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きみと歩くすこし不思議な魔法の世界  作者: ねんねこザウルス
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第1話:手紙

 初投稿です。

 至らぬ点があると思いますが、温かい目で見てくれたら幸いです。



 1日に数本しか電車が来ない路線。

 そこを一両編成の電車が山奥に向けてただひたすらに走り抜けていく。

  

 「次は・・・駅、お降りの際は・・・・・・。」


 電車の中でそうアナウンスが流れる。

 電車の中に客は一人だけ、こんな田舎の路線、平日の昼前くらいに乗る人間などそういない。

 

 「・・・・・・」


 一人電車の窓から外を眺めているその客は、薄い綺麗な黄色い髪の毛で雪のような白い肌をした、とても可憐な女の子の見た目をしている・・・一人の少年だった。


 街からどんどん離れて山奥へと電車は、彼以外誰一人載せることなく、かれこれ1時間は走っている。


 「この路線、こんなので採算とれるのかな・・・」


 そんな独り言も電車がトンネルに入り、暗闇の中にかき消されていく・・・


 彼の名は一ノ宮彩香(いちのみやあやか)

 見た目も女の子っぽい彼だが、名前も女の子っぽい。

 そんな自分が彼は大嫌いだった。


 「爺さんの約束ねぇ・・・」


 彼は寂しそうな顔でそう言い、持っている一通の封筒を眺めた・・・


 一ノ宮財閥・・・彩香のいた家は世界的に有名な財閥で、彩香の祖父はその財閥の創立者だった。

 そんな祖父と彩香は、家族であったが血は繋がっていなかった。


 いや・・・一ノ宮家全員と血が繋がっていない。

 彩香は捨て子だった。


 とある施設にいた彩香をいたく気に入った彼の祖父が、その施設に頼み込んで彼を引き取ったらしい。

 一体何を気に入ったかは分からない・・・が、とにかくその日から彩香は孤児から一変、大金持ちになったのだ。


 だが、祖父の親族はそんな彩香を快く受け入れてはくれなかった。


 もう長くない老人の遺産を巡り対立していた所に遺産を相続する人物が一人増えたので、一ノ宮家全員で猛反対。

 一応彩香の祖父の説得で家にいれる様になったが、誰も彩香をよく思わなかった。


 そんなこともあり、彩香は祖父以外の家族とはうまく付き合うことが出来なかった。

 それでも一応は人並みの生活を送る事は出来たが、彩香は祖父がいない時はいつも一人だった。


 それから年月が経ち、彩香の15歳の誕生日を迎えてすぐ、彩香の祖父は亡くなってしまった。

 今まで祖父がいたので大人しくしていた一ノ宮の親族たちだが、いなくなったことで相続争いはさらに激しさを増していった。


 日に日に増していく嫌な雰囲気。

 祖父の遺産の事で頭がいっぱいな親族たち。

 祖父が死んだことに悲しまない家族・・・

 そして、祖父のいない家の中に、彩香の居場所はもう残ってはいなかった。


 そんな中、彼宛に一通の封筒が届く。

 送り主は、彩香が孤児の時に預けられた施設からだった。


 一体今更何だろうか・・・彩香は一人封筒を破いて中身を確認する。

 封筒の中身には手紙と地図が入っていて、手紙のには祖父のお悔やみがつらつらと書いてあった。

 そして祖父が亡くなった際に、彩香を施設でもう一度預かる約束を祖父としていたと手紙には書いてある。

 一緒に入っていた地図は、どうやら集合場所を示しているみたいだ。


 彩香は手紙を読みながら、祖父のいないこの家から逃れられる事にとても喜んだ。


 しかし、手紙の最後を見て驚愕する・・・


 そして現在・・・

 彼は目的の施設に向かっている。


 もうあの家に居たくないので、施設に帰れるのはとてもありがたい。

 だが、最後の一文がどうしても気になり、不安を拭えない。


 「なんでこの事を知ってるんだ・・・」


 彩香は暗闇のトンネルを通る電車の中で、送られてきた封筒を見ながら呟く。


 『貴方の不思議な力、私たちのために使っていただきたい。』


 手紙にはそう書いてあった。


 彩香が幼い頃から持っている不思議な力・・・

 それを何故差出人は知っているのだろうか?

 

 期待と不安の中、電車はトンネルを越えて目的地へと進んでいった・・・


 それからさらに1時間ぐらいして、彼は目的の駅にたどり着く。


 「何もないなぁ・・・」


 時刻は午後1時半、目的地の無人駅に降りて、彩香はそうつぶやく。

 周りは田園が広がるのどかな風景。

 彩香は送られてきた封筒から地図を出し、本当に目的地の駅か再度確認する。


 地図を見ると、今いる駅と同じ名前の場所に赤丸がしてある。

 それと赤丸の隅っこに集合時間と、案内人が来ると小さく書いてあった。

 

 どうやらこの駅で間違いないらしい。

 集合時間は午後2時、あと30分位で案内人は来るはずだ。

 彩香は辺りを見回し適当なベンチに腰掛ける。


 季節は秋半ば・・・遠くの田園には、稲刈りをしている農家の人の姿がある。

 彩香は地図を封筒にしまった。

 それから今度は手紙を出すと、それを読むわけでもなく、ただ眺めながら自分の不思議な力について考えていた。


 『傷を治す力』


 彩香はそう思っている。


 この能力に気づいたのは、とある一人の女性がきっかけだった。

 幼少の彩香は富豪の養子のために、引き取った祖父の家族・・・特に同年代の孫達からの嫌がらせが多かった。


 彼ら孫達は子供故遠慮を知らない。

 それに彼らの親もそれを黙認していたのだ。


 富豪らしい大きな庭付きの屋敷、老人とその親族、さらに使用人がたくさんいるそこは、幼い彩香にとって祖父以外頼る人がいないとても居心地の悪い場所だった。


 ある日、同年代の親族達にヒーローごっこと言われ、おもちゃを片手に広い屋敷の庭を幼い彩香は追い回されていた。


 必死で逃げる彩香。


 しかし足がもつれて庭のど真ん中で盛大にこけてしまった。

 両足の膝に擦り傷を作り、痛みのため幼い彩香は大声で泣いた。


 「やめないか!!」


 たまたま彩香を引き取った祖父がそれを目撃して、彩香を虐める孫たちにそう一喝した。

 その時祖父の横には、とても美しい顔立ちの女性が立っていた。


 孫達は、自分達の祖父に怒られると一目散に逃げていった。


 「大丈夫か、彩香」


 彩香の祖父はそう言って擦り傷を作った幼い彩香に駆けつける。


 「これはひどい・・・すまないが、救急箱を持って来るので彩香を見てやってくれんか」


 怪我の具合を見た祖父は怪我を見ると、隣にいた女性に彩香を任せ、走って一目散に救急箱を取りにいった。


 彼女は慌てて救急箱を取りに行った祖父に何かを言おうとしたが、その時すでに彩香の祖父はもう遠くに行ってしまった後だった。


 彼女はやれやれといった顔を作り、怪我をした彩香の前に座り込んだ。


 「大丈夫よ。すぐ治るから」


 彼女はそう言い、地面に手を当て目をつぶった。

 しばらくすると彼女の手がうっすら緑に光り、地面からみずみずしい1枚の葉をつけた植物がニョキニョキっと生えてきた。


 彩香はその不思議な出来事に目を奪われ、いつのまにか泣くのをやめていた。


 彼女は成長したその葉を一枚取ると、彩香の片方の怪我をしている膝にかぶせ、その場所に手を当てさっきと同じように目を瞑り手を光らせた。


 そうすると今度は、そのみずみずしい葉っぱが一瞬でボロボロになり、その下にある怪我をしていた膝の傷が治っていた。


 彩香は驚き、彼女に聞いた。


 「お姉ちゃん!いまのどうやったの?」


 「内緒よ。もう片膝も直してあげるから、ちょっとまってね」


 「ねぇ〜教えてよ〜」


 「知らない方がきっとアヤカのためになるわ」


 「け〜ち。いいもん自分でするから」


 彩香はそういって、彼女の真似をするようにもう片方の怪我をした所に両手を出した。


 「ふふ・・・無理よ、貴方には・・・・・・」


 そう答えながら、女性は驚いた。

 彩香の両手が光に包まれ、彩香の怪我が治っていく。


 「そんな・・・無理よ・・・薬草も無しに・・・・・・」


 「ふふーん。どう、お姉ちゃん。僕にもできたよ」


 彩香がドヤ顔で女性を見ると、彼女は真剣な目で彩香を見ていた。


 「・・・お姉ちゃん?」


 「・・・この力を使ったのは今日が初めて?」


 彩香はこくんと頷く。

 それを聞いた彼女は、優しく彩香の頬に手を当てる。

 彩香は怒られると思い体がビクッと震える。


 そんな彩香に彼女は優しく話しかける。


 「この力はね、本当は人に見せてはいけない事なの。だからね、貴方もこの事を秘密にしてね」


 「・・・おじいちゃんにも?」


 「そうよ。それでね、本当に必要な時以外できるだけ使わないで欲しいの」


 「なんで?」


 「貴方には・・・幸せになって欲しいから・・・かな」


 彼女は微笑んでそう言った。


 「よくわかんないよ、お姉ちゃん・・・・・・」


 「そのうち分かるわ。それに多分貴方は・・・・・・止めとくわ」


 彼女は立ち上がり自分の膝を払った。


 「さっきのいじめっ子よりきっと貴方の方が強いよ。やり返しちゃいなよ」


 彼女は両手をグーにして、まるでシャドウボクシングをしているみたいに左右の手を交互に前に出す。


 「無理だよ・・・だって僕、人を殴ったり嫌いだもの・・・」


 彩香はそれを見て、悲しい顔をして地面を見る。


 「アヤカは優しいのね・・・わかったわ。それじゃあもういくね」


 「え・・・もういっちゃうの?

 もっとお話ししようよ」


 「ごめんなさい。もう時間なの・・・私との約束忘れないでね」


 うなずいた彩香の頭を彼女は優しく撫でた。


 「貴方と会えてよかった・・・さようなら」


 そう言うと、彼女は足早に屋敷を去って行った。


 その後、使用人と救急箱を持った祖父が走って来たのだが、祖父は彩香の怪我がいつのまにか治っているのに驚いた。

 それに彼女がいつのまにかいなくなっていたので、祖父は彩香に質問した。


 質問された彩香は最初から怪我などなかった、彼女は帰ったと言って、その場を走って去っていった。


 それは昔の思い出・・・・・・

 とても不思議で秘密な彩香の思い出・・・・・・



 すこし冷たい風で目を覚ます。

 秋半ばの夕暮れどき、夜に向けて気温は下がっていた。


 懐かしい夢を見たような気がする。

 きっと手紙のせいだろう。

 覚醒しきってない身体で少し夕焼け空を見た、そして大事な事に気づく。


 「いま何時だ!!」


 時刻は午後5過ぎた辺り、約束の時間はとっくに過ぎていた。


 一瞬で覚醒する頭、そして冷やっとした汗・・・昨日不安で眠れなかったため、そのツケが今まさに回ってきたらしい。


 「いや、一応いるんだから案内人は起こせよ・・・」


 そう言って辺りを見回すと、長髪で赤い髪を持つ一人の少女が駅を眺めながら立っていた。


 歳はちょうど彩香と同い年位に見えた。


 夕日で照らされたその燃えるような赤い髪を持つ彼女はどこか神秘的で、美しく思えた。


 彩香はその姿に目を奪われていた・・・


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回は案内人と目的地に移動です。

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