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「でかいな」
俺の隣でグラフィスを見上げながら呆然としたように呟いているトシオ。
俺たちが初めて来たときと同じような感想を呟いていることに、俺は少し笑いそうになった。
やっぱり初めて来た人はみんなそう思うよな。
そんなトシオに「行くよ、トシオさん」と声をかけて先に門の方に歩き始めていたマホ達を追いかけるように歩き始めると、トシオも俺たちを追いかけてくるように歩き始めた。
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「止まれ、グラフィスに何ようで来た?」
門の近くに立っていた衛兵さんがトシオに問い掛けた。
俺たちは何回か顔を会わせているからいいけど、初めて見る見たこともない格好のトシオに少し警戒したような表情をしていた。
俺が慌ててトシオの身分をあかす。
「この人はトシオさん。危険なところを助けてもらったんだ」
「どうも初めまして、紹介に預かった岩田敏夫と言います。よろしくお願いします」
俺が衛兵さん…ジャッカルさんに紹介すると、トシオも自分の名前を言ってお辞儀をしていた。
「ほぉ。ユウト達とそんなに歳が変わらない位なのに礼儀正しい青年だな。俺はジャッカル、ここ王都でしがない衛兵をしている者だ」
そう言って、笑うジャッカルさんだが、俺たちはさっきのことを思い出し、内心冷や汗をかいてガクガクと体を震わせていた。
が、しかし…
「いえいえそんな、私はそんな若くないですよ」
と、朗らかに笑いながら言っていた。
あのトシオが大人な対応をしている…だと。
と、俺たちが驚愕の表情を浮かべてジャッカルさんとトシオのやり取りを見ていると、いきなりトシオがこっち向いて、
「また、やりたいのか?」
そう問いかけてきて、俺たちは即座に頭を下げた。
「「「「すみませんでした!」」」」
「うおっ!いきなりどうした、ユウトたち」
「さぁ?何かトラウマでも刺激されたんじゃ無いですか?」
それから俺たちが落ち着いたのを確認してからジャッカルさんが水晶のような形の魔法具を持ってきた。
「まぁ、ユウトたちが連れているくらいだから大丈夫なんだろうが、まぁ決まりだからな。この水晶に手をあててくれ」
「これは?」
「これは、犯罪歴がないかどうか調べるための魔法具の一種だ」
「へー」
そうトシオは返事をしているが、いまいち分かっていないように感じるのは何故だろうか?
気のせいだとは思うんだが。
それからトシオが言われた通り、魔法具に手をかざすが水晶は無反応だった。
「?」
トシオは不思議そうに首を傾げてからジャッカルさんの方に目を向ける。
「うん、犯罪歴は無いな」
「え?これで良いんですか?」
「ああ、犯罪歴があるならモヤがかかるからな」
「モヤ?」
「ああ、殺人なら黒。窃盗なら青、強姦なら紫と言った具合に色んな色のモヤが出てくるんだ」
そう、ジャッカルさんが説明をするとトシオは納得したように仕切りに頷いていた。
「んじゃあ、改めて。ようこそ、グラフィスへ!」
ジャッカルさんがひとつ咳払いをしてからそう言ってくれた。
「あっ、ジャッカルさん。何でユウトたちが連れてきたなら大丈夫だって思ったんですか?」
「そりゃあ、ユウトは馬鹿だからな。嘘なんてつけないし、それに意外と見る目はあるからな」
「なるほど」
納得しないでくれるかな!?流石の俺でも傷付くよ!
落ち込む、俺にマホが「まぁ、本当の事だから良いじゃない」と少し笑いをこらえながらフォローどころかとどめを刺してきた。
「行くよ!」
俺が怒りながら町の中に入っていくと、マホたちはクスクスと笑いながら追いかけてきて、その後ろからトシオが薄く笑いながらゆっくりとした足取りで歩き始めた。が、
「いや、俺この街の事知らないんだから置いていくなよ」
と、言いながら慌てて俺たちの所に走り寄ってきた。
それから、俺たちはまた談笑しながらギルドに向けて歩いていた。この時からマホたちはさっきのやり取りのお陰かは知らないが、トシオを怖がることをせずにさっきのことを謝ってから、会話に参加していた。
俺のことをだしに使われて釈然としないが、まぁトシオたちが仲良くなったのだからそれはそれで良いか。
「着いたよ、ここが冒険者ギルドだ」
そう言って着いたのは、2本の剣がクロスして、その前に盾があるデザインの看板が特徴的な大きな建物だった。
「結構騒がしい所なのか?」
そう俺に聞いてくるトシオ。
まぁ、そう聞いてくるのも無理もないか。だって建物の外なのにこのギルドの中に併設されている酒場で騒いでいるであろう冒険者たちの声が聞こえてくるのだから。
そう説明すると、トシオは納得したような顔をした。
それから「入ろうよ」と俺がトシオを促してから、扉を開けて中に入っていった。
中に入ると、さっきまでばか騒ぎしていた冒険者たちが一斉に静かになって、入ってきた俺たちの方を見てきた。
…もう何回かになるのに、相変わらず少しビビってしまう。
そんな中、トシオは平然とした顔で、「受付はあそこか?」と俺に聞いてきて、俺は頷いた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。今回は何用で来られましたか?」
「冒険者登録に来ました」
そんな、受付嬢…リリナさんとトシオのやり取りを俺は後ろからリリナさんは相変わらず美しいなと思いながら見ていた。
リリナさんはチホと同じような人で、一言で言えば可愛い人だ。
チホは黒髪にストレートで腰の辺りまで伸ばしていて、目は垂れ目で目も黒色。そして、少しおっとりとしたイメージを与えてくる。しかし、反対にマホは猫をイメージさせるようなちょっとつり目で、いつもツンツンしている見た目通りの勝ち気な美人だ。
ちなみに、銀髪に空のように澄んでいる青色の目をしている。そしてポニーテールだ。
そして、肝心のリリナさんは金髪をサイドテールにまとめ、今は眼鏡をしているが本当はあれは『仕事の出来る女性』というイメージをさせるためにしているだけで、本当はもう少し天然が混じっている素の姿を知っている。
そして、何よりもチホより大きい。何がとは言わないがとにかく大きい。あんな物で迫られたら、男としては頷かずにはいられない。
そう考えると、やっぱりマホももう少し頑張らないとな。
ガスっ!
そこまで考えると、いきなりマホに脛を蹴られた。
「いっぺん、死んでみる?」
「すんませんでした」
冷たい眼差しをマホに向けられて、直ぐに謝った。
何故かマホは時々勘が鋭すぎる時がある。まだ、死にたくないので、これ以上考えるのはやめよう。
「ふぇっ?」
そんなやり取りをマホとしていると、リリナさんがいきなり素頓狂な声をあげていた。
何事だ?と思いながらトシオたちの方に目を向けると、ちょうどトシオが【鑑定石】に手をかざしているところだった。
『鑑定石』…その人物の名前や年齢などが標示される石板のような形をした物。
それで、リリナさんは標示されたある部分を見て素頓狂な声をあげたらしい。
…というか「ふぇっ?」って、可愛いからいっか。
「ご、52…歳?」
そう呟きながら、リリナさんはトシオの顔を見て鑑定石を見てと何度も往復させてから…
「どうやら、壊れているようですね。すみません、直ぐに別のものをご用意致します」
と、キリッとした顔で言った。
「大丈夫ですよ、壊れていません。合ってますよ、その年齢で」
「は、はぁ」
うん、疑ってしまうのも無理ないと思う。俺たちも疑ってしまって、しまって…
「ユウト、気をしっかりと持て!」
そう言って、俺はナオトに揺さぶられた。
「す、すまない。ありがとう」
俺はナオトにお礼を言った。思った以上にあの時のトラウマが強かったらしい。
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(なにやってんだ、あいつらは)
俺は、後ろで固く握手をかわしているユウトとナオトを見て、そんなことを思ったが、気にしないことにして受付嬢の説明に集中することにした。
受付嬢は、この魔法具と呼ばれるものに標示された年齢のところで何故か驚いていたが、それに関しては昔から…俺が40代に入ってからずっと俺の年齢を知った人に言われ続けたから気にしないことにしている。
さて、受付嬢の説明を纏めるとこうだ。
・ランクはFランクが一番したで、Sランクが一番上。
・自分のランクよりひとつ上までなら受けられる。
・Cランク以上は昇格試験がある。
・ギルド内で争いをしてはいけない。また、外で争ってもギルドは関与しない。
・Cランク以上になると緊急招集が起こることがあり、それを無視するとギルドカードを剥奪される。
これぐらいか。
俺は説明をしてくれた受付嬢にお礼を言ってからギルドカードを受け取ってからユウトたちの所に戻っていった。
さて、さっそくユウトたちの実力を見るためにも何か以来をユウト達と一緒に受けるか。