第13話 ルート2.「金額は商人達で決めろ」と言うなら
この小説には選択肢はありません。
悪徳商人の言うことを聞く必要はない、それが勇者の判断だった。
それに入札だの何やらの面倒臭い事務作業を、勇者は嫌っていた。
「この中で、エチゴーヤの商売を買い取りたいものはいるか!?」
と勇者は十重二十重に取り囲む市民達に問いかける。
いかに裕福な市民達と言えども、2000億円近い金額を即決で
出資できるものは少ない。
しばらく、市民達はお互いの様子を見あっていたが、
中でも一際押し出しの良い人物が進み出て勇者に話しかけてきた。
「勇者様、商人は商品を見なければ、適正な値付けを行うことはできません。
商店の値付けとは、帳簿でございます。
買うだけの資力のある者たちに、商店の帳簿を見る許可をいただけますでしょうか。タダとは言いません。帳簿の閲覧に1億円を払いましょう。」
即金で1億円の閲覧料を払うとすれば、冷やかしではないだろう。
勇者には、男の言うことは正しいように思えたので6名の市民に許可をだした。
エチゴーヤは、許可を受けた市民達が店内に入っていくのを
絶望的な面持ちで眺めていた。
もし自分なら、絶対に買い叩く。買い叩かないわけがないのだ。
市民同士で相談し、利益の配分を決めて、最少価格で買い叩く。
そして、高値でバラバラに資産を転売し、利益を分ける。
それが落ち目の商人に対する勝者の作法というものだ。
エチゴーヤは、30年をかけた自分の店がハゲタカたちに啄まれ、
バラバラにされていく姿を見ていることしかできなかった。
結局、エチゴーヤの財産は600億円で買い取られた。
市民達の言うには、帳簿に不正があり、また在庫の数も合わなかったのだ
と言う。
勇者にとっては、金額の多寡は、どうでも良いことだった。
落魄し、うずくまってしまった悪徳商人をつまみあげると、
勇者は王都の外へ放り出した。
エチゴーヤは、フラフラと王都の外に歩き出し、
その後、彼の姿を見たものはいなかった。
今日、「勇者の糾弾」とは、「情け容赦のない断固とした行い」を意味する慣用句として、伝わっている。
・・・Good End?




