第04話 ルート1.「・・・やはり死ね!」と斬りつける
この小説には選択肢はありません。
勇者には躊躇いがあった。
だがやはり、王国の未来のために、この毒虫を生かしておくわけには行かぬ!
勇者は光の剣を大きく振りかぶり、そして神速の素早さで振り下ろした。
光の剣は勇者の心が正義で満ちている限り、無限の切れ味を持ち、何物もそれを留めることはできない。
だから、商人の前に何者かが身を入れ替えるように入って来た時も、
護衛が割り込んだのだろうと気に留めなかったし、
気が付いた時には、身なりの良い若い女を袈裟に斬り下ろした後だった。
「マリア!!」エチゴーヤが絶叫した。「バカなっ・・・マリア・・・。」
血だまりに沈み、真っ二つになった若い娘に縋りついた商人は、二つになった体からはみ出す内臓を押し戻し、胴体をくっつけようと上等な衣服を真っ赤な地に染めて無駄な努力を続けている。
護衛に若い愛人を囲っていたのか。ますます許せんな。
若い女を斬ったことは気に入らなかったが、
悪徳商人にしては、忠実な護衛を雇ったものだ。
勇者は、次の護衛の襲撃に備えるべく油断なく剣を構えた。
「マリアちゃん!!」周囲の市民から女の悲鳴があがった。
「なんてことするんだ!娘さんには関係ないだろうに!」
別の市民の男からも声があがった。
むすめ?この、光の剣で、自分が、まっぷたつにした若い女が、むすめ?
勇者はしばし呆然とした。自分は、罪のない若い女を斬ったのか?
だから、黒い影が自分に飛びかかってきたとき、
ハッとして光の剣を向けてしまった。
光の剣は、その切れ味に若干の鈍さを見せつつも、襲い掛かってきた
エチゴーヤをも真っ二つにした。
飛びかかった勢いのままに、商人の上半身はクルクルと、冗談のように数メートル
回転した後に地面に落ちた。
「・・・むすめを、ころした・・な・。」それが商人の最後の言葉だった。
周囲の市民は、真昼間の凶行に騒然となった。
救国の勇者が、王命で2名の殺人に及んだのだ。
それも、事件など滅多に怒らない上級市民の街路で。
親と娘の二名を真っ二つに切り捨てた。
「人殺しだ!勇者が人を殺した!」
周囲の人垣は崩れ、悲鳴をあげながら市民は一斉に逃げ出した。
勇者は、光を失った剣を眺め、悄然としていた。
以降、王国で勇者は【血まみれ勇者】と悪名を轟かせることになる。
光の剣を失ったことで対魔物戦力としては役に立たなくなったが、
王都の治安を預かる恐怖の代名詞として、長く市民に怖れられることになる。
しかし、勇者を用いた恐怖政治は逆に市民の反発を生み、王政打倒の機運を
王国にもたらすことになった。
結局、不安定な王政は30年の動乱期を経て、共和国に生まれ変わることになる。
革命の契機となった事件は「エチゴーヤ事件」として歴史に記録される
こととなった。
事件の現場には慰霊碑と、エチゴーヤ親娘の銅像が革命の象徴として建てられ、
300年後も献花の訪れは絶えない。
そして、事件を起こした異世界勇者の名は、伝わっていない。
【BAD END】
残念ながら、BADENDです。
勇者は【血まみれ勇者】となり、商人の糾弾はできませんでした。
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