第14話:疑問
現在の自分の仕事が上手くいかなかったりして落ち込んでいたり、今まで投稿していたものを改めて確認して、手直ししていたらいつのまにかずいぶん投稿が遅れてしまって申し訳ありません。
内容は変えてないですが、最初から書き直したので、よかったら最初から読んでみてください。
少し肌寒い東側玄関のエントランス、僕は先生に呼ばれたので応接間先生の部屋の扉の前に立っている。
「先生、彩香です。いませんか?」
そう言って部屋を少し強めにノックをする。
もうこれで3回目ぐらいになるだろうか・・・先生は留守なのか、部屋からは何も反応がない。
先程施設の中で迷子になってしまったのもあり、ここの来るのが大分遅くなった。
なので、もしかしたら先生は僕が来ないと思って出かけてしまったのだろうか?
そう心配しながら、それでも諦めずにもう一回ドアをノックして、今度は先程よりも比較的大きい声を出して所在を確認した・・・が、やはり部屋からは何も反応がなかった。
「どうしよう、帰ろうかな・・・あれ?」
困り果てた僕は一旦部屋に帰ろうかと思ったが、何気なくドアノブを持って回してみた。
すると、ドアノブは何の抵抗なく回りドアが開く。
どうやら部屋の鍵はしまっていないようだ。
勝手に部屋に入るのもどうかと思ったが、僕はドアをゆっくりと開け、小さい声で「失礼します」と言いながら中をそぉーと覗き込んだ。
すると部屋の中は空っぽで、人の気配が全く感じられない。
まあ、それでも一応確認のため部屋の中に顔を出して先生を呼んだ。
「先生、彩香です。いらっしゃいますか?」
・・・・・・・・・返事はない、やっぱり居ないのかな?
そう思い諦めて帰ろうとしたその時、
「・・・・・・っと待ってください・・・」
何処からか声が聞こえる。
「・・・先生? 居るんですか?」
僕がそう返事を返すと、また何処からともなく声がする。
先生・・・かどうかは分からないけど、とにかく近くに誰かいるみたいだ。
とりあえず僕は部屋の中に入って「先生いらっしゃいますか?」と呼びながら声の主の姿を探した。
すると部屋の角・・・そこにまるで隠れるようにドアがあり、その奥から声が聞こえた。
「こんなところに扉なんてあったんだ・・・」
この部屋には何回か来ているのだが、こんな所にドアがあったなんて今まで全然気づかなかった。
ドアをノックして先生を呼んでみる。そうしたらドア越しに「すみません、ちょっと待ってください」と、今度ははっきり先生の声が聞こえた。
どうやらこのドアの先に先生がいるみたいだ。
とりあえず「待て」と言われたので、言われた通りしばらく待つことにする。
それから2、3分ほど待っていると、ドアが開いて中から先生がバタバタと出てきた。
「すみません、彩香さん。お待たせしました」
先生はそう言うと、深々と頭を下げてこちらに謝る。
「いや・・・先生大丈夫ですよ。それに僕の方こそ来るのが遅れて申し訳ありません」
先生が深々頭を下げるから、慌てて大丈夫だと言って僕も頭を下げた。
「いえいえ、元々集合時間を設けなかったのは私ですから。本当に申し訳ないです。
それで彩香さん、今日は外出お疲れ様でした。初めての外出になりますけど、どうでしたか?」
「外出ですか?」
「はい、楽しめましたか?」
お互い一通り謝罪が終わり、先生はいつもの笑顔でそう質問して来た。
言われた僕は、今日の外出の事を思い出しながら・・・
「まあ・・・色々と散々でした」
とにため息を交えながら答えた。
「あらあら、そうでしたか。
その辺りも含めて、少しお話を聞かせてください」
先生は微笑しながら、ソファーに座るよう指示する。
言われた通りに座ろうと思ったんだけど、その前に先生が出て来た・・・この部屋の奥の部屋は一体なんなのか気になり、ソファーに座る前に先生に訪ねてみた。
「あの・・・すみません、先生。そのドアから出て来られましたけど、奥には何かあるんですか?」
「この先ですか? この先は私個人の部屋になっていているのですよ」
成る程、今僕が居るのは本来お客さんが来た時に対応する『応接間』だ。
この建物はかなり広い、だからお客が来た時に、遠くの場所からこの場所に来るよりも、応接間の奥に先生の部屋を設置すればお客さんにすぐ対応出来て便利なのだろう。
先生の部屋と言われたドアをそう思いながらまじまじと眺めていると、先生は少し笑いながら、
「ふふ・・・彩香さんも女性の部屋が気になる年頃になりましたか?」
と、言って来た。
見た目は20代にしか見えない・・・その・・・大人の女性である先生にそう言われた僕は、慌てて両手を振りながら否定する。
慌てる素ぶりの僕を見てか、先生は僕をからかい、ニコニコしている。
それからもう一度ソファーに座る様言われた。
これ以上この話を続けると今度は何を言われるか分からないので、黙ってソファーに腰掛けた。
「そうですね、今朝は紅茶でしたし・・・彩香さんは緑茶は飲めますか」
僕がソファーに座るのを確認した先生は、いつも通りお茶を作ってくれるみたいで、お茶を作ってくれる棚に歩いて行った。
どうやら今回は緑茶を作ってくれるみたいだ。
「あ、はい、緑茶は好きです」
「それじゃあ緑茶にしますね。
今は寒いですし、温かいので良いですよね?」
「その方が今は嬉しいです」
夕方になって冷えて来た。
今は暖かい飲み物がありがたい。
先生は机の上に急須と空の湯呑みの乗ったお盆を置いて対面のソファーに座る。それから急須に入ったお茶を湯呑みに入れてくれる。
紅茶とはまた違う・・・この国にいて良かったと思う美味しそうな匂いが部屋中に漂う。
「どうぞ、彩香さん。
熱いので気をつけてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
湯呑みの中には、綺麗に透き通った緑茶が湯気を発しながらゆらゆらと揺れている。
とてもいい匂いがして美味しそうだ。
僕はそれに手を伸ばし、火傷に注意しながらお茶をを口にする。
・・・・・・ふぅ。
お茶は熱いがとても美味しい。
この国にいて良かった、本当にそう思う。
それを見てか先生もにっこり笑い、先生もお茶を口に運んだ。
「それで、何かご用でもありましたか?」
お茶を一口飲んだ僕は、湯呑みをテーブルに置いて早速本題に入った。
正直、僕の方も先生に色々と聞きたい事はあるのだが、とりあえず今は先生に呼ばれてここにいるのだ。
先に何の用事があるのかを聞くのが先と思い、先生にそう言った。
「彩香さんはつい先日まで一般人として生活されていましたからね。
今日は初めての外出です。それの感想などを聞かせてもらおうかと。
こんな形では無いと、一般に生活されてた方の意見を聞く機会なんて滅多に無いですからね」
先生はそう話す。
どうやら元一般人としての意見を聞きたいみたいだ。
まあ僕みたいな感じで魔法使いになる人は少ないだろうし、魔法使いでは気づかない事もあるかもだから教えてほしいってとこかな。
「あまりいい思いはしなかったみたいですが、最初の外出は如何でしたか?」
「そうですね・・・何処から話せばいいですか?」
「彩香さんのお話がしやすいところで良いですよ」
「わかりました、それじゃあ・・・」
僕は先生に噴水の前で夏望ちゃんと合流した辺りから話し始めた。
それから外出前の改札の話や百子さんに会った話、うさぎの化け物と戦った話と・・・
先生は黙って僕の話に耳を傾ける。
こう・・・子供が一生懸命話すのを聞いている母親の様に。
こう言った機会が今までなかった僕にとって、それはとても新鮮で、何よりも僕の話をこんなに聞いてくれる事がすごく嬉しかった。
「・・・大体こんな感じでした」
一通り話し終えて喉が渇いた僕は、テーブルの上の湯飲みに手を伸ばす。
こんなに長い時間話込んだのは初めてかもしれない。その証拠に、最初は熱々だった湯のみが、今は普通に持てる程度の温度まで温度は下がっているのだから。
お茶を飲んでいると、目の前の先生はなんだか嬉しそうにクスクス笑っている。
何かおかしな事を僕はしたのだろうか?
「・・・先生? どうしました?」
お茶の入った湯飲みをテーブルに置き、僕はクスクス笑う先生を心配そうに眺めた。
「ふふふ・・・ごめんなさい。彩香さんが楽しそうにお話するので安心しただけですよ。
最初外出を訪ねた時、「散々でした」と言っていたので少し心配してたものですからね」
そう言った先生は笑って答える。
先生と話すのが途中から楽しくなってしまったのもあり、調子に乗っていた部分もあったため、そう言われてなんだか恥ずかしくなった。
「そ、そういえば聞きたい事がいくつかあるのですか、いいですか?」
「はい、何ですか? 彩香さん?」
何となく気恥ずかしいので、とりあえず話を質問に切り替える。
「えっと、ここの出口や入口について何ですけど・・・」
「出入り口がどうかしました?」
「あの・・・まあそんな大した事では無いんですけど、ここを出る時の魔法陣ですけど・・・」
「南門の魔法陣の事ですか? あれ、凄いでしょう?」
「凄いでしょう」とまるで自慢をするようにいう先生。
「いや・・・まあ凄いんですが、あれって必要なんですか?」
「必要かどうかですか? ・・・ちなみに彩香さんはどう思います?」
「僕は必要ないと思ってます」
「あら、意外にはっきり否定しますね」
先生は僕がはっきり要らないと言ったことに少々驚いているよだった。
「そうですね、とりあえずなぜ必要と思わないか、彩香さんの理由を聞かせてもらってもいいですか?」
「理由ですか? まあ普通に考えて魔法使いは存在を隠しているみたいですし、あの様な出入り口があって、もし何かの拍子に魔法使いではない人達に見られたらまずいのではないかと思うからです。
後は単純に、この施設の南門は出口専用、東門が入口専用とわざわざ分けているみたいなのですが、その事に理由が無いのではないかと思っただけですかね」
南門から魔法陣を通って外に出た時のことを思い出す。
この山は一応魔法使い以外は近づけないみたいだが、万が一この山に魔法使い以外が迷い込んで、その人がこの建物に近づいて、あんな不思議な出入り口の魔法陣を使っているのを目撃したら、絶対大騒ぎになってしまうだろう。
そんな物をわざわざ出口に使う意味が分からない。
それにあの魔法陣は出口だけの一方通行みたいだった。
普通に出入り口にした方が色々と面倒が無さそうだと思うし、入口と出口を分ける理由もわからない。
「なるほど・・・中々にいい意見ですね」
「・・・そうですか?」
いい意見と言われて、別にそんな大した事を言った覚えもないので、そう言って首をかしげる。
「はい、それではお答えしましょう。
とりあえず出口の魔法陣についてお話ししましょうか」
先生は湯飲みのお茶を一口飲んで、僕の方を真剣な顔で睨め付ける様に見てくる。
あまりに真剣な顔を先生はするので、あの魔法陣の出口には何か大変な意味があるのかと思ってしまう。
僕は喉をゴクリと鳴らして真剣な顔をした先生と対峙する・・・そして先生は口を開く。
「南門の魔法陣ですが・・・・・・あれには特に意味はありません」
「・・・・・・・・・え?」
意味は・・・ない? 僕が言ったのと同じ答えを先生もしたので拍子抜けだ。
ポカーンと口を開けた僕に対して、先生は話し始める。
「まあ全く意味はないわけではないのですが、私達魔法使いが普段使うのに、あまり意味があるとは言い難い物ではありますね」
「じゃあなんであんなものがあるんですか?」
「あれはデモンストレーションみたいな役割があったりするんです」
「デモンストレーション?」
「彩香さんは、ここの組織が何処から資金を用意しているか分かりますか」
「資金ですか? えっと・・・何処ですかね?
その・・・国の税金・・・とか?」
「あら、彩香さん中々鋭いですね、その通りです。
私達魔法使いの組織はいわば国営、それも世界各国の先進国からの援助で成り立っています」
へえ、そうなのか。
なら僕は今公務員なのかな?
「ですが私達の組織は存在を隠しているので、私達を知っている政治家は各国の一握りのトップの人たちだけになります。
その人達が、私達の組織の資金を国のお金を使って作ってくれているんです。
でも、そんな人達とは言え、明確に使い道が秘密の税金を大量に作るのは不可能です。
何も知らない一般の人がそんな事を認めるわけないですからね」
そりゃあ、誰も明確な使い道の分からない税金なんて許さないだろうね。
と言うか、この世界は影でそんな事をしていたんだな・・・
「私達魔法使いは物を生産するわけではありません。
何かを作って売ったり、物を直して儲けたりではない以上、結局何処からか資金繰りをしないといけないのです」
「でも、一般の人に魔法使いの為に募金を募るわけにもいかない。でも結局お金が無いと組織の運営ができず世界が滅ぶ。
ですから私達は、大勢の募金ではなく世界各国にいる一部の富豪の人達に援助を頼むことで、魔法使いの存在を最小限に抑えているんです」
「彩香さんを引き取ったお爺様もそんな出資者の1人です。
出資者の方々は私達魔法使いの情報、異界の風からの優先的な防衛、必要なら魔法使いの個人的な派遣・・・と言った事と引き換えに、我々組織にとても大きな資金援助をお願いしているんです」
そう言えば一ノ宮のじいさんは出資者として幼い僕を預かったと先生は以前言っていた。
この組織の資金援助の株主ってとこか。
先生もそんな株主の要望を無下にできなくて、僕を養子に出したんだろうな。
・・・ただ、正直じいさんは僕のなんに惹かれて養子にしようと引き取ったのだろうか?
「それで、その富豪の人達と魔法陣にはどんな接点があるんですか?」
「今の時代、化学も魔法と同じくらい進化してますから、今更魔法陣を見ても驚かれる方ばかりではないと思うんですが・・・」
「何百年も昔の話になります。
魔法使いの組織創立当時から、代々この組織に沢山の資金を出してくれていた財閥の方がいたんです。
当時は今以上に世間に魔法使いを秘密にしていたそうです。まあ魔法が恐れられていた時代ですしね」
「それで、その財閥の何代目かの当主の時の話です。
その方はどうも魔法使いに疑心感をお持ちだったらしく「自分の代で資金援助を打ち切る」と言い出したそうです」
・・・まあそう言う人もいただろうな。
実際僕も最初、魔法と言われて手品か何かと思っていたし、気分は分からなくはない。
「魔法と言う未知の力に世の中は恐怖していた時代です。
その当時の組織は、迫害を恐れて国どころか村単位で魔法を隠していたそうです。
その時期の資金繰りも、世間に隠れてひっそりと活動していたのも有り、かなり苦しかったみたいです。
まあ当時は今ほど異界の影響は少なかったようですから、そこまで大金が必要ではなかったみたいなんですけどね。
ですが、その出資者から資金援助を打ち切られるとなると、組織の運営が傾くほどの損害があったそうです」
「当時の組織は大変困ったらしく、どうにか考え直して貰えないかお願いしたそうです。
そうしたらその出資者の方は、「自分が見て納得する魔法が1つでもあれば資金援助を続ける」と言ったそうです」
「その出資者の方の為に組織は色々な魔法を披露しました。
しかし当時の魔法の水準は今よりもかなり低く、とてもお粗末なものだったそうです」
「そんな物を見せられて、当然その出資者方は納得出来ないと怒り出しました。
そしてどれもこれも失敗に終わり、出資者の方もこれで最後だと言い、もう後がない状態まで組織は追い込まれてしまいました」
「そして最後に見せたもの・・・それがここの出口に使っている魔法陣だったんです。
一体魔法陣の何が気に入ったのかはわかりません。
とにかく、その方はその魔法陣がいたく気に入り、組織の出資を続けると言っていただけたそうです」
「少し話は長くなりましたが、そう言ったことがあって、この組織に援助してくれる富豪の方に最初に見せる魔法使いの魔法は、この魔法陣と決まったんです。
ですから、組織の建物には例外なく魔法陣の出入り口を作るのが習わしになりました。
そう言った経緯があるので、今となってはあまり意味をなさないのでけれども、出資者の方用のデモンストレーションの一部として現代まで残っているんですよ」
「出入り口を分けている理由も、こう言った大掛かりな一方通行の魔法陣を作らなければならない為や、近くに車で乗り入れできる大きな南門を作らないといけない関係で、出入り口を作るのが困難だからです。
あとは、純粋にそのようにした方が人の出入りを管理し易いので、この施設は入口専用、出口専用と別れているだけですよ」
「ちなみに先程から出ている出資者の方ですが、現代もその子孫の方によって莫大な援助を継続していただけてもいますし、後々その方々も魔法使いとしての才能があったことがわかり、現在ではこの組織の魔法使いの幹部として在籍しておられるんですよ」
組織の幹部で、しかも出資者の先祖の逸話か。
そりゃあどの建物にも魔法陣を組み込みたくなるだろうな。
「この辺りは私達魔法使いの学び舎で習う魔法使いの歴史です。
彩香さんもせっかく魔法使いになられたのですから、興味がおありでしたらこの施設の図書室で勉強為されてもいいかと、何か新しい発見もあるかもしれませんよ」
先生はまるで学校の先生のようにそう言ってくる。
とりあえず今は「機会があれば是非」と答えて勉強に関してはそう回答を濁した。
「魔法陣については大体こんなところです。
少し話は長くなりましたが分かって貰えたでしょうか?」
出入り口の魔法陣について聞いたら、まさか組織の歴史を聞かされるとは思ってもいなかった。
まあ、どうして出入り口が魔法陣なのかはわかった。
「はい、理解しました」
「それなら良かったです。
さて、他に何か質問はありますか?」
まあ出入り口に関してはそこまで重要ではない。
僕にとってはむしろ今日はこっちが本命だ。
「今日行った時計塔なんですけど・・・」
「時計塔ですか?」
「はい、今日僕が行った時計塔です。
塔と言っているわりには建物が小さいですし、何よりも時計の要素が全然見当たらないのですけど」
「ああ・・・時計塔の由来の事ですね。
あれはもう古い建物ですからね、昔から時計塔と呼んでいるので、今もそのまま名前が残っているだけですよ。
昔の建物にしては大きかったので、そう呼ばれていたのかもしれませんね」
先生の回答は結翔と同じ、昔から呼ばれているからそうなんだって感じだった。
「それじゃあ、時計塔の内部はどうなっているんですか?」
「・・・申し訳ありませんが、そこに関してはお話する事ができません」
「秘密って事ですか?」
「そうなりますね。
時計塔は組織の中でも重要な場所になりますから」
「じゃあ、異界って呼ばれている場所がどんな感じなのか聞きたいんですけど・・・」
「申し訳ありません。
この事については、組織の最高機密情報になるのでお話する事ができないのです」
・・・なんだか頭にモヤがかかったみたいだ。
先程の外出で、どうにかなったとは言え僕の命も危ないところだった。
ここにいる魔法使いは全員が命を張っている・・・でも、どうして命を張っている理由を知らずに何で平気でいられるのか?
頭の中をいろんな思いがぐるぐる回り、僕は喋るのをやめて俯いていた。
「どうかしましたか、彩香さん?」
そんな僕を察してか、先生は心配そうに話しかけてくる。
だから僕は先生に次の質問をした。
「魔法使いは何でそんなに秘密事が多いんですか?」
「秘密事が多い・・・とは?」
「例えば今話に出ている時計塔についての話です。
結翔や夏望ちゃんだけでは無く、時計塔を管理している守備隊の百子さんですら、時計塔の肝心なところが何か知らされてませんでした。
・・・と言うか、結翔に至っては基本そう言った事をあまり深く考えない・・・夏望ちゃんや、今の先生の回答もそんな感じがします」
僕は思った事を先生に話す。
先生はじっとこちらを真剣な顔で見ながら聞いている。
「なんで・・・なんでそんな秘密だらけの場所に今日僕は行かされたのですか?」
興奮して少し声を張ってしまった。
ちょっと生意気に話過ぎたかな?
それでもそう思ったのだ、最後まで話をしよう。
「魔法使いは世間に隠れるために、外に出る時にですら持ち物を確認して外部との情報をシャットアウトしていました。
実際に知らなかったとはいえ、今日僕は出口で携帯電話を取られました。施設に帰ってきたときも同じです。
そこまでして外との繋がりを絶っているのに、何故同じ魔法使い同士でも秘密事が多いんですか?」
多分今の僕は睨め付けるように先生を見ているだろう。
本当に失礼だと思う・・・
先生はそれを聞いて、口を開く。
「一般人の人に魔法使いの存在を秘密にするのはいいとして、同じ魔法使い同士なのだから、情報を共有したほうがいい・・・そう言った意味ですか?」
先生は特に怒っている訳ではなさそうだが、表情変えずにそう言った。
意見を言えと言われたから思った事を言ったのだ。
でも・・・新参者が出しゃばり過ぎたかな?
それでも先生が言ったそれを肯定する様頷いた。
暫く部屋に静寂が流れる。
先生は何も言わないまま、僕を見ている。
張り詰めた空気の中、僕の目は段々と泳ぎだす。
早めに謝ったほうがいいかな、時間が経つにつれ強気より弱気や心配が頭をよぎり、だんだんと頭が下がって上目遣いで先生の顔を伺いだしてしまう。
それから先生は・・・
「貴重な意見をありがとうございます、彩香さん」
と、いつも通りのにこやかな顔でそう答えた。
とりあえず怒ってはないみたいだ。
「私も彩香さんと同じ意見ですよ。
ここでは皆さん命をかけてお仕事をしてくれています。
なのに肝心な物が何か分からずに命を捧げるのはおかしいと私は思います」
先生の口からは意外な答えが返ってくる。
「それじゃあ、そんな秘密にする場所に何故僕を行かせたのですか?
秘密なら別に近ずけさせなくて良かったのでは?」
「それはですね、時計塔の前に行くことは禁止されていないからですよ」
「時計塔の前に行くのは禁止されてない?」
「そうです。
私が今の彩香さんに出来る最高の秘密の回答です」
バツが悪そうな顔をして先生は俯く。
先生はそのまま話を続ける。
「私も秘密だらけの組織にはうんざりする時もあります。
彩香さんの様に一般人として生きてきた訳でもない、組織の魔法使いとして生を受けた人達は、組織の秘密は絶対と教育されてるのです。
ですから、彩香さんのような・・・人としての疑問が欠如している節があります」
「ここにいる子達は本当にとてもいい子ばかりです。
ですが、いい子すぎるんですよ、ここで育った子達は」
先生は話しながらどんどん寂しい顔になる。
どうしよう・・・なんだか聞いてはいけない事を聞いてる気分だ。
戸惑い焦った僕だが、こういった時にどんな事を言えばいいかわからない。僕は只々黙って俯く先生の話を聞くしかなかった。
「多分彩香さんはここに来られたばかりなので分からないかもしれないんですが・・・ここにいる子達の割り切りにはとても寂しい思いをする時があるのです。
それは組織の決まり事や秘密事、さらには自分達が異界の為に死ぬことですら「言われたから」で終わらせるのです」
死ぬ事を「言われたから」で済ます?
一体どんな教育をしたらそうなるのだ?
そんな僕の心の声を悟ってかは分からないが、先生はさらに話を続ける。
「彩香さんにはありえないお話でしょう。
ですが、ここで育てばそのように教えられ、その様に実行に移します。
あまり深くは考えないのです、そう教えられたから・・・そして何も分からないいまま死んでいくのも不思議に思わないのです」
「私達は魔法使いです。でも・・・人なんです。
考え、悩んで、自分なりの行動をして・・・そんな人の生き方を私はしてもらいたいんです」
「外出を主に仕事にする人、施設内で仕事をしてくれる人、時計塔周辺で働いてくれる人・・・色んな魔法使いの人がここで役割を果たしてくれますが、ここに来た人には先ず異界のある時計塔に私は最初に行ってもらっています。
殆どの人はちょっとした遠足気分で帰ってきます。
彩香さんみたいにあれこれ考える人などほとんどいませんし、それは結翔さんや夏望さんも例外ではありませんでした」
確かに、結翔は色々聞いても「そうだから」と言って時々ドライな感じになる時もあったし、夏望ちゃんも僕なんかよりずっと年下なのに、あの異界の物と平然と戦い、致命傷を受けたすぐ後なのにへっちゃらで外を出歩く事が出来ている。
自分が死ぬかもしれない怪我を負って、治ったから大丈夫って訳には普通ならない。
「でも中にはいるんです、考えて私に意見してくれる人が。
私はそう言った人達を、後々隊のリーダーにしていっています。
何故なら、そう言った人達は命令よりも命を優先してくれるからです。
彩香さんに時計塔に行ってもらったのは、ここの教育ではない・・・魔法使いではなく人の考えを持てる人を見極める為です」
「彩香さん!!」
先生は僕を改めて真剣な顔で僕の名前を言う。
「は、はい!」
先生の気迫に押され、肩をビクッとさせながら返事をする。
「彩香さんはここでは無い、外で生活して来ました。
だから期待していました、ここの魔法使いの子達とは違う感覚を持っていると。
そして私の感は正しかったみたいです。
ここで人を助けれるのは貴方の傷を治す魔法だけではダメなんです。
組織として・・・ここにいる子達は扱いやすでしょう、でもそれは私は違うと思っています。
いつまでも人の思いを持っていて下さい。お願いします」
先生は深々と僕に頭を下げてそうお願いしてくる。
そんな事をされて僕は先生にそんなことしなくていいと言う。
「せ、先生! わ、分かりました。
分かりましたから頭をあげてください」
「・・・本当にずるいですね、こんな回答。
組織の秘密である異界について、私の口からは決して言えません。
単純に秘密だからではなく、秘密を知ると言うのは聞いた本人にも責任を背負わせるからです。
ですが、私も見たくは無いのです。何も知らず、何も教えれないのに死んでいく子達を」
頭をあげた先生の目は真っ直ぐ僕の方を向いている。
その表情を見れば、今まで沢山の魔法使いがここで戦い死んで行ったのか・・・想像に難しく無い。
先生は「すみません」と一言いい、テーブルの上の湯飲みに手を伸ばす。
それを見て、僕もとりあえず自分を少しでも落ち着かせようと、湯飲みの底に残ったお茶を飲みほした。
お茶はもうすっかり冷えていて、底に残った茶殻の苦味が口いっぱいに広がる。
・・・・・・気まずい空気が部屋を漂う。
どうしよう? 何か言う事がないかな?
一生懸命何かこの空気を打開出来る話が何かないかと考えていたら、何故かクレハの事が頭に浮かんだ。
・・・もうなんでもいいや、とにかくこの気まずい空気をなんとかしたい。
「えっと先生、クレハの事なんですけど・・・」
「クレハさんがどうかしましたか?」
「いや・・・あの・・・そんな大した事では無いんですが、なんで案内人をクレハにしたのかな、と思いまして・・・」
・・・一体僕は何を言ってるのだろう?
現状の暗い雰囲気を打破しようと思ったのだが、なんてよくわからない質問をしたのだろう?
「クレハさん、何か問題がありましたか?」
まあそうなるよ、この質問じゃあ・・・
でも、言ってしまったのは仕方がない。
「まあ・・・問題と言うか、コミニュケーションが取りにくいと言うか・・・」
言い出したが、クレハの悪口を言ってるみたいでなんだか悪い気分だ。
そんな言いにくそうにモゴモゴ話す僕を先生は察してか・・・
「彩香さん、あまりクレハさんの事を悪く思わないで下さい」
と、言われた。
しまったな・・・これじゃあ僕が本当にただクレハを悪く言ってるだけだ。
「いや、違うんです・・・ただ、何というか・・・クレハだけじゃなくて、誰か他にも一緒に案内をつけたほうが良かったと思うと言うか・・・」
「ほら、前に先生が仰ってたと思うんですけど、ここでは外に外出する時はどんな小さな事でも3人以上チームを組んで外出するって・・・」
何とか話をまとめる為にノープランで無理矢理話していたが、自分で言って確かに不思議な話だ。
だって前に先生は「外出にはどんな事でも数人チームを組んで外出させる」と、言っていた。
あの時僕の近くにはクレハ一人しかいなかった筈だ。
それを先生に指摘すると困った顔をしながら話し始める。
「・・・・・・すみません、実はあの時他に2人いたんですよ」
・・・え? 2人いた?
駅に迎えに来たのはクレハしかいなかったと思うが?
キョトンとしている僕の顔を見て、先生はため息をつきながら話を続ける。
「クレハさんが嫌がったんです。
あの時彩香さんの案内を頼んだのはクレハさんと他の隊の人2名でした」
先生は困った顔をしながらポツリポツリと話してくれる。
「クレハさん・・・少し難しい方ですので、同じ討伐隊の方ならまだしも、他の隊の方とはあまり一緒に行動したくないと言い出しまして・・・
でもここのルールは守っていただかないといけませんし、その時結翔さんと夏望さんは他の仕事があり、同伴の方には申し訳なかったんですが、山の麓までは彼女と離れて歩いて、彩香さんを案内中は二人に隠れて監視する事で折り合いをつけました」
呆れた・・・そう思った。
「そこまでしてなぜクレハを案内役にしたんです?
多分他の人が案内に来た方が丸く収まったと思うんですが?」
その方がここに着くまでの道のりは楽しかったかもしれないし、全身鎧の巨人と会うこともなかっただろう。
しかし先生は寂しそうに・・・
「クレハさんに外の世界を少しでも見せてあげたかったんです」
・・・どう言う事だ?
「あの子は・・・あの子もあなたと同じここに預けられた親のいない子なんです」
驚いた、まさかクレハも僕と同じで親がいないだなんて・・・
先生はそのまま話を続ける。
チラッと時計を見る。
もう少ししたら結翔達との集合時間になるのだが、こんな話をしている先生に、もうすぐ予定があるから失礼しますとは言いずらい・・・
それに今後クレハと討伐隊として付き合っていくのには、きっとこの話は大事な事だ。
結翔と夏望ちゃんには悪いが、今はこの話を優先しようと思い、僕は先生の話に耳を傾けた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




