

 それと彩香さんはパソコンとかはされるんです?」


 「パソコン? インターネットとかですか?」


 「そうです。先程から言っていますが、私達魔法使いの存在は秘密にしてるので、この施設の外に行く機会が余りありません。

 テレビはありますが、外の情報を取り入れるにはインターネットが早くて便利ですからね」


 ・・・魔法使いってインターネットもするんだ。

 魔法使いのイメージがドンドン崩れていくような気がした。


 「えっと、インターネットは人並みしていると思います・・・多分」


 「それではパソコンも準備しておきますね」


 そんな話をしているとドアをノックする音が聞こえた。


 「来ましたね。どうぞー」


 「失礼します」


 入って来たのは結翔だった。


 「お! 彩香!

 組織に入ったんだな。歓迎するぜ」


 「・・・?

 どうしてもう知ってるの?」


 「先生からメールが来たからな」


 先生が先程していた作業は、結翔にメールをしていたのか。


 魔法使いってもっと魔法を使った通信手段を・・・・・・もう考えるのはやめよう。


 「結翔さん、夏望さんの状態はどうですか?」


 「ちょっと前に様子を見に行ったら、起きて食事してましたよ。

 いつも通り大量に食べてたからもう大丈夫です」


 「そうですか。それは良かったです。

 では結翔さん、彩香さんにこの施設とお部屋の案内をお願いしますね。

 あ、その前に購買部で彩香さんのここで生活するのに必要な物を先に貰ってあげて下さい」


 「そういやお前、荷物を何にも持ってきてなかったな」


 「まあ現地で買えば良いかなって思って・・・」


 「そうか・・・まあ良いや。

 ところで先生、俺を呼んだってことは、こいつは討伐隊ってことで良いんですか?」


 「まだ決まったわけではありません。それについては、彩香さんの自主性に任せます。

 その辺りの説明は私よりも貴方達の方がいいと思いまして。

 あくまで彩香さんに無理強いしないようお願いします」


 討伐隊? なんのことだ?


 「了解、先生。それじゃあ彩香、行こうか」


 頷いてソファーから立ち上がる。


 「彩香さん、明日・・・そうですね、9時位にまたここに来てください」


 「わかりました。

 それでは失礼します」


 そうして僕は先生にお辞儀をして部屋を出た。

 出た先のエントランスの時計は丁度午後4時、あれから結構時間が経った事に驚く。

 

 「さて、まあ色々あったが俺たちは今日から仲間だ。

 彩香、よろしくな」


 結翔はそう言って僕の前に握手する為、手を差し伸べた。

 こういった経験が余り無かったので少し恥ずかしい。


 「よ、よろしく結翔」


 とりあえず手を出してみる。

 結翔はすかさず手を握った。

 友達ができるってこうゆうものなのかな?

 

 ・・・でも嬉しかった。

 

 「さて、まずは購買部に行って必要なものをもらいに行こうか」


 購買部・・・多分売店みたいなとこなんだろう。

 結翔はそんな事を言って進み出した。


 ・・・正直ここで生活する事に不安はまだある。

 急に魔法使いと言われてもまだピンときていない。

 それでも、先生も結翔もいい人だ。


 「おい、彩香! 早く行くぞ」


 「うん、わかった」


 とりあえず、今は精一杯頑張ってみよう・・・そう思いながら結翔の後をついて行った。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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