第4話:契約
1話目と2話目を合わせてました。
なので本来は5話目ですが、4話目になりました。
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改めて読むと色々おかしい部分があったので修正しました。
内容は変更してません。
「いやぁ〜昨日は助かったぜ!
体調はどうだい?」
青年はそう話しかけ、僕のいるベットの近くの棚にサンドイッチを置く。
棚にはデジタル時計もあった。
時計にはAM11:52と表示されており、日付は次の日になっている。
・・・と言うことは、あれから一晩寝てたみたいだ。
覚めない頭を少しずつ覚醒させながら、今の状況を確認していく。
「・・・君は?」
「俺は加神結翔・・・ここでは結翔って呼んでくれればいいぜ」
結翔・・・と名乗った青年は髮をうなじまで伸ばした、僕より少し年上だと思う見た目の青年だった。
「よろしく! 一ノ宮彩香ちゃん」
・・・ちゃん?
「それにしても男が来るって言ってたのに、君みたいな女の子が来るなんて、どこで間違えたんだろうな?」
ああ、なるほどこの人もか・・・
正直どうにかして欲しいよ僕の見た目。
「あの・・・ごめん僕は男だ・・・」
「え!!??」
結翔が驚くのも無理がない・・・
クレハもそうだったが、僕の見た目はまるっきり女の子みたいだ。
今までも女の子と間違われたのは何度もあったし、ひどい時には、男と分かって男から告白されたこともある。
本当に勘弁して欲しい。
「・・・すまん。
さっきのは忘れてくれ・・・一ノ宮彩香くん」
バツが悪そうに謝る結翔。
「別にいいよ・・・もう慣れてるから。
それに彩香でいい。
もう一ノ宮の人間ではないからね」
「そ、そうか?
それじゃあ彩香、さっきも言ったけど体調はどうだ?
動ける様なら先生の所に行ってもらいたいんだけど・・・」
「先生?」
「ここの施設の責任者だ。
これまでの事とか色々聞きたいだろ?」
結翔の言う通りだ。
道中クレハは何も話してくれないし、訳のわからない巨人は出るしで僕の頭は混乱しっぱなしだ。
「分かった。体調は大丈夫。
すぐに行った方がいい?」
「今の時間、先生昼飯食ってるかもなぁ。
まあ飯食ってからでいいぜ」
結翔は持ってきたサンドイッチを指差す。
確かに、時計はそろそろお昼ご飯の時間を表示している。
「ありがとう、じゃあこのサンドイッチもらうよ」
僕は持ってきてくれたサンドイッチを手に取り、目の前の青年・・・結翔にそう答えた。
「俺はそこにいるから食べ終わったら教えてくれ」
そう言い結翔は少し離れた所の椅子に座ると、何処からか取り出した本を読み始める。
サンドイッチは玉子とレタスを挟んだ物で、とても美味しかった。
その為特別腹ペコでは無かったのにどんどん食べることが出来た。
結翔は僕がサンドイッチを食べている間、特に何も話すことはなく本を読んでいた。
しばらく食事をしていて、ふと・・・そういえば僕が治した女の子はどうなったんだろう? そう昨日のことを思い出し始める。
今が現実だとすると僕はあの瀕死の女の子を治した。
でも・・・あれから生きているかどうかは分からない。食事をしながら昨晩のことを思い出す。
「う・・・うぇ・・・」
やばい!
昨晩の女の子の穴の空いた腹部やら大量の血を思い出して吐きそうだ。
一緒に置いてあった水を飲んで、それをどうにか胃に戻す。
「お、おい! 大丈夫か!?」
それを見た結翔が駆けつけてきた。
「だ・・・大丈夫・・・」
水を一気に飲み込み、それから一呼吸入れ気分を落ち着かせる。
「ありがとう、もう大丈夫だよ。
ところで・・・なんだけど、昨日の怪我した女の子はどうなったのかな?」
ちょうど結翔が近くに来たので、彼に女の子について聞いてみた。
「怪我した女の子・・・ああ夏望のことか。
あいつはここにはいないけど無事だ。
彩香のおかげでな」
「よかった。無事だったんだね。」
「・・・なあ彩香、一応聞きたいんだが、あれどうやったんだ?」
結翔は真剣な顔で聞いてくる。
「あれ?」
「あ・・・いや、やっぱりいいや。
とにかくありがとう。お前のおかげで夏望は助かった。俺じゃあ多分救えなかった」
結翔は頭を下げた。
「無事なんだったらいいよ。
それより昨日の巨人は一体何だったの?」
「・・・すまない。俺の口からは言えないんだ」
「言えない?」
「ああ・・・悪いが先生に聞いてくれ」
・・・? まあ、とりあえずその先生とやらに聞いたら良いのだろう。
僕は最後のサンドイッチを口に放り込んだ。
時刻は午後1時
結翔に連れられて僕は『先生』のところに向かっている。
さっきから2人で歩いているが廊下が長い、どうやら今いる所は結構大きい建物みたいだ。
それからしばらく歩いていると、広いエントランスみたいな場所に出る。
ここには玄関の門と、2階につながる階段、そして応接室と書かれた扉がある。
「ここが先生の部屋だ」
応接室と書かれた扉を指差す結翔。
先生ってどんな人だろう・・・緊張する。
「俺はここまでだ。
彩香、期待してるぜ!」
期待? なんのことだろう?
結翔はそう言うと僕を置いて2階に上がって言った。
とりあえず『先生』に合わないことには始まらない。
応接室のドアをノックしてみる。
「どうぞ〜」
中から声が聞こえる。
女の人の声だ。
「失礼します」
ドアを開け入ると、そこには20歳位の綺麗な女の人が立っていた。
この人が『先生』だろうか?
結翔が責任者と呼ぶくらいだから中年、もしくは高齢の人を想像していたので、正直面食らった。
「あら、彩香さんもう起きても大丈夫なんですか?」
「あ・・・はい大丈夫です」
「ふふ・・・随分大きくなって、可愛らしくなりましたね」
可愛らしくは余計だ・・・
「えっと、僕の事を知ってるんですか?」
「もちろんです。あなたを小さい頃預かったのは私ですからね。」
「え!?」
「まあ積もる話もありますし、そこに座って下さい。」
昨日から驚きのオンパレードだ。
とりあえずソファーに腰掛けてみる。
やはりこの人が先生なんだろうか?
「彩香さんは何か飲めない物とかありますか?」
「いえ、特にはないです」
「そうですか。
それじゃあ紅茶にしましょう」
彼女はポットにお湯を入れて紅茶の準備を始めた。
部屋中に紅茶のいい香りが充満する。
「お砂糖やミルクはどうします?」
「あ、何もなくて大丈夫です」
そう答えると、彼女はテーブルに紅茶を二つ置いた。
一つは何も入ってない紅茶で、もう一つはミルクの入った紅茶・・・
僕もミルクを入れればよかったかな。
彼女は紅茶をテーブルに置いて、僕の対面のソファーに座った。
「さて、あらためまして・・・一ノ宮彩香さん、本日は遠い所をはるばるありがとうございます。
お爺様はお気の毒でしたね。」
彼女は暗い顔をした。
この人もじいさんを知っているのかな?
後で聞いておこう。
「それから夏望さんの怪我の報告も見ました。
彩香さん、本当にありがとうございます。」
続けて彼女は頭を下げた。
「結翔さんからの報告を受けた時、興奮しながら彼は言ってましたよ。
『瀕死寸前の怪我を治した女の子が来た』って。」
「あの・・・僕は・・・。」
「ふふ・・・彩香さんが男の子なのは分かってますよ。
そんな顔しないでください。」
「私の名前は神崎小百合と言います。
ここの管理者・・・みたいなものですかね。
皆さんからは先生と呼ばれていますよ」
やはりこの人が先生か・・・
それにしても若く見える。
「昨晩はびっくりしたでしょう。
貴方にはもっと早くここに来てもらう予定でしたので・・・」
「まあびっくりしたと言うか・・・あの巨人は一体何なんですか?
結翔に聞いてはみたんですが、とにかく言えないと言うので・・・」
色々聞きたいことはあるのだが、とりあえず昨日のことが気になったので彼女に聞いて見ることにする。
「結翔さんが言えないと言ったのは、貴方がまだ私達に仲間では無いからです。
私達は一般の方から隠れて生活してますからね。
ですから、それをお答えするには、ある程度の権限が必要なんです」
「そうですね・・・先ずは私達が何をしているかについてお話ししましょうか」
そう言う彼女に僕は無言で頷いた。
「私達の組織は・・・まあ名前はあるんですが、今は組織としておきます。
私達の組織は世界各国色々なとこにあり、この場所はその組織の支部だと思ってくださればいいです」
「それで私達の組織が行なっている事なのですが・・・それを話す前に彩香さん、あなたはこの世界に魔法使いがいると思いますか?」
・・・・・・はぁ?
何を急に言ってるんだこの人?
「魔法使い・・・・・・ですか?
いやまあ見たことは無いですけど・・・」
「そうですね。それが一般的な反応ですよ。
でもこの世界には存在するんですよ、魔法使い」
「あの・・・すみません。意味がよくわかりません」
「信じられない、そんな感じですか?」
「まあいきなり魔法使いと言われても・・・」
「でも彩香さん、あなたは使っているではないですか、『傷を治す魔法』を」
・・・・・・ぐうの音も出ない。
忘れてた訳でもないが、僕はそれが魔法とは思ってなかった。
どちらかと言うと超能力的な物と思っていたからだ。
「魔法使いは一部の人間だけがなれる特別な存在です」
「特別・・・ですか?」
「普通の人とは違うことができますからね」
「その魔法使いが一体何をしてるんです?」
「私達組織の行なっている事は、異界と呼んでいる場所の調査、研究する事です。
異界とはこの世界とは違う場所の事で、私達組織はその入り口を守っている・・・異界の入り口の門番ってとこでしょうか」
急に突拍子のない話になって頭がついていかない。
一体この人は何を言っているんだろうか?
とにかく今はその突拍子の無い話に耳を傾けた。
「その異界なんですが、放っておくと大変な事が起きるんです」
「大変な事?」
「異界には私達人間には感じることのできない何か・・・異界の空気中には、空気と混ざって魔法の力が流れている事が私達組織の研究の結果分かっているのです。
しかもそれは異界の入り口から私たちの世界に向けて流れ込んでいるんですよ」
「それで、その空気と混ざった魔法の力なんですが、それを浴びるとこの世界の生態系をめちゃくちゃに変化させてしまうんですよ。
具体的には植物が襲ってきたり、小動物が巨大化したり・・・大概の動植物が凶暴になるので放っておけないのです。
ですからこの山周辺に結界・・・わかりやすく言うと、魔法の力が外に漏れないようにバリアーして、それが外に出ない様になって守っているのが私達の仕事です」
「それと昨晩に彩香さんが襲われた巨人ですが、彼らは異界の入り口周辺に現れます。
私達は異界の物と呼んでいるんですが、彼らは一定周期ごとに現れて、近くにいる人間に襲って来ます」
「彼らが何者で、何故人間を襲うかは分かっていません・・・が、人を襲う以上彼らを外に出る事を食い止めないといけません。
なので異界の物が人里に行かないよう討伐する事も行なっています。
まあ、私達の組織がしている事は大体こんなところですかね。わかっていただけましたか?」
・・・どうだろう?
とにかく分からないことが分かったのは確かだ。
「あの、質問・・・とかしてもいいんですか?」
「答えれる範囲ならどうぞ」
「なぜ魔法使いではないと調査できないんですか?
別に魔法を使えない・・・例えば警察とか軍隊とか、もっとたくさんの人に調査を依頼した方が効率的なのではないんですか」
「なるほど、もっともらしい質問ですね」
目の前の女性はうんうんと目を瞑って頷きながら答える。
「では魔法使いでないといけない理由・・・ですが、それは異界から出る魔法の力、先ほども言いましたが生態系を狂わせてしまう力なんですが、動植物に影響するのと同じく、人間にもそれは影響します。
詳しくは割愛しますが、実は魔法使いは自身に何もしなくても異界から出る力に抵抗出来る力があるのです」
「しかし魔法が使えない一般の人達は、その抵抗する力が無いので、そのまま影響を受けます。
大概の人は異界の入り口周辺にいるだけで拒絶反応を起こし、最悪死んでしまいます。
ですから、この仕事は魔法使いでしか出来ないのですよ」
「それなら他の魔法使い・・・大人の魔法使いはいないんですか?
巨人と戦っていたクレハと結翔は僕と同じか少し上ぐらいの年だと思うし、何より小さい女の子・・・夏望ちゃんでしたっけ、あの子にいたっては僕より完全に年下に見えました。そんな子供に戦わせるのはどうなんですか?」
多分同年代のクレハや結翔、それにどう見ても年下に見えた僕が怪我を治した女の子・・・まだ未成年だと思う子供達があんな怪物と戦ってるのがおかしい、そう思い質問した。
だってそうだろう。
普通に考えて、子供を戦わせるのはおかしいじゃないか!
そう思い先生を見るととても悲しい顔をしていた。
何か悪いことを言ったかな?
沈黙が数秒あり、彼女が口を開いた。
「・・・・・・ここで異界の物と戦える大人はみんな亡くなってしまったんです」
「!?」
「つい先日の事です・・・・・・
そもそも、魔法使いでも異界の物と戦えるとなると、少数でしかありません。
私を含め、ここには確かに成人の魔法使いは沢山います。
ですが、異界の物と戦える程強くはないのです。
それに魔法使いになれるのは世界中のほんの一握りしかいませので、大人がいなくなってしまい、次の年代が若くなるのも仕方がない事なのです」
「魔法使いはそんなに少ないんですか?」
「ええ、秘密にしているから、といった理由もありますが・・・」
「そもそも何で秘密にしているんですか?」
「・・・迫害されるからですよ」
「迫害?」
「私達が使う魔法はとても強力です。
異界の物である昨晩の巨人を倒してしまうほどに・・・
人は自分達より強い物、恐怖を感じるものを嫌う傾向にあります。
残念ながら私達は人より強く、恐怖を煽る存在なんですよ。
もし最悪の場合、人と魔法使いで争う事になるかもしれませんから・・・」
「そんな・・・じゃあ魔法使いは人を助けているのに人から隠れないといけないんですか?」
「残念ながらそうなります」
なんだよそれ・・・
怒りというか落胆というか・・・とにかく説明の出来ない感情が生まれる。
「昨晩の事、彩香さんには大変怖い思いをさせてしまったと思っています。
しかもこんな説明をした後になりますが、私達にはどうしても貴方が必要なんです。
どうか私達と一緒にここを守ってくれませんか?」
目の前で彼女は頭を下げる。
昨日の鎧の巨人の光景が僕の脳裏にフラッシュバックする・・・正直この人達と一緒になるのは嫌だ。
「・・・もし・・・もしも僕がここまで聞いてこの話を断ったらどうなるんです?」
「・・・本来ならばここまで聞いて断る場合、貴方を処分しないといけません」
そう言って先生は一つの液体の入った小瓶を出す。
処分・・・殺されるってことか?
・・・・・・冗談ではない!
それを聞いて身構える。
「そんなに強張らなくても大丈夫ですよ。
本来ならば・・・ですから。
この小瓶は私の知人、まあかなり前に作った物なんですが、記憶を2日程戻すことが出来る薬です」
「記憶を・・・戻す?」
「組織の中でも、私しか知らない薬です。
少なくとも昨日、今日の出来事は覚えてないでしょうね。
まあ彩香さんからすると怪しいでしょうけど、貴方にはこれを飲んでいただいて、昨日の事を忘れて帰ってもらいます」
「・・・僕を帰していいんですか?
僕は普段から隠れて傷を治す魔法を自分に使ってました。
もしかしたら、今後その事が他の人にもばれて、魔法使いの存在が、世間に明るみになる可能性もありますよ」
「そうなるかもしれませんね。
それに正直に言うと、私達は人手不足に悩んでます。なのでどうしても彩香さんには仲間になっていただきたい。
・・・ですが、貴方には選ぶ権利がある、私はそう思っています」
「・・・この話を受ける場合は?」
「その時はこの紙に契約の印と、サインをしてもらうだけです」
彼女はA4くらいの一枚の紙を出す。
その紙は上下に何やら英語のような文字が書いてあるだけのただの紙に見えた。
緊張して喉が渇いたせいか、冷めてしまった紅茶を眺める。
紅茶に映る僕の顔は、戸惑いを隠せてはいなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
先生との話はもう少し続きます。




