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本日2話目です。
自分の家が孤児院になっていると言う現実にうちひしがれる…と言うこともなく敏夫はさして気にもした様子もなく森から出ることにした。
街を求めて約30分。険しい獣道を何とか抜け出して森の外に出た敏夫の目の映ったのは広大な草原の中で怪我をしてしまってボロボロになっている武器をもった四人の男女とそれと戦っている青くてプルプルしたゼリー状の物体がすう十体だった。
それを見て敏夫が最初にとった行動は…
「えーっと、110っと…。圏外か」
警察に銃刀法違反者が居ると通報しようとした。が、圏外だった為諦めた。
さて、警察に通報出来ないと分かった敏夫は自分で注意をするためにその武器をもった集団とプルプルしたゼリー状の奴が戦っている中に単身突っ込んで行った。
「スラッシュ!」
俺は目の前に居るスライムに向かって剣の戦技である『スラッシュ』を放つ。
それだけでスライムは真っ二つになって魔石だけを残してドロドロと溶けていなくなる。
「ファイヤーボール!」
と、そこにマホが火魔法初級のファイヤーボールを放つ。俺の方に向かって。いや厳密に言うと俺の後ろに迫っていたスライムに向かって。
「ありがとう、マホ」
「もう少し周りを見たら?」
マホに顔を向けてお礼を言うと冷たい眼差しを向けながらそう言われた。
「まぁまぁ、そう言わずにさ。ユウトもさっきの戦技、良かったよ」
そう言いながら俺たちの所に寄ってくるのは僧侶であるチホだ。
「だが、マホの言うことにも一理ある。ユウトは目の前の敵に気をとられすぎだ。もう少し周りを見た方が良い」
そう言って腕を組んだままマホの意見に同意する寡黙な拳闘士ナオトだった。
今俺たちは幼馴染みであるこの四人でパーティを組んでEランククエストである『スライム討伐』を受けている。
俺たちは少し前まで村で過ごしていたが村を飛び出して王都『グラフィス』に来て晴れて冒険者となった。
最初はFランクから始まる。それから頑張ってEランクまで上げて、初めてのEランククエストとしてこのスライム討伐を受けたのだ。
「でもスライム、弱すぎだろ」
「だからそういうのがいけないんだって」
「まぁ、マホ。落ち着いて」
「マホの言うとうりだ。油断するなユウト」
俺が調子の良いことを言って、マホが俺に注意をする。そしてチホはそんな俺の味方をしてナオトはマホの味方をする。それが俺たちの昔からのやり取りだった。
そのまま、後数体倒せばクエストクリアとなるから俺たちはちょっと調子に乗って受付のお姉さんにまだ行ったら駄目と言われている【グラノール森林】に行くことにした。
勿論、マホとナオトは反対したが俺はそれを無視して歩き始めた。それにチホは着いてきて、遅れて怒りの表情を浮かべたマホが追いかけてきて、ナオトはため息を付いてからゆっくりとした足取りで追いかけてきた。
「ダブルスラッシュ!」
俺は目の前に居る複数のスライムに向かって放つ。それだけで何体か倒せるがいかんせん数が多すぎた。
俺たちはあともう少しで【グラノール森林】に着くって所で40体くらいのスライムに囲まれた。
気配も感じずにいきなり出てきたんだ。だから少し油断してしまって攻撃を受けてしまったがチホが回復魔法で直してくれたお陰で大事にならずに済んだ。
「くそ!何なんだこの数は!」
「知らないわよ!っ、ユウト後ろ!」
マホに言われて後ろを向くと、スライムが俺に向かって酸を吐こうとしているところだった。
俺は慌てて横に飛んで酸を避けるがそこにもう一体のスライムの突進を顔に受けた。
それだけで俺は数メートルも吹き飛ぶ。
「ユウト!」
おかしい。
普通のスライムはここまで強くない。せいぜいよろけるぐらいのものだ。
何か異変でも起きているのだろうか?
俺はそんなことを意識が飛びそうになるのを必死に押さえて考えていた。
「ハイヒール」
と、そこでチホが回復魔法を俺にかけてくれた。
「ありがとうチホ」
「気にしないで、今ユウトに倒られたら危ないから」
チホに回復してもらった俺は自分の武器を握り直してさっきのお返しをするべく走ってスライムに近づいた。
それから20体くらい倒した辺りでマホとチホの魔力が切れてしまい、ナオトも突進を食らって吹き飛ばされ、俺も満身創痍となってしまっていた。
もうダメか…とあきらめかけたとき俺たちに声をかけて来た人がいた。
「君たち」
声をかけられて、その方向を見ると俺たちより少し歳上くらいの好青年だった。その青年はスライムの攻撃をかわしながら俺たちに寄ってきていた。
そして…
「君たちはまだ高校生くらいだろう?なのにこんなもの持ってちゃいかんだろう」
そう言うなやいなや俺と近くにいたチホやマホの武器を取り上げてしまった。
いきなりのことに俺たちは呆然としてしまった。
そんな俺たちを気にした様子もなくスライムの攻撃をかわしながら、そして俺たちの方スライムが来ないようにしながら説教をすると言う無駄に器用なことをする人物だった。
30分くらいたってようやく青年の説教も終わり「もうこんなことするなよ」と締め括ってから、むきになって突っ込んできたスライムを片手で掴み、両手で左右に引っ張りながら俺たちに、
「さっきから思うんだが、こいつは何なの?」
と、聞いてきた。
これが俺たちのトシオの初めての出会いだった。そして、いきなり現れて俺たちの武器を取り上げるものだから第一印象も最悪だった。
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それから3分後、俺たちはそいつが魔物ということを教えて、トシオに手伝ってもらってスライムを全部倒した。
それから腰をすえて、軽く自己紹介をしてから話し合うことになった。
「スライムね~」
そんなことを言いながらトシオは顎を手で擦りながら何かを考えているようだった。
というかそろそろ武器を返してもらえないだろうか?さっきから俺の隣に座っているマホから殺気混じりの怒気を感じて少し怖いんだが。
そう思っていたら、チホがおずおずとトシオに話しかけた。
「あ、あのトシオさん」
「ん?何だ?」
「そろそろユウトとマホに武器を返してくれませんか?」
そういうとトシオは少し考えてから…
「駄目だな」
「何でよ!!」
トシオの答えにマホはもう我慢の限界と言わんばかりに、トシオに突っかかった。
「お前らの事情は分かった、だがその上で俺はそう判断した」
「理由を聞かしてもらってもいいですか?」
マホ程でもないが少し苛立っている俺は苛立ちを隠そうともせずにそう聞いた。
「分かった…ハッキリというがお前たちがこのまま冒険者を続けると近いうちに全員死ぬぞ」
「何でそう言いきれるのですか?」
「お前たちには足りないものがありすぎる」
「足りないもの?」
俺がそう聞くとトシオは頷いてから…殺気混じりの威圧を放ってきた。
「っっ!」
それを浴びた俺たちは恐怖で体が硬直し、そして自分の死をイメージさせられた。
「お前たちに足りないものは、技術と覚悟、そして判断力だ。技術に関してはお前たちはまだ若いから仕方ないし、これから身に付けていけばいい。それだけだったら俺も直ぐに武器を返していた。が、お前たちから死ぬ覚悟と殺す覚悟を感じなかった。お前たちの話を聞く限りじゃ、これから先色んな危ない目にあうだろう。それどころか人を殺さないといけないかも知れない。なのにお前ら、とくにユウトからは覚悟が感じられずそれどころか、自分は強い。そう簡単に死なないと慢心している。その慢心のせいで正しい判断が出来ない。そして、いざ自分より強い相手と対峙すると動けなくなる。だからお前らに武器を持つ資格はない」
それからトシオはさらに威圧を強めて、
「戦いを舐めんな、ガキども」
その言葉を最後に俺たちは意識を失った。
「ん…」
何かが焼ける、少しいい臭いがして俺は目が覚める。
「起きたか」
「トシオ…さん?」
まだ意識がハッキリとしない。
「はは、そのままでいい。それと、さっきは悪かったな」
「さっき?」
「威圧したことだよ」
そう言われて、自分が気絶する前のことを思い出した。
「…」
そして、俺は深く考えさせられた。
トシオの言うとおりこれから先色んなことにあうだろう。もしかしたらトシオ以上の威圧を受けるかも知れない。そのとき自分が動けるかどうか考えたとき、無理だと直ぐに思った。
「トシオさん…」
「ほらよ」
「え?」
俺がトシオに話しかけようとするとトシオは俺に武器を投げてきた。
いきなりのことで呆然とする。
「何で?」
「お前は、さっきのことで死ぬ恐怖を知った。自分より強い奴が居る、自分はまだ弱いと知ったから慢心も消えた。それにぶっちゃけた話、死ぬ覚悟なんて必要ない。必要なのは死ぬ恐怖を知ることだ。それで、殺す覚悟もこれから技術と一緒に身につければいいとして、これで後はお前がこれから先、いつ死んでもおかしくない冒険者を続けるかそれとも自分の故郷に帰ってのんびりと守られながら生きてくか、決めるのはお前だ…ユウト」
次回の更新は明日の午後5時頃の予定です。